「電子政府輸出」で世界の行政情報化に貢献したい

2010年1月、192カ国を対象にした国連の電子政府評価で韓国が1位となった。電子政府の利便性やインフラ高度化、国民の政府政策参加といった評価項目で1位となり、電子政府を構築しただけでなく実生活で上手く活用している国として評価されている。

 韓国は急速なブロードバンド普及を背景に、世界でも早期に電子政府システムを構築できた。国民向け電子政府ポータルサイトがオープンしたのは2002年11月。ネットを利用して住民票や各種書類を申請できる、自宅のプリンターで印刷したものも効力を持つといった程度ではない。行政DBを使って照会すればいいので役所に書類を提出したりする手続きが簡素化されたことが非常に便利であると感じる。


 私が個人的に便利だと思ったのは、税金と医療。税金の申告も自分で計算して書類を提出する必要はなく、自動的に計算されて還付金が口座に振り込まれているから驚き!去年も何の手続きもしていないのに源泉徴収された分が計算され、過納分が口座に振り込まれましたという通知が届いた。病院に行くときも保険証はいらない。受付で国民IDカードである住民登録証を見せるだけ(住民登録番号と名前を口頭で言うだけでOKの病院もあり)。保険証を忘れて自己負担で高い医療費を払い後で精算しなおし、なんていう面倒なことはなくなった。どの病院をいつ利用したか確認書のような通知が届き、保険の水増し請求や医療保険のなりすましを防止している。


 よく電子政府や行政の情報化というと、立派なシステムを作ったのに誰も利用してくれない、といったことが問題になるが、韓国では着実に国民の生活に浸透し日常的に利用されている。


 もちろん、これは国民総背番号制である住民登録番号があって、所得・納税・教育・医療・クレジットカード使用などといったことを把握できるからかもしれない。住民登録番号を使って個人の活動を監視しすぎてないかという疑問を持つ人もいるようだが、ここまで生活が便利になってしまえば、住民登録番号があってよかった~なんて思ってしまう。


 韓国の電子政府システムは世界各国の視察対象となり、ソウル市でもっとも電子政府に力を入れている江南区は2001年から2009年まで325カ国3179人が視察に訪れたほどである。政府機関である韓国情報化振興院が開催するIT専門家研修に参加した海外の公務員だけでも100カ国3000人近いという。2010年3月には総務省の原口一博大臣も韓国を訪問し、電子政府システムや農漁村を対象にした「情報化村」を視察している。電子政府を担当する省庁である行政安全部の次官と面談し、2010年内に韓国と日本で電子政府構築に関する覚書を締結し、IT協力委員会を定期的に開催して相互協力を強化することにしたという発表もあった。

韓国の電子政府システムの輸出実績は2002年から2009年までの期間で1億1393万ドルに達し、半導体や携帯電話端末のように韓国を代表する輸出品目として政府も後押ししている。行政自治部の説明では、記録管理システム、電子文書流通システム、電子貿易サービス、遠隔勤務支援システム、行政電子署名認証システムなど252件の電子政府システムが輸出されているという。


 本格的な電子政府輸出のために、「電子政府海外進出支援センター」を2010年2月に発足した。政府が持つ電子政府システムの知的財産権使用や広報資料など海外マーケティングを支援する。電子政府システム開発に参加していない企業であっても、政府の支援によって知的財産権を使用できるので営業窓口になれる。2010年9月にはソウル市が「世界都市電子政府協議体創立総会」を開催し、10月には国連の電子政府評価で上位にランキングされた国の大臣を集めた「次世代電子政府首脳会議」が同市で開催される。


 海外政府機関から視察に来ると関連企業を紹介し、視察だけで終わらずビジネスにつながるよう韓国政府はセールスにも熱心だ。韓国型「情報化ODA」として、自身の経験を生かし、途上国の情報化を支援することにも積極的である。途上国の公務員を招待して電子政府に関する教育をさせているのも、“IT強国”として韓国にしかできない方法で世界の情報化に貢献したいからだ。


 韓国政府はこれからの時代に合わせ、スマートフォン向けモバイル行政サービスを推進している。モバイルデバイスから利用する行政サービスのセキュリティー検証やモバイル向け標準化を進め、公務員がスマートフォンを使ってリアルタイムで決裁や報告、メール確認といった業務を行えるようにする。PDAを使った交通取締りや工事関連現場報告は以前から行われていたが、今回は韓国で大ブームとなっているスマートフォンを使いモバイルオフィスを具現するというもの。これも先進事例にして関連企業のシステムを輸出できるよう支援し、固定ブロードバンドの普及が難しい途上国向けにも技術を伝授する。


 電子政府は「作って終わり」ではなく、国民の生活パターンやインターネット利用環境に合わせて常にイノベーションを続けないといけない。行政書類を申請するサイトというより、国民と政府が気軽にコミュニケーションできる場でないといけないので、構築後がもっと大変だ。高いネット利用率と政府主導の支援策によって、活用という面でも韓国は高く評価されている。その点、日本では国民にどうやって利用させるかが課題となっているように見える。この課題は韓国以外ほとんどの国の悩みかもしれない。これから韓国と日本が電子政府協力体制を築くことで、世界の情報化、電子政府支援により貢献できる道が開けたのではないだろうか。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年4月8日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100407/1024162/