ユビキタスコリアへの跳躍――「IT839戦略」とは (過去記事)

韓国電算院が発刊した2004年版国家情報化白書によると95年以降国家別「情報化の経済成長寄与度」は日本が33.3%で1位、オーストラリア26.5%、アメリカ25%、イギリス19.4%、フランス13.6%、韓国10.3%の順となっている。

 先進国の場合、90年代前から情報化投資を続け人材養成、情報化に適合した業務方式の変化などを成し遂げたが、韓国は98年IMF経済危機克服のため急いで情報化を進めたため、経済成長に及ぼす効果はまだそれほど大きくないそうだ。なのに、韓国といえばITである。韓国とITの特徴がうまく合致していて自然にそうなったのか、それとも残された選択はITしかないからなのか、何だかよく分からなくなってきた。


 韓国では今「どうもこの不況、あと何年で終わりそうにない」という意識が広がり始めている。不景気にもかかわらず不動産バブルやインフレがすごく、「値上がりしないのは私の給料だけ」というTVCMが人気を集めている。IMF以上と言われるこの異常な状態を乗り越えるため、源泉技術確保によるIT強国としてのステップアップと国民所得2万ドル達成という大きな2つの課題が打ち出された。そして、このための戦略として「IT839」が7月幕を開けた。



<IT839とは>


8大成長産業


▲高速無線アクセスサービス(携帯インターネット)WiBro、▲デジタルマルチメディア放送DMB、▲広帯域コード分割多重接続W-CDMA、▲インターネット電話VoIP、▲ホームネットワーク、▲テレマティックス、▲RFID、▲地上波DTV


これを裏付ける3大インフラ


▲広帯域統合網BcN(Broadband Convergence Network)、▲Uセンサーネットワーク、▲次世代インターネットIPv6


9大IT成長動力


▲次世代移動通信、▲デジタルTV、▲IT SoC、▲ホームネットワーク、▲インベデッドSW、▲次世代PC、▲デジタルコンテンツ、▲テレマティックス、▲知能型ロボット


2010年までに2兆ウォン投資


 韓国のIT支援政策の流れは本当に目まぐるしい。94年情報通信部設立、1995年8月「情報化促進基本法」と1996年6月「情報化促進基本計画」、1999年3月本格的な国家IT戦略「Cyber Korea 21」により95年から2002年までのブロードバンド普及計画が実行され、2年早い2000年12月全国普及の目標を達成しブロードバンド普及率世界1位という記録を達成する。


 IMF経済危機克服、インターネット普及でデジタル経済確立、本格的な知識情報強国設立という目標を早期達成した韓国政府は政策を修正し、政府・企業・個人の情報力を強化させるため2002年4月「e-Korea Vision 2006」を発表し電子政府、デジタルデバイド、スパムメール・ウィルスの最小化、個人情報保護問題に取り組む。


 そして政権が変わり2003年12月「Broadband IT Korea 2007」では開かれた電子政府(2002.10~)、国際競争力、グローバル情報社会、北東アジアITハブ国構想、デジタル福祉社会などが謳われ、2004年7月「IT839戦略」により具体的なユビキタス化と経済発展方案として、8大サービス、3大インフラ、9大成長動力に全力を注ぐ格好となった。IT839戦略には2010年まで政府予算1兆2000億ウォンと民間投資8000億ウォン、合計2兆ウォンが投入され、111兆ウォンの生産誘発效果が期待されている。


 経済的に厳しい状況に置かれていてもIT部門の輸出はそこそこ好調である。だが、韓国を支えている「IT」輸出のほとんどが半導体、移動通信端末、LCDモニター3品目に集中している(2002年66.2%)国全体の不況からR&Dが落ち込み、先進国との差と追い上げる中国の間で輸出も揺れ始めている。


 3~5年以内IT製造業は中国に追い抜かれると噂される中、IT輸出戦略は転機を迎えている。韓国ITを代表する親孝行種目「携帯電話」の場合、主な源泉技術を日本やアメリカに依存しているため、成長に限界があるという認識も広まっている。韓国が得意とする「走りながら考える」、「新しいものが大好き」な国民性を生かし、IT強国の座を守るためには源泉技術開発、先進インフラ、成長エンジンとなる製品やサービスを探し出さなくてはならない。


国民所得2万ドル時代へと移行できるエンジン


 また、韓国の国民所得は10年近く1万ドル止まりである。いつまでも「途上国以上先進国未満」の状態に留まるわけには行かない。国民所得2万ドル時代へと移行できるエンジンをIT産業から探し出そうというのだ。その具体的な実行方法がIT839戦略である。8+3+9=20という公式は、国民所得2万ドルという意味にもつながる。


 IT839の中でも今のところ目立って支援が集中しているのはデジタルTVとデジタル放送である。もめにもめ今年7月やっとLG電子がいくつか特許を持っているATSC方式に決定し、2010年アナログ放送を中止することになった。2010年までデジタル放送へかける予算は420兆ウォン、2008年まで生産誘発効果229兆ウォン、雇用126万人、放送機器輸出563億ドル、貿易黒字149億ドルが見込まれるにしてもかなりの予算である。デジタルTVをはじめ高価家電製品に賦課されていた特別消費税を値下げし、ついに「IT839積立」という怪しげな郵便貯金まで登場させた。


 韓国の郵便局には98年から「国民PC積立貯金」というものがある。政府が認定した最新仕様のPCを積立貯金に加入する条件で先にもらい、代金は毎月貯金で返済する制度だ。この積立は大当たりし、大勢の人々がまとまったお金がなくてもPCを購入できたので、ブロードバンドの全国普及に大きな役割を果たすことになった。栄光の神話をもう一度と、9月から情報通信部はデジタルTVが買える「IT839積立」を始めたのだ。


 PC同様、政府指定モデルのデジタルTV購入資金として最高5百万ウォンまで郵便局から貸してもらえ、貯金で返済する。郵便局は情報通信部の傘下機関なので、デジタルTVを活性化させ何とか内需を回復させてみようというのが政府の狙いである。政府が借金の保証人となりテレビを買わせる。家電メーカーは大喜びだけど、PCと違いデジタルTVは子供の教育に絶対必要だとか、持っていないと恥ずかしいとまでにはいかないので、まだこれといった動きはない。


政府10大次世代成長動力推進計画


 景気回復のための成長動力戦略はIT839だけでない。科学技術部、産業資源部、情報通信部が共同で打ち出した「政府10大次世代成長動力推進計画」というものもある。これは2003年から2007年まで4049億ウォンの予算でデジタルTV/放送、ディスプレイ、知能型ロボット、未来型自動車、次世代電池、バイオ・新薬などの10大事業とこれに関する141の研究課題と48の次世代製品開発を集中支援し、産業の発展と輸出を活性化させるというもの。


 既に2003年末あたりに決まった計画なのに、省庁の利害葛藤からか情報通信部は独自に「IT839」を打ち出した。日本でも総務省と経済産業省の支援分野をはっきり区別し難い場合が多いと思うが、科学技術部、産業資源部、情報通信部の予算確保のための支援産業奪い合いにうんざりしてしまう。


 情報通信部の陳大濟長官は車のナンバーまで8390に変え、TVでも新聞でも「IT839」という文字を目にしない日はない。IT839で韓国経済がどう変わっていくのか、注目していきたい。


by- 趙 章恩


 


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