B to Cのヘルスケアに乗りだしたSamsung社

.B to Cのヘルスケアに乗りだしたSamsung社


2012/07/31 09:59

趙章恩=ITジャーナリスト



出典:デジタルヘルスOnline,2012年7月26日, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)



 Samsung Electronics社が、B to Cのヘルスケア事業に乗りだし始めた。2012年7月2日、「iPhone5」の対抗馬として注目されているスマートフォン「Galaxy S 3」を利用して、「Sヘルス」と呼ぶヘルスケア・アプリケーションを使えるようにすると発表したのである。


 Samsungグループはこれまで、B to Bのヘルスケア事業に注力していた。具体的には、次世代事業として医療機器や病院パッケージ輸出、バイオ医薬品などの分野に注力することを2010年に発表。2020年までに3兆3000億ウォンを投資する計画を打ち出していた。


 Sヘルスのプレス・リリースが流れてから、韓国ではヘルスケア・ソリューション関連会社の株が一気に上昇した。Samsung社がB to Cのヘルスケア事業を始めるということは、いよいよ同市場が本格的に盛り上がるサインとして業界関係者らが受け止めたからだ。



健康記録を管理し公開できる

Sヘルスは、血圧計や血糖値計で測定したデータをBluetoothまたはUSBでスマートフォンに転送し、手軽に記録できるようにするもの。食べた料理や運動量を記録するとカロリー消費量を計算し、アプリケーションが分析してアドバイスしてくれる機能もある。


 さらに、SNSと連動して、健康記録を家族や友達に公開できる機能も備える。Samsung社は、「24時間いつも一緒にいるスマートフォンこそ健康管理には最適なデバイス」と宣伝している。Sヘルスのサービスは、韓国の他、米国や英国など7カ国で始めた。同社のアプリストア「Samsung Apps」からダウンロードできる。



端末のアピール・ポイントと合致



 Sヘルスを利用できるGalaxy S 3は、Samsung社が「最高の自信作」と胸を張るスマートフォンである。韓国では3G対応モデルが2012年6月25日、LTE対応モデルは同年7月9日に発売されたばかり。世界147カ国で発売される予定だ。


 Samsung社は、Galaxy S 3を「人と交流する端末」「感性を持つ端末」と強調している。例えば、通常のスマートフォンは画面を一定時間タッチしないと画面が暗くなりロックされるが、Galaxy S 3はユーザーが画面を見つめている間は何の操作をしなくてもロックされない。電子本や動画を見る時に便利な機能である。さらに、メールを読んでいる途中に端末を耳に当てると、その人(メールの発信元)に自動的に電話をかける機能もある。


 今回、ヘルスケアに力を入れたのは、Galaxy S 3が人を理解して生活をより便利にする端末であることをアピールするためと見ることもできる。






Galaxy S 3で利用できるSヘルス



スマートテレビからもヘルスケア・サービス



 一方、Samsung社は、スマートテレビを利用したヘルスケア・サービスにも乗りだし始めた。「スマートテレビがあれば痩せられる、健康になれる」といった内容のテレビCMも流しているほどだ。



.Samsung社のスマートテレビからは、230本以上のフィットネス動画を利用できる。ヨガやピラティス、ダンス、ストレッチ、筋トレなどの動画はもちろん、有名芸能人が登場するダイエット動画もある。さらに、ゴルフの姿勢を正しく直してくれるトレーニング動画も100本以上用意している。

 「Virtual Mirror」という機能を備えているのが特徴だ。テレビに内蔵されたカメラで自分の動きを撮影し、テレビの画面を半分に割って自分の姿とインストラクターの動きと比較できるようになっているのである。正しい動作をしているかどうかを確認しながら動けるため、より高いダイエット効果が期待できるという。






スマートテレビを利用したフィットネスの様子

 


 スマートテレビは、パソコンのように個人ごとにIDを作ってログインできるようになっている。自分のIDでログインして身長や体重を登録しておくと、フィットネス動画を利用した時間から算出した消費カロリーを表示する。体重を記録しておけば、グラフ化してどれだけ減っているのかが分かる。Samung社の説明では、前述のCMが流れるようになってから、「スマートテレビのフィットネス機能ってどんなもの?」と売り場に足を運ぶ主婦が増えたそうだ。


本記事は、デジタルヘルスOnlineのコラム・趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」 に掲載したものです。




Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120731/231312/

スマートスクール最前線 from 韓国 ‘ 第4回:タブレット端末を体育の授業で駆使

スマートスクール最前線 from 韓国

第4回:タブレット端末を体育の授業で駆使

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2012/08/23 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン) = ITジャーナリスト
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ソウル市には、「スマートラーニング研究学校」とは別に、韓国Samsung Electronics社がサポートする「スマートスクール」がある。名門私立、ケソン小学校がその一つである。

Samsung社はケソン小学校に65型の電子黒板、タブレット端末の「GalaxyTab 10.1」、さらにはスマート教育に必要なソリューションを提供している。電子黒板からタブレット端末を遠隔で制御したり、先生が作成した資料を生徒に送信したり、先生がクイズを出してその場で採点して正解率を表示したりできる。いわゆる、「Classroom Management」と「Mobile Learning Management System」である。スマートスクールを支援することで、Samsung社はタブレット端末が教育用途に向いているという宣伝効果と、学校のスマート化において必要なソリューションと端末の機能は何かを調査できる。

 筆者はケソン小学校では体育の授業を参観した。それは、タブレット端末を活用して円盤投げの正しい姿勢を覚えるという興味深い内容だった。


 運動場に出る前、先生は子供たちのタブレット端末に体育専門教師による正しい円盤投げフォームの動画を送信し、理論的なことを教える。次に運動場に出て、タブレット端末が内蔵するカメラを使って生徒たちが互いに投げる姿勢を動画撮影する。そして教室に戻り、撮影した動画をコマ送りしながら体育専門教師の姿勢と比較する。


  特に、ここからが面白かった。生徒たちは自分の姿勢と友達の姿勢についてタブレット端末にコメントを書き込む。その書き込みはリアルタイムで電子黒板に送信される。先生は子供たちが書いたコメントを電子黒板で見せながら、意見を出し合うように誘導していた。


 次に生徒たちは各自のコマ送り写真からお気に入りの1枚を選び、それを学校の教育用SNSに授業の感想とともに投稿する。これは「クラスティング」というクローズド式のSNSで、学校関係者、学生、保護者だけが利用できる。保護者のほとんどがスマートフォンを使っているので、生徒たちがどんな授業を受けたのか、リアルタイムで確認できるところが好評だという。


ツールの導入が目的に非ず


  ケソン小学校の教師が使っているデジタル教科書は、既存のデジタル教科書とは異なる。教師がPDF形式の教科書にデジタル教材を各自追加して、子供たちが理解しやすいよう工夫されているのだ。ケソン小学校のチョウ・キソン先生は、政府の教育科学部から委嘱された先導教師の一人として、教師にとって授業を行い易い新しいデジタル教科書の開発に参加している。


 チョウ先生は、デジタル教科書が万能というわけではないと話す。「Google Earthを使うと世界各国の写真が見られます。自分では直接行けない場所でも詳しい資料が見られるので授業に役立ちます」。


 社会科のように地図を見せて授業をする場合は、デジタル教材とタブレット端末の両方を使うことで学習効果を高められる。しかし、数学の場合は問題を解く過程が重要なので、普通の黒板に紙のノートを使う方が学習効果を上げられる場合もあるという。


 チョウ先生は、「タブレット端末やデジタル教科書は、よりよい学習のためのツールに過ぎません」と、それらを導入すること自体がスマート教育の目的になってはいけないとも話す。






スマートスクールモデル校のケソン小学校。体育の授業で、円盤投げをしている生徒をタブレット端末が内蔵するカメラで撮影し、その動画をコマ送りしながら先生のフォームと各自のフォームを見比べている。




ユビキタス学校を開校へ


 韓国には2014年に開校予定の「ユビキタス学校」もある。ソウルから高速鉄道で1時間ほど離れた、行政機関を移転させた新都心の世宗市は、新しく開校する6つの学校をユビキタス学校として建設している。




ユビキタス学校は、スマートラーニング研究学校のような設備に加えて、スマートグリッド、環境にやさしい建築材の使用、仮想現実感(VR)を使った授業、鏡のように見える校内案内用のモニター「スマートウォール」、登下校管理・位置追跡システムなどを導入する計画だ。世宗市では2012年3月に一部の学校を先行的に開校し、教室でタブレット端末とデジタル教科書、3D対応のTV、電子黒板などを使い始めている。


 国を挙げて取り組んでいる「スマート教育推進戦略」の最も重要な要素は、機材ではなく、スマートな教育をできる教師を養成することである。ケソン小学校のチョウ先生は、電子黒板の機能を自由自在に使いこなし、デジタル教科書まで編集できるほどのスキルを持っている。同氏は、「これぐらいのことは韓国の教師なら誰でもできます」と言うが、これは教育科学部と教育庁が教師の研修に力を入れてきた成果だ。


  韓国のスマート教育研修は、教師ならば誰もが受けないといけない義務となっている。これは電子黒板や端末の使い方を教える研修ではなく、教師と学生が双方向でコミュニケーションするスマートな授業の開発、デジタル教科書を使った授業設計について考える研修である。韓国では、教師は大変人気のある職業で、社会的地位も高い。教師は社会をリードする階層であるため、スマートデバイスを使いこなし、最先端のことができて当たり前という自負がある。


 韓国には教員の評価制度があり、研修を履修した教師が少ないと学校の評価まで下がってしまう。加えて、学校評価の結果で年末のインセンティブ額が決まる。つまり、評価が低いと教師全員のインセンティブ額が減るわけだ。自分が研修を受けないと同僚まで収入が減ってしまう仕組みなので、研修をさぼるのは難しい。


1年間で世界17カ国が視察


  韓国のデジタル教科書とスマート教育は、世界からますます大きな注目を浴びている。実際、ケソン小学校はスマートスクールのモデル校になって1年強の間に、世界17カ国からの視察を受け入れた。


 2012年5月、慶州で開催された第5回APEC教育長官会議では、付帯イベントとして韓国のスマート教室が展示された。スマート教育の模擬授業も行い大盛況だった。韓国がスマート教育のリーダーとして、教師のIT活用能力を高めるための研修内容や、スマート教育の資料を公開し、APEC会員国と共有することも同会議で決まった。


 韓国は、学校や校務の情報化、デジタル教科書の導入などスマートスクールの分野で、世界の一歩先を行く。評価できるのは、携帯端末や電子黒板、デジタル教科書を導入することを目的とするのではなく、教師と生徒、そして生徒たちが双方向でコミュニケーションしながら進める授業のような教育のスマート化の推進、そしてそれを実現するために不可欠な人材育成に力を注いでることである。この点は、これから教育のスマート化に本格的に取り組む他国に非常に参考になる。








この日撮った写真の中でお気に入りを選択し、教育SNS「クラスティング」に投稿。ほとんどの保護者がスマートフォンを使っているので、子供達が学校で何をしているのかをSNSでチェックできる。



出典:日経エレクトロニクス

Original link
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120820/234512/

スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化

スマートスクール最前線 from 韓国

第3回:デジタル教科書の次は教室のスマート化


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2012/08/08 00:00

趙章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト


韓国の国家情報化戦略委員会と教育科学部(日本の文部科学省に相当)が、2011年6月に「スマート教育推進戦略」を発表してから1年が経過した。2015年を目標に、全国の小・中・高校でデジタル教科書を導入し、学習ツール、教育方式、教育課程のすべてを刷新するというこの構想は、着実に進んでいる。

 スマート教育推進戦略において、2012年の課題は5つある。(1)デジタル教科書の開発と教育現場での適用、(2)スマート教育研究学校の運営と教授学習モデルの開発、(3)教員のスマート教育実践力量強化のための研修、(4)クラウド教育サービス基盤の造成、(5)教育統合プラットフォームを運営するとともに教育コンテンツの安全で自由な利用環境を醸成する、ことだ。


 2007年からデジタル教科書研究学校を指定して本格的に実証実験を進めてきたデジタル教科書は、改良に改良を重ねて、現在バージョン3.0のテストが行われている。


 バージョン3.0は、教科書のPDFファイルをベースに、現場の教師が子供の学習達成度に応じて参考資料を追加できるようになった。教科過程や教えるべき教科書の基本内容は忠実に守りながら、子供たちが理解しやすいよう、教師が画像やアニメーション、ハイパーリンクを貼り付ける。教科書を楽に編集できるオーソリングツールも一緒に配布する。デジタル教科書のビューアとオーソリングツールは公募し、標準を決めるための作業が行われている。このデジタル教科書3.0の開発には、教育科学部の先導教師(自治体ごとにリーダー役の教師を選抜)120人が参加している。


 韓国ではデジタル教科書の開発がある程度進んだところで、教室のスマート化作業が始まった。ソウル市教育庁は、2011年に新規に開校した小学校、中学校、高校の1校ずつを、「スマートラーニング研究学校」に指定し、学校の中にスマート教室を作った。仁川市では既存のデジタル教科書研究学校を、「スマート研究学校」にアップグレードしている。


 今回筆者が取材したスマートラーニング研究学校は、ソウル市のモクウン中学校とシンド高校である。両校とも建物自体が「スマート」を意識した作りになっていた。韓国の一般的な学校とは違い、商業ビルのようなおしゃれな校舎で、学内の無線LANや電子図書館、グループ活動に使える教室がたくさんあった。学生は必要に応じてスマート教室に異動し、授業を受ける仕組みになっている。学校内はどこでも無線LANが使えるようになっており、教室の正面には3D表示に対応したテレビと電子黒板が設置されている。この「スマート教室」は、韓国の通信事業者であるLG U+社が協賛している。







モクウン中学校のスマート教室での授業の様子。「技術」の授業で、各自タブレット端末やスマートフォンを使って先生が送信した資料を見ている。


 学生には1人一台、韓国Samsung Electronics社製のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」が配布されている。タブレット端末は学校に置いたまま、スマート教室にいる時だけ使うシステムになっている。2015年以降は、低所得層の学生には政府が端末を購入して配布し、その他の学生は自分で端末を購入して持参するというのが、現在の方針である。


 韓国では2012年5月時点で、既に国民の約5割がスマートフォンを所有している。2014~2015年になれば家庭に1台以上はスマートフォンかタブレット端末、もしくはノート・パソコンが普及すると見られている。韓国の教育庁は、政府の予算で国民全員に端末を配布しなくても、各家庭にある端末を使えばいいという方針である。


 スマート教室には、学生たちがタブレット端末や電子ペーパーに書き込んだ学習履歴を保存するサーバーも設置されている。今は学校の中にサーバーがあるが、2015年からは学習履歴をすべて政府が管理する教育クラウドに保存し、いつでもどんなデバイスからも呼び出して使えるようにする。

スマート教室の壁には、大型スクリーンが2つずつ、左右合わせて4台が設置されている。机は4グループに分けられており、学生たちがグループで一緒に資料を作成してスクリーンを作って発表し、みんなで討論するようになっている。

 スマートラーニング研究学校のスマート教室が他の教室と違うところは、タブレット端末や3D対応テレビなどを使うところである。しかし、スマート教室の狙いはモバイル端末の利用を促進することではない。


 真の目的は、先生が一方的に説明する授業ではなく、子供達一人ひとりの状態を把握しやすくすること、子供達が参考資料を検索して自ら探求し幅広く学ぶ授業にすること、グループで協力し発表・討論させることでコミュニケーション能力や協業する能力を高めることにある。そのために一人1台端末を使いながらも、机を4つのグループに分け、壁にスクリーンを埋めたのだ。


 モクウン中学校のスマート教室では、ちょうど「技術」の授業が行われていた。技術用語を先生が口頭で説明するのではなく、まずは3D対応テレビの鑑賞から始まった。概念を理解してから、タブレット端末と電子黒板を連動させて、デジタル教科書を見始めた。デジタル教科書の参考資料を見ながら先生の説明を聞く。


今日の授業をちゃんと理解しているかどうか、デジタル教科書の中にあるテスト問題を解く。この日は学生たちが製作したミニチュア自動車の制作過程と特徴についてパワーポイントで資料を作り、教室の壁にあるスクリーンを使って発表した。

 スマート教室では電子ペーパーと電子ペンも使う。電子ペーパーに先生がテスト問題をプリントして学生に配る。電子ペンで答えを書くと電子黒板からリアルタイムで書いている内容を確認できる。この日は「スマートフォンが登場してから不要になったもの」について書き込む時間があり、誰が何を書いたのか電子黒板に映して討論した。スマートフォンが登場してからデジカメ、MP3プレーヤー、時計といったものがいらなくなったと書いた学生が多かった。

タブレット端末でデジタル教科書を使う授業は難しくないか、と聞くと、「何が難しいの。なんで難しいと思うの?」と逆に質問されてしまった。韓国では中学生でもスマートフォンを使っている子供が多いので、学校でタブレット端末やデジタル教材を使うことに何の違和感もないという。3D対応テレビやデジタル教材を使った授業の方が、従来の紙の教科書よりも理解しやすく集中できるので、「他の科目も全部スマート教室で授業すればいいのに!」というのが子供達の反応だった。





モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。




モクウン中学校のスマート教室に設置された3D対応テレビと電子黒板。授業の冒頭で3D対応テレビを使い、その日に学ぶ内容の概要や概念を理解する。







出典:日経エレクトロニクス


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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120808/232951/

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スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第2回:2014年にはユビキタス学校

スマートスクール最前線 from 韓国

第2回:2014年にはユビキタス学校



2012/07/30 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト.
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 韓国の学校では2000年ごろから教師がオリジナルのデジタル教材を作って授業で使うようになった。教育用サイトのEDUNETもオープンした。EDUNETには、教科課程に合わせて参考資料が掲載されているので、教科書だけでは理解が難しい単元はここに掲載されている動画やアニメーションを見て補える。参考書を買うお金がない、塾に行きたくても行けないといった山間地域や島に住む子供にも多様な勉強ツールを提供している。


 2002年には教育行政情報化システムである「NEIS(National Education Information System)」が始まり、本格的にデジタル教科書の開発に着手した。2007年には教育科学技術部が「デジタル教科書商用化推進計画」を発表、2008年からは全国の小・中学校でデジタル教科書の実証実験が始まった。


 国語、数学、英語、社会、科学の5科目が中心で、研究学校に指定された学校では1学年に1クラスをデジタル教科書研究クラスに指定し、デジタル教科書を使わない他のクラスと学習効果や子供の健康状態を比較して政府に報告している。また担当教師は、デジタル教科書のユーザビリティの改善やデジタル教科書を使った最適な授業法の開発にも参加している。


 2011年からはデジタル教科書だけでなく、教室と学校をスマート化する「スマート教室実証実験」も開始された。2014年にはデジタル教科書が全面導入されると同時に、ソウルから高速鉄道で1時間ほど離れた副都心には「ユビキタス学校」が開校する計画である。


「デジタル教科書の方が好き」


 2011年9月6日から3日間、ソウル市にあるCOEX展示場で「スマートラーニング、スマートな世界(Smart Learning, Smart World!)」をテーマにした「e-Learning Korea 2011」が開催された。eラーニング、ユビキタス・ラーニングの進化形である「スマートラーニング」の各種サービス/コンテンツを体験できる展示会と、国際会議などのイベントが開催された。10カ国から97の企業が参加し、合計で2万3000人が来場した。




図1 展示会で行われたデジタル教科書の公開授業


2011年9月にソウル市で開催された「e- Learning Korea 2011」での様子。デジタル教科書の実験校では米HP社のパソコンが使われているが、この日の公開授業で使われたのはSamsung Electronics社の 「GalaxyTab 10.1」。


会場では、2009年からデジタル教科書研究学校に指定されている仁川市のトンマク小学校の教師と6年生の生徒が、デジタル教科書を使った公開授業を行った(図1)。韓国Samsung Electronics社のタブレット端末「Galaxy Tab 10.1」を使い、生徒はデジタル教科書を見ながら先生の説明を聞き、デジタル教科書の中にある問題を解いていた。

 公開授業に参加した子供たちからは、「デジタル教科書なんてインターネットが使える人なら誰でも使える。難しいことなんて何もない」「写真や動画を見ながら授業を受けられるし、分からない単語はすぐ検索できるからすごく便利。ノート機能もあるから電子ペンでメモもできる。家からはサイバー家庭学習にアクセスして予習・復習もできるし、デジタル教科書の方が好き」という声が聞かれた。


授業のメモをクラウドに保存


 展示会では「未来教室」も公開された。壁がガラスになったり電子黒板になったりする「マジックグラス」や、教師・生徒・保護者がつながる教育クラウド・コンピューティングなどのデモがあった。


 教育クラウド・コンピューティングでは、現段階で教師が学校の内外で校務を行い、授業の準備ができる。ただし、生徒と保護者向けのクラウドの完成はまだ先。これができると、生徒は授業中にした筆記やメモをクラウドに保存して、教科書はもちろんノートを持ち歩かなくても家庭で予習・復習ができるようになる。保護者はインターネットさえつながる場所であれば、スマートフォンやタブレット端末から子供の学校生活や先生からの連絡事項、成績表などを確認できるようになる。


HTML 5ベースでの開発始まる


 e-Learning Korea 2011の会場で来場者の注目を最も集めたのは、「Future-School」、「Smart-Campus」のコーナーである。ここでは、教科書の内容を3D映像に変換した学習コンテンツや、eラーニング用の映像を簡単に作成できるソリューションなどが展示された。


移動通信市場でトップ・シェアを持つ携帯電話事業者のSK Telecom社と、Samsungグループでeラーニングや社員研修を専門とするSamsung SDS社も出展企業に名を連ねた(図2)。SK Telecom社は、小・中・高生向けに「Tスマートラーニング」というアプリケーションを開発した。スマートフォンやタブレット端末から利用できるデジタル参考書が出版社別・科目別に登録されており、ユーザーは自分で学習目標を立てて参考書をインストールして勉強し、アプリケーション内で質問もできるようになっている。利用料は1科目当たり月2万6000ウォン(約1730円)である。




図2 賑わいを見せるSamsungグループ企業のブース

「e-Learning Korea 2011」におけるSamsung SDS社のブースの様子。同社はSamsungグループ内で、eラーニングや企業研究を担当している(a)。(b)は、Samsung SDS社が開発した学習支援アプリと端末。






図3 タブレット向けの大学入試対策学習アプリ

Samsung Electronics社のGalaxy Tabは、韓国ではジネスマンより中高生の間で学習用として人気が高い。


Samsung SDS社は、企業の社員研修向けに、スマートフォンやタブレット端末を使っていつでもどこでも研修が受けられるソリューションなどを紹介した。また、タブレット端末向けの大学入試対策学習アプリケーションなども出展した(図3)。

 韓国ではデジタル教科書の導入やスマート教育は、逆らえない時代の流れとして受け止められている。大学入試がその後の人生を決める学閥社会であり、早期留学をはじめとして子供の教育のためならお金を惜しまない高い教育熱、そして2011年10月時点で国民の4割に当たる2000万人以上がスマートフォンを使うという情報化の早さも、それを後押ししている。


 2011年11月からは2014年のデジタル教科書商用化のために、技術標準に関する研究会が盛んに開催されている。2010年から「デジタル教科書2.0」として次世代デジタル教科書がHTML 5をベースに開発されているが、より細かく技術標準を決めることでどの端末からも使えるように互換性を高めていく。


出典:日経エレクトロニクス,2011年12月26日号 ,pp.21~22 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120719/229185/
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スマートスクール最前線 from 韓国 ; 第1回:教科書の“デジタル・シフト”

スマートスクール最前線 from 韓国

第1回:教科書の“デジタル・シフト”


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2012/07/23 00:00

趙 章恩(チョウ・チャンウン)=ITジャーナリスト

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ソウルから西へ約40km。デジタル教科書を使った先進的な授業の様子を見るために、仁川(インチョン)市にあるヨンハク小学校、サムサン小学校、トンマク小学校という3校を訪問した。これらの小学校は、韓国政府によって「デジタル教科書研究学校」に指定されている。

 教室に入ると、正面には電子黒板が設置され、生徒一人ひとりにはノート・パソコンが配布されている。ヨンハク小学校5年生の国語の授業では、生徒が米Microsoft社のプレゼン・ソフトウエア「PowerPoint」を使って自分の意見をまとめ、それを電子黒板に表示して皆の前で発表していた(図1)。サムサン小学校5年生の科学の授業では、デジタル教科書が出すクイズを生徒たちがパソコン上で答えていた。









図1 デジタル教科書を使った授業 風景

実験的にデジタル教科書を使った授業を実施している小学校での様子。(a)は 仁川市のヨンハク小学校。5年生の国語の時間で、自分の意見をPowerPoint にまとめて電子黒板で他の生徒に見せ ながら発表している。(b)はサムサン小 学校5年生の科学の授業風景。デジタ ル教科書にある参考資料を見て天体と星の大きさの違いを学び、クイズを解いている。


 

 デジタル教科書を使った授業を担当する教師によると、生徒たちは使い方を細かく教えなくても直感的に把握して使いこなし、教師よりもインターネット検索やPowerPointでの資料作成に長けているという。


 授業では、担当教師たちがデジタル教科書と電子黒板を使いこなし、楽しく授業をしている様子が伝わってきた。デジタル教科書の中には参考書が入っているが、教師たちはそれだけに頼らずに、授業に関連する参考資料が掲載されている教育用Webサイト「EDUNET」などから写真や動画を集めてオリジナルの教材を作っていた。デジタル教科書の学習効果は、資料が多いほど理解しやすい社会と科学が比較的高いという。


政府主導の教育改革


 韓国の文部科学省に当たる教育科学技術部と国家情報化戦略委員会は2011年6月29日、国家教育政策として「スマート教育推進戦略」を発表した。2014年からは小・中学校で、2015年からは高校でもデジタル教科書が全面的に使われることになった。当初は2013年から本格的に導入される計画であったが、教室の環境や実用性などが問題になり、1年遅れでの開始となる。


 もちろん、紙の教科書がすぐに撤廃されるわけではない。当面は、紙の教科書とデジタル教科書が併用される。科目の単元ごとに教師が効率よく教えられる教科書を選択して使えるようにする。


 「スマート教育推進戦略」は、韓国の公教育(義務教育や公立学校の教育)をよりスマートに行うためにはどうしたらいいのか、という課題を解決するための教育改革である。教育課程、教育方法、学習評価、教師研修などすべてを変えるもので、大きく六つの戦略が盛り込まれている。


 具体的には、① デジタル教科書の開発と適用、② オンライン授業の活性化、③教育コンテンツの公共利用環境の構築、④ スマート教育の強化、⑤クラウド・コンピューティングを基盤にした教育サービス、⑥スマート教育推進のための未来教育研究センターの設立、などである。


 このようにコンピュータやインターネットを活用した新しい教育の実現に向けた包括的な戦略であるが、中でも最も注目を集めているのがデジタル教科書である。


所得格差が生む問題を解決へ


 教育科学技術部が定義するデジタル教科書とは、「学校と家庭で時間と空間の制約がなく利用でき、既存の教科書に参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーションなどのマルチメディアを使って統合。多様なインタラクティブ性を持ち、学習者の特性と能力などに合わせて学習ができるようにした教材」である。


 導入の主な目的に、子供たちが自主的に勉強できる環境を構築することや、紙を使わないことによる地球環境対策、などがある。しかし、それらよりニーズとして切実なのは、所得や地域の格差がなく勉強できる「均等な教育機会」の提供である。


 最近、韓国では不況やリストラなどで所得の格差が広がっている。一般に所得が高い家庭の子供は塾に通えるので成績がよく、名門大学に入学して就職できる。一方、所得が低い家庭の子供は大学に行けないので就職もできない、といった“負の連鎖”が起きている。


 デジタル教科書には、こうした所得格差が生み出す社会問題の解決への期待も大きい。教育科学技術部は、「デジタル教科書は教科書と参考書が一つになっているので、塾に行かなくても子供が一人で勉強できるし、教育費を節約できる」と強調する。


国を挙げてeラーニングを支援


 韓国におけるデジタル教科書開発の歴史は、1997年にまで遡る。同年には、学校総合情報管理システムである「SIMS(School Information Management System)」が導入された。「学校PC教育強化方案」などが策定され、教育用ソフトウエアの開発が始まった。


 韓国ではブロードバンドが本格的に普及した2001年から、動画で英会話や大学入試に向けた勉強ができるeラーニングが盛んになった。2004年には世界で初めて「eラーニング産業発展法」を制定し、政府は中小のeラーニング事業者を支援してきた。2009年にはeラーニング法を「eラーニング産業発展及び活用促進に関する法律」に改定し、国務総理が管轄するeラーニング活性化委員会も始動した。


 改定された法律には、小学校から大学まで教育機関でのデジタル教科書や電子黒板などのIT機材の購入・活用を政府が支援することが明記された。韓国のeラーニング産業市場は、2004年の1兆3000億ウォン(約867億円)から2010年に2兆2500億ウォン(約1500億円)と、年平均で約10%成長している。国民のeラーニング利用率も、2010年末時点で3歳以上のインターネット・ユーザーの49%、小・中・高校生の場合は74.4%に上る。



出典:日経エレクトロニクス,2011年12月26日号 ,pp.19~21 (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)


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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20120719/229183/
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RFIDを使った韓国初の“ヘルスケア公園”、ソウル市江南区の「U-Health park」

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

RFIDを使った韓国初の“ヘルスケア公園”、ソウル市江南区の「U-Health park」


2012年からはNFC搭載スマートフォンにも対応へ


韓国には、健康管理のためにICT技術を活用した公園、いわゆる“ヘルスケア公園”がある。ソウル市江南区に2010年11月5日にオープンした「ヤンジェ川U-Health park」である。

 ヘルスケア機能は、RFIDを利用して実現する。具体的には、距離3.75kmの川沿いの散策路に、RFIDリーダーを埋め込んだ。利用者は、RFIDカードを首からかけて散歩する。すると、利用者の運動距離や歩く速度、時間などから、自動的に活動量を測定してくれる。


 測定した記録は、U-Health parkのWebサイトにも自動的に登録される。会員登録をすれば、利用者は自由に自分の記録を閲覧できる。






RFIDカードを首にぶらさげてウォーキングする利用者(写真提供:江南区保健所)






U-Health Park訪問者センターで健康診断と基礎体力診断をしてからRFIDカードを発行(写真提供:江南区保健所)





RFIDカードをかざすことで運動データを測定し、健康情報を提供するキオスク端末(写真:著者が撮影)



区民対象の無料サービス



 運営の主体は、江南区の保健所。サービスは、区民を対象に無料で提供される。江南区は、韓国の中で富裕層が暮らす街として知られる。U-Health parkは、区民のダイエットや成人病予防、健康維持などのために始まった行政サービスの一つである。


 利用者はまず、インターネットか電話で予約した上で、健康診断を受ける。検査前日の夕方から食事は禁じられる。ヤンジェ川散策路の入り口には「U-Health park訪問者センター」があり、ここで基礎健康検査を行う。なお、同センターは月~土曜日の午前9時から午後6時までオープンしており、看護師と運動管理士、栄養士の3人が常駐している。

 検査と会員登録には40分ほどを要する。検査項目は血圧や血糖、コレステロールなどの血液検査に加え、心肺機能や持久力といった基礎体力も検査する。その上で、個人情報を登録したRFIDカードを利用者に発行する。


 検査結果に基づき、どれぐらい運動をすべきかを運動管理士が提示する。歩き方や運動器具の使い方などについても利用者に説明する。これらの手順を踏んだ上で、利用者はいよいよRFIDカードを首にぶらさげて、散策路に出かける。



継続利用者は400人ほど



 江南区役所によると、2011年10月までに訪問者センターで健康診断を受けRFIDカードの発行を受けた人は600人ほど。定期的に同カードを使って運動している人は400人ほどという。持続的な運動をうながすため、毎週土曜日の午前は、グループで一緒にウォーキングする日にしている。


 散策路は川沿いのため、RFIDリーダーを地中に埋め込めなかった場所もある。こうした場所では、地上にキオスク端末を設置した。13箇所にある同端末からも、利用者は活動量などのデータを確認できる。同時に、「散策する時間をもっと長くするべき」「歩く速度をもっと早くした方が良い」など、利用者に合わせたアドバイスも提示してくれる。


 川沿いのあちらこちらには、複数の運動器具が置かれている。ただし、これらの運動器具の利用時間や利用に伴う活動量は、自動的には測定できない。このため利用者は、どの運動器具を何分利用したのかといったデータを自分でWebサイトかキオスク端末に入力しなければならない。



NFC搭載スマートフォンからも



 江南区保健所は、2012年からは首にぶらさげるRFIDカードでなく、NFC搭載スマートフォンからもサービスを利用できるようにする準備を始めるとしている。NFCとスマートフォンを利用することで、リアルタイムの健康状態から運動アドバイスを行ったり、ヘルスケアとその他のサービスを連携させたりといった、より便利な使い方を模索している。




by  趙章恩

BPnet

2012/02/10

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http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20120210/298882/

技術優位のデジタルヘルス事業は失敗する

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

技術優位のデジタルヘルス事業は失敗する


韓国の過去の失敗から学ぶ(3)



韓国では1990年代から医療保険や病院の情報化といった医療情報化が進み、ヘルスケアを国家産業として支援してきた。展示会では、利用者が認識することなく健康情報を測定して問題があれば自宅で遠隔診療してもらえる便利なヘルスケア・サービスが多数登場した。だが、現実には実証実験止まりでなかなか商用化されていない。それは、技術ではなく法制度や省庁間の縄張り争いといった問題があったからだ。





LG電子の「糖尿フォン」

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キャリア代理店で販売できず自然消滅



 法制度に足を取られて失敗した代表的な事例が、LG電子の携帯電話機である。


 2004年、LG電子は「糖尿フォン」という血糖値を測れる携帯電話機を開発した。携帯電話機の電池パックに血糖測定器を搭載しており、そこに血液を垂らした棒を差し込むと画面に血糖値が表示される。インターネットを介して血糖値のデータはデータベースに保存され、測定された血糖値を分析して健康管理アドバイスもしてもらえるというものだった。携帯電話機の端末が約30万ウォン(約2万4000円)、血糖値測定パックが約10万ウォン(約8000円)と、当時の携帯電話機にしては若干高いというほどで、決して高価なものではなかった。


 糖尿フォンが開発された背景には、2001年から始まったソウル聖母病院のUヘルスケア事業団による遠隔糖尿管理サービスがある。聖母病院で診療を受けている糖尿患者の中で、頻繁に病院に来られない患者を対象に、自宅で血糖値を図って専用のWebサイトに記録すると、そのデータを元に健康管理のアドバイスをする実証実験を始めた。血糖値を測定する機器として携帯電話機とPDAも活用した。インターネットを使って測定と同時に病院にデータが送られるようにすることで、少しでも手間をかけずヘルスケアを行うためである。この実験で使われたのがLG電子の「糖尿フォン」で、2004年商品化されたのだ。


 展示会やショールームでは最先端の携帯電話機として注目された「糖尿フォン」だったが、実際にはほとんど売れなかったという。「糖尿フォン」の目玉である血糖値測定と健康管理アドバイスは遠隔診療に当たるため、医療機器としての認可を得る必要があった。その結果、携帯電話機でありながらもキャリアの代理店では販売できなかったことで、自然消滅してしまったのである。



他にも消滅した機器が…



 LGCNS社の「タッチドクター」も、サービスを中断している。同機器は、2008年末に登場したモニター付きホームヘルスケア機器の一つで、インターネットも利用できる。慢性疾患の患者がこの機器を使って血圧や血糖値を測ると、ヘルス・マネージャーが個人に最適化された健康プログラムや病院との連携サービスを提供するというものである。この機器の開発にはIntel社も参加し、韓国の大学病院や医師会もパートナーとして参加していた。しかし、ヘルスケアに関する国民の認識がまだ低く、300万ウォン(約24万円)もする高価な機器を購入しようとする患者はいなかった。韓国の医療業界では、市場を先行きしすぎたために失敗した事例と評価されている。


 便利で革新的なサービスであったにも関わらず、糖尿フォンもタッチドクターも、話題になっただけで普及することなく姿を消してしまった。



2011年に「産業融合促進法」が制定



 ところが、糖尿フォンの失敗をきっかけに韓国政府は変わり始めた。ICTと既存産業の融合を本格的に推進するためには、新製品を業種ごとに認可・規制する既存の法律を改定しなくてはならないことを切実に痛感したのだ。


 ヘルスケアの場合、基本的にICT政策を担当する省庁と医療機器を担当する省庁の両方の規制を受けるため、商用化するまで何年も時間がかかり、企業が財政難に陥り途中で事業を諦めてしまうこともあった。韓国政府は制度の見直しを続け、2011年に「産業融合促進法」が制定されることになった。


 産業融合促進法により、認可制度を簡素化する融合新製品適合性認証制度が始まった。製品や技術が新しすぎて認可の基準や規格がない場合、企業はその製品分野に最も近い関係機関に適合性認証を申し込み、6カ月以内に認可を受けられるようにした。また複数の機関にまたがって許可や認証を取らないといけない場合は、企業から申請書を受け取った機関が他の機関と協議して認可を一括処理するようにした。



失敗から学んだ韓国、Samsung社の投資発表で今後への期待高まる



 韓国はここ10年の間、「技術優位のデジタルヘルスケア事業は失敗する」ということを学んだ。韓国のヘルスケアが予想よりうまくいかなかったのは、「優秀な技術は売れて当たり前」と勘違いしていたからかもしれない。ヘルスケアは技術より法制度の壁が問題だった。そして韓国は、経験した失敗事例から二つの課題を学んだ。すなわち、(1)機器販売で終わるのではなく患者と医療従事者のニーズを把握し続け、サービス・モデルを作ること、(2)政府の制度の中で具体的にどこをどう直すべきが要求し続けること、である。


 韓国のヘルスケア事業は、2010年にSamsung社とLG社が新規事業として医療機器とバイオ産業に投資することを発表してから、また空気が変わり始めている。Samsung社が得意とする半導体や携帯電話端末、ディスプレイは韓国のIT輸出3大品目でもある。「Samsung社が投資する分野=国家を代表する産業になる」という期待から、ヘルスケアや次世代医療機器関連企業の株価も上がり続けているほどである。





by  趙章恩

BPnet

2011/11/23

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http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20111023/288241/

産業育成のための舵取りがいなかった

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

産業育成のための舵取りがいなかった


韓国の過去の失敗から学ぶ(2)



1999年、ソウル市内に「サイバーマンション」が登場した。1世帯に1台のタブレット端末が置かれ、それを使ってホーム・オートメーションを利用したり、マンション内の住民とコミュニケーションを取れたりする。当時としては画期的なマンションであった。

 ヘルスケアも、サイバーマンションのウリの一つだった。当時公開されたモデルハウスでは、“デジタル便座”や浴室の“デジタルミラー”などが紹介されていた。例えば、端末を利用して血糖値や血圧をチェックすると、デジタルミラーからその日の「健康注意報」が流れる。家にいながら健康管理ができるというものだった。


 しかし、あれから10年以上経った今、モデルハウスで紹介されていたようなヘルスケアは実現されないでいる。問題は技術ではなく、制度の盲点にあった。



ICTと医療・ヘルスケアがばらばらに



 産業を育成するための舵取りがいなかった――。ICTを活用したヘルスケア・サービスが活性化されてこなかった理由について、政府のシンクタンクである韓国保健産業研究院は、こう指摘する。


 複数の省庁がそれぞれの立場で散発的に支援策を進めてしまい、逆に、ICTと医療・ヘルスケアがばらばらになってしまったのだ。例えば、ICT政策を担当する省庁から医療機器の開発を支援する法案が発表されたと思ったら、今度は医療や個人情報政策を担当する省庁から規制案が発表されるといった具合である。医療の情報化を、医療関係者抜きでIT企業の新規事業育成として支援したりするケースもあった。


 次世代のヘルスケア産業は、医療情報化や病院情報化、家庭のホーム・ネットワーク、モバイル・デバイス、高速モバイル・ネットワークといった基盤の組み合わせが必要で、莫大な予算と大規模な実証実験も必要になる。これを最初から最後まで責任をもって監督する省庁が存在しなければならない。医療機関やSI企業、端末ベンダー、ユーザーなどそれぞれのニーズや利害関係を調整するためには、窓口が一つにならなければ前には進めない。「船頭多くして船山に登る」ということわざがあるが、これぞまさに韓国のスマートヘルスケアの現状を表している。



法制度に足を取られ、実証実験から先に進めない



 もう一つの問題は、技術は進んでいるものの、法制度に足を取られ、実証実験の段階にとどまり実用化に踏み出せないことである。


 大統領が変わるたびに政策も変わってしまうため、長期的な戦略を考えられない状況がある。このため次世代ヘルスケア・サービスの導入に必要な医療法や医療機器の認可・販売制度の改善、医療保険制度の見直しといった根本的な問題には手をつけられないまま、技術の開発だけが盛り上がってきた。例えば、次世代ヘルスケア・サービスの普及に向けては、患者と医師が直接会って診療をしないと保険点数が発生しない今の医療保険制度では問題がある。遠隔診療のためには医療法にある医師と患者の「直接対面」という項目を直さなくてはならない。展示会では「これは便利!」と感じる次世代ヘルスケア・サービスを体験できる。しかし現実には、法制度などの問題が解決できなければ、絵に描いた餅にすぎないのだ。技術は進化しているのに、国民は技術の恩恵を受けられないのである。


 2002年には医療法を改定して遠隔診療をできるようにしたが、慢性疾患の管理や予防といったヘルスケアとはほど遠いものである。遠隔地にいる患者に対して医師が直接医療行為を行えるものではなく、遠隔地にいる医療従事者同士で情報のやり取りをすることを遠隔診療と規定しているからだ。


 2010年にもう一度医療法が改定され、医師が遠隔地の患者を診療できるようになったが、医学的に危険性の少ない再診患者であり、医療機関がない過疎地域に住んでいる人や刑務所にいる人、医療機関以外の場所で持続的な治療と管理を受けている寝たきりの人に制限されている。遠隔地の薬局に電子処方箋を送ることもできるようになったが、医療機関がない過疎地域に薬局があるはずもなく、結局は薬をもらうために病院の近くまで患者が移動しなくてはならないのが実態である。


 次回は、法制度に足を取られて失敗した代表的な事例である、LG Electronics社の携帯電話機の例を取り上げる。





by  趙章恩

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2011/09/26

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http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20110926/285129/

「医療情報化」の次の一歩を踏み出せない韓国

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趙章恩の「韓国スマートヘルスケア最前線」

「医療情報化」の次の一歩を踏み出せない韓国


韓国の過去の失敗から学ぶ(1)



韓国では1990年代から医療の情報化が進んでいる。

 例えば、病院に行く際には保険証も診察券もいらない。受付で国民IDカードである住民登録証を見せるか、国民IDである住民登録番号注1)と名前を言うだけで済む。このシステムは総合病院だけでなく、町の診療所も同じである。病院が医療保険のデータベースに照会して、その人がどの種類の医療保険に加入しているのかを確認し、初診なのか再診なのか、再診ならどの科で診療したのかといった記録も併せて医者に転送する。日本では病院に行く際に保険証を忘れると、自己負担で高い医療費を支払い、後で精算し直す必要がある。韓国ではそんな面倒なことはあり得ない。


注1)住民登録番号とは、出生申告をすると発行される国民ID。17歳になると住民登録証が発行される。住民登録番号で税金や保険、教育、金融、不動産、パスポート発給など、あらゆる行政情報が管理される。携帯電話やインターネットの加入、Webサイトの会員登録をする際にも、住民登録番号と氏名を入力して本人確認をしなければならない。


 医療の情報化が進んでいるのは、韓国政府が国家戦略として1980年代から医療情報化やヘルスケア、次世代医療の育成に力を入れてきたからだ。1983年に起業した韓国初の大学生ベンチャー(現在のBIT Computer社)も医療情報や電子チャート(電子医療記録)のシステムを開発する会社だったほど、病院の情報化や電子チャート、電子処方箋の導入は早かった。1994年には電子チャートが広く使われるようになり、医療情報化を専門とするベンチャー企業も雨後のたけのこのように増えていた。



ICTと医療・ヘルスケアの融合が叫ばれ始めるが…



 韓国は1997年に経済危機(国家倒産の危機とまで言われた)に陥った。その危機に対して、どの国よりも早くブロードバンド環境を普及させ、ICT産業を集中育成することで乗り越えてきた。韓国政府も国民も、資源のない小さい国から世界を先導するIT国家へと成長できたという自負を持っている。


 以降、国家成長戦略には必ず「ICTと既存産業の融合」、「ユビキタス」、「スマート政府」といった項目が含まるようになった。2000年のe-Korea戦略に続いて、2006年のu-Korea戦略、2007年のU-Life21戦略、2010年のスマートコリア戦略でも「ICTと既存産業の融合」が掲げられ、中でも「ICTと医療の融合」や「ICTとヘルスケア」は、より健康・安全・便利な国民生活を実現するために早期達成すべき目標と言われ続けてきた。


 2010年からは、「スマート電子政府」を目標に、国民がスマートフォンや携帯電話機、タブレット端末などのモバイル機器を使って、国家が提供するサービス、つまり各種行政書類の申請や発給、税金、教育など、国民が必要な情報を受けられるようにしている。こうしたスマート電子政府の仕組みが、医療保険や医療記録、処方箋など情報化が進んだ病院とつながることで、より効率的でより広範囲に国民の健康を増進できるヘルスケア・サービスを提供できる環境は整っている。


 ところが、ICTを活用した遠隔診療や予防医療といったサービスは、10年近く実証実験の段階を逃れられないままでいる。医療の情報化は進んでいるが、医療保険や病院の情報化の段階で止まったままである。ICTを組み合わせたサービスという次の一歩には、踏み出せないでいる。



by  趙章恩

BPnet

2011/08/22

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http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20110822/281391/
 

とりあえずやってみる精神で「教育情報化」に突き進む韓国

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このごろ、韓国でも日本でも、デジタル教科書や教育の情報化に関する展示会やセミナーが頻繁に行われている。韓国の展示会には日本から視察に来る人がとても多く、日本の企業は本当に勉強熱心だと思う。

 勉強ばかりで、「もし問題が発生したらどうするのか」と悪いことばかり考えて技術や知恵を現場に生かせないと自己批判する日本の先生も多いが、最近はそうでもないように見える。日本の教育展示会やセミナーに参加してみると、日本でも電子黒板、タブレット端末、デジタル教材を活用して、より教育効果を高めながら楽しく授業をしようとチャレンジする先生が増えていることに驚く。韓国がスマートラーニング先進国と自負している間に、日本は静かに教育情報化の裾野を広げていた。


 スマートラーニングに必要な端末や学校の情報化技術の面では、日本も韓国も大して変わらないレベルだと思った。違いがあるとすれば、韓国は90年代から全教室に先生用のパソコンと有線ブロードバンドを導入するといった学校の情報化に加え、Webから教科内容を予習・復習できるサイバー家庭学習や教師向けデジタル教材サイトの展開といった教育コンテンツの情報化、それらを支える校務の情報化、そしてデジタル教科書の開発を進めて来た。そのため教師がデジタル教材を使った授業に慣れていること、親も子どもも抵抗がないことぐらいだろうか。


 韓国は試行錯誤の末に、教科書をPDFにして教師に配り、教師が電子書籍制作ツールを使ってPDFに動画や写真、リンクなどを追加し、自分なりのオリジナルデジタル教科書を作れるようにした。


 教師らは自分が作成したオリジナルデジタル教科書を惜しみなく教師用サイトに投稿する。それをダウンロードして、別の教師がさらにリンクや資料を追加する。情報を共有しながら複数の教師が参加してデジタル教科書を作る。教師の共同作業によって作られたデジタル教科書はまだ正式な教科書ではないが、韓国の全教室には先生用パソコンとプロジェクターがあるので、「授業中に使いやすい」、「紙の教科書より子どもたちの理解が早い」ということで教師の間で広がっている。







教師が作成したオリジナルデジタル教科書をPC上で表示。韓国でのデジタル教科書は、PDFファイルをベースに教師が参考資料(画像、Flashアニメーション、Webサイトリンクなど)を自由に追加できるまでになった。全教室に先生用PCとLANが導入されており、電子黒板がなくてもパソコンとプロジェクターを使い楽しく理解しやすい授業にできるため、デジタル教材開発に積極的な教師が多い

韓国特有の、「まずやってみて、問題があったらそこで直すか止めればいい」、という考え方は学校教育の現場にまで浸透している。ビジネスならまだしも、公の教育においてこういう考えが通用していいものか、ちょっと不安になるときもある。



学校が学習端末を配るべき? 家庭で使っているPCを使うべき?


 韓国は2014年から小中学校で、2015年から高校でデジタル教科書を使えるようにする(関連記事)。紙の教科書とデジタル教科書の両方を使うのではなく、先生が教えやすい方を選べる。デジタル教科書が導入されたからといってすぐ紙の教科書を廃止するわけでもない。


 ソウル市教育庁の説明によると、全てをデジタル教科書に変える、紙の教科書をなくす、という計画はないという。教科書の方は紙に印刷されたものだけが教科書であるという教科書法を改訂した。先生がデジタル教科書と一緒に使えるデジタル教材サイトも政府サイト、民間サイト複数あり、かなり充実している。


 同庁の話では、今後政府機関はデジタル教科書のガイドラインだけ作成し、紙の教科書と同じように教科書会社が作ったデジタル教科書を検定する方案も検討しているという。今は実証実験の段階なので、政府機関が音頭を取って教科書会社と一緒にデジタル教科書を開発し、学校に配っている。


 韓国も日本と同じく、デジタル教科書を使う児童・生徒用の端末をどう普及するかは課題として残っている。


 同庁は、「スマートフォンは急速に普及しているし、一家に1台以上PCを持っている。2014年になれば、一家に1台のタブレットPCまたはノートPCを持っているはず。それを使えばいいので、政府の予算で端末を買って学生に配ることは考えていない」、「生活保護を受けている低所得層の場合は、政府が子ども1人当たり1台端末を買ってあげるべき。今でも低所得層のインターネット料金は無料で、政府がデスクトップPCを支援している」と説明した。


 端末をめぐっては、市民の間でも意見が割れている。「政府の予算で特定企業の端末を大量に買って子どもたちに配るのは、サムスンやLGといったメーカーの懐に税金を注ぎ込むような行為。財源はあるのか」、「デジタル教科書はどんな端末からも使えるというが、お金持ちの子は高性能タブレットPCを使い、そうでない子は古いノートPCを使う可能性もある。端末がばらばらだと使い方も違うので学習環境に差が出る。デジタル教科書の本来の目的である平等な教育――塾に行かなくても、参考書を買わなくてもデジタル教科書さえあればいくらでも勉強できる――という目的に反するのではないか。端末は一つに指定して政府が配るべき」と“個人派”と“学校派”が対抗している。


 端末をどうするかに関してはまだこれといった結論は出ていない。しかし韓国では課題があるからといってそこで立ち止まらない。端末普及の議論の傍ら、「スマートスクール」、「スマートラーニング学校」プロジェクトが始まった。


 次回はサムスン電子の「スマートスクール」と、あらゆるICTツールを自由自在に使いこなしスマートな授業をするすごい先生を紹介する。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年7月13日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120713/1055842/