携帯電話に電磁波リスク?! WHO発表でパニック

韓国では地下鉄やバスの中でも普通に携帯電話で通話する。大体は声をひそめて小さく話すか、「後でかけ直す」といって切るのだが、中には大音量で着うたを鳴らし、平気な顔して大声で通話する迷惑な人もいる。ネットの動画投稿サイトには「地下鉄迷惑女」といった動画がよく出回っている。公共の場で自分の恋愛話や人の悪口を大声で通話している様子を動画に撮り、恥をかかせてやろうと投稿したものだ。

 スマートフォンユーザーが携帯電話保持者全体の半分近く占めるようになったこのごろは、地下鉄の中で通話している人をよく見ると、ほとんどの人が携帯電話を耳に近付けて、ではなく口の前にささげ持って通話している。耳にはイヤホンを付けて、自分の話声が聞こえやすいようにと端末のマイク部分を口に近付けてしゃべっているのだ。タッチパネルを上にしてお盆を持つような状態で端末を口に近付け、端末の四角の隅に向かってしゃべっているような姿になる。こうすれば騒音の大きい地下鉄の中でも大声をたてず通話できる。また、携帯電話を頭から遠ざけて通話することで、電磁波の危険性をほんの少しではあるが避けられるというのも、通話方式を変えた理由の一つになっている。


 韓国では5月31日、WHO(世界保健機関)の傘下にあるIARC(国際がん研究所)が携帯電話を使い続けると脳腫瘍の発生の可能性が高まる、電磁波にがんを引き起こすリスクがあるので携帯電話の使い方を工夫しなければならないと正式に警告した、というニュースが大々的に報道された。


 携帯電話の電磁波は国際基準があり、人体に影響を与えるレベルのものは販売できない。それでも電磁波が健康に悪い影響を与えるという話はずいぶん前からあったが、権威のあるWHOがわざわざ携帯電話の電磁波の危険性を認める発表をしたからには、その危険性を甘くみてはならないという雰囲気になっている。


 IARCは携帯電話の脳腫瘍発病に関する数百件の先行研究を分析した結果、携帯電話を長く使うと脳腫瘍の発生リスクが増加するとしている。携帯電話の電磁波を「発がん危険評価基準2B」に分類した。レベル1のタバコや紫外線、ディーゼルエンジンのガス、鉛といったレベル2Aに続いて3番目に危険なレベルが2Bである。2Bに区分されているのはガソリン、排気ガス、殺虫剤などがある。


 特に電磁波は7歳以下の子どもに影響を与えるという。子どもは大人よりも電磁波吸収率が50%ほど高いので、脳の神経細胞の遺伝子が変形する可能性が大人より大きいと考えられる。携帯電話を長く使うと脳腫瘍ができてがんの可能性がある、というのは、大人よりも、幼稚園ぐらいから自分の携帯電話を持ち始める子どもたちに該当する危険を警告するものなのだ。電磁波とがんの相関関係は認められないという研究者らも、子どものころからずっと使い続けることによって脳腫瘍が発生する危険性が高まるということは認めているという。


 用心に越したことはないということで、携帯電話をより安全に使う方法として言われているのが端末を耳にぴったりくっつけないでイヤホンを使うか、端末を頭から少し間隔を置いて使うというもの。また携帯電話をポケットに入れないでカバンに入れた方がいいという。電波が弱い場所では基地局とつながろうとして普段より多い電磁波が発生するので、そういう場所ではショートメッセージかメールを送信した方がベターだという。



電磁波が心配な人のために、携帯電話の「人体電磁波吸収率(SAR)」調査も話題になった。米連邦通信委員会(FCC)が認証した試験場で、エンジニアの団体IEEEが定めた方式によって測定した結果を米CNETが掲載したもので、電磁波吸収率が低い携帯電話端末ベスト10の中で8つの端末がサムスンのものだった。


 1位に選ばれたのは電磁波放出量が0.196w/kgのサムスン「Blue Earth」。韓国では2010年2月に発売されたモデルで、太陽光で充電できるというエコを売りにする。2位もサムスンのスマートフォンInfuse 4G、3位も同Acclaim、4位も同Replenishとずっとサムスンが続いている。ベスト10の中でサムスン以外の端末はLGのスマートフォンQuantumとHuawei IDEOS X5だけだった。






電磁波人体吸収率が最も低いと調査されたサムスンの携帯電話「Blue Earth」


韓国政府は2004年、国内で販売されている携帯電話の電磁波吸収率を測定して結果を発表したことがある。同じメーカーの端末でも電磁波吸収率は全部ばらばらで、基準値以下だとしても、端末によっては7倍ほどの差があった。この調査でも、携帯電話の電磁波吸収率は海外メーカーの端末よりもサムスンやLGといった韓国産端末の方が少なかった。当時、サムスンとLGはアンテナを端末の下に配置し、電磁波が端末の後ろの方に放出されるようにして人体への影響を最小限にしていると説明したことがある。

 そのころから、カメラの画素数、画面サイズ、バッテリーの持ち時間と同じように電磁波吸収率も仕様の一つとして公開すべきではないかという意見があった。それはまだ実現されていない。


 子どもに買ってあげるならできるだけ電磁波が少ない端末にしたいと思う親心はどの国も同じはず。今回話題になったCNETの調査は米国で販売されている端末だけをテストした結果ではあるが、サムスンとLGにとってはいい宣伝になったのではないだろうか。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年6月9日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110608/1032269/