無料音声通話アプリと通信事業者の「タグ・オブ・ウォー」再び

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韓国でスマートフォンを買ったら真っ先にインストールするアプリとして有名な「カカオトーク」に2012年6月4日、無料の音声通話機能(ボイストーク)が追加された。カカオトークは電話番号さえ分かれば友達登録をして、メッセージを送受信できる人気のメッセンジャーアプリである。

 カカオトークによると、5月末時点で利用者は全世界で約4700万人、韓国内では全国民の7割を超える約3600万人が使っていて、このうち約2100万人が毎日利用しているという。1日26億件のメッセージが送受信されているほどだ。


 ボイストークは韓国に先駆けて日本で先行サービスしているので、日本の携帯電話番号で認証したユーザーの場合は、問題なく同機能を利用できる。









韓国の国民的人気アプリ「カカオトーク」のアプリストア上のサンプル画面(左)。音声通話(モバイルVoIP)機能が追加された操作画面の例(右)。無料で使える。ただし、最も高い料金プランの加入者だけにモバイルVoIPを利用できるようにしたことが、議論を呼んでいる


無料音声通話アプリはもう1年以上前から存在する。ポータルサイトのDAUMやNAVERも提供しているが、利用者が少なかったせいかあまり話題にならなかった。ところが、国民的人気アプリであるカカオトークの無料ボイストークは韓国を揺るがした。通信キャリアがカカオトークに猛反発し、政府機関が仲裁に入ったほどの騒ぎに発展したのだ。

 キャリア大手のKTとSKテレコムは、ボイストークをアクセスできないように遮断するか、最も高い料金制度を利用するユーザーだけに許容すると発表した。無料音声通話アプリは大量のトラフィックを発生させるため、キャリアにとってはとても負担になるからだ。2社は、「今まで数十兆ウォンに上るネットワーク投資をしてきた。カカオトークはそこへただ乗りしようとしている」、「無料音声通話アプリによってキャリアの収益が減ればネットワーク投資はできなくなり、ネットワークの速度や品質が悪くなる」と主張した。


 通信政策を担当する放送通信委員会はKTとSKテレコムに対して、3G加入者の場合は毎月約3800円以上の定額制、LTE加入者の場合は同約3700円以上の定額料金を支払っている加入者だけボイストークを使えるようにしてはどうかと提案した。カカオトークを使えるようにしてほしいという加入者とキャリアとの仲裁に入ったのだ。KTとSKテレコムは約款改訂とネットワークの品質調整を行い、放送通信委員会の仲裁通り、毎月約3800円以上の料金を支払う加入者にだけボイストークを許可することにした。


 しかしユーザーの反発は収まらなかった。国会議員や市民団体を中心に、「ネットワーク中立性」を問題にし始めた。ネットワーク事業者はどんなコンテンツにもアクセスできるようにすべきであると、KTとSKテレコムを批判する動きも出始めたのだ。

 2012年6月13日には、SKテレコムの本社前に野党の民主統合党議員と市民団体が集まって「ネットワーク中立性を守れ」と抗議する騒ぎもあった。同日、国会ではカカオトークとキャリアの社長を呼び、無料音声通話アプリがキャリアの収益に与える影響を分析する緊急懇談会まで開催した。KTとSKテレコムは、米国と英国のキャリアも、最も高い料金制度に加入するユーザーにだけ無料音声通話アプリを利用させていると反撃した。


 無料通話アプリのネットワーク中立性論争はボイストークに限った話ではない。ボイストークの次はアップルのテレビ電話「FaceTime」が待っている。FaceTimeは今までWi-Fiだけで利用できたが、先日(6月11日)発表されたiOS 6からは、3G回線でも利用できるようになるからだ。韓国内のiPhone 4、iPad 2ユーザーは500万人以上と推定されている。ボイストークに比べればまだまだ小さい市場であるが、テレビ電話は音声通話よりも単価が高い。アップルKTとSKテレコムは早速、「FaceTimeもボイストークと同じく、安い料金制度を利用している加入者は使えないようにする」という方針を明らかにした。


 ネットの掲示板には「キャリアにデータ通信利用料を払っているのに自由にアプリが使えないのはおかしい。キャリアの判断で使えるアプリと使えないアプリがあるのは理解できない」、「ボイストークじゃなくても無料音声通話アプリはいくらでもある。いつまで規制ばかりする気なのか」とキャリアを非難する書き込みが増えている。ボイストークをきっかけに、ネットワーク中立性の定義とガイドラインをもう一度明確にしようとする専門家や学者が出てきた。


 一方、シェア最下位のLGU+は加入者増大のチャンスと思ったのか、どの料金制度のユーザーでも自由にボイストークを使えるようにすると発表した。


 同社の場合、ボイストークを自由に使わせることによって、年間500億ウォン(約36億円)ほど収入が減ると見られている。しかしスマートフォンの場合は、音声通話とデータ通信がセットになった定額料金制の加入が必須なため、加入者が音声通話を全く使わなくなったとしても一定の料金がLGU+に入るような仕組みになっている。さらに、無料音声通話アプリを円滑に利用するために加入者は高速モバイルインターネットのLTEを使うようになり、より高い料金制度に加入したがるだろうという見方もある。LGU+は、データ通信のボイストークによる収入減少は一時的にすぎず、フィーチャーフォン(ガラケー)ユーザーがこれをきっかけにLGU+のスマートフォンに乗り換え、加入者が増えることを期待しているようだ。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年6月15日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120615/1052544/

独自開発タブレットから教育ロボまで! スマートラーニング花盛り

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 韓国で「KUMON」や訪問先生が学習管理をしてくれる「赤ペン」、子ども向け科学雑誌など学習誌サービスを提供する大手教育企業のKyowonは2012年6月4日、教育用10.1型タブレットPC「MyPad」を発売すると発表した。MyPadからは、スマートラーニング向けに画面を作り直したKyowonの全学習誌と科学雑誌、Eラーニング講座とラーニングマネジメントシステムを利用できる。


 教育会社がキャリアと提携してEラーニングやアプリを制作して販売することは今までもあったが、タブレットPCまで自前で作ってしまったのはこれが初めて。MyPadはAndroid OSで16GBのタブレット。カーナビ会社のティンクウェアが製造した。Androidタブレットが持つ機能も使えるが、Kyowonの教育コンテンツはMyPadからでないと利用できない。Kyowonは教育コンテンツと端末をセットにして囲い込みを始めたわけだ。





Kyowonの「MyPad」Webサイト。同タブレットを使わないとコンテンツを利用できないようにし始めている



 同社は、MyPadを使えば、効率良く学習したものなどが管理できるようになり、誰かに教えてもらうより、子どもが自ら探求して楽しく勉強するようになることを期待しているという。


 教育用タブレットPCといえば、キャリアのLGU+も「EduTAB」という7型のAndroid端末を2010年12月に発売している。教育アプリ、電子辞書、ネット検索機能がついたシンプルな端末で、大学受験勉強には欠かせない教育放送(EBS)の講座をWi-Fi経由で簡単にダウンロードして受講できる。スマートフォンとタブレットPCが登場する前の2000年代、高校生の受験勉強必需品であった小型の動画再生端末「PMP(ポータブルマルチメディアプレイヤー)」を販売して大ヒットしたi-StationがEduTABを製造した。


 EduTABは、安い費用で有名講師の講座をいつでもどこでも受講できるようにする、低所得層や過疎地に住む子どもたちにも良質な教育を提供して教育格差を改善する、という目的で始まったという経緯がある。



キャリアのKTは幼児から小学生向けのロボットと教育コンテンツを販売している。「キーボット2」という名前の動き回るロボットは、Android OSに7型ワイド画面と最大60型プロジェクター、500万画素カメラ、音声認識、通話、Wi-Fi、遠隔操作によるホームモニタリングなどの機能が付く。キーボット2はMP3プレーヤーで有名なアイリバーが製造している。



KTが販売する教育ロボット「キーボット2」。キーボット2と教育コンテンツをセットにしてサービスしている




 コンテンツはロボット経由でダウンロード販売する。幼児向けには韓国語や英語、数学の概念を覚えられる学習アニメとゲームが8300件、小学生向けには学校の勉強をサポートしてくれるデジタル参考書、科目別学習講座動画などが3400件登録されている。


 ロボットの頭の後ろにはプロジェクターが付いていて、学習コンテンツを60型の大画面で見られるのも好評である。幼児向け英語ゲームの場合、カメラが子どもの姿を撮影して合成し、ゲームの世界の中に子どもがいるような画面に切り替わる。画面を見ながら体を動かして歌で流れる英単語を手で捕まえるゲームなので、楽しんで体を動かしながら英語も覚えられる一石二鳥を狙った。


 コンテンツを利用できるほかに、子どもが保護者に電話をかけられる、遠隔操作で保護者が外出中も子どもの様子をモニタリングできるといった機能がある。KTは低所得層、過疎地の子どもには安い費用でキーボット2を利用できるように支援する。LGU+と同じく、教育格差を改善するためである。


 プリンターと教育コンテンツがセットになったものもある。学習ドリルで有名なアイテンプルは、米ヒューレット・パッカードと提携して、プリンターとプリンター用アプリケーション「AnySchool」の1年利用料をセット販売している。プリンターにWi-Fiとタッチスクリーンが付いていて、パソコンを経由せずプリンターからコンテンツを選択して、オリジナルのドリルを印刷できるのが特徴だ。


 決まった時間に国語、英語、数学のドリルを印刷するようにも設定できる。ドリルだけでなく、塗り絵、紙工作用の用紙もプリントで作れる。アイテンプルによると、オリジナルのドリルをお手製で作り、直接子どもを教えられると喜ぶお母さんが多いという。


 韓国では毎週のように新しいスマートラーニングサービスが登場する。スマートフォンのCMすら、優等生はスマホを使って効率よく勉強しているといった内容が多い。日本ではまだスマートラーニングという言葉に馴染みがないが、韓国ではコンテンツだけでなく端末まで自前にするほど、スマートラーニング分野の競争は激しい。


 日本でもデジタル教科書導入に向けて教育の情報化が進められているだけに、韓国のスマートラーニングサービスの試行錯誤を参考にして、いいところだけ取り入れてもらいたい。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年6月8日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120608/1051720/

スマホやスマートTVでより“偏った”野球観戦が可能に

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プロ野球のシーズンとなり、韓国では野球に関するアプリが話題だ。中でも断トツ人気なのは、好きなチームをひたすら応援するための野球中継を視聴できるアプリである。試合の流れに関係なく、好きなチームを味方する、偏った解説が人気を集めているのだ。

 通信事業最大手のKTが提供する動画アプリ「OllehTV」は2012年4月7日、韓国プロ野球開幕と同時に好きなチームを選んで解説が聞ける野球中継を始めた。チームごとに番組があり、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVから利用できる。


 韓国でもプロ野球は人気が高く、人気チームであるサムスンライオンスとLGツインズの試合は全席売り切れになるほどである。海外で活躍していた選手が韓国に戻ってきたことや、実力のある新人選手が増えたのも影響しているようだ。


 好きなチームを応援するための野球中継といえば、インターネット個人放送局の「PandoraTV」や「Afreeca」が元祖と言える。PandoraTVのアマチュア野球中継「ファンキャスト」は1700万人を超える視聴者がいる。Afreecaの野球中継アプリは2012年5月末時点で1000万ダウンロードを突破している。移動中に野球中継が見たい、というユーザーもいるが、野球場の観客席にいながらもスマートフォンを利用して好きなチームの中継を見る人が多いので、ダウンロード数も伸びているという。






KTの野球生中継アプリをスマートフォン、タブレット、スマートTVで楽しむ。ファンが解説をするインターネット個人放送局と異なり、チームごとに元選手や元コーチといった有名人が解説者となり、チームの裏話まで披露してくれるところが人気



ソウル市内では地下鉄の中でもWi-Fiが使え、市内どこでも高速でWi-Fiがつながることから、モバイルで動画を見るのが苦にならないというのも、野球中継アプリの人気に火をつけた。Wi-Fiを利用するとワンセグよりもきれいな画質で生中継の動画が観られるので、タブレットPCから見ても画像が割れたり、画質が粗くなったりしない。


 韓国通信委員会と韓国インターネット振興院が「双方向番組プログラム制作支援サービス」として選んだ、KTの野球中継向けマルチアングルサービスは9月から始まる計画である。マルチアングルが導入されると、野球場のカメラのアングルをユーザーが好きに選択できるので、中立的な中継画面ではなく、ひいきのチームが何をしているのかをずっと見続けるという偏った野球中継を視聴できるようになる。


 プロ野球が人気なら、野球ゲームアプリも同時に人気を集めている。CJ E&Mのオンライン野球ゲーム「マグマグ」はプロ野球開幕に合わせてゲーム内容をアップデートして新規利用者が1.5倍増加したという。監督になって野球選手を育成するNHNのゲームアプリ「野球9段」もダウンロードランキング上位にランクしている。


 サムスンのスマートTVには、ドラマや映画を観ながら野球の字幕中継を利用できる機能も搭載された。テレビからネットを経由して好きなチームに応援メッセージを送信できる。スマートTVからは野球選手の記録や試合結果をすぐ確認するアプリも利用できるので、普通のテレビで野球中継を見るより楽しめる。


 この夏は一段とスマートフォンとスマートテレビが手放せなくなりそうだ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年6月1日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120601/1051083/

「悪魔のゲーム」に熱狂する韓国のゲーマー

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Blizzard Entertainmentの大人気オンラインゲーム、Diablo IIIが2012年5月15日、全世界で発売された。保存版パッケージがソウル市内で先行発売された14日、イベント会場には5000人近くが集まり、徹夜する人まで出た。15日午前9時から始まったネット販売では、限定版パッケージを購入するためユーザーが殺到し、SKテレコムが運営するネットショッピングサイト「11番街」のサーバーがダウンして、サイトそのものにアクセスできなくなるという事故まであった。






Diablo IIIの流通会社であるSonokong社の告知画面。韓国ではパッケージ販売にユーザーが殺到してネットショッピングサイト「11番街」のサーバーがダウンしたほどの人気。一般パッケージも売り切れで5月30日から発売を再開する


限定版パッケージを購入すると、ゲームをインストールするためのUSBメモリーのほか、ゲーム制作過程を記録したDVDとゲームの中で使える特別アイテムが特典として付く。中古サイトでは早速限定版が取引されていて、定価9万9000ウォン(約6700円)のところ、プレミアムがついて3倍ほどの値段が付いている。一般パッケージ・デジタル版は5万5000ウォン(約3700円)で販売されている。

 Diabloは、パソコンにゲームをインストールしてから、ネットワークを経由して戦うオンラインゲームの一種で、一度はまるとほかのことは何もできないほど中毒性が高いことから、韓国では「悪魔のゲーム」、「大学入試ブレーカー(受験勉強ができない)」、「タイムワープゲーム(夢中になってしまい、気が付くといつの間にか2~3日が過ぎている)」とまで呼ばれている。


 Diablo IIIの初期画面を立ち上げたパソコンの前にカップラーメンとお菓子を山積みしたネットカフェでの写真を掲載し、「いよいよスタート!」と引きこもりになることを宣言するユーザーが続々登場。パソコンの仕様が古すぎてDiablo IIIをインストールできず、プレイするためだけに最新のパソコンに買い替えるユーザーも少なくない。自作向けパソコンやパソコンの部品を扱うネットショップの売り上げが大幅に上昇しているとして、韓国のマスコミは「Diabloシンドローム」というタイトルで連日報道している。


 男性アイドルの間でもDiablo IIIは話題のようだ。ライバルといわれるグループに同ゲームの保存版パッケージをプレゼントし、「これで彼らは活動休止!」と喜びのつぶやきを残したアイドルもいれば、同ゲームの保存版を買ってほしいとファンにねだったとして問題になった男性アイドルもいた。


 あまりの人気のためサーバーが混雑し、ゲームをインストールしたのにログインできずゲームをプレイできないユーザーも増えている。パソコンにインストールして楽しむパッケージゲームであるが、専用のサイトからログインをしないと始められないネットワークゲームでもあるため、サーバーが混雑すると、ゲームをインストールしていてもプレイできないのだ。Blizzardはこのことでユーザーに謝罪したが、ユーザーが最も集まる夜10時以降になるとなかなかログインできない現象は、ゲーム発売から1週間経った22日時点まで続いている。


 スマートフォンの普及により売り上げが急落していたPCバン(ネットカフェ)もDiablo IIIのおかげで生き返った。PCバンでプレイされるオンラインゲームのユーザー数やプレイ時間を調査する「ゲームトリックス」の発表によると、5月17日時点で、Diablo IIIのPCバンでのプレイ時間が1日190万時間を突破。数あるオンラインゲームの中でも桁違いの断トツだった。同時アクセス者数は約8万人で、最高記録は14万1792人。発売後初めての週末(5月19~20日)2日間でPCバンプレイ時間が940万時間にも上った。これは、この5年間で最高という。


 Diablo IIIは、19歳以上が利用できるゲームに分類される。しかし中高校生にも人気が高く、中高生がプレイするため家族の住民登録番号を盗んで年齢認証をしていることは心配である。家族とはいえ、他人の個人情報を盗用するのは犯罪であることを教える必要がある。明らかに中高生に見える青少年が成人用ゲームを利用している際には、PCバンで年齢確認をするとか、ゲーム会社も住民登録番号の盗用には厳しく対処するといった社会的責任も考えないといけないだろう。それほど韓国ではDiablo IIIがすごいことになっている。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2012年5月25日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120524/1050745/

キャリアが中古スマホを高額買い取り、囲い込み狙う

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2009年10月末に韓国でiPhoneが発売され、2010年上半期には一気に各メーカーからスマートフォンが出そろい大ブームになった。2年縛りでスマートフォンを安く購入した加入者の契約期間が終わり、ついに機種変更、キャリアの乗り換えのシーズンがやってきた。


 韓国の大手通信キャリア3社は中古スマートフォンを代理店に売って安く機種変更できる「エコフォン」制度を始めた。今までは中古端末はリサイクルゴミとして捨てるか、ネットのオークションサイトを利用して個人間で売買するしかなかった。個人間で取引すると、同じ端末でも人によって販売価格が大きく違ったり、端末の状態をだまして売ったりといろいろ問題があった。


 使っていた端末を捨てて、他のキャリアに新規で2年縛りで加入した方が、プロモーション料金が適用されて端末も料金も安くなるので、2年ごとにくるくるキャリアを変えるユーザーが韓国にはとても多い。キャリアは契約期間が終わった加入者を囲い込むために、使っていたスマートフォンをネットのオークションサイトよりも高く買い取るエコフォン制度を導入した。キャリアが中古端末の買い取り基準を作ることで中古端末の利用活性化に役立て、環境保護にもつながるようにするためである。









スマートフォン契約が終了したユーザーを囲い込むため、中古端末を買い取るエコフォン制度が始まった。写真はSKテレコム代理店で




SKテレコムの場合は、機種変更の際に捨てられる端末を集めて、機器故障で一時的に端末が使えなくなった加入者に貸し出すレンタルフォンや、低所得層への無料端末として活用していた。捨てられる携帯電話端末は、SKテレコムだけで年間約150万台に上るという。


 エコフォン制度はキャリアによって買い取り基準が若干違うが、ほとんどの場合は浸水、音声通話品質、データ通信性能、液晶とバッテリーの状態など20項目をテストして、New、A+、A、B+、B、Cに分けて判定する。キャリアは買い取った端末をきれいにして部品交換などを経てから、MVNO用や携帯を紛失した加入者向けに販売している。キャリアの代理店で購入した中古端末は14日以内であれば交換、または返品できるので安心して使える。


 2011年に販売されたスマートフォンの場合、A+状態の端末価格は新品の半額以下の12万~20万ウォン(約8300円~1万4000円)。ユーザーは、代理店のほかに、キャリアのホームページからも購入できる。今後は新規加入の場合でも中古端末を使うユーザーが増えると期待されている。




このほかにも、1年以上スマートフォンを利用した加入者がLTEスマートフォンに機種変更する場合、10万ウォン(約7000円)を支援するプロモーション料金もキャリア3社で一斉に始まった。韓国で発売されたLTEスマートフォンは、サムスンのGalaxyNote、LG電子のOptimusLTE、パンテックのVegaLTE、HTCのRaider 4G—の4機種である。中古端末を代理店に売るエコフォン制度を利用すれば重複割引になる。このプロモーションでキャリア3社から250万台ほどのスマートフォンが中古市場に流れると推定されている。


 しかし、中古端末を買い取ってもらうためには自分が加入しているキャリアで機種変更する必要がある。キャリアを変える場合は端末を買い取ってもらえない。キャリアは、契約期間を終えた加入者の囲い込みのために、エコフォン制度を導入したようなものである。中古端末の販売価格より、買い取り価格の方が高い場合があるのもそのせいだ。


 とまれ、2012年内には中古端末で新規加入するユーザー向けの専用料金制度も始まるという。エコと加入者の囲い込み両方を狙ったエコフォン制度が活性化すれば、端末価格の負担なくあれこれいろんな機種を使ってみることもできるので楽しみである。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年5月18日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120517/1049742/


恐れていた値上げも? どうなる格安MVNO

今使っている携帯電話番号そのままで料金が安いMVNO(通信業者から無線ネットワークの卸売りを受け、自社の通信サービスとして提供する事業者)に乗り換えできるようなった韓国では、この頃、MVNOの話題が尽きない。基本料金はキャリアの半額以下、通話料もMVNOが30%ほど安い。電話をかけるより受信することの方が多い人は、月3300ウォン(約250円)の基本料金さえ払えば携帯電話を持てる。通話料は10秒13~25ウォンと、日本円に換算すれば1~2円しかしない。

 放送通信委員会の調べによると、MVNO事業者は2012年5月2日時点で23社、加入件数は72万件を突破した。移動通信加入者数が5000万件を超えている中、MVNOの72万件はまだまだ少ないが、KT、SKテレコム、LGU+の大手通信キャリア3社ががっちり握っている移動通信市場とは違って、MVNOは事業者数が多い分、料金制度も豊富にそろっているのが特徴だ。


 LTE対応や、よりハイスペックなスマートフォンを求める人が大勢いる中、音声通話とショートメッセージだけで十分というユーザーは、安さを求めてMVNOに変更している。タンスの肥やしにしていた中古端末(SIMカードの上位互換カードであるUSIMを差し込める3G端末限定)でも加入できるので、ナンバーポータビリティーで新規加入しても端末価格の負担がないのも魅力だ。









2012年3月に街角で行われたMVNOのキャンペーン。4月より全キャリアで、今使っている携帯電話番号そのままで料金の安いMVNOに乗り換えできるようになった



放送通信委員会は、MVNOの認知度をさらに高めるため、MVNOという名称ではなく、より発音しやすく意味がすぐ通じる言葉に変えるため、一般ユーザーを対象に「移動通信再販売サービス新名称公募」というタイトルで、MVNOのニックネーム公募まで行っている。最優秀賞に選ばれると100万ウォン(約7万3000円)の賞金がもらえる。


 5月2日からは、国際電話サービスを提供しているオンセテレコムとKTが提携し、「スノーマン」というブランドのMVNOが始まった。料金制度に応じて国際電話が毎月10~30分無料になるという特典付きなのが売りである。家族の中に必ずといっていいほど留学生がいる韓国ならではの特典である。ケーブルTV大手のCJハロービジョンもスマートフォンMVNOサービスを始めた。キャリアのスマートフォン専用料金の半額ほどである。


 しかしMVNOのスマートフォンの場合、携帯電話番号を使った本人確認や携帯電話料金と種々サービスとの合算請求、金融サービスなどには対応していないため、アプリやネットの利用に制限があるのが不便だ。


 MVNO加入者が増えるにつれ、こうした不便と共に不満も浮上している。海外のMVNOに比べると料金が高い、事務手数料も安くしてほしい、料金に応じたポイント還元などの会員向けサービスがなさすぎるといったことだ。例えれば、安いだけが売りの格安航空会社を利用するか、機内食もあってマイレージも付く大手航空会社を利用するか、これに似た悩みが携帯電話業界でも起きているように見える。



中小企業が頑張って地道に加入者を伸ばしてきた韓国MVNO市場であるが、放送通信委員会はMVNOを活性化させるためとして5月4日、キャリアの子会社もMVNOサービスを提供できるようルールを改訂した。それまではキャリアの子会社はMVNOサービスを提供できなかった。MVNOはキャリアからネットワークを借りてユーザーに提供する「再販売」なので、キャリアが自社の子会社だけ優先する可能性もあるからだ。


 それにキャリアとMVNOがバンドルになって、子会社のMVNOに加入するとキャリアの料金を割引するといった特典も無視できない。放送通信委員会は公正競争のルールを守ることを前提にキャリアの子会社のMVNO参入を許可したというが、中小MVNOはもう既に戦意喪失といった感じで、反論すらしない。


 結局MVNOも、大手企業の参入によってじわじわと料金が値上げされるのではないか。そう不安になる。放送通信委員会は「キャリア3社が寡占している移動通信市場構造を破り、競争を促進させるため」MVNOを導入するといいながら、キャリアの子会社にMVNOを勧めるのは結局大手企業に市場を全て差し出すのとあまり変わらないではないか。放送通信委員会は、中小企業を保護するより、MVNOの事業者数を増やして、MVNOの加入者が増えた、こんなに実績を上げられたという数字に気を取られているのかもしれない。


 ちょっと不便でも、安いからと我慢してMVNOを利用しようとしていたユーザーに対し、大手企業はMVNOも掌握し、値段を吊り上げ、ユーザーにMVNOをあきらめさせて元のキャリアへ戻す可能性もある。MVNOが本来の狙い通りに移動通信市場の競争を活性化させる存在として残れるよう、中小MVNOには頑張ってほしいものだ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年5月11日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120510/1048802/

iPhone 5が出る前に先制を狙う韓国スマホ

.サムスン電子が2012年1~3月期の売り上げを4月27日に発表した。発表によると、同社の業績は絶好調。売り上げは45兆2700億ウォン(約3兆2000億円)にのぼり、営業利益は5兆8500億ウォン(約4130億円)となった。

 中でもスマートフォンの売り上げがすごいことになった。スマホや携帯電話の売り上げは18兆9000億ウォン(約1兆3300億円)、営業利益3兆4500億ウォン(約2430億円)で、最高の実績を記録。全体の営業利益の半分以上をスマホが占めることになる。「Galaxy S2」の販売台数は世界で2000万台を突破し、5.3型の大画面が売りの「GalaxyNote」も世界で500万台以上売れた。家電部門の売り上げは減ったものの、スマートTVの人気から、利益率は良くなった。一方、半導体は悩みの種で、メモリー価格下落により、売り上げも利益も減り続けている。


 同時期のスマホ世界市場販売台数ではサムスンがアップルを上回った。サムスンのGalaxy S販売台数は前期(2011年10~12月)の3650万台より伸ばして4000万台に乗った。一方、iPhoneは同3510万台を記録した。しかし純利益では、サムスンのスマホと携帯電話部門よりアップルが3倍ほど多く、サムスンも驚いている様子だった。


 純利益をさらに増加させる策として、サムスンはついに「Galaxy S3」を5月3日、ロンドンで世界初公開する。6月から世界市場で販売する。iPhone 5より一歩先に新機種を発売して市場先制効果を狙う。Galaxy S3はクアッドコアCPU搭載、4.8型画面、セラミック素材でキズに強いのが特徴である。


 サムスンが世界市場でアップルと張り合う中、中堅メーカーのパンテックは韓国市場でのシェアをぐんぐん広げている。ロンドンでのGalaxy S3公開が報道されてから、同社はスマホ新機種「Vega Racer 2」を同じ日の5月3日にソウルで公開すると発表した。時差があるので、パンテックの方がサムスンより先にマスコミに登場することになる。発売は5月10日。


 パンテックはサムスンやLGより規模が小さいだけに、いつもは発売時期をサムスンが新機種を発売しない時期にずらしていた。サムスンに真っ向からぶつかる同日公開を行うのはこれが初めてである。それだけ自信満々ということなのだろう。








パンテックの新しいスマホ「Vega Racer 2」。データ処理が速くバッテリーも長持ちするのが特徴。Galaxy S3とどちらがいいか、それともiPhone 5を待つべきか、韓国のネット掲示板は盛り上がっている




 Vega Racer 2の特徴は、通信チップとアプリケーションプロセッサーを一つにした、米クアルコムのモバイル機器向けプロセッサーSnapdragon S4を搭載した点である。ワンチップを搭載するのは、韓国産スマホの中でパンテックが初めて。ワンチップになったことで、スピーディーにデータ処理を行い、電池消耗も少ない。端末自体もよりスリムになった。OSと画面のサイズはGalaxy S3と同じである。OSはAndroid 4.0(開発コード名「Ice Cream Sandwich」)。4.8型液晶はシャープから輸入している。


 LG電子も、クアッドコアを搭載した「Optimus4XHD」とSnapdragonを搭載するLTEスマホ「DIL」を5月中に発売するとしている。バッテリーが長持ちするようハードウエアを改善し、ユーザーからイマイチ馴染めないと不評だったインタフェースも全面的に改良した新機種である。さらに、DILは韓国産スマホの中では初めてモバイル充電技術を搭載するというので楽しみだ。


 2012年3月時点で全人口の45%がスマホユーザーになった韓国だけに、スマホに対する関心度は世界のどの国よりも高い。「両親の日」である5月8日に向けて、新しい携帯電話やスマホを買って使い方を教えてあげることで両親と会話も弾み親孝行になる……とうたい、キャリアとメーカーの商戦がたけなわだ。


 ネットの掲示板ではGalaxy S3とVega Racer 2のどちらを買うべきか、悩むスマホユーザーの書き込みが後を絶たない。ストレスなくアプリもネットもキビキビと使いたいならVega Racer 2だが、端末そのもののデザインやカメラ、ブランドを考えるとやっぱりGalaxy S3がいいかな、どうしよう~という内容が毎日のように書き込まれ、パンテック派とサムスン派、あるいはどっちもいやでとにかくiPhone 5を待つ派の間で、スマホ談義が盛り上がっている。


 5月の連休にソウルを訪問するならば、ぜひいろいろなスマホを体験してもらいたい。ソウルの街を歩けば、2~3分おきに携帯電話代理店に行きあたる。誰でも自由に端末を使えるようにしている大型店舗もたくさんあり、デモ端末はネットにつながっていて、アプリを試したりネットで検索したりを無料でできる。携帯電話代理店に入れば、新機種も体験できて天気や交通情報もチェックできる一石二鳥。ぜひお試しを!




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年5月1日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120501/1047882/

教師たちの“情報化”教育も熱を帯びる韓国

韓国では2014年に小中学校、2015年に高校でのデジタル教科書全面導入に向け、教育現場のさまざまなところで変革が起きている。

 教科書会社は生徒向けに教科書を電子化して、スマートフォンやタブレットPCから有料で利用できるようにしている。ところが今、教材を自分でスキャンし電子データにする「自炊」が問題になっている。持って歩くのが大変な分厚くて重い大学教材の自炊や、自炊代行業者を利用するケースが増えている。悪質な自炊代行業者が、自炊したファイルを横流しして、教材を買っていない人に電子ファイルを入手できるようにしたこともあった。そのため、自炊自体、著作権違反ではないかという論争になっている。


 教科書会社は、生徒向けの教科書アプリは時代の流れに乗り遅れないためのサービスであり、収益のためにやっているわけではないという。収益を狙うのは教師向けアプリ、およびデジタル教育プラットフォームにある。教科書会社が配布する教師用の教科書、指導案、問題集をはじめ、教師がオリジナル教材を作るときに使えるよう教科書の内容を補足する動画やアニメ、MP3、画像、PowerPoint/PDF資料といったデジタル教材と素材を提供する有料アプリである。教師がタブレットPCや電子黒板を使って、より楽しく授業を行うために必要な資料は一通りそろっている。








教科書会社のMiraeNが提供する教師向けアプリ「先生マーケット」。タブレットPCから使えるデジタル教材を豊富にそろえる

教師は、タブレットPCとモバイルインターネットを使って、その場でアプリを何回かタッチするだけですぐ必要なデジタル教材をダウンロードできるので、授業をしながら学生の反応を見て教材を差し替えることもできる。こういった教師向けアプリは教師用の公認認証書(ネット上で本人確認ができるプログラムで、一般用、株取引用、教師用など複数の種類がある)を使って会員登録をするので、教師以外は利用できない。


 韓国の教師団体である韓国教員団体総連合会は、2012年9月に教師向けスマートラーニング公募選を開催する。教師自身が開発して授業で活用しているアプリ、SNSを利用した授業など学校現場のスマートラーニングの事例を公募し、優秀な事例を表彰するという。


教師は、タブレットPCとモバイルインターネットを使って、その場でアプリを何回かタッチするだけですぐ必要なデジタル教材をダウンロードできるので、授業をしながら学生の反応を見て教材を差し替えることもできる。こういった教師向けアプリは教師用の公認認証書(ネット上で本人確認ができるプログラムで、一般用、株取引用、教師用など複数の種類がある)を使って会員登録をするので、教師以外は利用できない。


 韓国の教師団体である韓国教員団体総連合会は、2012年9月に教師向けスマートラーニング公募選を開催する。教師自身が開発して授業で活用しているアプリ、SNSを利用した授業など学校現場のスマートラーニングの事例を公募し、優秀な事例を表彰するという。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年4月20日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120420/1046823/

デジタル教科書の導入にらみ、塾でもタブレット使い「スマートラーニング」

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 小中学校による2014年のデジタル教科書全面導入を前に(関連記事)、韓国では、塾でもタブレットパソコン(PC)を利用して学習する「スマートクラス」や「スマートラーニング」と呼ばれる授業が広く普及している。子どもにタブレットPCやスマートフォンを買ってあげたいけど、ゲームばっかりしそうだから悩む、という親はとても多い。しかし最近は塾でもタブレットPCを使って授業をするところが多くなり、買わずに済むわけにいかなくなりそうだ。


 中でも有名なのが、先生のディスプレイと生徒のタブレットPCを連動して英語を教える、ソウル市内にあるピョヒョン語学院という英語塾である。


 同学院はタブレットPCを使ったスマートラーニングを真っ先に導入した。イスラエルの教育省から大臣も視察に来たというほど、スマート技術を活用した学習方式として注目を浴びている。


 ここでは、先生と英語で会話しながらタブレットPCを使って文章を作ったり、クイズに答えたり、先生から資料を転送してもらったり、宿題を転送したりと、「話す」、「聞く」、「書く」、「読む」という4つの言語能力をさらに高めるため、タブレットPCを導入したという。タブレットPC上で日常会話の文章の空欄を埋めながら、だんだん長い文章にチャレンジしていく。この過程で自然と英語で考え、英語で書く能力が身に付くという。生徒がタブレットPCに入力した答えはすべて先生のディスプレイに表示され、採点結果が記録される。先生はその場で各生徒がどの問題を間違えたのか確認して、すぐフィードバッグできる。


 タブレットPCの中に教材がインストールされてあるので、家に持ち帰ればそのまま英語の問題集として使える。また生徒同士が離れていても、タブレットPCを使って資料を共有することで、一緒に考えながら宿題をするグループスタディーが活発になり、効果もあるという。


 ピョヒョン語学院で授業を担当する先生は、タブレットPC利用のメリットをこのように説明する。「以前は先生が一方的に説明をして生徒は聞いているだけだった。積極的に発表したがる子はいいが、消極的な子だと、本当に理解しているのかどうかすぐ把握するのは難しかった。タブレットPCを使ってクイズを出せば、ちゃんと理解している子とそうでない子がその場で分かるので教えやすい」、「タブレットPCを使うようになってから、先生がクイズを出すと誰が最も速く正解を送信するか、それが先生のディスプレイに表示されるので、生徒の間で競争するようになった。他の子たちの前で恥をかかないようにと、塾に行く前に予習復習をするようになり、英語力が上達する」。韓国の子どもたちは塾に行って勉強を教えてもらうというより、塾に行くためにも勉強をするとは。








生徒用のタブレットPC。与えられた問題について答えを書き込むと、先生のディスプレイに表示される。誰が先に正解を書き込むか競争が生まれ、さらに勉強するようになり成績が上がるという








先生用のディスプレイ。生徒のタブレットPCの画面を表示させたり、タブレットPCの画面をフリーズさせて作業を止め、前を見るように仕向けたり、クイズ問題を送信したりといろいろな機能がある



 数学や国語などを教える小学生向け学習塾も、タブレットPCを活用し始めた。会員向けに塾の延長でいつでも予習復習ができるよう、eラーニングサイトを運営するのはもちろん、タブレットPCからも利用できるようモバイルサイトも次々にオープンしている。数学の原理を分かりやすく説明したアニメや科学の実験動画など、塾の教材や授業内容を補うデジタル資料を掲載する。塾の会員であれば無料で利用できる。モバイルサイトに質問を残すと、塾の先生が随時答えてくれるのはもう当たり前だ。


 2011年からKT、SKテレコム、LGU+のキャリア3社によるスマートラーニング参入も目立っている。端末を売るため、モバイルネットワーク加入者を増やすための戦略ではあるが、教育とタブレットPCを組み合わせたビジネスは始まったばかり。市場展望は明るいと見られている。


 しかしタブレットPCとモバイル環境を利用したスマートラーニングが、学習のための道具というより、子どもを一瞬たりとも休ませない道具になっているような気も筆者はしている。日本ではそうならないよう、気を付けてうまく導入してもらいたいものだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年4月13日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120413/1046071/

「子どもの教育にはタブレット」、教育分野に本腰入れるサムスン、キャリア、教科書会社

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 2014年から小中学校、2015年からは高等学校でデジタル教科書を導入することが決まった韓国では、タブレットPCから利用できる学習アプリやeラーニングサイトの競争がヒートアップしている。


 デジタル教科書を導入するというのは、教科書がデジタルになった、紙の教科書からデジタルデバイスを使うようになった、という表面的な変化だけではない。教育行政のデジタル化、授業法・評価法のデジタル化など、学校で行われること全てがデジタル化しないといけない。デジタル環境に合わせた教科書作りも必要だ。デジタル教科書となれば膨大な情報を教科書の中に保存できるので、教科書にリンクされる参考資料はどれぐらいのボリュームにすべきか、という悩みもある。このようなバッググラウンドの環境を含め、韓国では1996年から準備が始まり、2007年から学校現場で実証実験を始め、今ではほぼ準備完了となった。


 教育熱の高い韓国では、授業に付いていくためには、デジタル教科書を使う前から子どもたちがタブレットPCやデジタル教材に慣れておいた方がいいのではないか、そういう心配からタブレットPCを使った学習アプリに興味を持つ保護者が増えている。


 サムスンは2011年6月から、いくつかの学校とMOUを締結し、スマートスクール実証実験を行っている。Galaxy Tabを使って授業をしたクラスと、そうでないクラスを比較して先生と生徒の授業満足度と、学習効果を観察するという実証実験である。学校現場では先生たちのアイデアが加わり、Galaxy Tabで使えるオリジナル教材が開発され、無料のクラウドコンピューティングサービスやSNSを利用して、先生と生徒と保護者がそれらの教材を共有している。


 2012年3月には「ラーニングハブ」というサムスン初の教育プラットフォームサービスも発表された。約1万5000件の講義動画、学習スタイル診断、進路分析、学習スケジュール管理、8歳から80歳まで年齢別に選べるとうたう学習コンテンツをGalaxy Tab 10.1と同8.9、同7.7から利用できるようにしたもので、いわばタブレットPCのための教育ポータルサイトといったところである。有料のコンテンツもある。






サムスンが2012年3月から始めたタブレットPC向け教育ポータル「ラーニングハブ」のイメージ。8歳から80歳まで年齢別に生涯学習できるというコンテンツをそろえたのが自慢


サムスンが教育分野の投資に積極的なのは、デジタル教科書市場を狙った布石とも言われている。2011年からは、一部の学校でデジタル教科書の実証実験に使われる端末がノートパソコンからタブレットPCに変わった。そのため、今後生徒の間で広くタブレットPCが普及すると見込まれている。

 韓国政府はデジタル教科書の中身の開発だけ進めていて、どの端末からも利用できる教科書にする、という方針である。タブレットPCからも、ノートパソコンからも、スマートフォンからも使えるのがデジタル教科書というわけだ。しかし、画面の大きさや持ち運びの便利さから考えると、やはりほとんどの生徒がタブレットPCからデジタル教科書を使うのではないかと見られる。そのためにサムスンは「教育=Galaxy Tab」というイメージ作りを始めている。


 市場先制効果を狙い、タブレットPCのメーカーであるサムスンが最も積極的に動いている中、サムスンが個人向け学習サービスなら、教科書会社は教師向けサービスに力を入れる。教師向けとは、タブレットPCやデジタル教科書を使う授業で、一緒に使える教材を提供するサイトのことである。簡単にいえば、教科書会社が先生用に配布する指導案のようなものをデジタル化し、さらに最新の資料をタブレットPC向けに使えるようにしたサービスである。


 韓国の先生たちは授業のために必ずといっていいほどオリジナルの教材を作る。PowerPointファイルに画像と動画を盛り込み、それを電子黒板に映して、授業内容を分かりやすく補足する。教育庁が提供する無料教材サイトはあったものの、そこに載っている資料は著作権の問題もあり、写真も動画も、かなりの年代ものだった。著作権がクリアされたものを選んで教材を作る必要があったため、先生たちはいろんなサイトを検索して探すなど毎日かなりの時間を割いていた。教師向けのサービスはこうした不便を解消する。学校単位で加入してIDを発行し、全教師が使うことで制作した教材を共有し、共同作業もできる仕組みを提供する。


 「タブレットPC」と「教育」の組み合わせは、通信キャリアの目玉サービスでもある。SKテレコムは、2011年夏から幼児向け学習アプリと月2000~2500円ほどの定額で何冊でも利用できる小中高校生向け教科書・参考書アプリを提供する。また、青少年向けに、データ定額制に加入していなくても負担なく学習アプリが使えるよう、8300件ほどある学習アプリ限定のデータ通信料半額割引も始めた。英語学習、成績が上がる秘法といった一部のアプリはお試しとして無料公開している。KTも2012年3月より、「ホームスタディー」という名前で、月3000円ほどで利用できる小中学生向けeラーニングサービスを始めた。ノートパソコンやタブレットPCから利用できる。


 キャリアと大手参考書出版社・学習教材会社との提携も次々に発表されており、学習アプリはまだこれからが本番という感じもする。サムスンとキャリアの学習アプリ市場をめぐる競争も2012年から本格化しそうなので、競争によってどんな斬新なアプリ、あるいはサービスが登場するのか、楽しみでもある。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年4月6日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120405/1045424/