韓国の通信「セット割」規制緩和、料金競争は加速へ

韓国の情報通信政策を担当する中央省庁である放送通信委員会は、通信商品のセット販売の割引幅を政府の認可なしでも50%までできるように拡大した。通信会社らはこれまでも提供してきた携帯電話とブロードバンドのセット割引に加え、今回新たに携帯電話+ブロードバンド+インターネット電話+IPTVの組み合わせの中で基本料の割引を始めた。携帯電話とブロードバンドのセットだと基本料の10%引き、携帯電話とブロードバンドとインターネット電話のセットだと基本料の20%引きといった具合に、セットでの組み合わせを増やせば増やすほど割引幅は大きくなる。

 ブロードバンド2位のHanaroTelecomを買収した携帯電話シェア1位のキャリアSKテレコムは、さらに家族割引や長期加入割引を適用して最大50%まで割引されるプランを開始している。対象となるサービスの契約期間の合計が10年未満は10%、20年未満は20%、30年未満は30%、30年以上だと50%割引される。例えばSKテレコムの携帯電話に家族全員が契約していて、家族全員の継続利用期間を足すと20年、同じグループ会社であるHanaroTelecomのブロードバンド契約期間が10年だと合わせて30年ということで50%割引される。


 買収の効果は契約者獲得の道を広げたという点でも意味があった。SKテレコムの代理店からHanaroTelecomのブロードバンドを申し込めるようになっている。SKテレコムの加入者は約2300万人と人口の約半分に当たるわけだから、HanaroTelecomの販促への影響は大きい。この加入者を対象に「より安くインターネットが使える」とマーケティングをすれば、ライバルであるKTのブロードバンドシェアを奪えるかもしれない。また、HanaroTelecomは、加入者獲得のためにテレマーケティング会社に会員情報を無断で流出したことで取り調べを受けた過去がある。SKテレコムの傘下に入ったことでより安定したマーケティングが行えるようになったのも追い風だろう。


 SKテレコムにとっても今回のセット割引の規制緩和の意味は大きい。同社の携帯電話を使っているユーザーがHanaroの有線ブロードバンド、インターネット電話、IPTVを追加で申し込むとどんどん基本料が安くなる。ユーザーにセット割引を選択させることで有線・無線といった通信市場全体ではもちろん、放送と通信の融合でも自社グループのシェアを伸ばして市場を掌握しようというわけだ。


最大手KTは意外と苦戦


 このようなセット割引で益々シェアを伸ばすだろうと予想された最大手通信業者のKTは意外にも苦戦している様子だ。KTは日本のNTTのような会社で、携帯電話、固定電話、ブロードバンド、VoIPなど多様なサービスを傘下のグループ会社が提供している。当然、これらの商品を何でも組み合わせて複数で加入すると基本料の合計を割り引きしてくれる。


 現にKTは固定電話と有線ブロードバンドをメインに使いながら、携帯電話を子会社の移動通信キャリアKTFの3Gに変えると利用する全商品の基本料が割り引きされるというキャンペーンを実施しているが、長期割引や家族割引の影響からナンバーポータビリティを利用しても、ユーザーに携帯電話のキャリアを移動させるのはそう簡単にはいかない。この手のキャンペーンを実施してからセット割引に加入した人は全加入者の数パーセント、9カ月間で30万人しかいなかった。


 セット販売による加入者増加が思うようにいかないことが明らかになってくると、KTはついに固定電話の基本料まで割引の対象に含めた。3年契約で固定電話の基本料が5%割引される。シェア90.3%とほぼ独占状態の固定電話まで割引対象にしなくてはならないほどKTは追い込まれているのかもしれない。この4月からインターネット電話も固定電話の番号をナンバーポータビリティで利用できるようになったため、料金の安いLGデイコムのインターネット電話へと顧客が流れている。これらの影響で、KTの固定電話シェアは毎年1.7%~2%ほど減り続けているのだ。


 KTは有線ブロードバンドでも5割以上のシェアを占めてドミナント規制の対象になっているが、2008年9月以降の商用化が予想されるIPTVの前身であるTVポータルに関してはすでに1位の座を通信2位業者のHanaroTelecomに奪われている。KTは地上波放送の再送信を含む本格的なIPTVが始まる前に、TVとセットトップボックスを利用したTVポータルのシェアを奪い、放送と通信の融合でも1位業者になりたがっているようだが、豊富なVODコンテンツで既に市場を先占してしまったHanaroTelecomから顧客を奪ってくるのはそう簡単にいかない。


 とまあ、現状は、電話、ブロードバンド、IPTV各市場でKTとSKテレコムが激突している構図だ。


携帯通話にもインターネットの波、行き着く先は消耗戦?


 LGグループもキャリアのLGテレコムとブロードバンドのLGパワーコム、インターネット電話のLGデイコムを持っている、LGテレコムは加入者が最も少ないキャリアだけに安さで勝負している。どこよりも先に家庭向けインターネット電話サービスを開始し、電話代を大幅に節約できるとアピールした。加入者間無料通話、国際電話も1分50ウォン(約5円)の安さから60万人以上が加入している。パケット定額もどこよりも安い。


 このような料金競争にさらに追い討ちをかけるのはWibro(モバイルWiMAX)の音声通話機能搭載だ。まだ方針が決まったわけではないが、技術的には今すぐにだってできるという。携帯端末にWibroを搭載して高速で移動しながらも安くて早いインターネットにつなぎ、さらに携帯電話よりはるかに料金の安いインターネット電話を使えば移動しながら通話もできるとなれば、もう携帯電話なんていらないんじゃない?とまで考えられる。


 インターネット電話を移動しながらも使う、これはもうすぐ現実になるだろう。携帯電話は料金の安さに負けない何か特別な魅力を打ち出さなくてはならない。でもその差別化された魅力とは携帯電話だけの課題ではなく通信業界全体が探し求めていることでもある。となると、技術革新によって、携帯、ブロードバンド、固定電話の境界が消えていく結果は、料金競争に陥るしかない。韓国ではパケット定額も最近始まったばかりだが、携帯電話の音声定額も登場するかもしれない。貧困対策として基礎生活保護者に指定されている世帯の携帯電話基本料免除案も登場する中、通信会社はもう通信費の売り上げだけでは食べていくのは難しくなるかもしれない。消耗戦が激化する前に料金競争の次に何が来るものを見つけ出さなくてはならないはずなのだが、それはまだ誰にも見つかっていないように思える。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年6月18日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080617/1005103/

スペックダウン問題に揺れる韓国携帯電話市場

LG電子の「PRADA Phone by LG(L852i)」の発売ニュースをきっかけに韓国端末メーカーの日本進出が話題になっているが、韓国内では海外市場ばかり大事にして韓国では値段は高く機能は少ない端末しか売ってくれないという不満の声も漏れている。サムスン電子やLG電子は欧米を中心に世界初という機能が付いた先端端末をよく発売している。新機種は欧米市場で先に発売するのはかまわない。韓国ユーザーが不満に思うのは世界で絶賛される端末が韓国市場で発売される際には大事な機能がかなり除かれ、平凡な端末になってしまう点だ。これは韓国の携帯電話キャリアの要請からというが、ユーザーの立場からは残念なことだ。

 例えば、LG電子の「Viewtyフォン」は、ヨーロッパではDiVXと呼ばれる圧縮映像コーデックを内蔵して動画再生機能を強化し、大型3インチ液晶で色々な映像を楽しめる機能が話題となった。現に、5週間で30万台以上が売れたヒット商品だ。しかし韓国では動画再生機能もなくなりFMラジオもなくなり地上波DMB(ワンセグ)も搭載されず、500万画素という高画素カメラだけが売りの端末になってしまった。


 2007年夏の戦略モデルだったサムスン電子の「ミニスカートフォン」もしかり。ヨーロッパではウルトラエディション?として320万画素カメラを内蔵し高級オーディオ機器メーカーのバング・アンド・オルフセンのアイスパワーアンプが搭載していた。それが、韓国で発売された時はカメラは200万画素、バング・アンド・オルフセンのアンプも使われていない平凡な端末になっていた。中には、海外向けは厚みが12.1mmなのに韓国では12.9mmと少し分厚くなったことを指摘するユーザーもいたほどだ。


 米モトローラの音楽携帯「Z6m」もUSBでつなげて音楽ファイルを端末に保存して再生できる機能を持っていたが、韓国ではモトローラはSKテレコムの加入者専用となっているため、SKテレコムの音楽サービス「Melon」に加入して専用ドライバーとプログラムをインストールしないと音楽再生機能が利用できないようにした。この対応は無料ファイルを利用されるよりコンテンツの売上を伸ばしたいからだろうから、キャリアの立場からすれば当然。かもしれないが、端末に元々付いていた機能までなくしてしまうことはないのにというのがユーザーの率直な感想だ。


 かといって、韓国での携帯電話端末の価格が安いかというとそうではない。韓国国内の新規端末の価格は60~80万ウォン(約6万2千~8万5千円)。先に紹介したViewtyフォンは韓国で73万ウォン前後で販売されたが、ヨーロッパでは550ユーロ(約76万ウォン)、ミニスカートフォンは韓国で55万ウォン前後、ヨーロッパでは400ユーロ(約51万ウォン)と、機能は韓国の方が断然少ないのに価格はヨーロッパとたいして変わらないか韓国の方が高いくらいだ。この状況をメーカーやキャリアはどう説明するのか。

機能が削られていることについて、メーカーはあくまでもスペックダウンではなくスペック変更であるとしている。その証拠に、Viewtyは動画再生機能の代わりに電子辞書を搭載、ミニスカートフォンはGPS機能とデータ速度をアップしたという。モバイル同好会の掲示板には「海外でヒットしたあのモデルが韓国でも販売されることになったと宣伝しておきながら、スペックダウンしたことを隠すことが何度もあった。他の機能に置き換えたというが2、3の機能が削除されて電子辞書ひとつ、GPSひとつが追加されただけで端末の価格は変わらないのは納得いかない。ユーザーが望む機能は何か考えて現地化してほしい」といった書き込みが後を絶たず、スペックダウンしておきながら端末価格はもっと高くするのはやめてほしいとネット署名運動も起こっている。

 韓国市場の内需より海外市場の方が断然マーケットが大きいので海外に力を入れるしかないのは分かるが、韓国の携帯電話市場はサムスン電子、LG電子、パンテックと韓国産端末ばかりで海外の端末はモトローラとカシオのCanUぐらいしか販売されていない。韓国の携帯ユーザーはいやでも国産端末を買うしかないのだ。


 海外にばかり目を取られ内需は後回しにされているという不満からか、同じスペックで値段は安い海外メーカーの端末を買いたがるユーザーも増えてきた。欧米の端末はキーパッドが使いづらいという不評からモトローラ以外は韓国市場に根付けなかったが、2008年夏には台湾HTCのスマートフォンがSKテレコムから発売される予定だ。iPhoneに匹敵するほど高性能なのに値段は安いということで発売前から期待を集めている。ブラックベリーやノキアも入ってくる予定だ。韓国メーカーも日本進出もいいが、お膝元の韓国市場にも少しは気を使ってほしいものだ。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年6月11日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080611/1004680/

Google Chrome、韓国ブロガー達の反応は

グーグルの新しいWebブラウザー「Chrome」は韓国でも話題騒然、ブログにはChromeを使用した感想があふれかえっている。もともと検索の王者グーグルが開発しているだけに、マイクロソフトのExplorerよりも使いやすいブラウザーになるだろう、画期的なブラウザーでない限り公開しなかったはずであると、期待されていた。

 韓国のブロガーたちは初印象はとにかく邪魔な機能もなくすっきり整頓されている、Webサイトを見やすくすることに注力したブラウザーという評価をしている。Web画面が表示されるスペースを最大限確保するためタブを左上に表示させ、メニューも一行にするなど無駄をなくしたのも好評だ。何よりも満足されているのはスピード。Webサーフィンの体感速度がとにかく速い、すいすい画面が表示され移動できる、メモリーも少ししか使わないのでストレスがない、アドレスの代わりにキーワードを入れるだけで該当するサイトがどんどん出てくるので楽、などと世界のユーザーと同じようにその利便性に驚き、使ってみた人はみんな絶賛している。


 個人的にはChromeでは一つのタブがエラーになった時に、シャットダウンするのがそのタブだけに限定されることが何よりも気に入っている。Explorerだと一つの画面にエラーが発生すると、全てのタブやブラウザーがシャットダウンしてしまうので、書きかけのメールなどが吹っ飛ぶことがよくあった。こういう時に限って、自動的に下書き保存されるはずが何も残っていなくて、髪を引き抜きながら悲鳴をあげたくなる悲惨な状況になってしまうので本当に困っていた。


 しかし予想通りの問題もあった。以前、Firefox 3が使えない理由で紹介したのと同じように、IE以外ではサイトが表示されない、SNSでは音楽再生ができない、インターネットバンキングや電子政府が使えない、サイトにログインでいないといった問題がChromeでも繰り返されている。


 グーグルは、Chrome韓国語正式バージョンではActiveXが使えるようプラグインを追加する方式で調整すると話している。現在、ActiveXに対応しないと使えなくなるサイトをリストアップしているとのこと。有名な話だが、韓国のWebサイトはWeb標準ではなくIEに合わせられているため、世界的に話題になっているブラウザーであっても韓国では使えない。グーグルはWeb標準を守らない韓国市場に合わせたブラウザーを公開するとしている。そこまでするほど、韓国って大きな市場なのかな?


 韓国のWeb標準化団体であるオープンウェブは、「グーグルがActiveXをサポートすることによって、やっとWeb標準化を守ろうとする動きが出始めた韓国が逆戻りする可能性もある、ActiveXによるセキュリティ問題がChromeでも発生する可能性がある。グーグルのこの決定にはがっかりした」と反対している。


 さらにグーグルのプライバシー侵害が気になるので使いたくないという人も少なくない。Chromeを通してユーザーのWebサーフィンの履歴が全てグーグルに報告されているからだ。グーグルはユーザーの訪問履歴を収集しているというのだ。GoogleのWebアプリケーションを使っていたりすると、さらにGoogleに提供する情報の種類は増える。


 Googleに集約されている情報をつなぎ合わせれば、理論上、どこの誰がどんな情報に興味を持っているのかも把握できるので、世界各国の動きをグーグルは予測できるというわけだ。私のような一個人の情報など使い物にならないかもしれないが、政府機関に勤める重要人物がどんなサイトを訪問し、どんなキーワードで検索しているのかといった情報を集められたら、これはかなりすごいことにつながるのではないだろうか。こう考えると、グーグルは新しいブラウザーを公開したのではなく、個人情報収集ツールを広めようとしているのかもしれないという怖さもある。

 

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年9月10日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080910/1007829/

韓国に来ないiPhone 3G、サムスンのiPhone対抗馬「OMNIA」

世界中がiPhone 3Gの発売で盛り上がっているこの頃、携帯電話の普及率が91%近いモバイル大国の一つ韓国では、なぜかいまだiPhoneの発売ニュースが届かない。7月11日から販売開始となる22カ国にも、年内発売可能となっている70カ国の中にも入っていない。キャリアのKTFから発売されるのではないか、iPhoneが発売されたらキャリアのシェアが変わるかもしれないほどインパクトがあるだろう、などなど噂ばかり飛び交っている。

 韓国でのiPhone発売に関してアップルの公式の立場はノーコメントである。しかし韓国ではほとんどの専門家が「WIPI(Wireless Internet Platform for Interoperability)」のせいではないかとみている。WIPIは2001年に韓国が国策事業として開発したモバイルインターネットの標準プラットフォームである。それ以前までも韓国のキャリアはそれぞれ違うプラットフォームを採用していたため、CP(Contents Provider)は3種類のモバイルコンテンツを制作しなくてはならないという不便があった。これをなくし、モバイルインターネットを活性化させるために導入されたのでがWIPIで、モバイルインターネットが使える携帯電話は搭載が義務づけられている。


 iPhoneも韓国で端末を販売するためにはWIPIを搭載しなくてはならないが、韓国のためだけにアップルが端末の仕様を変えるような面倒なことをするだろうか。しかしキャリアの立場としては一日でも早くiPhoneを販売したいので、費用を肩代わりするか、通話料のレべニューシェアをもっと積んであげるとか、そういう契約をしてでも持ってくるのではないかと見られている。


 韓国で発売予定はないとしても、iPhone 3Gは韓国にとって重要なニュースである。iPhoneのせいで世界市場でシェアを伸ばしているサムスン電子やLG電子の携帯電話のシェアが減るのではないかという予測が米国では登場しているからだ。米国の市場調査機関SA(Strategy Analytics)が2008年4月に調査した資料によると、2008年1~3月の世界の携帯電話市場シェアはサムスン電子が16.4%で2位、LG電子が8.6%で4位となっている。サムスン電子はモトローラを追い越し、LG電子もソニーエリクソンを抜いて4位になった。世界でも韓国でも両社のタッチパネル携帯電話がよく売れたおかげだ。


 特にサムスン電子は「Haptic」といって、タッチすると端末がぶるぶる震えたり、電話をかけた相手のバイオリズムに合わせた振動が着信音の代わりになったり、端末を傾けたり動かすことで写真をめくったり、データを見たり、ゲームもできる触感機能を強調したタッチフォンが人気を集めている。


 iPhoneとの競争で特に注目されているのは価格戦略への影響だ。iPhone 3Gはとにかく値段が安い。2年加入という条件付きではあるが、アメリカで199ドルで販売される。日本でも8GBが2万3040円から、16GBが3万4560円からと割安感がある。サムスン電子やLG電子の携帯電話は前述したとおり機能も充実しているし、デザインもいいことは認めるが、600~800ドルはする高級端末が中心である。ブランド価値を高めるため、あえて安い端末は売らないというのが韓国メーカーの携帯電話販売戦略だったが、iPhone 3Gに市場を食われないためには、価格競争でも負けない端末を販売しなくてはいけない。

早速、その影響は出始めた。サムスン電子は、米国でスプリントネクステルから6月20日付けで発売されたスマートフォン「Instinct」を、2年契約を条件にiPhone 3Gより安い129.99ドルで売り出している。「Instinct」は韓国で人気を集めた「Haptic」とほぼ同じ仕様だが、韓国では800ドル近い値段で売られていたのを、アメリカでは129.99ドルに値下げした。当初はこれより高い値段を設定したかったのだろうが、ここでアップル負けたらどんどんシェアを食われることを懸念して、真正面から価格競争に挑んだようだ。とはいえ、「韓国のユーザーを何だと思ってるんだ!」と怒りたくなるような値下げだ。シェアは維持できても収益は落ちるだろうから、今後、開発・製造面でのコスト削減が必須となってくるだろう。


 「Instinct」はデザインや機能もiPhone 3Gによく似ていることから、アップル対策用の端末と思われがちだが、それは米国市場での話。世界市場(日本でも報道があったが)では「OMNIA」という端末でiPhone 3Gとは勝負する(写真)。










iPhoneによく似たきょう体のOMNIA。日本での発売時期は未定だが、年内にもソフトバンクから発売されるという報道もあった


 6月17日~20日ソウルで開催された韓国最大規模のIT展示会「World IT Show2008」の目玉でもあった「OMNIA」はiPhone 3Gと同じく8GBタイプと16GBタイプがあり、外付けメモリで拡張できる。iPhone 3G より高画素な500万画素カメラ付きだ。バッテリーの持ち時間はやはりiPhone 3Gの方が優れているがOMNIAにはHaptic機能がある。液晶はiPhone 3Gよりも、少し小さいがその分全体のサイズも一回り小さくグリップ感をよくした。「OMNIA」はまず6月から東南アジアで発売され、順次世界各国で販売される。韓国では9月頃に登場する予定だ。 


 個人的には、「OMNIA」もいい携帯電話だと思うが、早くiPhoneが韓国にやってきてくれないと困る。そろそろ機種変更したいのだが、iPhoneが来ないと韓国国内の携帯電話市場では価格競争が始まらないからだ。韓国では、新規加入で補助金が付いていても端末価格は5万円はする。iPhoneなんて補助金なしでも半額だ!こんなに携帯電話が高いにもかかわらず、韓国人の機種変更は1年未満という調査結果が発表されたから信じられない。中国では携帯電話が身分を表すから払うお金は惜しまないという話を聞いたことがあるが、韓国もどうやらその通りになってきたみたいだ。韓国は今ちょうど家族割を始め、通話料値下げ競争の真っ只中。iPhoneが来て端末価格の競争も勃発してくれることを願う。韓国の端末価格はどう考えてもバブルとしか思えない。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年6月28日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080626/1005506/


日本の携帯メーカー淘汰に割り込むタフな韓国勢の狙い

 韓政府は6月末、携電話端末の生産量を2012年までに現在の2倍近い6億台に伸ばすことを目指す「移動通信産業略」を表する。サムスン電子やLG電子の世界進出で、携電話産業は韓国経済の約7%を占める一大産業に展している。新略の下では日本市場も然大きなタゲットとなるだろう。


 


 


■プラダフォン発売は日本本格進出の象


 


 市場調査社のガトナによると2007年に11億6000万台規模だった世界携電話市場は2010年に15億2940万台、2012年には18億750万台にえる。このため新略の目標が達成されれば、世界携電話市場のなかで韓が占める割合は2007年の21.6%から2012年には33.2%へ高まることになる。


 


 サムスン電子の「ANYCALL」ブランドの携電話端末は2007年に世界市場で1億6100万台がれた。2008年は2億台の販を目標にしており、モトロラとの差を大きくげようとしている。LG電子も2007年に世界で8050万台を販している。特にLG電子はイタリアのファッションブランド大手プラダ(PRADA)と提携した「プラダフォン」や「チョコレトフォン」がヨロッパでヒットしたおかげで、全世界でブランド値やイメジが上昇した。


 


 


 


  州で先行発売されたLG電子の「プラダフォン」


 


 


 プラダフォンこと「PRADA Phone by LG」は2008年6月から日本でもNTTドコモの端末として発売されることになった。全面タッチスクリンを採用したこの端末は2007年3月にヨロッパで先に発売され、世界40カ80万台を販した人の高いハイエンド端末である。このニュスは日本で大きく報じられ、韓の端末メがついに本格的に日本へ進出しようとしていると話題になった。


 


 LG電子に限らず韓の携電話端末メの日本進出が目立っている。世界市場を舞台にシェアを伸ばしているサムスン電子、LG電子、パンテックの3社は、日本は最後にされた大きな海外マケットであるとして、日本輸出を化し始めた。韓国関税庁の資料によると、携電話端末の日輸出額は2006年から大していて、2006年は3億4338万ドル、2007年は3億84303万ドルとなっている。
 


 


■リストラは進出のチャンス


 


 韓では、2Gの時代は日本自のPDC方式のため端末の輸出が難しかった。3Gでは韓と日本が同じWCDMA方式を採用していることもあり、端末を輸出しやすくなったと言われている。それでも、高度な技術力で開期間を短縮し年間50種類以上の新機種を世界市場で発売しているサムスン電子やLG電子にとって、端末の仕をキャリアが決める日本がとても難しい市場であることは間違いない。


 


 しかも日本の携電話端末市場はリストラのっただ中だ。三洋電機が京セラへ携電話事業を却、三菱電機は携電話端末市場から撤退、ソニー・エリクソンモバイルコミュニケションズはドコモ向けの端末略を見直す。普及率が「1人1台」の時代になり新規需要が乏しく、販売奨励金の見直しで買い替えサイクルも長くなり端末の出荷台も減少すると見まれている。


 


 逆に言えば、市場の先行きがしく日本メが次に撤退している環境だからこそ、この隙を狙って日本で地位を固められるチャンスがあると期待しているのだろう。携である日本の3G市場で端末やブランドをヒットさせることができれば、世界市場でのいっそうの競力アップにもつながる。


 


 


Wibro日本投入も視野に


 


 高速無線通信の「Wibro」が利用できるサムスン電子の端末


 


 


 韓では日本メの端末はカシオ計算機の「CanU」しか販されていない。このCanUは加入者が最も少ないLGテレコム用にもかかわらず、新機種が登場するたびにモバイルマニアが「CanUを使うためだけにキャリアをえても損はない」というほど注目されている。韓としても、日本製端末の性能の高さは十分に承知しており、日本進出にはじっくりと時間をかける考えだろう。


 


 LG電子はプラダフォン以前にも、2006年からNTTドコモに端末を提供している。2007年にはFOMAハイスピ(HSDPA)に対応したチョコレトフォンを発売した。GSM方式のエリアにも対応した「WORLD WING」端末で、日本市場向けにワインレッドカラを追加した。世界100カでベストセラとなったチョコレトフォンだが、確に人証された製品でないと目の肥えた日本のユには受け入れられないという判から、日本での販を急がなかった面もある。


  


 サムスン電子はボダフォンの流れでソフトバンクから端末を発売している。ブランド力があることから日本でもそこそこれていて、日本市場シェア1%を記したという報道もあった。


 


 サムスン電子はモバイルWiMAXの設備を日本に輸出している。モバイルWiMAX というとカド形式のイメジがいが、韓では同の高速無線通信「Wibro」を搭載したスマトフォンも発売されている。まだ決定されているわけではないが、日本のモバイルWiMAXサビスのエリアががり加入者がえてくれば、自慢のWibroスマトフォンで存の携電話端末市場とぶつかることなくシェアを伸ばしていくことも視野に入れている子だ。


 


 サムスン電子、LG電子だけでなく経営がかなり改善してきたパンテックも日本進出に積極的である。パンテックはLG電子よりも早く、2005年12月からKDDIのau向けに端末を納入し、韓のなかでは初めて日本に進出した経歴を持つ。2007年に骨導スピを搭載した「簡タイ A1407PT」を発売するなど、スリムで安いだけでなく機能の面で特を持つ端末も出し始めている。


 


 


■日本メとの距離縮める


 


 



サムスングルプの2008年春のヒット端末。タッチパネルを搭載している


 


 


 韓の携電話市場では今年、インタネット機能が重視され、タッチスクリンの簡な操作でパソコンとわらない面表示ができるフルブラウザ搭載端末がえている。キャリア最下位のLGテレコムは、「OZ」という激安パケット定額プランを始めて、韓モバイルインタネット市場で最下位からの反に出ている。


 


 「OZ」は月約600円で携電話からインタネットが使い放題になるだけでなく、キャリアのポタルサイトを由せず自由にウェブサイトへアクセスできるようにしたのが特である。これまで韓のキャリアはフルブラウザであってもキャリアのポタルサイト(日本でいうiモドのようなサビス)を由しないとインタネットにアクセスできず、キャリアと契約していないサイトにはアクセスできないようにしていた。それが「OZ」の登場により携電話からもパソコンとわらず自由にインタネットを使えるようになり、ほかのキャリアもネットワクを開放せずにはいられなくなった。 


 


 さらに、SIMカドのロック解除で複の端末が使えるようになったのも大きな化だ。海外だけでなく韓国内でも携電話に求められる機能はわり始めているため、韓のメ国内、世界市場、日本、新興市場など市場ごとにな端末を計しなくてはならなくなった。


 


 移動通信、そのなかでも携電話端末を家として略的な産業に育てようとしているだけに、韓は今まで以上に端末の輸出を化するだろう。韓は熱血で口うるさい韓に揉まれ、ヨロッパ、アメリカ、インド、中など世界各ってきた経験を通じ、どんな況でも生きれるタフさを身につけてきた。


 


 世界マケットの一つとして日本を見ている韓と、需がすべてで日本人ユを熟知している日本メの競力を比べるのは難しい。しかし日本にとって韓米のメより怖い相手になるだろう。世界最大の3G市場で勝ちれるよう韓は必死で、重に距離を縮めている。日本のメがまた携電話市場から撤退するのを待っているかもしれない。



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008年6月3日


<ケーススタディ“韓流”IT TRY&ERROR>9.今回のテーマ■著作権改正(上)

 議論沸騰の著作改正 違反3回でサイト制閉鎖


 


 


 


添付画像 韓政府の著作法改正案が議論の的になっている。著作法に違反し、警告を3回受けたサイトは制閉鎖(つまり業)を命じることができるという方向で著作法改正を討していると政府が表したことから、大波き起こしているのだ。



 法改正の背景には、米
との間でのFTA(自由貿易協定)がある。FTAを締結するための件として著作保護が前提になるだけに、コンテンツを利活用することよりも利者の保護と違反にする罰に片寄りすぎているという批判が高まっている。


 


 韓のコンテンツ産業政策を担する監督官の文化体育光部が7月17日に表した改正案によると、違法コピ物をインタネットコミュニティサイトやブログ、ストレジサビス、P2Pサイトに載したユが該ファイルの削除・伝送中命令を受けてもわなかった場合、ID停止や解約を政府がサイト運者側に命令できるようになっている。これにわない業者には1000万ウォンの罰金が課され、3回以上の分を受けたサイトへのアクセスを遮する方式でサイトを閉鎖できる。


 


 ここで問題になるのは、ユの過失によって業に追いまれるポタルサイトがでてくる可能性がある点だ。このため、ポタルサイト側では「過な措置だ」と猛反している。24時間モニタリングをしても、2000万人以上の員の著作違反をすべて封じめることは不可能なのが際のところだろう。特に動投稿がブムになってから、ブログを通じたドラマの違法コピが溢れかえっているのだからなおさらだ。添付画像


 


 政府は8月になると、業界の意見を受け入れ、ポタルも罰の象になるという初の案を更して、P2Pやファイル共有サイト、ストレジサビスだけを象にするといった案も提案している。


 


 これらのサイトは、ユが違法コピ載し、それを他のユがダウンロドするためにはサイト側に利用料をわなくてはならないような仕組みを持っている。政府は、違法コピされたコンテンツで儲けているようなサイトは業に追いんでいく姿勢をみせている。(趙 章恩●取材/文)


 


 BCN This Week 2008年9月8日 vol.1250 載]Link


 

動画大国・韓国で急務のユニバーサルデザイン対応

韓国では今年4月、障害を持つ人もウェブサイトを平等に利用できるよう、公共機関や企業のサイトにユニバーサルデザイン対応を義務付ける法律が施行された。様々なランキングで「韓国の電子行政・電子政府は世界一」との評価を受けているが、ユニバーサルデザインへの対応は後れていた。法律の施行後、福祉団体などからは堰を切ったように使いやすいサイト作りについての要望が寄せられている。(IT先進国・韓国の素顔)



■ユニバーサル対応が後れていた韓国のサイト


 この法律は障害を持つ人が日常で差別を受けていると感じないようにするためのもので、情報化に関する規定が盛り込まれている。公共機関、医療機関、福祉施設、従業員300人以上の企業のウェブサイトは2009年4月までに、そのほかのサイトは5年以内に、ユニバーサルデザインによるアクセシビリティーを順守するよう義務付けている。違反行為があった場合、3年以下の懲役または3000万ウォン以下の罰金が科される厳しいものだ。


 現在の韓国のサイトはフラッシュや画像がふんだんに使われている。フラッシュや画像などはテキストで説明を入れられる仕様になっているが、ほとんどのサイトは手間がかかることを理由に省略しているため、読み上げソフトが役に立たない。


 法律が施行されて以降、画像ファイルを分析して音声で読み上げるというソフトも発売されたが、サイトの制作時点でウェブの標準が守られていないため大半の画像はまだ読むことができない。結果として、目が不自由な人がインターネットショッピングや検索をすることは夢のまた夢といった状況になっている。


 また韓国ではウェブの機能を付加する「ActiveX」対応のサイトが多く、いまだに特定のプログラムをインストールしないとトップページが利用できないというケースが多い。インターネットバンキングや動画サイトで特に多く実装されており、目が不自由な人にとってはやっかいな存在だ。








放送局MBCの視覚障害者用ページ。音声で読み上げられるように配慮されているが、コンテンツは減っている


 一部公共サイトでは視覚障害を持った人用、聴覚障害を持った人用のサイトを別途制作しているが、これも元のサイトにあった内容がほとんど省略されていたり、3~4年以上アップデートもなく放置されていたりするサイトが多い。


 北京五輪の間、放送局は韓国選手の全競技をネットで再放送し、競技場の外の様子を取材した特別番組をネットで流して盛り上げた。ポータルサイトも通信会社も、サポーターとして選ばれた大学生たちにカメラを持たせ、動画を投稿させた。ブロードバンド大国らしく、ネットで動画を見るのも投稿するのも大好きだ。しかし、目が不自由な人のためにコンテンツを音声認識で読み上げられるようにしたり、音声を字幕にしたりと配慮したものはごく一部にすぎなかった。



■電子政府は1位でもアクセシビリティーの評価は低い

 韓国の行政の情報化は以前から高い評価を得ている。韓国の電子政府への取り組みは、欧米の研究機関が発表する世界電子政府ランキングで2008年も1位を獲得した。しかし国民の誰もが利用できるようになっているかという評価項目は点数が低い。米ブラウン大学の2007年の電子政府調査では、韓国は総合評価では1位だが、アクセシビリティーの順守率は0%という極端な結果だった。







 アクセシビリティーの国際規格にはウェブの標準化団体であるW3Cが定めた「WCAG 1.0」があるが、韓国でもこれを参考にして2005年10月から、「KWCAG 1.0(Korean Web Contents Accessibility Guideline 1.0)」が国家標準として指定されている。ウェブ構築に関わる人たちが標準を守ろうと活発にフォーラムを結成したり情報交換したりしているので、アクセシビリティー問題も早晩落ち着くだろう。


■IPTVも新法に対応

 テレビ放送もアクセシビリティーの側面から変化している。放送局4社は2012年までに地上波放送の90%以上を字幕放送にすると発表した。地上波放送のリアルタイム再送信ができるようになったIPTVも新法の施行後、誰でも利用できるサービスにするため、使いやすいリモコンの開発を急いでいる。IPTVや地上波デジタル放送に関しては、デジタルデバイド解消のための受信機の普及も重要だが、誰でもアクセスできるような画面、利用方法が大前提になるからだ。


 見やすく分かりやすく、誰でも見たいコンテンツにすぐたどり着ける画面構成にするほか、ニュース報道や選挙関連の放送に関しては、字幕や音声での画面解説を選択できるようにし、災害時に目や耳が不自由な人が利用できることを条件としている。


 IPTV向けのリモコンは機能が多すぎて、情報端末に慣れている若い人でさえ使い方が把握しにくいといわれていたため、単純な機能で誰でも簡単に利用できるものも開発されている。リモコンをマウスのように動かしてテレビ画面に映し出されたメニューを選択できるタイプも登場した。



■韓国の変化の第一歩


 政府は音声バーコードをどんどん導入している。日本のQRコードのようなものをウェブ画面や行政書類、医薬品に付け、専用の端末にかざすと音声で書類の内容や医薬品情報を読み上げてくれるというものだ。今のところはバーコードに600字まで情報を書き込めるようになっていて、視覚障害を持つ人を対象に専用端末の購入費約70万ウォンの80%を政府が補助している。


 音声認識にこだわる理由は、視覚障害を持つ人で点字を判読できる人が2.4%と少ないという現実にある。事故や病気などで後天的に失明した人の場合、点字を勉強するのにとても時間がかかるからだ。携帯電話の場合はSMS(ショートメッセージ)やコンテンツの中身を音声で読み上げてくれるサービスが定着している。


 韓国では障害を持つ人や低所得家庭には携帯電話加入料やテレビ受信料の免除、電気代や鉄道料金の割引などの制度がある(割引率は障害の重度やどのような障害なのかによって違う)。もちろんこうした制度も大切だが、そもそも障害の有無に関係なく平等に暮らせるための環境整備も重要のはずだ。ウェブのアクセシビリティーを真剣に考えるようになったことは、韓国にとって大きな変化の一歩といえるかもしれない。

– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008年9月2日


「3アウトでサイト封鎖」韓国に吹き荒れるネット規制旋風



 韓国では、米国産牛肉の輸入再開をめぐる抗議デモの拡大を契機に、インターネットの規制を強化するための法改正や新法の検討が次々に進んでいる。その多くは表現の自由にかかわりかねない内容だけに、ネット業界やネットユーザーに「過去への逆戻りか」と危機感が広がっている。

■規制強化はポータルサイトへの報復か


 国家安全とセキュリティーを担当する行政安全部、インターネット政策を担当する放送通信委員会、コンテンツ産業と著作権を担当する文化体育観光部などが6月以降、相次いで新しいネット規制法案を発表した。内容は、インターネット上の情報保護を目的とした総合対策法案、ポータルサイトを言論として規制する新聞法改正案、違法コピーファイルの掲載で3回以上の処分を受けたサイトを強制閉鎖できる「スリーアウト制度」を導入する著作権法改正案、名誉毀損や虚偽の事実への対応を強化するサイバー侮辱罪など。これらはいずれも表現の自由より規制の強化を優先したと受け取れる内容となっている。









 行政機関がこのように一致団結してインターネットを規制しようとしているのは、米国産牛肉問題でデモに参加するよう扇動するような書き込みを自由にさせていたポータルサイトへの仕返しではないかと受け止める人が少なくない。ネットの書き込みで政府批判に火がつき、輸入反対集会が反政府集会に拡大して大統領の支持率まで下落したことと、今回のネット規制が無関係とは誰が見ても考えにくいだろう。


 例えば新聞法改正案では、ポータルサイトがトップ画面で50%以上の割合でニュースを掲載している場合は言論機関としての義務と責任を負うことになる。逆にそれが50%未満の場合は、サイト内でニュースはおろか検索やコメント機能も提供できなくなる。つまりポータルサイトが今までどおりニュースを提供して多くの読者のコメントを集めるには、初期画面に50%以上ニュースを掲載し、新聞法の規制を受け入れるしかない。事業者にとって選択の余地がない厳しい改正案である。


■著作権法の罰則をさらに強化

 7月16日に文化体育観光部がまとめた改正著作権法案では、スリーアウト制度の条項をめぐってインターネットサービス業界との間で対立が起きている。


政府の説明によれば、今回の著作権法改正は既存の著作権法にコンピュータープログラム保護法を吸収し、著作権委員会とコンピュータープログラム保護委員会を統合して韓国著作権委員会を設立することが主な目的とされている。しかし昨年の改正で罰則規定が強化されたばかりにもかかわらず、今回さらに罰則を強化しようとしており、政府の説明を言い分どおりに受け止める人は少ない。







 現行の著作権法では、違法コピーファイルを掲載すると5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金が科される。改正法案では、さらに、繰り返し違法ファイルを転送・登録する利用者に対する利用停止及び解約、違法ファイルを掲載するサービス提供者(P2P、ストレージサービス、ポータルサイトなど)のアクセス遮断などの罰則が盛り込まれた。ユーザーが著作権侵害にあたるファイルの転送や流通の中止命令に従わない場合、行政機関はユーザーのID停止または解約をサービス提供者に命じ、これに従わない場合は罰金が科される。


 文化体育観光部の調査によると、インターネット上の違法コピーファイル流通による著作権侵害は、全著作権侵害の94.5%、映画、音楽、出版だけで約2000億円近い金額となっている。ここにソフトウエアの違法コピーを含めると大変な数字になる。著作権保護という観点でいえば、こうした罰則強化の流れもやむをえないと考えられる。

■罰金3回でサイトを強制閉鎖







 だが、問題はここから先だ。改正案では違法コピーファイルの掲載により罰金を3回科されたサイトに対しては、審議を経てサイトを強制的に閉鎖できるようにするという。サイト内の掲示物の70%以上が違法コピーファイルである場合は、直ちにサイトを閉鎖できる。


 審議と閉鎖命令は著作権委員会と文化体育観光部長官が下す。日本ではプロバイダ責任制限法で、サイトの運営者には一定の免責が認められている。しかし韓国は今回、違法を野放しにすればサイト閉鎖、つまり廃業に追い込むことも辞さない処罰へと踏み込んだ形だ。


 これに対して、インターネット企業協会など事業者団体は、「サイトの閉鎖といった処罰を強化する法律は正当なコンテンツ流通の促進にはつながらない」「著作権者とインターネット事業者の間でうまく協議できるよう奨励する法律を作らなければならない」と反発している。


 ネット業界が危惧しているのは、サイトの閉鎖命令を裁判所が下すのではなく、著作権委員会が判断して個人のネット利用停止、サイト閉鎖まで命令できるという点だ。「著作権保護という名目でインターネットを政府の規制下に置こうとしている」という指摘はもっともで、慎重に対応しなければ行政の権力乱用につながりかねない。

 強制的にサイトを閉鎖した場合、そのサイトを正当に利用していたその他大勢のユーザーはどうなるのかという問題もある。その点については、まだ明確な説明がなされていない。


 企業側は「著作権を侵害せず動画投稿やコンテンツを利用させるための方法は何かを考えるべきだ」と主張する。そのために、コピーを制限できる技術やコンテンツ利用料の策定、手軽な決済方法の開発などが必要であって、処罰を強化するよりは、コンテンツ流通活性化を前提にした著作権法改正が重要であるという意見を示している。


 著作権侵害の問題については、CDを友達に貸してあげるような感覚で「共有」してしまう一般ユーザーの教育も含めて、より腰を据えた対策が欠かせないだろう。今回の改正法案は著作権者側からすれば一歩前進だが、改正が実現すればサイト閉鎖と表現の自由のバランスをどうとるかという新たな難題を抱えることになるのは間違いない。

■わかりにくい「虚偽の事実」の基準


 ネット規制強化の一環として法務部が検討しているのは、ネット上の本人確認制度の拡充とサイバー侮辱罪の新設だ。本人確認制度は現在1日訪問者30万人以上の動画投稿サイトとポータル、同20万人以上のインターネット新聞で実施されているが、これを訪問者数10万人以上のすべてのサイトに拡大しようとしている。インターネットに虚偽の事実を書き込み、誹謗中傷したり他人の名誉を毀損したりした人の処罰をよりスムーズにできるようにする狙いだ。


 これまでは誹謗中傷した人の身元を割り出して訴訟を起こすのが困難だったため、ネットの嘘の書き込みのせいで会社を辞めさせられ社会生活ができなくなっても泣き寝入りするしかないといった被害者が後を絶たなかった。侮辱罪が追加されれば警察に届け出をするだけで解決の糸口が見つかるかもしれない。


 しかし、明らかに誰が見ても分かる音楽や映画といった著作物の違法コピーファイルならともかく、虚偽の事実に関しては表現の自由に抵触する部分もある。政府の気に入らない内容を書き込めばすべて虚偽の事実として処罰されるといった可能性もある。言論統制以上の世論封鎖になりかねない。


 与党ハンナラ党は「情報通信網利用促進及び情報保護法改正案」をまとめ、インターネットの書き込みによって名誉を毀損され被害を受けた人が該当掲示物の削除をインターネットサービス業者に要請した場合、事業者側は直ちにブラインド状態(サーバー上には残っているがサイトには表示されない)にして、ほかのユーザーからは見えないようにしなくてはならないとする「ブラインド制度」の導入をもくろむ。要請を受け入れず誹謗中傷の書き込みを野放しにするサイトを処罰できるようにする法規定も新設しようとしている。


 青少年保護のために夜10時から朝5時まで未成年者のIDではオンラインゲームを利用できなくするシャットダウン法案も新設される予定だ。これも青少年の保護につながるという意見と、結局他人の名義を盗みIDを作る問題が起こるだろうと反対する意見が衝突している。

■韓国ユーザーが2ちゃんねるに「亡命」?


 ネットユーザーの間では、「インターネットを浄化しようとする意図は分かるが、行政機関がインターネット事業者を廃業にまで追い込めるので官民の癒着関係が生まれやすい」「著作権侵害以外に政府の気に入らない掲示物も次々と消される危険性がある」「韓国にはもう表現の自由はないかもしれない」と、海外サイトへの「ネット亡命」を選択する人も増えている。長い軍事政権や言論統制を経て、韓国人はインターネットを通してやっと言いたいことを少しは自由に言えるようになったのに、また逆戻りしてしまうという懸念からだ。


 韓国政府がどんなに強力な法律を作ろうとも、世界中のインターネットを規制することはできない。ネット亡命はこれからも増え続けるしかないだろう。インターネット新聞などは「政府がインターネットに絨毯爆撃を準備している」とまで批判していた。2ちゃんねるなど、日本のウェブサイトに亡命してくる韓国ユーザーも出てくるかもしれない。



– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008年8月19日

Original Source (NIKKEI NET)
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000019082008

「世界初」はもういらない――韓国イ・ミョンバク政権の新IT戦略

韓国知識経済部は2008年7月10日、イ・ミョンバク新政権のIT産業政策である「New-IT戦略」を発表した。その目標は「ITの拡散による産業構造の先進化と社会問題解決」で、3大戦略分野として「全産業と融合するIT産業」「経済社会問題を解決するIT産業」「高度化するIT産業」が選定された。2012年まで韓国IT産業では「融合」がキーワードになる。

■ITの恩恵をすべての産業に


 知識経済部は「新しい時代精神に立脚して3つの戦略分野を導出した。IT産業そのものだけでなく、全産業と経済社会の当面の課題を解決する方向でIT政策を変化させる必要がある」としている。この戦略をとりまとめた知識経済部は2008年の再編により情報通信部と産業資源部が一つになった省庁で、日本で言えば総務省のIT政策部門と経済産業省が一つになったようなところだ(通信と放送に関しては通信放送委員会が別途設立された)。24日には新戦略の具体的な実行計画として「ITイノベーション2012」も発表した。









国会開会式で演説する韓国の李明博大統領=11日、ソウル〔共同〕


 新政権は、ノ・ムヒョン大統領時代の「IT839戦略」に対して「政府の関与が大きすぎる」と批判的だった。Wibro(モバイルWiMAX)やDMB(モバイルデジタル放送)といった「世界初」を目指した技術開発は進んだものの企業や市場の需要を反映しておらず、名ばかりの政策も多かったという主張である。それだけに、今回の新戦略で何がどれだけ変わるかが注目を集めていた。


 イ・ミョンバク大統領の在任期間にあたる2008年から2012年まで実施される新しい戦略は、今まで何度も新政権が強調してきたように市場主義、自由競争が基本となる。政府と公共機関は需要がまだ少ない最新分野に投資し、需要を拡大させる役割を担うという。

 知識経済部の資料を見ると、2007年の韓国IT産業の輸出動向は、携帯電話端末、半導体、ディスプレーの3品目だけで全体の約77%を占めている。IT業界は中小企業の占める割合が約99%と高いのに対し、生産に占める割合は約29%、輸出は約13%に過ぎない。しかも携帯電話やディスプレーは海外から部品の多くを輸入しており、IT輸出が増加すればその分だけ輸入や海外へのロイヤルティー支出も増える。


 韓国はサムスン電子、LG電子など一部企業がグローバル化を果たし、インターネットの利用率も高い。しかし、今の産業構造を変えていき、全産業のIT化により経済全体を活性化させていかなければ、「IT強国」とはいえなくなるという危機感は多くの人に共通している。New-IT戦略は何よりも企業と市場の活性化が重要であるとして、大手企業はもちろん、中小企業が希望をもってビジネスに取り組めるような戦略作りに苦心した様子が伺える。

■RFIDやグリーンITに集中投資


 New-IT戦略によると、政府は2012年までの5年間に3兆5000億ウォンを投資する。一方、民間企業の投資額は110兆ウォンを見込み、民間主導で財政支出を抑制する方針だ。


 数値目標では、2012年までに国内生産1兆ウォン以上のIT融合産業分野を10以上創出し、製造業の成長率を2%以上引き上げる。また2012年にはIT産業輸出品目の多様化で輸出金額2000億ドルを達成し、売上高500億ウォン以上の企業を2007年の607社から2012年には1000社に増やす。そのほか、グローバルソフトウエア企業を10社育成し、専門教育を受けた2万人のNew-IT人材を養成することなどが挙げられている。







 「全産業と融合するIT産業」の具体的な計画としては、製品のIT化、プロセスのIT化、サービス業のIT化、組み込みソフトウエア開発を推進する。造船・自動車・機械・繊維・医療機器といった韓国を代表する5つの既存産業でITの融合に取り組み、2012年には融合技術を12分野に拡大させる。


 中でもRFIDには力を入れる方針だ。自動車や繊維(衣類)、流通産業にRFIDやユビキタス・センサー・ネットワーク(USN)を導入したテスト事業を立ち上げるなど、RFID普及だけで2008年に60億ウォンを投資する。既存産業のIT融合を促進するための「産業IT融合センター」も2012年までに10カ所に設立する。


 「経済社会問題を解決するIT産業」では、グリーンIT実現のためIT製品の省エネ効率を2012年までに20%向上するという目標を掲げる。このための関連技術開発に5年間で2000億ウォンを投資し、LED(発光ダイオード)産業の世界シェア3位を目指すという。郵便局や公共機関が率先してLED照明などを導入し、民間の需要も掘り起こせるように500億ウォン規模のLED共同ファンドも組成する。

 さらに高齢化に伴う医療問題解決のためユビキタスヘルスケアにも力を入れる。ユビキタス病院を3カ所程度設けるという計画があるほか、デジタル・レントゲン・ディテクター(Digital X-ray detector)といった先端医療機器開発に5年間で2500億ウォンを投資し、これを支援するためのセンター設立に1071億ウォンを充てる。医療機器のIT融合化では世界シェア5位が目標だ。


 「高度化するIT産業」としては、半導体やディスプレー産業育成、ネットワーク・無線通信、IT部品とソフトウエア産業の育成が含まれる。戦略分野としては電子情報デバイス、情報通信メディア、次世代通信ネットワーク、ロボット、ソフトウエアコンピューティング、知識サービス、USN、産業技術融合、バイオ医療機器が選定された。


 半導体やディスプレー、携帯電話端末などに使われるIT部品やコア技術の国産化のためには2008年だけで3204億ウォンが使われる。内訳は半導体が1081億ウォンでもっとも多く、IT部品802億ウォン、ネットワーク(次世代ネットワーク)540億ウォン、移動通信524億ウォン、ディスプレー320億ウォンとなっている。ディスプレー産業基盤センター協議会の設立、携帯電話端末の産業成長のためのモバイルテストフィールド拡大など、中核的なIT産業の基盤をより確固たるものにする。知能型ホームネットワーク産業発展戦略と知識情報セキュリティー産業発展戦略も2008年末までに立案し、このための予算として81億ウォンを補助する。

■人材育ててベンチャーに投入









サムスンの携帯「Anycall」の看板=ソウル〔AP Photo〕


 New-IT戦略では企業の需要を反映した人材養成も重要な課題となっている。


 人材養成については、大卒クラスの人材が余剰となる一方、博士クラスの高い教育を受けた高度人材が不足しているという課題がある。このため、「融合・複合」に対応して新市場を切り開くプロジェクトリーダーになりうる人材養成のため、2012年までに2800億ウォンを投資して2万人を養成する。


 韓国では失業率が上昇し求職難となっている。しかし、中小ベンチャー企業からは「我々には有望な人材が回ってこず、依然として求人難」と、長期的な人材養成を要求する声が絶えなかった。そのため、2009年にはまず全国5カ所で企業、大学、研究所が共同参加する「IT融複合人材養成センター」を設立運営する計画だ。

 政府の支援を受けた人材と政府の研究機関の研究員には中小企業やベンチャー企業での勤務を義務付けるという制度も検討されている。生涯のキャリアを管理してもらえる「高級IT人材全生涯キャリアパス管理体制」が導入され、海外に離れていく人材を呼び戻す戦略も立てている。


 さらに、世界で初めてIT教育認証制度「ソウル・アコード」を2009年に始める。技術者教育の分野では国際的な同等性を相互承認するための国際協議体としてワシントン・アコード(Washington Accord)がある。しかしワシントン・アコードではIT分野の教育特性を十分反映できないため、韓国主導でIT教育国際認証の枠組みであるソウル・アコードを推進するということだ。


 法制も変更する。現在はいくつもの法律に分かれている情報通信関連法を一つにまとめ、IT製造業とサービス業が並行発展できる制度的基盤作りとして「情報通信産業振興法(仮称)」を2008年12月には国会に提出する計画だ。


 このほか、New-IT戦略には国内の知的財産権管理を強化して海外企業との特許紛争に対応できるよう専門性を高めること、IT研究開発基金として大手通信企業が売上高の0.1%ほどを政府に拠出していた制度を5年後に廃止し料金競争を高めること、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)と韓国情報通信国際協力振興院(KIICA)に分かれていた韓国企業の海外進出支援組織を一本化し窓口を大韓貿易投資振興公社に絞るといったことも盛り込まれている。

■「世界初」より実質的な支援に転換


 政府関係者らはNew-IT戦略について、IT839戦略をはじめとする過去のIT戦略といかに異なるかをしきりに強調している。ただ、重点事業としている8大課題も、IT839時代に選定された産業資源部の7大戦略技術と情報通信部の14大IT革新技術をまとめて8つにしただけといえないこともない。既存産業とITの融合や部品の国産化も前々から課題とされてきたことだ。


 変化があるとすれば、やはり情報通信部と産業資源部に分かれていたIT産業政策が、2008年からすべて知識経済部の担当となり、省庁間の縄張り争いがなくなりスムーズにことが運ぶようになったという面だろうか。これにより企業も楽になった。







 今までのIT戦略はサービス、ネットワーク、機器といったIT産業そのものの発展に焦点が当てられていた。それに対し、New-IT戦略はIT利活用による社会問題の解決や、産業全般の高度化など範囲が広く、「ITそのものの戦略というより国家発展戦略に近い」と政府は説明している。しかし、いまのところ大きな差は感じられない。ソフトウエアやSIといった業界からは「融合ばかり強調してIT産業自体の成長支援策については触れていない」という批判の声もあがっている。


 ただ、これまでのスローガンであった「世界初で何かをする」という目標は一転して影を潜めた。世界初という記録を求めて政府が旗を振るよりは、企業の意見を優先し、企業が望む人材を養成したり、ファンドや協議会を設立したりすることで間接的に企業を支援する。省庁間の無用なアピール合戦の必要がなくなったため、実質的な成果を追求しやすくなったという側面もあるだろう。こうした政策の転換はこれからの産業発展に影響を与えるはずだ。


 経済大統領として期待されたイ・ミョンバク大統領が就任し、真っ先に政府組織再編が行われた。小さな政府、ビジネスがしやすい最小限の規制が新政権のキャッチフレーズでもある。IT産業に関しても省庁再編により業務の改廃や公務員リストラが噂されたりし、落ち着かない雰囲気が続いていた。

 New-IT戦略の発表で、IT産業全体がようやく今年度の仕事を始められるようになったといわれている。それは結局、韓国はまだ企業が政府の支援に頼りすぎているということの裏返しだろう。新政権の狙い通り、民間主導の経済が実現するにはもう少し時間がかかりそうだ。

– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
2008年7月30日


キャリアとコンテンツプロバイダーとの主従関係は改善する?

例えば日本のiモードの公式サイトになった場合、キャリアとコンテンツプロバイダー(CP)との利用料配分はキャリアが9%でCPが91%と配分率が公開されている。携帯電話キャリアはヒットコンテンツを見つけて利用させて通信費で儲ける(今はそうもいかなくなったが)というのが基本的なビジネスの仕組みだった。韓国ではCPとの契約なんてキャリアの勝手。利用料の60%をキャリアが持っていくなんていう契約もあれば、30%しか持っていかない契約もある。どことどのような契約をするかは、キャリアの勝手なのだ。韓国の放送通信委員会はこれは不公正取引行為として、キャリアとCPとの契約関係を改善すべく制度改善のために調査に着手した。

 韓国ではほとんどのコンテンツ契約がCPや製作した人は4割未満の配分となっている。キャリアやポータルサイトはいつも「本の印税は10%。それに比べたら40%ももらえるなんてステキな契約じゃないですか」という。日本のキャリアは手数料として9%ほどしか取らないと聞いてびっくりしてしまった。アップルのApp Storeだって手数料は30%だというのに。当然のことだが、iPhoneが韓国に入ってきたらCPはみんなApp Storeを狙うだろう。


 今はまだ端末に韓国標準プラットフォームWIPIを搭載しない限りiPhoneは韓国で販売できないと止めてはいるものの、端末ラインアップを豊富にして顧客の離脱を防止したいキャリアの要請から、WIPI搭載義務の廃止は時間の問題といわれるようになった。iPhoneとApp Storeが押し寄せてきたとき、韓国のキャリアは今のままで大丈夫なのだろうか。

韓国は日本と違ったビジネス環境でもある。韓国のモバイルコンテンツはマスターCP(キャリアの子会社になっている場合が多い)と呼ばれる大型CP経由で納品される。キャリアとの直接交渉ではなくマスターCPと交渉しなければならないし、経由点が多いから手数料として取られるのも大きいかもしれない。また日本ではキャリアは場所を提供し、コンテンツはCPが担当するという立場だが、韓国はキャリアがコンテンツ開発に積極的で、映画会社やレコード会社を買収してコンテンツ勢力を拡大させている。


 放送通信委員会の通信利用制度課は、モバイルインターネット・コンテンツの活性化と有望新規事業者発掘のための公正競争環境を作ろうとしている。キャリアとCPの契約から端末会社とCPの契約へ変わっていこうとしている中、新しいモバイルコンテンツ事業者がどんどん市場に出てくるようにするためには、キャリアとCPとの取引や契約関係が明確でないといけないという考えからだ。


 それに今までの政府の支援策といえば、海外展示会に参加する費用を補助するとか、コンテンツ開発費を補助するとか、お金をあげて生き延びられるようにする支援が多かった。それを市場の中で生きていけるように、公正な環境を作り、国内市場で積極的にコンテンツサービスを展開して競争できるようにすることで、海外でも通用するコンテンツにさせていくということ。Wibro(モバイルWiMAX)普及により、モバイルコンテンツの需要増加が見込まれているため、今のうちに明朗会計な市場に整えておきたいということなのかもしれない。


 韓国は日本より携帯電話、モバイルでは遅れを取っているようにみえる。確かに利用率の面では携帯電話からネットにアクセスすることはあまりしない(高校生や大学生の利用率はぐんぐん伸びているが)。それでも、韓国が発祥の世界的モバイルコンテンツだってある。韓国ではカラリング、日本ではメロディコールや街うたといわれる、電話がつながるときになる信号音の代わりに音楽が流れるというあれだ。


 ゲーム好きの韓国だけに、パケット通信費が高いといってもモバイルゲームは好調で海外へもわんさか輸出されている。キャリアに利用料の50から70%を持っていかれながらも、次々に新しいアイデアでコンテンツを披露している。キャリアの取り分が10%でCPが90%もらえるようになったら、もっと意欲的になってすごいことになるのではないかと期待してしまう。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年9月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080903/1007634/