時代に逆行? 3Gから2Gに乗り換えるユーザーが増加

日本より遅れて第3世代(3G)の携帯サービスが始まった韓国。着実に加入者は伸びていて、2008年からは新規端末のほとんどが3G対応になり、第2世代(2G)端末はもう発売されないのではないかとまで予測されていた。ところが、3Gから2Gに“回帰する”加入者数も少なからず増加しているというデータが発表されて、通信キャリアーとベンダーをアっと驚かせた。

 2007年12月17日に発表された韓国通信事業者連合会の資料によると、今年、ナンバーポータビリティーを利用して通信キャリアーを変更したユーザーは12月12日時点で全加入者の5分の1に当たる846万人。年末までには880万人に上ると推測されている。この内、2G端末から別の2G端末に乗り換えた加入者が609万人で過半数を占めた。


 残りは、2Gから3Gに、あるいは3Gから2Gに乗り換えた加入者で、その数は237万3000人。ここで話題になったのが、3Gから2Gに「逆移行」した加入者数が増えていることだった。移行者に占める割合としては少ないとは言え、12月12日時点で9万 6000人、年末には10万人を突破しそうな勢いなのだ。面白いのは逆移行する加入者数の推移で、8月と9月までは約1万 2000人に過ぎなかったのが、10月単月で約1万 7000人、11月も単月で約2万 800人が逆移行しており、どんどんと増えている。


 WCDMA/HSDPA事業者であるKTFの関係者は「3Gから2Gへの逆移行は一時的な現象にすぎないだろう。3Gの加入者の増加率を見る限り、逆移行するユーザーはこれから減少するに違いない」と強気の姿勢を見せている。しかし、モバイル同好会らは、テレビ電話の需要喚起や通話品質に対する不安解決などが行われない限り、3Gの市場拡大は遅れ、2Gと3Gの共存期間が長くなると分析している。

3G端末の売りの一つであるテレビ電話機能に対する需要の少なさを物語る、笑えないエピソードがある。最大手通信キャリアーのSKテレコムは「テレビ電話完全征服」というシリーズ物のテレビ広告を流している。「子供に風邪を引いたと嘘の演技をさせ、それを上司に見せて会議を抜け出し嬉しくて踊りだすお母さん」という設定だ。


 それをテレビで流したところ、とたんに全国の働くお母さんから「子供が急に寝込んだりして早退しようとしても上司が信じてくれなくなるじゃないか」「働くお母さんをバカにするな」といった苦情が殺到した。単に笑いを取ろうとしたにせよ、「テレビ電話は嘘をつくために使えます」という広告は、公共性の高い通信キャリアーにふさわしくないものだろう。それとも、少ない需要を喚起するために、“テレビ電話はこんなことにも使えます”と本気で言いたかったのだろうか。


 3Gの通話品質についても不安がある。2Gから次世代の3Gになれば、通話品質がよくなって当たり前だと思うのだが、加入者を不安にさせる事故が相次いでいる。KTFとSKテレコムは2007年に首都圏一部地域でサービス障害を2度も起こし、3Gの加入者だけが音声通話もショートメッセージも使えなくなって、パニックを引き起こしたことがあるのだ。


 3G端末に対する「購入補助金」の減額措置も、2G端末にとっての追い風になっている。3G端末には従来、2G端末の購入補助金の約2倍の額が通信キャリアーから支給されていたのだが、この11月からは2G端末と同額に減額された。3G端末は、新規加入の場合ならば日本の1円端末のように“1000ウォン端末”などの格安端末が出回っているが、購入補助金がないと2G端末よりも高くて60万~70万ウォン(8万~9万円)はする。加入者にすれば、移行するなら3G端末よりも2G端末の方が安く済む。


ただ、3Gが魅力的でないという理由だけで、ユーザーは2Gを選んでいるわけではなさそうだ。冒頭の数字にも表れている通り、2Gを利用するユーザーはいまだに多い。この市場を通信キャリアーやベンダーが逃すわけがなく、3G端末に負けない魅力的な2G端末を販売している。この点がユーザーの背中を押しているのも理由の一つだろう。


 三星電子は、欧州市場で高い人気を誇っている500万画素カメラ付きのスリムスライド携帯を2Gとして韓国でも発売する。イギリスの「モバイルチョイス消費者大賞2007」の最高賞である「今年の携帯電話(Phone of the Year)」を受賞した端末でもある。既存の分厚い高画素端末と比べると、スリムなデザインが特徴。むしろ製品デザインの面では3Gの500万画素携帯よりもかっこいいと評価されているほどだ。これをわざわざ2Gで売り出すというのは、まだ当分2Gの方が売れると見込んだからだろう。


 パンテックはこの夏に20万台以上を売った大ヒット端末、厚さ1cm未満の超薄「スキニーTV携帯」の後続モデルとして「スキニー2」を2Gで新しく発売する。「スキニーTV携帯」は地上波DMB(デジタルマルチメディア放送、韓国版ワンセグ)に対応していたが、「スキニー2」は薄さはそのままで、より軽くするためDMB機能をなくし、その代わりに10万ウォン以上の値下げを行って買いやすくした。


 LG電子は3Gを大本命に定め、2008年の新機種のうち90%以上を3G対応にする計画で、2Gについては「音声通話と高画素カメラ機能さえあればいいというユーザーがいるのも確か。2Gではそうした隙間市場を狙った端末が中心となるだろう」としていたのだが、オーディオ業界の巨匠マーク・レビンソンが開発に参加して話題を集めた「ラプソディーインミュージック携帯」を2Gとして出荷することに決めた。3Gが主流といいながらもユーザーの注目を集めそうな端末を2Gで発売するとは、やっぱり2Gの需要がまだ多いということなのだろう。


 日本より所得は少ないのに、日本と比べると携帯電話端末は高くて通話料は同程度と、韓国の家計の中で携帯電話の料金が占める割合の多さは、年々負担となっている。今の半分ぐらい、せめて5万円ぐらいで機種変更できる3G端末があるといいのに。「値段の高い端末を持っている=品格高い、かっこいい」という公式が崩れない限り、端末の値段は安くならないかもしれないな。
(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月19日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071219/289784/

携帯電話と環境汚染

 韓国西海岸の海で、韓国史上最悪の原油海洋流出事故が発生した。流出量もさることながら、政府が波の速度や方向を読み誤る人災もあいまって、事故発生後12時間で40kmもの海岸が黒い油だらけになってしまった。これを受けて12月19日に大統領選挙を控えている候補たちは、こぞって漁村を訪問し、生態系に与える損害を心配するそぶりを見せたり、油を取り除く作業に参加するふりをしたりするなど大忙し。


 だが、目に見える被害には慌てふためいても、原油流出と同様に人間の環境や生態に悪影響を与えている携帯電話の廃棄については大統領候補の誰一人として問題意識を持っていないようだ。


 現在、韓国では年間に2000万台の携帯電話が販売される一方で、年間1500万台も中古の携帯電話が発生する。環境団体は、これらがどのように処理されていて、今後環境をどのように汚染させてしまうのかについて知らせるキャンペーンを実施している。


 携帯電話には、水銀やカドミウム、焼却するとダイオキシンを発生させるポリ塩化ビニール、オゾンを破壊するブロム化合物といった有害物質が含まれており、ちゃんと廃棄せずに他のゴミと一緒に燃やされたりすると環境汚染が進んでしまう。前述の環境団体によると1999年以降に韓国で生産された1億2506万台の携帯電話のうち、8500万台が未回収だそうだ。この8500万台に含まれている鉛の量は実に22トンに上る。韓国国民4800万人が120日間飲める水を汚染できるだけの鉛だと言う。


 韓国で捨てられている端末の7割は机の引き出しの中に埋もれているか、家庭のゴミとして分別もされずに捨てられている。回収されているのは3割程度で、さらにその中で再活用されるものはごく一部にすぎない。携帯電話を修理中の顧客に向けたレンタル端末として使われたり、中古端末流通業者によって中国や東南アジア、中央アジアに輸出されたりしてはいるが、ほとんどの端末は廃棄物として捨てられているのが現実である。


 しかも、捨てられている端末のほとんどが故障していない正常なもの。市民団体である「韓国緑色消費者連帯」の2007年7月調査によると、ソウル市民の4人に1人は3~6カ月に一度の周期で機種を変更し、5人に1人は家に2台以上の使わなくなった携帯電話端末を持っていると回答している。機種変更した理由は「故障したから」がもっとも多かったが、「新しいモデルがほしい」「製品の機能に満足できない」という回答も多かった。ユーザーの買い替え頻度の高さが、捨てられる端末数の増加に拍車をかけている格好だ。


 通信キャリアーやメーカーによる回収もあまり進んでいなかった。情報通信部によると、2003年~2005年の3年間に発生した中古の携帯電話は3870万6000台、このうち通信キャリアーが回収したのは1382万2000台で回収率は33.6%にすぎない。通信キャリアーには一定量の中古端末を回収する義務はなく、加入者が望む場合には無料で回収しなくてはならないというルールがあるだけだ。機種変更やMNP(番号移動制度)を利用する際に中古端末を返納すると1万~3万ウォンほど追加で値引きしてくれるのだが、それは加入者を他のキャリアーに取られないためのマーケティングにすぎない手法だし、金額が少ないためか積極的に参加するユーザーは少ない。また、メーカーについても、生産者責任活用制度(EPR)によって課せられている回収義務は生産量の16.5%にすぎないため、積極的に中古端末を回収しようとは思っていない。


 こうした背景から、通信キャリアーとメーカーは、お互い自分たちに回収の義務があるわけではないと言い張っている。メーカーは販売を担っている通信キャリアーの代理店で回収すればいいと主張し、通信キャリアーは回収・廃棄については法律で製造者が責任を取るようになっていると主張している。某大手携帯電話端末メーカーは、環境団体の回収義務を果たしていないという抗議に対して「環境汚染の恐れがある中古端末を家庭のゴミとして捨てる消費者が悪い」と開き直っていた。


 そこで、これまで携帯電話の回収は通信キャリアーとメーカーの両者が責任を持って行うべきとしていた情報通信部は、中古携帯電話の回収率を高めるため、通信キャリアーと大手スーパーマーケットと共同で「寄付フォンキャンペーン」を実施している。11月~12月の2カ月間にわたり、全国1000以上の小中高校、大型スーパーの「E-Mart」に中古端末の回収箱を設置し、E-MartではSK株式会社のポイントサービス「OKCashbag」で端末1台当たり1000ポイント(現金1000ウォン相当)のポイントを、学校では自分の携帯電話からショートメッセージを100件無料で送信できる商品券をそれぞれ贈呈している。さらに抽選でノートパソコンや自動車もプレゼントする。SKテレコムによると、全国の学校を中心に2カ月の間に13万2500台もの携帯電話が回収できたという。


 回収された中古端末は、廃棄専門業者に1台当たり350~1000ウォンで販売され、それによって得られた収益は貧しい人々のために全額使われる。廃棄専門業者に渡された携帯電話からは、重さ100g当たり3gほどの金銀銅やコバルトといったお金になるレアメタルが出てくるという。しかし、お金になる金属といっても450ウォン程度で、廃棄費用が600ウォンなので赤が出てしまう。そこで差額はベンダーが環境基金という名目で穴埋めしてくれるのという構図だ。その一方で輸出となると得られる収益は大きい。中央アジアでは韓国製の中古端末が大人気で、1台2000~1万ウォンで買ってくれるそうだ。情報通信部が目標にする回収台数は10万台で、1億ウォンほどの収益金を集め寄付できると予想している。


 筆者も1996年に韓国で発売された武器のように黒くて重くて分厚い端末を記念にとってある。今思うとよくこんなものをかばんの中に入れて歩いたものだと感心するが、初めてこの携帯電話を買った日は、それは嬉しかった。その思い出を忘れたくなくてずっと引き出しに入れたままになっているが、他の人も同じように思い出のある中古端末だから回収に出さないのかな? 引越し間際になって燃えないゴミで捨てるより、ちゃんと回収して環境保護に役立つとしよう。もうちょっと景品が多かったら、すぐにでも回収キャンペーンに参加するのにな~


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月12日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071212/289309/

花より団子?ちょっとした商品を携帯でプレゼント

最大手の通信キャリアーであるSKテレコムの子会社、SKコミュニケーションズは、相手の携帯電話の番号さえ知っていれば、その人に「品物」をプレゼントできるSMS(ショートメッセージサービス)を利用した「ギフティコン」というサービスを提供している。

 ギフティコンとは、「ギフト」と「イモティコン(emoticon、笑ったり泣いたり感情を表現するアイコン)」の造語で、携帯電話へSMSでイモティコンと一緒に送信されるプレゼント引換券を指している。携帯電話の番号さえ知っていれば相手に商品をプレゼントできるというサービスだ。


 プレゼントを贈る人は、贈りたいプレゼントを選択し、その引換券をSMSで相手に送信する。プレゼント料金は自分の携帯電話料金に合算請求するかクレジットカードで決済するかを選べる。合算請求だと月に20万ウォン(約2万5000円)まで使える。SKテレコムだけでなく他の通信キャリアーの加入者でも24時間利用できる。


 プレゼントをもらう人は、SMSのメッセージを確認し、引換券をダウンロードすると、バーコード付の画面が登場する。その画面を店舗で見せるだけで商品がもらえる。ダウンロードのためのデータ通信料は無料だ。引換券付きのSMSを間違えて削除してしまっても、まだ商品に引き換えていなければ、3回までSMSを再送信してもらえる。引換券の有効期限はSMSを受信してから60日だ。携帯電話が古い機種で引換券をダウンロードできない場合は、SMSで引換券の番号と有効期限を送信してくれる。




ギフティコンはいわゆるモバイル電子商品券の一種だが、500円、1000円という具合に使える金額が決まっているよくある商品券ではなく、「セブンイレブンのおにぎり1個」「スターバックスの、今日のコーヒーのショートサイズとチーズケーキ」といった引換券になる。日本でも、日本テレビとNTTドコモがワンセグのデータ放送波に電子商品引換券を流すマーケティングツールを紹介しているし、高級チョコレートのゴディバもモバイルサイトで配布するクーポンと引き換えにチョコを無料でプレゼントするキャンペーンを実施したことがある。同様に、ギフティコンを韓国の業者がマーケティングのためクーポンのように無料でばらまくために使うこともあるが、それよりも個人間のプレゼント用のツールとして広く使われている。


 プレゼントできる商品は2007年末の時点で約70個あまり。スターバックスやセブンイレブン、ハーゲンダッツ、ロッテ製菓、サーティーワンアイスクリーム、バーガーキング、MAXムービー(映画館チケット予約)、エチュード(化粧品)、STCO(衣類)などの商品がある。SKコミュニケーションズによると、「日本円にして600~700円前後のものがよく売れているが、年末にかけてネクタイや化粧品、花束引換券のように高額の商品もかなり売れた。コンビニやお店で買うより20%ほど安く購入できるように設定しているため、自分用にギフティコンを購入するユーザーも増えている」そうだ。


 メッセンジャーでチャットしながら「残業ご苦労様、夜食プレゼントします」とピザをギフティコンで送信したり、遠距離恋愛のカップルは「今からコーヒー飲みに行くけど一緒に飲まない?」とコーヒーをギフティコンで送信したりと、使い方は色々だ。出会い系チャットサイトでも気に入った相手にちょっとしたギフティコンを贈ったり、忙しくてなかなかデートできないカップルが離れていながらも思い立った時にプレゼントができるので喜ばれている。宅配は最低でも1日かかってしまうが、ギフティコンなら遠くにいる相手にも今すぐプレゼントを渡せるところが人気の秘訣とも言える。


 2006年12月SKコミュニケーションズが運営するポータルサイト「NATE.com」のインスタントメッセンジャー向けサービスとして初めて登場したギフティコンは、「子供だましじゃあるまいし……」と、ビジネスになるかが懐疑的に見られていたりもしていた。実際、2007年1月の売り上げは5000万ウォンに過ぎなかったのだが、プレゼントする側にももらう側にも負担が少ないためか利用が急増。2007年8月の売り上げは6億ウォン(約7500万円)、9月の売り上げは9億5000万ウォン(約1億2000万円)と右肩上がりだ。利用顧客は20代が40%と圧倒的に多く、30代が17%、40代が8%、10代が2%の順となっている。ちなみに、最も売れている商品はスターバックスのコーヒーだそうだ。


 ちょっと前までは、メッセンジャーやネットで知り合った友達にはアバターの着せ替え洋服やHOMPY(SNSの一種、個人用ホームページ)をかわいく作るための壁紙・BGM・ポップアップアイコンなどやオンラインゲームでキャラクターを強くさせるためのアイテムといった仮想的なアイテムをプレゼントするのが流行っていた。最近は現実に戻ってきたというか、お茶やおにぎりなど現実社会で楽しめる、ちょっとした商品をプレゼントするのが主流だ。


 ギフティコンのキャッチフレーズは「愛してるって、言葉だけじゃ伝わらない」。これって物質万能主義に聞こえて個人的には気に入らないが、ビジネスモデル的には面白い。相手にこれを買ってほしいとねだれる機能もあり、ちょっとした感謝の気持ちや謝りたいことがあると、コミュニケーションの一つとしてギフティコンを贈ると場が和むためか人気を集めている。


 お歳暮やお中元という文化は韓国にもあるし、出張帰りにお土産を買ってきたり、義理チョコが“義務チョコ”になっていたりするのは日本と韓国にしかない文化かもしれないが、このようなちょっとしたプレゼントを贈りたいときに、便利に利用できるニッチマーケットとしてギフティコンはこれからも成長が予想されている。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年1月9日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080108/290667/

携帯オンリーの楽曲で販売増を狙う動きが盛んに

先週、第3世代(3G)から第2世代(2G)へ乗り換える加入者が増えていることをお伝えしたが、今回は、「特別なコンテンツ」を携帯電話にプリインストールすることで端末の販売増加を狙うベンダーの競争がこの冬に目立っていることを紹介しよう。特別なコンテンツとは、携帯電話でしか聞けない楽曲のことだ。

 前回もお伝えしたように、LG電子は2G携帯で、オーディオ業界の巨匠マーク・レビンソン(Mark Levinson)が制作に参加した「ラプソディーインミュージック携帯」を発売した。モバイルに最適な音質を具現化したのが売りで、LG電子は「音楽はサウンドではなくエモーション(感情)」とし、現代人の必需品である携帯電話を利用し、手早く高品質な音楽を聴きたいとするニーズを満足させるために開発したと説明している。


 「ラプソディーインミュージック携帯」が話題になった理由はもう一つある。有名歌手7人のデジタルシングルアルバムを内蔵したことだ。5GBのメモリーを持つ音楽携帯ということをアピールするため、7人の歌手のニューシングルが収められてある。携帯電話の形をしたシングルアルバムとも言えるだろう。この新曲は、当分の間はこの携帯電話を買わないと聴けないが、3カ月後からインターネット音楽サイトで有料販売を開始する。


 新曲を提供した歌手の一人ソン・シギョンは「音楽を消費する環境の変化に伴い、これからは音楽をどこにどうやって保存するのかが課題になってくる。その一つとして、携帯電話は音楽アルバムにもなれるという発想の転換をしたにすぎない」と話している。携帯電話の中にしか存在しないシングルアルバムは「Rhapsody, The Soul of Sound」というタイトルで、歌手7人の「愛」をテーマにした7曲が収められている。バラード、ヒップホップ、ロック、オペラなどそれぞれ違うジャンルの歌手が参加しているのも面白い。三星電子や既存の携帯電話は歌手とのコラボというと10~20代をターゲットにしていたが、LG電子は10~50代までもカバーできる顔ぶれだ。


 「Rhapsody, The Soul of Sound」は携帯電話1機種のためのプロジェクトアルバムで、こうした動きが今後どれぐらい続くかは明らかにされてない。しかし、三星電子の携帯電話「Anycall」向けの広告「Anyband」に対抗する、広告とエンターテインメントが一つになった「Branded Entertainment Marketing」としてはかなり効果があったと評価されている。


 「Anyband」は、「Anymotion」「Anyclub」「Anystar」に続く、BoAを中心に若手アーティスト4人が登場するミュージックドラマ風の広告。広告であると同時にミュージックビデオ、着メロ、コンサートなどテレビ以外でもさまざまな形で活躍するプロジェクトバンドでもある。実際、11月末にはコンサートも開催し、広告に登場した曲を演奏した。三星電子の携帯電話Anycallの広告に登場する曲は、すべて広告のために作られた新曲で、その時代を代表する人気歌手が歌っている。正規のアルバムの曲ではないのに音楽チャートで1位を席巻するほどで、既存のCMソングとは次元が違う。Anybandでも、BoAと東方神起のシア・ジュンスがバンドを組むということ自体が話題になり、自然と広告価値を高めた。三星電子が企画、演出する新しいマーケティングとして他の業種もこれを真似ようとする動きが始まっているほどだ。


 Anybandのメンバーの名前を付けた「BoA携帯」、「シア・ジュンス携帯」といった音楽携帯も発売された。BoA携帯には2つのBluetoothヘッドセットが付いており、友達と一緒に音楽を聴ける機能を持っている。シア・ジュンス携帯は高音質大型スピーカーが付いていてオーディオのように機能するのが特徴だ。


 三星電子は、MP3プレーヤーでも、ブランドとエンターテインメント機能を合体させた製品を販売する。スペシャルエディションとして90年代を代表する大物アーティスト「ソ・テジ」が音源セッティングに参加し、未公開動画と未公開音源14曲を内蔵したMP3プレーヤーを1万台限定発売する。


 携帯電話や製品の機能があまりにも進化しているだけに、機能が素晴らしいのは当たり前。その上で何かユーザーを引き付ける魅力がないと選択してもらえないのはよく分かる。それにしても、手っ取り早く芸能人を利用するのはちょっとね~。もっと深みのあるユーザー分析をして、あっと驚くような面白いことを提供してくれることを期待していたのに残念だ。これ絶対買いたい!というような携帯電話になかなか出会えずにいるのは筆者だけではあるまい。










■変更履歴
本文中、「マーク・レビンソンは、トヨタの高級自動車レクサスのカーオーディオシステムを制作したことでも有名だ。」とありましたが、マーク・レビンソン氏はこのオーディオシステムの制作に関わっておりません。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2007/12/28 10:00]


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2007年12月26日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20071226/290194/

韓国 1億ドル規模の専用投資ファンド

ITベンチャの救世主現る


 


 【ソウル】市場調査機であるIDCの系列社であるIDG(International Data Group)は米、中、ベトナム、インドにいて5番めの象として韓ITベンチャに投資する方針を決定したと表した。韓では「IDGベンチャスコリア」というベンチャ投資社を設立し、1億ドル規模の用ファンドを結成した。



 IDGベンチャ
スは1992年にスタトして以、全世界220社に投資してきた世界最高レベルのグロバルベンチャキャピタルファンドネットワクである。現在、合計6つの個別ファンドを抱え、20億ドル規模の資金をアジアと北米地域で運している。IDGベンチャスは特に中投資にい。中初のベンチャキャピタルとして進出し、中の有名索エンジン「バイドゥ」をはじめ「ホムイン」を米ナスダックに上場させたこともある。


 


 IDGベンチャスコリアはITとメディア技術が融合した「ニュメディア」分野を主な投資象と考えていることも明らかにした。


 


 ここでいう「ニュメディア」とはビデオ、SNS、マルチプラットフォe-コマス、ゲム、モバイルコンテンツなどで、この分野に該する米企業はYouTube、Facebook、MySpaceなどがある。


 


 これとともに、SaaS(Software as a Service)、セキュリティ、ホムネットワク、オプンソV2.0等の「New IT」分野も優先的に投資していくと明らかにした。特に最近注目されているニュメディアは年平均15%以上成長している勢いのある分野で、世界で500億ドル以上の市場を形成している。


 


 IDGベンチャスコリアは投資額の70%程度をニュメディアに投資する計だ。投資段階を分けて、創業の初期および中期ベンチャ企業に40%ずつ計80%を投資し、後期ベンチャには20%に下げる計だ。


 


 韓のベンチャキャピタルは危を避けるため、ある程度成熟した後期ベンチャにばかり投資する傾向があるが、IDGはハイリスクハイリタンの初期と中期段階にあるベンチャに投資を集中させるという。投資期間は8年間に設定し、前半期4年は投資期間、後半期4年は維持および穫期間として運用する方針だ。これとともに韓ベンチャへの投資は額の60-70%に絞り、りは海外ベンチャ企業にも投資する。投資益率(IRR)期待値は25%に設定している。



趙章恩(チョウ
チャンウン=ITジャナリスト)


 


 BCN This Week 2007年11月19日 vol.1212 載] Link


 


 

韓国のIT動向 三星電子 マイクロソフト・インテルと提携

パソコン管理サビスを開始




 


【ソウル】企業などで使われている膨大なのパソコンやIT資産を率的かつ安全に管理する目的で、韓IT業界の大手3社が提携することとなった。個人向けパソコンを製造している三星電子とCPUのインテルコリア、およびソフトウェア開の韓マイクロソフトが組んで、「トロイカソリュション@エンタプライズ(Troika Solution@Enterprise)」を表した。


 


 「トロイカソリュション@エンタプライズ」は企業のIT資産管理のためのワンストップサビスで、パソコンの不具合による業務中などの損失を大幅に節減できる。


 


 インテルコリアは法人向けデスクトップとノトパソコンのプラットフォムである「インテルvプロ」と「インテル セントリノ プロ」プロセッサ技術を提供し、三星電子はこうした技術を具現化した最新型の法人向けデスクトップのDB-P70、DB-Z70とノトのNT-P55PC、管理ソリュションである「スママネジャ」を提供する。これにし韓マイクロソフトは、パソコンOSのWindows Vistaとハドウェア基盤の管理環境をサポトするマネジメントソリュション「System Center Configuration Manager 2007」を提供する。


 


 企業ではネットワクに百台のパソコンがつながっているため、重なセキュリティ管理が必要となる。1台の端末がウィルスに感染すると、あっという間にがる危性がある。サやストレジのような企業用ハドウェアとは異なり、パソコンはこまめな管理が必要なのに、社員の管理に任せっきりにしている社も少ないない。1人のIT管理者が百台のパソコンを管理しながら、同時に各種ウイルスパッチやアップグレド、障害管理などを担している企業も多い。それだけでなく、門のIT管理者そのものが不在な小規模企業も多く、パソコンに問題が生した場合、ハドウェアとソフトウェアを同時に管理してくれる一括窓口が必要とされていた。


 


 トロイカソリュションは社にあるすべてのパソコンの機能と態をいつも点し、あらかじめ管理するサビスのことをいう。例えば企業で社員用として使われているパソコンがウイルスに感染すればこれを感知し、全社の他のパソコンに散しないように遮して治療もする。


 


 最近の統合管理サビスはパソコンの中にある部品が正しく動作するかどうかも把握できて、電源が消されたパソコンまでも管理できるようになっている。管理者が電源が入っていないパソコンまで起動できるのは、(1)CPU(2)有無線LAN接3)パソコン管理機能が統合されたインテルの「vプロ」および「セントリノプロ」技術があるからだ。これを基盤に何台ものパソコンを管理するのはマイクロソフトの「System Center Configuration Manager 2007」が引き受ける。三星電子はトロイカソリュションに最も適合したパソコンを開して供給する。


 


 三星電子コンピュタシステム事業部のオムキュホ常務は「これからはパソコンとソフトウェア、事後管理をすべて含むトタルサビスを提供していく」としている。


 


 韓のパソコン生産規模は年間400万台で、この半分を企業が購入している。今後、三星電子がノトパソコンを輸出している英、ドイツなど10かでもトロイカソリュションのを開催する予定だ。


趙章恩(チョウチャンウン=ITジャナリスト)


 


 BCN This Week 2007年11月19日 vol.1212 載] Link

<ケーススタディ“韓流”IT TRY&ERROR>14.今回のテーマ■採用戦略(上)

IT企業の人材選び 就職難が生んだ新採用方式


 





 韓
育科技術部(日本の文部科省にたる)の調べによると、2008年2月卒業の大生のなかで正社員として新規採用されたのは48%にすぎなかった。09年度新卒を象とする採用活動のっ只中の韓。連日、書類選考の競率が100倍を超えたとか、30人募集に4000人近くが募したため急遽採用50人にやしたとか、すごい話ばかりである。



 これだけ倍率が高くなると、採用する側も大
だ。今までのような書類選考、面接、適性査の流れでは人材を選び出すのが難しい。採用にする今年の話題は、選考資料を紙ではなく動にして提出させる動きである。自分をうまくアピルできるのも才能の一つ。なぜ自分が採用されなければならないのかを動にして投稿させ、1次選考資料にするIT企業がえている。添付画像


 


 生たちは入社したい企業のCMを作って投稿したり、新しいマケティング略をプレゼンテションする動を作ったり、アイデア動員で投稿している。企業側は、履書を動で作るというからにはITを使いこなす力があり、アイデアも豊富で積極的に新しいことにチャレンジする人物と判しているようだ。


 


 携電話キャリアの子社で、韓最大のソシャルネットワクサイトを運しているSKコミュニケションズは、インタンを募集する際に動書を投稿させ、インタネットのユ投票から200人のなかで12人を選出。ユが面接者になったわけである。


 


 社員募集を兼ねた公募もたくさん開催されている。新規サビスアイデア公募、マケティングアイデア公募、デザイン公募、技術公募など。ここで入賞すると入社試で加算点がもらえるので必死になって募する。


 


 韓の企業は終身雇用制ではない。いつリストラされるか分からないため、自分が必要な人材であることを常にアピルできるようにしなければならない。年俸も交で決める企業がえていることから、自分の能力を客的に証明できるよう学歴や資格を取るためがんばるしかない。新人として採用され社で育てられるのが日本だとしたら、韓の企業は即力になる人しか必要としないということだろう。

(趙 章恩●取材/文)


 


 BCN This Week 2008年10月13日 vol.1255 載]    Link

2008年、三星電子の携帯電話の狙い目は高速ネット

2007年、韓国の携帯電話の普及率は90%を突破。携帯電話の端末数も初めて2000万台を突破した。2006年の1600万台から20%以上も成長した結果となった。三星電子が発表した資料をみると、2007年に韓国で販売された携帯電話端末は2076万台あり、このうち三星電子が1042万台を販売。50%のシェアを維持しているという。LG電子は全体の市場規模を2100万台とした上で、自社のシェアが26%と説明していた。

 加入者数は頭打ち状態と言われながらも台数が伸びているのは、やはり、買い替え周期がどんどん短くなっているからだろう。韓国インターネット振興院の調査では平均1年半に1度は機種変更をすると回答した人が多かったが、通信キャリアーの直営代理店担当の話を聞くと2~3カ月で機種変更するユーザーもかなり多いと言う。しかも、端末価格に糸目をつけない新しいもの好きの「アーリーアダプター」は、意外と高校生や大学生に多いというから驚きだ。お金を稼いだことがない人ほど使いっぷりがいいというのは本当だったのか。


 買い替え周期のほか、2007年に韓国の携帯電話販売台数が増えたのは、通信キャリアーから顧客に支給される端末購入補助金制度が緩和され、安価な携帯端末が登場したからという分析もある。KTFが3G加入者を増やそうと3G端末に限って補助金を増やしたところ、SKテレコムもこれに負けじと補助金を使ったため、結局、人気1位の端末は「1ウォン携帯」になってしまった。その反動からか、2008年には補助金規制が完全になくなり端末をどんなに安くしてもよくなったにもかかわらず、どの通信キャリアーも「補助金よりは中身で勝負したい」と言うし、ベンダーも新興市場向けの安い端末で世界市場でのシェアはある程度獲得できたので、2008年は売り上げを伸ばすためにハイエンドの高価格な端末をどんどん発売すると宣言している。


 しかし通信キャリアーは口々に、「今は嵐の前の静けさのようなもので、どこか一社が補助金を出し始めると、また一気に『1ウォン端末』競争になるしかない。しかし、補助金で安く売ることを前提にしたシンプルな端末には付加価値がないので、モバイル市場の成長を妨げるだけだ。当然のことだがARPU(Average Revenue Per User;ユーザー1人当たりの収益平均)は、モバイルインターネットやコンテンツをあれこれと使えるハイエンド端末ほど高くなるので、できるだけハイエンドな端末を売りたい」としている。

三星電子は、新興市場では安くてもある程度の機能を備えた端末でシェアを拡大させ、同時にハイエンド端末を投入することで市場をリードし、世界市場でのシェアを伸ばしていく計画だ。120ドルで買えるスライド式のカメラ携帯は世界で1000万台売れた。


 モトローラにわずかな差で勝ち、ノキアに続いて世界2位の携帯電話会社と自負している三星は、2008年は世界で2億台を販売し、3G端末の台数は2桁以上増加させるとしている。しかし天下の三星といえどもiPhoneの大ヒットを見過ごすわけにはいかず、タッチパネル式で500万画素以上のデジカメ、エンターテインメント機能が強化された端末を重点的に発売するとしている。


 三星電子が2007年に実績を上げたのは、プレミアム市場だけでなく、低価格なローエンド端末にまで領域を拡大したオールラウンドプレイヤー戦略にあると分析されている。アジア向けには音声通話に重点を置いた端末、欧米では極薄だったり1000万画素カメラだったり、世界初という端末を発売してきた。手広く何でもやった結果、売り上げが伸びたというわけだが、このままずっとあれもこれも製造する戦略で収益性を保てるかは未知数だ。


 三星電子の成功を見てか、LG電子も「新興市場を狙ったローエンド端末と、欧米を狙ったハイエンド端末の両方でシェアを伸ばす」という戦略を発表している。しかし、欲張りすぎてどっちの市場もつかめないなんてことになる可能性もあるし、販売台数は伸びても収益は落ちるばかりという危険性もある。デザインや機能が良くなるのもいいのだが、メーカーだからと言って製造することばかり考えず、その端末でどういうコンテンツを利用できるのか、どういう楽しみ方があるのか、というところも考えてほしいものだ。


 三星電子はWibro(韓国で開発された高速無線通信技術)やモバイルWiMAXといったモバイルインターネットが携帯電話事業の次の成長ポイントととらえ、GoogleやYahoo!と提携してネットを使うための携帯電話を企画・販売したこともある。ブログや検索に便利な携帯電話として、アップロードが高速なHSUPA(High Speed Uplink Packet Access)対応端末も登場した。これからは移動しながらでも100Mbps以上の通信速度が出る携帯電話事業を狙っている。タッチパネルや豊富なカラーを使ったデザインに高画素カメラ付き、アップロード速度を速めて撮ったらすぐ投稿させる使い方を普及させ、さらにモバイルライフを進化させようということなのだろう。移動しながらも仕事ができてTV会議にも参加できます、という広告も見たけど、「移動中なので戻ったら資料送ります」と時間稼ぎをしていた私のような人間は言い訳がちょっと苦しくなるな~

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年1月23日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080123/291849/

無料のウイルス対策ソフトが大人気

リアルタイムにウイルスを検出・駆除できる無料ソフト「アルヤク」(錠剤という意味の韓国語)がベーターテストの開始から2カ月で100万人のユーザーを確保した。広告をベースに無料で提供されていることから、ベーターテストの段階から1000人募集のところに2万5000人が申請したほど話題となったアルヤク。2007年12月26日に正式サービスを始めてからも、毎日5万件以上のダウンロードが続いている。



人気の背景は、有料でしか利用できなかったリアルタイムの監視機能と自動アップデート機能を無料で使えることに尽きる。さらに、アルヤクに使われているエンジンには、ルーマニア製「ビートディフェンダー」と韓国製「ビジョンパワー」という比較的実績のあるエンジンを搭載している。アルヤクを提供しているアルトゥルズ社は「100万人突破は単純にユーザーが増えたという数字としての意味より、信頼できる無料ウイルス対策ソフトの登場を望んでいたユーザーがそれだけ多かったという意味だととらえている」と話している。

 アルヤクが人気を集めると、偽サイトまで登場した。アルヤクのサイトのURLの最後の部分にco.krではなくcomを使ったサイトだ。そのサイトにアクセスすると真っ赤なページに「アルヤクに重大な欠陥が発見されオープンが遅延しています。ご了承願います」という告知が載っている。間違えてアクセスしたユーザーらは「本当にアルヤクに欠陥があるものだと思ってびっくりした」とアルトゥルズ社に問い合わせるなど大騒ぎになった。アルトゥルズ社は、このサイトの所持人を相手に法的手段を取れないか弁護士と相談しているという。


 アルヤクのほかに韓国では、Yahoo!Koreaも無料のウイルス対策のサービスを提供している。韓国の「ビジョンパワー」と提携し、リアルタイムでのウイルス監視・駆除、スケジューリングでのウイルスのチェック、自動アップデートといった機能を無料で提供している。


 ウイルス対策の無料化によって年間300億ウォン(約37億円)以上の個人セキュリティ市場規模を自らの手で潰しているのではないかと懸念する声もセキュリティ業界にあるにはあるが、ソフトウエアの無料化はやむをえないという見方をする向きが多い。ただ、ウイルス対策ソフトの無料化はまだまだ進んではいない。セキュリティ業界の反発が強いからだ。

ポータルサイトでシェア1位のNAVERは「PCグリーン」という名称でウイルスのチェック・駆除機能は無料で提供しているが、リアルタイムでの監視機能はアンラボをはじめとするセキュリティ業界の反対を受けて有償で提供している。その他ポータルサイトは無料サービスに対する業界の反発を恐れて無料化に踏み切れずにいる。NAVERが無料で提供するならば、それに追従して業界と対立せずユーザーを獲得したいといった態度だ。NAVERはウイルス対策ソフトのプラットホームを提供し、セキュリティ業界がそこに自由に参加して無料でも有料でもウイルス対策ソフトを提供し、無料と有料のどちらを選ぶかをユーザーにゆだねる方案も考えているようだ。


 セキュリティ業界は「無料サービスではパソコンのセキュリティは完全に守れない。個人情報を盗み出す悪性プログラムを検出・駆除するためには多大な投資が必要。外国製のエンジンを搭載した無料のサービスに問題が発生したときに、責任を持って対応するとは思えない」とし、無料に惹かれる本能は分かるがほどほどに、と忠告している。まあ、一理ある。


 さて、韓国のことわざに「ただならヤンジェッムル(昔の洗濯用苛性ソーダ)でも飲む」というものがある。人間はタダでもらえる物なら何でも喜ぶという意味だ。これにも一理ある。


 どちらが正しいとは言いにくいのだが、どうもインターネットが登場してから、特にコンテンツとソフトウエアに関して、何でも無料にしてほしいと駄々をこねるユーザーが増えたような気がしている。セキュリティ対策ソフトの利用料はたかだか年間数千円程度。飲み会やおやつを減らせば十分に払える金額だろう。たったの数時間の飲み会にかかる数千円は当たり前のように支払うのに、1年間分のソフトウエア代に使うのはちょっともったいない、と考えてしまうこと自体、悪い癖なのかもしれない。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年1月16日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20080115/290944/

グーグルコリア、韓国ブログベンチャー買収の理由はブログではなかった

グーグルコリアが去る9月、韓国のブログ専門ベンチャーTatter&Companyのサービスを買収し、韓国内でのサービスを強化する方針を明らかにした。グーグルコリアが韓国企業を買収したのは初めてのこと。Tatter&Companyはオープンソースのサーバー設置型ブログ「Tattetools」を開発元で、韓国のブロガーの間ではとても有名な会社である。

 ポータルサイトDAUMのブログもここの会社の事業部門を買収して運営されている。今回も会社そのものの買収ではなく、サービス部門の買収ということである。しかしグーグルコリアはブログサービスを提供するための買収ではなく、R&Dと検索サービスを強化するための買収であるとしている。


 韓国ではポータルサイトが検索、無料メール、コミュニティ、ブログなど全てのサービスを連動させる戦略でシェアを独り占めしている。韓国最大のポータルサイト「NAVER」は検索もブログも圧倒的な差で利用者1位をキープしている。韓国語で作成されているWebページの数は英語に比べて絶対的に少ないため、ブログに書き込まれた内容も貴重な検索データベースになり、コミュニティーとも連動しているので、検索結果が豊富でユーザーが集まる。ユーザーが集まるところにまたユーザーが集まるので、ページビューの独占は加速するばかりだ。もちろんNAVERやDAUMは使い方も工夫していて、検索結果をカテゴリーに分けて細かく表示するなど使い方もとても便利だ。そのため2004年あたり繁盛していたソーシャルネットワークサイトやコミュニティ機能を専門とするサイトはNAVERにユーザーを奪われている。


 グーグルは2005年9月にグーグルコリアを設立し、韓国でサービスを開始したものの、Googleの検索シェアは未だに2%前後に過ぎず、力を発揮できていない状況である。そのためグーグルコリアが韓国のブログサービスを買収するというニュースは、韓国市場に本腰を入れるのかということで話題になっている。グーグルコリアは「Tatter&Company」のブログ機能よりも、韓国のネット市場に詳しい人材をセットで買収できたことに満足しているようだ。検索以外のサービスでユーザーを惹きつけ、検索へと誘引する戦略なのだろうか。


 グーグルコリアは韓国でのシェアを高めるため、親韓国作戦を繰り広げている。2007年には韓国にR&Dセンターをオープンして1億4000万ドルを投資すると発表し、2008年9月には1000万ドルを追加投資すると発表した(この件は以前、「グーグルコリアの人材確保策、厚遇の裏にある狙い」で取り上げた)。「グーグルが韓国に投資してくれるなんて」という好意的な反応を予想していたはずだが、残念ながら反応はいまいちだ。インテルの二の舞になるのではないかと疑っているからだ。


 インテルは2004年3月、韓国政府とホームネットワークの共同研究をするとしてソウルの郊外にR&Dセンターをオープンした。韓国をアジアの拠点にすると大々的に宣伝しておきながら、2007年1月には本社の経営状態を理由に撤退、上海にR&Dセンターをオープンしたのだ。グーグルも口先では韓国ベンチャーを買収してサービスを強化する、もっと韓国に投資する、韓国と共同研究する、といっているが、韓国の立場からするとインテルのようにいつ裏切って中国へ行ってしまうかわからないというのが正直な心情だ。


 グーグルコリアは「Tatter&Companyの買収は検索研究のためであってコンテンツを増やすのが目的ではない。韓国でブログサービスを新しく提供するかどうかもまだ分からないが、グーグルコリアは韓国のネットユーザーと広告主が望むものは何かを正確に把握し、そのために組織を成長させている。韓国に対する持続的な投資を惜しまない予定だ」としている。韓国人向けの検索を提供し、シェアを確保するためには韓国人の検索パターンをよく知るエンジニアが必要だ。今回の買収は人材確保が何よりも目的だったというわけか。


 グーグルがブログを始めればネット亡命できると喜んでいたユーザー達はがっくりである。この頃、悪質なコメントに傷ついて芸能人が自殺する事件がまた何件も続いているため、ネット上の本人確認や書き込みの内容に対する取調べが強化されているからだ。ろうそく集会(2008年4月に韓国政府が米国産牛肉の輸入制限解除に踏み切ったことに抗議し、市民がろうそくを手に徹夜でデモ行進を行った)の時だって、ネットの書き込みを追跡して何人もの人が指名手配されている。書き込みのどこが問題なのか、見る人によって判断が違っていたため、ブログの表現の自由を求め海外サイトへ逃げるネット亡命が続いていた。その動きを受けて、グーグルがついに韓国でブログサービス開始か!と思っていたらそうではない様子。R&D強化が目的というのも韓国の発展につながるので嬉しいことは嬉しいが、インテルのようにはなってほしくないものだ。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年10月9日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20081009/1008648/