大統領弾劾騒動の影響、世界最大規模目指す半導体クラスターはどうなる?

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非常戒厳令に続く大統領弾劾の訴追案可決で、韓国は半導体をはじめ各種産業支援法の議論がストップした状態が続いている。2025年1月20日には、半導体・電気自動車(EV)などに対する支援策を廃止するとの観測も出ている、米国の第2期トランプ政権がスタートする。こうしたなか、韓国企業の多くが非常経営事態だとしてリスクを最小限にするための対応戦略に悩んでいる。

 Samsung Electronics(サムスン電子)は2024年12月17日から19日まで、海外支社も含め役員約300人が集まって新しい目標を立てるグローバル戦略会議を開催した。LG Electronics(LG電子)も海外支社の役員を呼んで会議を行うようだ。

 韓国企業はドル高による財務リスク点検、資金調達計画の再検討、非常戒厳令と大統領弾劾による政治不安で韓国内の生産工場が止まってしまうのではないかと懸念した海外取引先に対する企業イメージ回復など、様々な対応に追われている。

 財界団体は国会議長に対し、半導体と人工知能(AI)産業を支援する法律の制定を急ぐよう求めた。財界団体は2016年に起きた大統領弾劾はちょうど半導体のスーパーサイクル(需要急拡大期)が始まった時期であったために経済的打撃はなかったが、今回は韓国の経済成長率が下落する中で発生しただけに、国会は産業支援策の議論を止めてはならないと強調した。経済協力開発機構(OECD)は韓国の経済成長率を2024年9月に2.5%と予想したが、同12月には2.3%に下落した。2025年の見通しも2.2%から2.1%へ下方修正した。

 韓国メディアは連日、政治不安に半導体業界が足を引っ張られていると報じている。例えば、「日本政府はラピダスに9200億円の補助金を出し2025年度に新たに2000億円を出資する計画であり、米国政府は米半導体大手のMicron Technology(マイクロン・テクノロジー)に61億6500万ドル(約9400億円)の補助金支給を決定した」と報道する一方、「韓国政府はサムスン電子とSK Hynix(SKハイニックス)に対し、補助金を提供する法的根拠がないとして何もしていない。国会でようやく議論が始まったが、弾劾の影響でどうなるか不透明だ」と批判している。

 韓国半導体産業協会(Korea Semiconductor Industry Association、KSIA)は「国会での議論が止まり、法制化が遅れると企業は何もできない。その分、韓国企業の競争力は落ちてしまう」として、国会に対して早期に半導体関連法の議論を再開するよう求めた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 12. 

-Original column

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00122

6時間で解除された韓国の非常戒厳、ウォン安や議会混乱が半導体産業直撃

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韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は2024年12月3日の22時25分ごろ、1979年以来となる「非常戒厳」を宣言した。尹大統領は「北朝鮮共産勢力の脅威から自由大韓民国を守護し、韓国国民の自由と幸福を略奪している破廉恥な従北反国家勢力を一挙に排除、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布する」とした。大統領が非常戒厳を宣言すると政治活動や報道、出版など、民主主義国家では当たり前の活動の多くが制限される。

 非常戒厳宣言のニュースが報じられてからすぐ、戒厳軍が国会に進入しようとするのを防ぐため数千人の市民らが国会議事堂に集まった。誰かが動員したわけではなく、独裁政権と軍事政権で戒厳を経験した世代や教科書で歴史を学んだ世代が国会議事堂に集まった。国会議員らは塀を超えて国会議事堂に入り、国会議事堂の中では夜勤中だった議員の秘書らが国会本会場前でスクラムを組み、窓ガラスを割って国会に進入した戒厳軍と対峙した。

 韓国の憲法第77条1項には「大統領は、戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において、兵力をもって軍事上の必要に応じる、または公共の安寧秩序を維持する必要がある場合、法律の定めるところにより戒厳を宣布できる」としている。同5項は、「国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求した場合、大統領はこれを解除しなければならない」としている。戒厳軍が国会を封鎖しようとする中、12月4日午前1時ごろ300人の国会議員のうち190人が国会に集まり全員賛成で非常戒厳解除決議案が可決した。同日午前4時20分ごろ、尹大統領は「国会の要求を受け入れ戒厳を解除する」と発表した。

 わずか約6時間でしかも深夜のうちに非常戒厳は解除されたために、一般市民の生活に大きな変化はなかった。非常戒厳宣言を知らず朝ニュースを見てびっくりしたという人も多かった。学校はいつも通り授業を行い、証券取引所もいつも通り開場し、年末のコンサートやイベントも予定通り行われた。国際信用評価会社スタンダード&プアーズ(S&P)は、非常戒厳が迅速に解除されたことから韓国の国家信用等級に実質的影響がないと評価した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 12. 

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6時間で解除された韓国の非常戒厳、ウォン安や議会混乱が半導体産業直撃 | 日経クロステック(xTECH)

サムスン電子が次世代半導体開発施設に2兆円投資、背景に競合企業の影あり

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 2024年11月23日、米Bloomberg TVは米NVIDIA(エヌビディア)が韓国Samsung Electronics(サムスン電子)のAI(人工知能)チップ向けメモリー半導体「HBM3E」の8層と12層の認証と導入を急いでいると報道した。HBM3Eは同社の第5世代HBM(High Bandwidth Memory、広帯域幅メモリー)で、DRAMのダイを垂直に積み上げて、全体のデータ転送速度を高速・広帯域化するメモリー技術である。

 現在NVIDIAのAIチップに搭載するHBMの大半は、韓国SK hynix(SKハイニックス)が納品している。その影響から2024年7~9月期の営業利益はサムスン電子半導体部門が3兆8600億ウォン(約4250億円)であるのに対し、SKハイニックスが7兆300億ウォン(約7730億円)と大きな差が生まれた。韓国内ではメモリー半導体の世界首位の座はサムスン電子からSKハイニックスに移行したと見られている。

 NVIDIA はHBMの確保を安定化するために、HBMを量産しているSKハイニックス、サムスン電子、米Micron Technology(マイクロン・テクノロジー)の3社すべてと取引すると明らかにしている。しかし、韓国内ではサムスン電子のHBMはNVIDIAに納品するためのテストになかなか合格せず、技術に問題があるのではないかとの噂が出て、一時、サムスン電子の株価が下落し、危機説が出たこともある。

 それがBloomberg TVの報道でテストに合格して納品間近ということが分かり、サムスン電子の業績も改善すると期待されている。サムスン電子は2024年10月31日に行った業績発表の場で、第6世代HBMである「HBM4」は2025年下半期の量産を目標に開発しているとした。しかし韓国内外の評価を見ると、HBMでサムスン電子がSKハイニックスの技術に追い付くのはまだ時間がかかりそうだ。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 12. 

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サムスン電子が次世代半導体開発施設に2兆円投資、背景に競合企業の影あり | 日経クロステック(xTECH)

トランプ氏当選で半導体産業はどうなる、韓国内で議論白熱

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2025年に向けた米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選した。韓国内では半導体産業を巡りこれからどのような戦略をとるべきか、大きな話題になっている。Samsung Electronics(サムスン電子)とSK hynix(SKハイニックス)は2022年に米バイデン政権が定めたCHIPS法(CHIPS and Science Act)に基づく補助金を前提に米国内に半導体工場を建設しているが、トランプ次期米大統領はCHIPS法に対し何度も否定的な意見を述べてきたからだ。トランプ氏は、選挙運動中も米国の人気ポッドキャスト『The Joe Rogan Experience(ジョー・ローガン・エクスペリエンス)』に出演し、「関税を引き上げれば海外企業は自発的に米国に半導体工場を作る」として補助金を支給する必要がないという意見を述べている。

 現在、米Intel(インテル)は米国内半導体工場建設に1000億米ドルを投資し、85億米ドルの補助金と110億米ドル規模の融資と税額控除を受け取ることになっている。台湾積体電路製造(TSMC)は2030年までに650億米ドルを半導体工場建設に投資する代わりに66億米ドルの補助金を、サムスン電子は同約450億米ドルを投資する代わりに64億米ドルの補助金を、SKハイニックスは同約38億米ドルを投資する代わりに4.5億米ドルの補助金と5億米ドルの融資を受けることにした。ただし、現時点で補助金は支給されていない。サムスン電子の場合、補助金の支給が遅れたことで、米テキサス州テイラーに建設中の工場の稼働開始時期を延期したという噂もある。

 2024年11月15日(現地時間)にはTSMCが一足先に米商務省と補助金支給に関する拘束力のある合意をした。TSMCは中国の顧客には7nm世代以降のAIチップを供給しないことを決めたという。韓国内ではサムスン電子とSKハイニックスはどうなるのか焦る雰囲気があったが、バイデン米大統領はトランプ次期大統領が2025年1月20日に就任する前にCHIPS法に基づき補助金を支給する契約締結を急いでいるという報道もあり、韓国勢も補助金を受け取るとみられている。CHIPS法が無効になった場合、もっとも打撃を受けるのはIntelだからだ。

 しかし問題はタイミングである。手続きが長引き、必要な時に補助金が支給されない、または補助金の規模が縮小した場合、半導体工場建設スケジュールがこじれてしまう。サムスン電子とSKハイニックスは既に米国工場建設に莫大な金額を投資している。補助金はどうなるのか不確実性が高くなったことで株価も揺れている。

 トランプ次期米大統領は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、輸入品に一律10~20%の追加関税、中国からの輸入に対しては一律60%の追加関税を導入する方針を示している。韓国は米国政府との交渉により、今まで韓米FTA(自由貿易協定)や輸出量クオーター制を利用して自動車輸出や鉄鋼輸出において、関税を回避してきた。トランプ次期米大統領は選挙運動中の10月に開催された「The Economic Club of Chicago」での対談で「辞書の中でもっとも美しい言葉は『関税』だ」と発言し、同盟国に対しても関税を引き上げる姿勢を見せている。関税を上げると消費価格が上がり、インフレを生ずる懸念があるが、それでも関税を上げれば海外企業が米国内で生産を始めるので米国の製造業が生き返ると主張した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 11. 

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トランプ氏当選で半導体産業はどうなる、韓国内で議論白熱 | 日経クロステック(xTECH)

韓国で「国家AI委員会」が9月に発足、LG電子はスマートファクトリー事業を強化

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本記事はロボットとAI技術の専門誌『日経Robotics』のデジタル版です

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韓国政府は2024年9月26日、大統領が委員長となる「国家AI委員会」を発足した(図1)。Yoon Suk Yeol(ユン・ソンニョル)大統領は第1回目の会議において、「AI G3(世界トップ3)へ跳躍するために、官民が1つのチームとなって総力戦を繰り広げる」「(国家AI委員会は)我が国の未来の命運がかかったAIトランスフォーメーションを導き、韓国をAI G3強国に跳躍させる牽引車になる」と宣言した。

図1 「国家AI委員会」の第1回会議の様子

図1 「国家AI委員会」の第1回会議の様子

韓国政府は2024年9月、大統領が委員長を務める「国家AI委員会」を発足した。産官学の約40人が委員として参加し、製造業をはじめとした全産業の競争力を高めるためのAI政策を審議し、調整する。(写真:韓国大統領室)

 大統領自らが「総力戦」「国の命運」と発言したことからも、デジタル覇権への競争で生き残るためにはAIのリーダーシップを握ることが重要であり、経済と安全保障の死活問題だと韓国政府が認識していると分かる。生成AIの技術が急速に発展し、AIが全産業で幅広く使われて経済への波及力も大きくなっている。韓国政府は、国の競争力を変えるAIと半導体への支援を強化している。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)  

《日経Robo》 2024. 10.  

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韓国で「国家AI委員会」が9月に発足、LG電子はスマートファクトリー事業を強化 | 日経Robotics(日経ロボティクス)

産学官連携でAIの世界トップ3を目指す韓国、Samsungは英AIスタートアップを買収

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 AIの覇権争いがますます激しくなっている。米国と中国だけでなく欧州やアフリカ、中東などで自国のインフラ、データ、人材によって自国語の言語モデルとAIインフラを構築する「Sovereign AI」に力を入れるようになった。世界各国がAI競争力を確保しようとする中、韓国も官民でAI投資と人材確保に総力を挙げている。

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 2024年8月16日に就任した科学技術情報通信部(部は省に当たる)のYoo Sang-Im長官は同年8月23日、就任後初の公開イベント「デジタルイノベーション人材との対話」を大韓商工会議所で開催した。全国42大学が産学官連携で設立したAI大学院、AI融合革新大学院、AI半導体大学院、融合セキュリティ大学院、メタバース大学院から100人の学生が参加し、研究者として政府にどのような支援を望んでいるかといったことを話した。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)  

《日経Robo》 2024. 9.  

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パリ五輪でAIを宣伝するSamsung、HyundaiやLGも自社技術をアピール

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2024年7月、フランス・パリで「第33回オリンピック競技大会」が始まった。韓国ではオリンピックやパラリンピックをきっかけに自社のAIやロボットの性能を宣伝する企業が増えている。

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 IOC(国際オリンピック委員会)の最高位スポンサーである「TOP(The Olympic Partner)」は15社が契約しているが、韓国企業はSamsung Electronics(サムスン電子)だけだ。同社は、1998年の長野冬季五輪よりモバイル分野の公式パートナーとして活躍している。ブランドコンサルティング大手の米Interbrandによると、Samsung Electronicsのブランド価値は2000年の約53億米ドルから2023年の約914億米ドル(世界5位)へと高まっている。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)  

《日経Robo》 2024. 8.  

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パリ五輪でAIを宣伝するSamsung、HyundaiやLGも自社技術をアピール | 日経Robotics(日経ロボティクス)

政府機関で活用広がる公務員ロボット、民間では「ロボットフレンドリー」なビルが増加

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2024年6月26日、韓国では「公務員ロボットが階段から墜落、仕事のストレスのせいか」「公務員ロボットが飛び降り、まじめでいいロボットだったのになぜ」というニュースが話題になった。自治体の亀尾(クミ)市庁で働いていたロボットが階段から転げ落ち、深刻なダメージを負って作動しなくなる事故があったのだ(図1)。

図1 亀尾市庁の公務員ロボット

図1 亀尾市庁の公務員ロボット

市庁内を移動して書類や郵便物を運んでいた。窓口周辺で市のニュースを宣伝する業務も担当したという。2024年6月、自ら階段から転げ落ちるという事故が発生し、大きな話題となった。(写真:亀尾市庁)

 目撃者によると、いつもエレベータを使って決まった経路を移動するようにプログラミングされているロボットが、なぜか2階の階段前でぐるぐる回った後、階段に向けて突進したという。韓国ではちょうど、激務と窓口業務のストレスに耐えられずに辞めていく若手公務員が急増し、公務員の待遇を見直すべきだという世論が沸き起こっていた。「ロボットも公務員は嫌だったのかもしれない」と主なメディアが一斉に報道したことで話題になった。

 亀尾市庁によると、公務員ロボットはメーカーが回収し、原因を調査する予定だという。ロボットのメーカーは米国シリコンバレーのBear Robotics。亀尾市庁は、Bear Roboticsがロボットを亀尾市で生産していることから選定したという。レンタル料は月200万ウォンで、「給料200万ウォンの公務員ロボット」とも呼ばれていた。日本ではソフトバンクロボティクスがBear Robotics製の配膳・運搬ロボットを販売している。

 公務員ロボットは2023年8月、亀尾市庁がAI行政をサポートするため導入した。公務員証を首にかけ、午前9時から午後6時まで市庁の1階から4階までを移動しながら書類や郵便物を運んでいた。本体のディスプレーを使い、1階の窓口周辺で市のニュースを宣伝する業務も担当する。亀尾市ではロボット主務管(韓国の公務員の役職の一つ)として親しまれていた。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト)  

《日経Robo》 2024. 7.  

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政府機関で活用広がる公務員ロボット、民間では「ロボットフレンドリー」なビルが増加 | 日経Robotics(日経ロボティクス)

韓国が超純水技術「国産化」、日本の輸出規制強化きっかけに半導体競争力向上

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韓国環境部(部は日本の省に相当)傘下の韓国水資源公社とSK Hynix(SKハイニックス)は2024年10月11日、半導体製造に不可欠な超純水技術の自立性確保と水産業育成のために、「SK Hynix用水供給施設運営・管理・統合水供給基本協約」を締結した(図1)。

図1 韓国水資源公社での作業の様子

図1 韓国水資源公社での作業の様子

SK Hynixと2024年10月11日に、「SK Hynix用水供給施設運営・管理・統合水供給基本協約」を締結した(写真:韓国水資源公社)

 この協約は、SK Hynixの半導体工場に超純水を始めとして公共用水を安定的に提供することで、韓国の半導体産業のグローバル競争力を高めるのが狙いである。SK Hynixは2025年から韓国の技術によって生産した超純水を使用する。

 半導体生産工程で最も重要なインフラといえるのが、水と電気である。ナノ(nm)メートル単位の超微細加工においてウェーハを洗浄するために使う超純水は、水素と酸素だけを残して無機質とバクテリアをすべて除去した有機物0.01ppm以下の水である。超純水は、半導体のエッチング工程後、ウェーハを削って不純物を除去したり、イオン注入工程後に残りのイオンを洗い流したり、ウェーハの研磨や切断したりする際にも使われる。

 このため、直径8インチ(約20cm)のウェーハ1枚当たり7トン以上もの超純水が必要になる。しかも、3nm、2nmと微細化競争が進む中、各工程の前後にウェーハを超純水で洗浄する過程で小さな粒子が残ると半導体製造工程と歩留まりに悪影響を与えるため、より高品質で不純物を含まない超純水を確保することが、半導体製造において重要度を増している。

きっかけは日本の輸出規制強化

 韓国は、DRAMを初めて生産した1980年代から日本と米国の超純水生産技術を利用してきた。それが自立を目指して国産化に投資するようになったきっかけは、日本の経済産業省が2019年7月に導入した韓国に対する半導体材料3品目の輸出管理厳格化措置(2023年3月解除)である。

 半導体は韓国を代表する産業であるが、半導体を生産するための素材・部品・設備は費用を低く抑えるために、長年日本から輸入していた。それが日本の対韓国輸出管理厳格化措置の後から、半導体に関しては経済安保の観点から素材・部品・設備を国産化して外部要因による不確実性をなくし、安定した生産体制を維持できるようにすべきという産業界の意向が強くなった。超純水自体は半導体材料3品目(フッ化水素、フッ化ポリイミド、レジスト)の対象外だったが、生産に不可欠なものとして国産化開発の対象になった。

 当初は、超純水生産技術の国産化に向けて企業が個別に投資していたが、2021年に政府が超純水の生産技術を「国家核心技術」に指定し、研究開発予算を投じたことで本格的に動き始めた。そして2021年から2025年の5年計画で、環境部と韓国水資源公社、SK ecoplant(SKエコプラント)、SK Siltron(SKシルトロン)、その他多数の中堅企業が共同で超純水生産技術の研究開発と実証を行ってきた。

 SK Siltronの工場内にある「超純水国産化実証プラント」は、海外の設備を韓国の技術で設計・施工した施設と、設計・施工・設備のすべてを韓国産で固めた施設に分かれている。それぞれ毎日1200tの超純水を生産して実証している。韓国の産業界から政府に対し、超純水の技術開発をしてもテストベッドと性能認証環境が整っていないことがネックになっているので解決してほしいと依頼したことから、韓国水資源公社を中心に技術自立と市場開拓のためのテストベッドを運営することになった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 10. 

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韓国が超純水技術「国産化」、日本の輸出規制強化きっかけに半導体競争力向上 | 日経クロステック(xTECH)

世界トップの水素産業育成狙う韓国、トヨタと現代自が提携の噂も

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2024年9月25~27日に韓国・京畿道高陽市にあるKINTEX展示場で韓国最大の水素産業展示会「H2 MEET 2024(H2 Mobility Energy Environment Technology 2024)」が開催された。H2MEET組織委員会が主催し、産業通商資源部(部は省に当たる)、環境部、国土交通部が後援、水素生産から活用まで全ライフサイクルの水素ビジネスと技術を公開する展示会である。第5回目となる2024年は「Be a First Mover in Hydrogen」というテーマで米国、オーストラリア、カナダ、チリ、ノルウェー、スイス、ギリシャ、スペイン、コロンビア、オマーン、インド、エジプトなど24カ国317社が参加した。

 開会式には産業通商資源部のチェ·ナムホ次官が参加し、韓国政府の水素産業育成について説明した。「政府は大規模水素需要創出、インフラおよび制度構築、世界1位の水素産業育成という水素経済政策の下で『清浄水素エコシステム』への転換を積極的に推進している」「展示会を通じてグローバル水素協力を先導し、韓国の優秀な水素企業の革新的な製品が広く知られ活発な技術・政策交流が行われることを期待する」とした。

 2024年5月、韓国政府は水素生産、水素貯蔵・運送、燃料電池、水素活用分野の研究開発支援を2023年の28億ウォンから2024年は478億ウォンに大幅に拡大。国家目標である「世界トップの水素産業育成」をより強力に進めることにした。

 H2 MEET 2024で目立っていたのが、Hyundai Motor Group(現代自動車グループ)とHD Hyundai(HD現代)の建設機械部門の系列会社であるHD Hyundai Infracore(HD現代インフラコア)だった。

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趙 章恩=(ITジャーナリスト) 

(NIKKEI TECH) 

2024. 10. 

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