国会は大乱闘、放送局はスト 韓国メディア法改正の行方

景気回復や雇用対策で手いっぱいのはずの韓国国会で、与野党が「メディア関連法」の改正を巡り対立を続けている。国会で乱闘が何度も発生したほどで、審議は結局仕切り直しされることになった。韓国国民が注視するなか、与野党はなぜここまでメディア関連法にこだわるのか。


 2008年12月25日、韓国のテレビ局MBCの看板ともいえる夜9時のニュースの女性アナウンサーが、ニュースの終わりに「全国言論労働組合のストライキに参加するため当分ニュースから外れる」と発言し大騒ぎになった。


 この女子アナは放送を通じて「与党ハンナラ党の放送法改正案に反対する」といった個人的立場も表明。おかげでこのニュース番組は、放送通信審議委員会から「公共の資源であるテレビの電波を利用して私的意見を述べるのは問題」と、警告を受けるはめになった。


 放送局の社員が加入している全国言論労働組合のストライキは2週間ほど続いた。人気女子アナたちも街に出て、放送法改正に反対する宣伝活動に加わった。プロデューサーやカメラマンといった多くの職種の社員がストライキに参加したため番組の制作も中断され、再放送や臨時放送に次々と切り替わった。



■新聞・放送の兼営解禁に危機感


 今回の放送法改正案には、今まで禁止されていた大手企業や新聞社による地上波放送局の株式所有を解禁する項目が含まれている。同じく、ケーブルテレビ局や衛星放送の総合チャンネルや報道チャンネル運営会社の株式所有規制も緩和される。これに対し、全国言論労働組合は「新聞社や大企業が放送を掌握するための改悪である」と反対したのである。


 特に、新聞社とは対立色を深めている。放送参入を狙う新聞社側は、「新聞・放送の兼営を禁止しているのはOECD加盟国の中で韓国だけ」「放送局が反対するのは今までの独占構造を壊したくないからではないか」と攻撃する。一方、全国言論労働組合側は、朝鮮日報、中央日報、東亜日報の3大新聞社を政権寄りと批判し、アナウンサーのほか俳優までもが改正反対を視聴者に訴えた。


 国会ではこの放送法のほかに、新聞法、情報通信網法、地上波テレビジョンのデジタル転換とデジタル放送の活性化に対する特別法(デジタルTV転換法)、インターネットマルチメディア通信法(IPTV法)、著作権法の6つのメディア関連法の改正が審議されてきた。しかし、与野党による左右対立が激化し、大乱闘が何度も繰り返される事態に陥った。





メディア関連法を巡る対立で与党が座り込みをする国会内に入り込もうとする野党の人たち=3月2日〔AP Photo〕



■100日かけて再度審議


 結局、資産規模10兆ウォンを超える大企業の地上波放送局所有については規制する方向で合意したが、サイバー侮辱罪に関しては妥協点が見つからないまま、2009年2月になり与党が奇襲的に法案の強硬処理を仕掛けた。これで国会はまた一触即発の状態となったが、今月2日に入り、「メディア発展国民委員会」を設置して100日間かけて再度議論をしたうえで6月に票決することで政治決着をみた。しかしサイバー侮辱罪に関しては6月になってもまた揉めることになるだろう。


 情報通信網法改正の最大の争点であるサイバー侮辱罪は、「情報通信網を通じて公然と他人を侮辱した場合、2年以下の懲役または禁固、1000万ウォン以下の罰金に処する」という規定である。無分別な誹謗中傷・コメントを利用した攻撃をなくすためには必要であるという与党と、第3者が侮辱であるかどうかを判断するのは表現の自由を規制することにつながるという野党の意見はどちらも納得のいく主張であるため、国民の中でも意見が分かれている。


 韓国でメディア関連法の改正が景気対策よりニュースになっているのは、与党が「法改正そのものが雇用・景気回復策ともつながっている」と主張しているからでもある。与党は「放送業界への参入企業が増えれば投資も促進され、メディア産業が発展し雇用も増える」と説明する。


 これに対して野党は、「経済的な成長や競争力強化より財閥や政治権力によって放送・報道が歪曲される危険性の方が大きい」と真っ向から反対しているが、与党は「IPTVやインターネットの動画投稿利用が盛んなデジタル時代に、そんなことはあり得ない」と反論し、議論は平行線のままだ。





■ドサクサ紛れのネット規制こそ問題


 与野党は双方の政治的立場で一歩も引こうとしないが、その主張はいずれも今ひとつ説得力に欠けるようにも思える。


 そもそも、政府と親密な新聞社や大企業が放送を兼営したとしても、この不景気の中で大規模な新規投資ができるだろうか。


 また、仮に法が改定されたとしても、大企業の放送局の株所有は地上波放送局は20%、ケーブルと衛星放送の総合チャンネルは30%、報道チャンネルは49%が上限となっている。韓国全世帯の約84%が加入するケーブルテレビの総合チャンネルや報道チャンネルに出資すれば、広告市場ではそれなりの影響力を持てるかもしれない。しかし、放送局を支配し番組やニュース内容を牛耳るほどの力を持てるとは思えない。なぜならインターネットがあるからだ。


 韓国ではインターネットのブログやポータルサイトのニュース記事の下に書き込むコメントが世論となり、数十万人の人をオフラインの集会に集結させるほどの力を持っている。李明博(イ・ミョンバク)政権に対するのと同様、放送局に対しても目を光らせ、報道を歪曲するような動きをみせれば、ネットの動画投稿やコメントを駆使して自由にはさせないだろう。


 しかし、やっと日の目を見るようになった草の根の自由が、サイバー侮辱罪によって消されるかもしれない。権力を持つ人たちは、普通の人がネットに一切何も書かなくなることを望んでいるように見える。放送局の株を誰がいくら持つのかが問題なのではなく、6つもの法を改正するというどさくさに紛れて、サイバー侮辱罪が新設されようとしていることの方が問題ではないだろうか。


 – 趙 章恩  

NIKKEI NET  
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[2009年3月18日]