韓国でも通信キャリア2社からiPhone 4Sが発売

米アップルのスマートフォン「iPhone」を通信キャリアのKTが独占していた時代は終わった。iPhone 4SからKTとSKテレコム2社が同時発売できるようになった。iPhone 4Sは2011年11月4日から予約販売が開始され、11月11日、正式に発売された。予約販売の際にはKTだけで開始6時間で10万台を突破した。予約サイトに接続する人数が多すぎてサイトが開かなくなる騒動まであった。






iPhone 4Sの予約販売サイト(左はKT、右はSKテレコム)

iPhone 4Sがスティーブ・ジョブスの「遺作」であるとして興味を持つユーザーも多いが、キャリア2社が同時発売することで、端末価格割引競争に火がついたのも影響している。KTとSKテレコムのどちらがよりiPhone 4Sユーザーをたくさん集められるか、先に国内第1号を確保できるのか、マーケティング競争が激しくなっている。

 実はiPhone 4S韓国国内ユーザー第1号は既にSKテレコムから登場している。携帯電話専門ブロガーとして活躍するアーリーアダプター(新製品を誰よりも早く使いたがるユーザー)の男性で、英国に住んでいる友人にiPhone 4Sの端末を買ってDHLで送ってもらい、韓国の正式発売日より1カ月早い2011年10月17日SKテレコムから開通手続きをした。


 正式販売されたiPhone 4S第1号もSKテレコムから誕生しそうだ。SKテレコムは少しでも早くiPhone 4Sをユーザーに渡すため、11月10日夜10時からソウルの本社前でiPhone 4S開通記念イベントを行い、夜12時、11日が明けると同時に抽選で選ばれた100人にiPhone 4Sを開通して端末を渡した。しかしキャリアを乗り換える場合は他のキャリアが営業を始める翌日の朝9時に開通となった。開通イベントはアップルとSKテレコムの「Perfect Match」をテーマにした人気歌手のコンサートも行われるそうで、大規模なパーティーを企画している。KTは11日の朝8時から予約加入した順にiPhone 4Sの販売を始めた。







SKテレコムの4S開通記念イベント会場(提供:SKテレコム)


 iPhone 4S の端末価格を比較してみると、24カ月約定、毎月5万4000ウォン(約3710円)のスマートフォン料金に加入することを条件に、SKテレコムは16GBの端末を23万800ウォン(約1万5850円)、32GBを36万2800ウォン(約2万4900円)、64GBを49万4800ウォン(約3万4000円)で販売する。KTは同じ条件で16GBが21万2000ウォン(約1万4600円)、32GBが34万4000ウォン(約2万3630円)、64GBが47万6000ウォン(約3万2700円)。


 iPhoneが韓国で初めて販売されたのは2009年11月。24カ月の契約期間を終えたKTのiPhoneユーザーがSKテレコムに乗り換える可能性も高い。


 移動通信だけでみるとSKテレコムは韓国初の移動通信キャリアで、加入者の51%を占める最大手である。よりよい通話品質を求めてSKテレコムに乗り換えたいとブログやTwitterで公言するユーザーも多かった。


 KTは既存iPhoneユーザーをSKテレコムに取られないよう、長期加入者割引制度をアピールしている。キャリアを変えると事務手数料もかかり、長期加入割引もないので2年間の費用をトータルで考えるとKTが安いとしている。KTのiPhone 3GSユーザーが4Sに機種変更した場合は、端末価格を返納すると端末の状態に応じて4万~10万ウォン(約2750~6870円)割引するとしている。


 SKテレコムの狙いはやはりKTのiPhoneユーザーである。KTに取られたスマートフォンユーザーを取り戻すため、使っていた端末を返納すると、機器の状態に応じて4万ウォン(約2750円)から最大34万ウォン(約2万3350円)を割引するプロモーションを行なっている。予約販売の先着2名には1年間利用料金を免除するイベントも行った。


 iPhoneがキャリア2社から販売されるようになってから、月々のスマートフォン専用料金も1000ウォン(約70円)安くなり、端末価格も中古端末補償制度を利用すれば負担なく買える程度になった。韓国では国をあげて、近距離無線通信規格(NFC)を利用したスマートフォン向けのモバイル決済の普及や、アプリケーション制作を支援しているので、スマートフォンユーザーも、スマートフォンの楽しみ方もさらに増えそうだ。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年11月11日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111111/1038891/

コンテンツ産業も人々の生活もスマホを中心に回り始めている

 2011年10月31日、韓国のスマートフォン加入件数は2000万を突破した。これは人口の4割に当たる数字で、韓国は世界でもっとも速いスピードでスマートフォンが普及しているとマスコミは連日、関連ニュースばかり報道している。


 韓国ではスマートフォンに加入すると通常の携帯電話料金より2倍高い専用料金プランに加入しないといけなかった。フィーチャーフォンの携帯電話基本料金が月1万2000ウォン(約840円)前後なのに対して、スマートフォンは一番安い料金が月3万5000ウォン(約2300円)である。韓国では、スマートフォンの端末そのものは安くなっているのに通信料金が高いままでは若い世代の占有物になってしまう、という不満が漏れていた。スマートフォン格差によるデジタルデバイドも懸念されていた。


 そんな中、通信キャリアのSKテレコムは2011年10月31日、障害のある人とシニアに向けたスマートフォン専用料金を発表した。聴覚障害のある人向けの料金は月額3万4000ウォン(約2390円)、音声通話200分無料分をテレビ電話無料110分に切り替え、SMS無料送信件数も月1000件と通常の5倍に増やした。データ通信は月100MBまで無料で使える。


 視覚障害者向け料金(月額3万4000ウォン)に含まれるのは音声通話250分、SMS50件、データ通信100MB、シニア料金(同1万5000ウォン、約1050円)には音声通話50分、テレビ電話30分、SMS80件、データ通信100MBとなっている。障害者向け通信料金は国の政策によって35%割り引きされるので、既存料金の半額ほどでスマートフォンを利用できることになる。


 スマートフォンを使うのが日常になってくると、当然規制も変わる。2011年11月2日からはついにアップルのApp Storeにあるゲームカテゴリーが開放された。


 韓国ではアップルとAndroidのアプリケーション(アプリ)ストアの中でも、ゲームカテゴリーが2010年3月からずっとゲーム類等級委員会による「事前審議」の問題で閉鎖されたままであった。オンラインゲームをすべて事前審議して、利用できる年齢を決める等級制を適用してから販売できるようにしていたのである。しかしアプリケーションは個人も自由に参加できる市場だけに、事前に韓国政府の審議を経てアプリストアに登録するのは不可能に近く、ゲームカテゴリーを閉鎖したままアプリストアを運営していた。


 年齢制限を巡ってはアップルと韓国の法律の間で解釈の違いもあった。例えばポーカーゲームの場合、アップルは12歳以上が利用できるゲームに分類しているが、韓国の法律では射幸心を煽るゲームに分類され18歳以上に分類される。


 ゲームアプリの中で一部は韓国の法律を守り事前審議をして年齢等級制度に従い、キャリアが運営するアプリストアまたはエンターテインメントカテゴリーからサービスされていた。地下鉄やバスで見かけるスマートフォンユーザーのほとんどがゲームを利用しているが、アップルのApp Storeではなく韓国のキャリアが運営するアプリストアを利用するしかなかった。そのため人気のアプリストアはアップルの次はAndroidマーケットではなく、キャリアが運営するものであった。






LGU+は「Gamebox」という名前で独自に事前審議を経たスマートフォン向けゲームアプリを販売してきた。写真は同アプリストア画面とアプリを見せているところ


 ゲームカテゴリーが閉鎖されたことにより、韓国ではアップルやAndroid向けのゲームを開発しても韓国語でサービスできず、英語で制作して海外向けとしてサービスしていた。韓国のユーザーも韓国語ではなく英語に設定を切り替えて、住んでいる国を米国や日本などに指定して、海外のアプリストアにアクセスしてゲームを利用していた。


 2011年3月、やっと「ゲーム産業振興に関する法律」が改定され、スマートフォン向けゲームの場合は自律議審でサービスを提供できるようにした。ゲームカテゴリーが開放されれば、キャリアが運営するアプリストアよりもアップルやAndroidのアプリストアにユーザーが集まり、韓国のモバイルゲーム流通構造が大きく変化すると見られている。キャリアを経由しない流通に切り替わることで、より自由にいろんなゲームが登場すると予測されている。


 一方ではゲームカテゴリーの開放によって、韓国のモバイルゲーム会社だけが被害者になるのではという意見もある。韓国の会社には厳しく等級制度や青少年保護といった法律を適用して、海外のデベロッパーには「処罰するのが難しいから」と自律審議を適用してゆるく管理するのではないかという懸念だ。また、モバイルゲームは自律審議になるのに対し、パソコンから利用するオンラインゲームは事前審議を続けるのも公平ではないため、パソコン向け開発者からの反発が予想されている。


 スマートフォンユーザーが人口の4割にも届いたことで、ゲームの法律まで変えることになった。コンテンツ産業も人々の生活や娯楽もスマートフォンを中心に回り始めている。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年11月4日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111104/1038362/

スマホによるトラフィック激増で苦悩深まるキャリア

 2011年10月15日、韓国の通信キャリア3社は、ユーザーの年齢に関係なくスマートフォンとタブレットPCからアダルトサイトにアクセスすることを全面シャットアウトする方針を発表した。しかしこれは青少年保護のためではなく、激増する「トラフィック」を抑えるための対策だということから問題になった。キャリアがトラフィックの負荷を抑えるために、政府が決めた違法サイトでもないのに、特定のサイトにアクセスできないようにすることをめぐり、「ネットワークの中立性」を守らなくていいのかと指摘するユーザーが後を絶たない。


 通信政策を担当する省庁の放送通信委員会によると、2011年7月時点でキャリア3社のモバイルデータ通信トラフィックは1万1761TBで、2011年1月の4985TBの約2倍になった。このトラフィックの9割をスマートフォンユーザーが占めている。


 全ユーザーのモバイルインターネット利用が伸びている傾向ではあるが、実は5%のユーザーがトラフィックの93%を占めているほど、一部の超過多利用者がトラフィック増加を誘発していたという。トラフィックが激増するとネットワークの速度が遅くなり、途中でアクセスが途切れてしまうこともある。ひどくなれば音声通話まで影響を受け、通話中の途切れ現象が頻発するという。


 最大手移動通信キャリアのSKテレコムは、95%のユーザーが5%のユーザーのネットワーク利用料を負担しているようなデータ使い放題料金制度を中止。他のキャリアもこれに同調している。しかしこれでは、スマートフォンから従量制でネットを使うなんて、スマートフォンを使う意味がない。


 データトラフィックを誘発しているコンテンツプロバイダーもネットワーク投資に参加すべき、ネットワーク中立性を守るためには彼らもネットワーク費用を負担しないといけない、とキャリア側は主張する。一時はキャリアがメッセンジャーアプリケーションのようにトラフィックを大量に発生させるアプリの利用を禁止させようとしているという報道もあり(関連記事)、スマートフォンユーザーが猛反対したこともあった。


 しかしキャリア側は、どんなサイトにもアクセスできるようにするという「中立性」の負担が、ネットワーク事業者にだけのしかかるのは問題としている。中立性という単語のせいで、キャリアは悪者で、トラフィックを大量に誘発させ少数のユーザーが大量のトラフィックを誘発してもコンテンツプロバイダーは弱者という先入観を持つユーザーが多いのが悩みという。


 韓国では3Gより速度の速いLTE(long-term evolution、次世代無線データ通信の規格)の時代になればトラフィック激増の問題は解消するのではないかと期待されているが、スマートフォンの次は高画質動画中心のスマートTVがトラフィックを爆発させる主人公になるという予測もある。LTEが登場してもまた振り出しに戻り、キャリアはネットワーク品質の維持について悩み続けるだろう。


 スマートフォンが売れて、ネットにさえつながれば音声通話もメールも無料で送れるようになった。ネットワークからコンテンツまで提供する垂直統合で収益を上げてきたキャリアの旗色は悪くなっている。






スマートフォンからネット利用が急増している中、5%のユーザーが93%のトラフィックを占めていることが問題になっている。LGU+を始め、キャリア各社は次世代通信LTEを推進する。LTEで大量のデータを迅速に処理できるとしている




 だからといってネットワーク品質、トラフィックの安定化を理由にキャリアの基準で選んだサイトにアクセスできないようにすることは今後もっと大きな差別問題(モバイルインターネットを閉鎖し、キャリアの子会社サイトだけアクセスできるようにした過去のように)を起こすかもしれない。ネットワークの中立性とキャリアのネットワーク品質維持、両方を守れる方法はないのだろうか。






趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年10月28日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111028/1038066/

“第4のキャリア誕生”でお得なスマホ料金プランに大きな期待

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 韓国最大手ケーブルTV会社「CJハロービジョン」がKTと提携し、2012年1月から本格的にMVNO(mobile virtual network operator、通信業者から無線通信ネットワークを買い、自社ブランドの通信サービスを提供する業者)サービスを始める。既存の移動通信キャリアよりも30~50%ほど料金を安くすると宣伝していることから、移動通信料金の値下げ競争幕開けとなるか、ユーザーの期待は高まっている。


 CJハロービジョンはケーブルTV会社としてインターネット+インターネット電話+ケーブルTVのトリプルサービスを提供していただけに、MVNOで携帯電話サービスを追加し、同じ会社の複数のサービスを利用すると基本料金を割引するバンドル割引でユーザーを集める戦略を追求するという。MVNOとして音声通話だけ提供するのではなく、ショートメッセージやモバイル向け放送サービスとも連携して多様なサービスを繰り広げる計画である。







CJハロービジョンのWebサイト


 さらにCJはグループ会社内に食品製造、オンラインゲーム、映画館、レストラン、インターネットショッピングモールなど幅広いジャンルの会社を持っているため、料金が安いということだけでなくこれらグループ会社同士のシナジー効果を高められる割引制度でMVNOの加入者を増やしていくとしている。


 例えば、スマートフォンユーザーの平均携帯電話利用料金である月4000円ほどを払えば、ケーブルTV・ブロードバンド・インターネット電話・携帯電話音声通話とショートメッセージが全て無料、映画館とレストランも月何回か安く利用できる破格的な料金制度を提供するといった具合である。CJグループの長所を生かした付加価値のある料金制度はユーザーの好みに応じて割引サービスを追加したり外したりするオーダーメイド型になるもよう。


 大企業であるCJのMVNO参加は、韓国では第4の移動通信キャリアが誕生したのと同じほどインパクトがある。CJハロービジョンのケーブルTV加入者は9月末時点で約340万人、携帯電話キャリア3位のLGU+の加入者が約922万人なので、大幅なバンドル割引が順調にいけばCJハロービジョンとLGU+との差が縮まることも考えられる。



 韓国では2010年からMVNOサービスが始まっているが、中小企業ばかりでブランド効果がない、電話料金が安くてもプリペイド式なので不便、使える端末があまりないことから加入者はまだ30万人ほどに過ぎない。料金は安くても端末の選択の余地がないのでMVNOを使いたくないというユーザーも多かったことから、CJハロービジョンでは、KTから提供されるMVNO用の端末のほかに、同社が直接端末を調達するという。


 MVNOの料金は最も安いところで月額基本料4500ウォン(約300円)、通話料は1秒当たり2ウォン(約0.13円)である。月1万ウォン(約666円)で基本料なし、音声通話100分無料という料金制もある。(KTの最も安い料金制は基本料1万2000ウォン(約800円)、通話料1秒1.8ウォン(約0.12円)である)携帯電話加入者が5000万人を超えているので、MVNOはまだまだこれからという段階であった。CJハロービジョンが登場したことで、韓国では一気にMVNO市場が注目されるようになった。


 韓国政府は2008年からキャリアに対して通信料金の値下げを要求してきた。KTとSKテレコムも基本料を1000ウォン(約67円)に、ショートメッセージの料金を1件80バイト30ウォン(約2円)から20ウォン(約1.33円)に値下げしたが、CJは他のキャリアより最大50%引きをうたっている。携帯電話の料金を安くしても、バンドル割引で他のサービスまで安く利用できるようになれば、逆に消費が刺激されグループ全体としては利益になるかもしれない。


 2012年にはKTのWibro(モバイルWiMAX)のネットワークをレンタルして安く再販売するデータ通信専門キャリアも登場すると見られている。キャリア3社の市場シェアが固着して、KTとSKテレコム2社の独占に近い状態になっていることから、新しい事業者が風を吹き込んでくれることをユーザーも願っている。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年10月21日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111021/1037885/

iPhone 4Sに対抗してAndroidスマートフォン発売ラッシュ

韓国のスマートフォン加入者は2011年9月末時点で約1883万人。内訳は、SKテレコムが950万人、KTが632万人。LGU+が301万人になる。これら通信キャリア3社によれば、11月には2000万人を突破するのではないかという。2011年の春には2000万人突破は年末になるのではと言われていたが、約1カ月前倒しになった。

 これがどのくらいかというと、2011年時点で韓国の人口は約5000万人なので、4割がスマートフォンユーザーということになる。筆者の周りを見てみると、20~40代はほとんどがスマートフォンで、「スマートフォンを使わない人は変わった人」という雰囲気になっている。


 iPhone 4SとiPhone 5の発売を前に(発売日未定)、9月末から10月にかけて、サムスン、LG、パンテックのスマートフォン新機種が続々登場することから、スマートフォンユーザーの数はさらに伸びていくものと見られている。


 今回発売が決定した機種はサムスン「Galaxy S2 HD LTE」、「Galaxy Note LTE」、「Nexus Prime」の3機種、LGの「Optimus LTE」、パンテックの「VEGA LTE」、HTCの「Raider 4G」などがある。サムスンに限らず、韓国メーカーのスマートフォンはiPhone 5対策の一つとしてLTE対応を強調する。iPhoneより速い速度でストレスなくアプリケーションやネットを利用できるという点が売りだ。韓国で宣伝しているLTEは、今のところ下り75Mbps、上り37.5Mbpsの速度で利用できる4Gネットワークである。


 サムスンのスマートフォン「Galaxy Note LTE」は11月に発売を予定する。電子ペンが使える5.3型スーパーAMOLEDで高画質な解像度をうたう。米グーグルとサムスンが手を組んで開発した「Nexus One」、「Nexus S」に続く3番目のスマートフォン「Nexus Prime」は10月11日、米国で先に仕様を公開し、韓国で11月中に発売される予定である。Android 4.0、4.5型スーパーAMOLED、1.5GHzのデュアルコアCPUを搭載しているが、LTEには対応していない。


 サムスンの2011年上半期のスマートフォンラインアップはGalaxy S2だけだったので、iPhone 5に合わせて新機種の発売日を調整しているような印象も受けた。サムスンによると、2011年9月時点の韓国の携帯電話端末市場規模は178万台、このうち145万台がスマートフォンだったという。携帯電話市場シェアは102万台を販売したサムスンが57.3%と圧倒的だった。Galaxy S2の人気はまだ根強い。

 LGの「Optimus LTE」は4.5型IPS True HDディスプレイで、ハイビジョンの高画質画像を大きくて鮮明な画面上で楽しめるのがポイントだ。1.5GHzのデュアルコアCPU、Android 2.3を搭載する。厚さも10.4mmとスリムだ。


 パンテックの「VEGA LTE」もなかなか良い。カメラがユーザーの動作を認識するモーション認識機能があるので、スマートフォンの画面にタッチすることなくカメラの上で手を振ったり決まった動作をするだけでアプリを実行したり通話したりできる。これは障害を持っている人にはとても便利な機能と言えるだろう。4.5型WXGA LCD(1280×800ドット)、1.5GHz デュアルコアCPU、1GBのメモリー、Android 2.3を搭載し、厚さは9.35mmとLTEスマートフォンの中では最もスリムだ。パンテックの防水Androidスマートフォン「Mirach」は日本のKDDIからも発売されている。








パンテック「VEGA LTE」の広告。決まった動作をすることでアプリを実行できる



 韓国では2011年内にKTが2Gサービスを停止すると発表していることから、2G用の携帯電話を使っていたユーザーが仕方なくスマートフォンに機種変更する需要も高いと見ているので、スマートフォン加入者の増加は右肩上がりを続けると見られる。


 この秋冬はiPhone 4SとiPhone 5に対抗するため、Android搭載スマートフォンが各地で続々発売されている。より高画質で、高画素カメラが付いて、処理速度が速くて、画面は大きいけど端末は軽く、UIはシンプルにしたスマートフォン競争はもっと激しくなるだろう。携帯電話端末の新機種は海外で先に発売し、数カ月ほど遅れて韓国で発売するケースが増えている。スマートフォンユーザーの増加率を見ると、これからは事情が逆転して韓国で先に発売して世界で売るかもしれない。今までずっと韓国内の発売時期は遅れてきたiPhoneシリーズ。iPhone 5こそは韓国抜きでなく、日韓で同時に販売してほしいものだ。

趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年10月15日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111014/1037659/

携帯電話、同じ機種でも国内で買うと4倍高くなる?

サムスン、LG、パンテックなど韓国の携帯電話メーカーはほとんどの場合、新機種を海外で先に発売し、数か月後韓国で発売している。海外の家電展示会で新機種を公開し、北米とヨーロッパで先に販売をしてから、韓国内でも販売を始める。韓国の携帯電話端末はIT部門の3大輸出品目(半導体、ディスプレイ、携帯電話端末)であり、韓国経済を支える重要な産業である。

 ところが、韓国の携帯電話ユーザーは新機種を海外ユーザーより一足遅く購入するだけでなく、同じメーカーの同じ機種でもより高い値段で購入していること分かり問題になった。2011年9月16日、韓国の国会で、放送通信委員会(韓国の放送政策を担当する省庁)所属の議員が、携帯電話端末メーカーが代理店に支払う販売奨励金の問題点を指摘したもの。出荷価格の差が最大4倍ある、という報告が行われた。


 サムスン、LG、パンテック3社の端末平均出荷価格を海外と韓国で比較した結果、2010年海外での端末平均出荷価格は47万6483ウォン(約3万1500円。1ウォン=0.066円で換算、以下同じ)、韓国内での平均出荷価格は63万8922ウォン(約4万2300円)と、韓国の出荷価格が16万ウォン(約1万600円)ほど高かった。


 2008年の場合、海外での端末平均出荷価格は44万4863ウォン(約2万9400円)、韓国内での平均出荷価格は53万2592ウォン(約3万5200円)で差額は約8万8000ウォン(約5800円)だったのが、2009年は海外50万3452ウォン(約3万3300円)と韓国64万4979ウォン(約4万2700円)で差額は14万ウォン(約9200円)にまで広がり、2010年と2008年の差額を比較すると2倍に広がっている。毎年韓国で買う方が高くなっているのだ。


 メーカー別にみると、LG電子のCookyフォン(LG-KP500)の場合、海外出荷価格15万2395ウォン(約1万円)、韓国内出荷価格59万4000ウォン(約4万円)と最も差が大きかった。サムスンのGalaxy Sの場合は、海外では平均出荷価格が75万3627ウォン(約4万9800円)、韓国内平均出荷価格は94万9300ウォン(約6万2800円)だった。






もっとも価格差が大きかったのはLG電子のCookyフォン(LG-KP500)


 一方アップルのiPhone 4の場合は韓国の出荷価格の方が安かった。海外出荷価格が103万9091ウォン(約6万8800円)だったのに対して、韓国の出荷価格は94万6000ウォン(約6万2600円)だった。HTCのNexus Oneの場合は、海外が66万6432ウォン(約4万4000円)、韓国は60万5000ウォン(約4万円)だった。


 国会では「メーカーは代理店に販売奨励金が支給されることを前提に出荷価格を原価より高くしている」、「奨励金が市場価格を歪曲している」、「携帯電話端末の流通をより透明にしていかなくてはならない」として、奨励金を見直すよう検討すべきという声があがった。


 韓国の携帯電話奨励金は、メーカーが代理店に支払う販売奨励金と通信キャリアがユーザーに支払う補助金の2種類がある。補助金の場合はユーザーの加入期間や加入する料金制度に応じてキャリアがユーザーへ補助金を出すので、その分端末を安く買える。メーカーの販売奨励金は代理店の利益になるので、代理店はユーザーの好みに関係なく奨励金の多いメーカーの端末を販売しようとする可能性もある。代理店はキャリアからも販売手数料をもらう。奨励金が多くなればなるほど、ユーザーは高い金額で端末を買うことになる。


 国会の資料によると、販売奨励金は2000年までも端末1台当たり2~5万ウォンだったのが、2010年には25万ウォン近くなっているという。そのせいで、同じキャリアの同じ機種でも代理店によって価格が全く違うという問題も起きている。


 公正取引委員会は、メーカーが端末の出荷価格を原価より高くして、その分を代理店に奨励金として払う行為が公正取引法を違反していないか、「顧客誘引行為」にあたるのではないかとして2011年3月より調査を始めている。調査結果は年内には発表される予定で、結果によっては販売奨励金がなくなる可能性もある。


 国会での議論に対してメーカー側は、「同じ機種でもスペックやオプションが違うので出荷価格が違うだけ。韓国で出荷される時はDMB(韓国のワンセグ)機能が搭載され、アクセサリーも無料で提供しているから価格が高くなる」と釈明している。


 しかし韓国の出荷価格は高すぎるという議論はこれが初めてではない。2006年にも国会で、「同じ機種なのに韓国の出荷価格の方が3倍ほど高い」という指摘がされている。韓国産携帯電話の輸出価格を分析したところ、2006年上半期の韓国内平均出荷価格は37万1000ウォン(約2万4500円)だったのに対して海外平均出荷価格(輸出価格)は11万ウォン(約7280円)と、3倍の差があるという資料が公開されていた。何年経っても韓国メーカーの端末が、海外では安く、韓国では高く売られていることは変わらない。


 ユーザーの一人として感じる問題点は、スペックの差、オプションの差で海外と韓国内で価格差が生じるのは分かるが、同じ機種なのに代理店によって言い値が全く違うのはどうしてだろうか。KTは流通構造を変えて、全国のどの代理店で加入しても同じ端末価格で販売する「同一価格販売制度」を導入するとまで発表した。


 しかし韓国の携帯電話代理店はほとんどがキャリア3社を同時に扱っているので、キャリアに関係なく利益の高い端末を売った方が得である。KTが同一価格販売制度を始めても、代理店はKTの顧客を他のキャリアに機種変更させて奨励金をたくさんもらえる端末を売ることもできる。結局ユーザーだけがまた損をする可能性もある。今度こそは根本的に販売奨励金制度を見直して、ユーザーだけが不当に高い値段で端末を購入しなければならない流通構造を変えてほしいものだ。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年10月6日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110921/1037014/

ハングルドメイン12年目を迎える韓国で、最も人気の文字列は

2011年8月22日から31日まで韓国インターネット振興院が契約を結んだ登録代行会社を通じて「.韓国」(「韓国」の文字はハングル)ドメインの申請を受け付けたところ、316万件の申し込みがあった。一番の人気は「不動産.韓国」だった。「.韓国」ドメインはハングル、アルファベット、数字、-(ハイフン)を1~17文字使用できる。ハングルを必ず1文字以上含まないといけない。



韓国インターネット振興院の「.韓国」ドメイン申請案内ポスター


「不動産.韓国」を申し込んだのは2759人、その次がスマートフォン.韓国で2439人、旅行.韓国が2271人、花配達.韓国が2005人、ショッピング.韓国が2004人、携帯電話.韓国が1874人、自動車.韓国が1777人、中古車.韓国が1695人、ショッピングモール.韓国が1648人、グルメ.韓国が1561人の順だった。最も多かったのは4文字のドメインで、申請件数の中で64%が1~4文字の短いドメインだった。




ハングルの表記。上が「.韓国」、下が一番人気の「不動産.韓国」の表記


 不動産の場合、退職後に、公認仲介師(日本でいう宅地建物取引主任者資格、宅建)の資格を取得して不動産事務所を経営したいという人が増えているからと見られている。旅行、花配達、ショッピングなどはポータルサイトのキーワード広告で人気のキーワードを、誰よりも早くドメインとして登録したいという人が殺到したからだろう。


 韓国インターネット振興院によると、この他にも「コーヒーの香り豊かなカフェ.韓国」、「愛している.韓国」といった個性的なドメインを申し込んだ人も多かったそうだ。


 2名以上が同じドメインを申請した件数は10万2000件あり、これは抽選で登録者を決めることになる。人気ドメインは9月20日に抽選を行いネットで公開した。正式な登録は10月6日から始まる。


 政府機関と公共機関が約3500件、商標権登録者が約2800件は既に5月に優先登録した。今回申請されたのは一般登録分である。


 韓国では12年前の1999年から「(ハングル).kr」、「http://(ハングル)」のドメインが普及しているが、登録されているのはまだ5万件ほど。それに比べると「.韓国」の人気はどれほど高いか分かる。


 「http://(ハングル)」のドメインは2011年1月から携帯電話やスマートフォンにも対応していて、検索キーワードではなく、アドレスのところにキーワードを入力すれば登録されているサイトにつながるようになっている。企業名、サービス名をハングル(韓国語の文字)のままアドレスに入力しても、そのサイトにつながるようになっている。スマートフォンやタブレットPCのようにタッチ式の画面からドメインを長々と入力するのは面倒なので、短い韓国語ドメインが大活躍すること間違いない。


 韓国のハングルドメインと「.韓国」ドメインはNetpiaという韓国のベンチャーが開発したものである。自国語ドメインは1999年に開発され、その年シンガポールで開催されたAPRICOT(Asia Pacific Regional Internet Conference on Operational Technologies)で公開している。それから議論が始まり、10年後の2009年、ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers、ドメイン名やIPアドレスを管理する民間の非営利法人)は世界で自国語ドメインが使えるよう決議した。


 韓国では、高齢者ユーザーの場合、アドレスをアルファベットで打ち込むこと自体を難しいと感じるようで、ポータルサイトから韓国語で検索してリンクをクリックしてサイトに移動するという人が多かった。「.韓国」のドメインが定着すれば、覚えやすく入力しやすいので、ネットマーケティングにキーワード広告ではなく、Webのアドレスを活用するケースが増えそうだ。


 筆者も英語のドメインだと、公共機関の場合or.krなのかgo.krなのかで迷って何度もアドレスを入力し直した経験があるので、韓国語で機関名だけ入力するか、機関名.韓国でWebサイトにアクセスできるようになって便利だと感じている。


 情報通信政策を担当する省庁の放送通信委員会は、「10年前からネットで主な行政サービスを利用できるようにしているが、WEBサイトのアドレスが覚えられなくて思い立った時にすぐ使えないという人もいた。覚えやすいハングルドメインを使うことで、公共サービス利用の便宜性が大きく改善されるだろう」と期待している。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年9月29日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110922/1037035/

3DTVを技術とコンテンツ両方でアピールしたLG

 IFA2011ではサムスンが「Smart」をテーマにタブレットPC、ノートパソコン、スマートTV、デジカメ、家電など展示参加企業の中で最大面積を使って新製品を展示したのに続き、LGも「Do It All In 3D」をテーマに3DTV、3Dプロジェクター、3Dスマートフォンなど3Dデバイスのラインアップを展示した。


 LGは新製品を披露することよりも3Dの技術力をアピールすることに集中した様子だった。LGの3DTVはフルLEDで、「シネマ3D」というブランド名で発売されている。電子機器の検査・認証機関であるIntertekより、画面がチカチカしない「Flicker Free」の認証を受けた。3DTVの弱点と言われているのが、画面が絶えずチカチカする、3Dの残像のせいで目が疲れるといったことであるが、これにより、LGの3DTVは他のメーカーとは技術力が違うという点をしきりにアピールした。




2015年ヨーロッパ市場で家電シェア1位を目指すLGは、3DTVと独自の人工知能技術を搭載したスマート家電を中心に展示した



 LGはIFAのために、軽くて目が疲れないという3Dメガネ10万個を用意した。これは単一展示会で配られた3Dメガネの数としては史上最多だという。このメガネ一つで3DTV、3Dプロジェクター、3Dノートパソコンなど複数のデバイスを利用できるようになっている。


 3Dコンテンツも充実している。米ナショナルジオグラフィックと共同で、世界初の3D写真映像展を開催したのだ。ドキュメンタリー作家6人が、3D写真を撮影できるスマートフォン「Optimus3D」で撮影した写真や動画が3DTVを使って公開された。また、3Dコンテンツを観るだけでなくユーザーが直接3D映像を制作して楽しめる展示も準備した。「Optimus3D」と3DTV、3Dノートパソコン、3Dプロジェクターがあれば、誰でも3D映像を撮影してノートパソコンで編集して楽しむことができる。2D画面を3Dに変える機能を使って、マイクロソフトのゲームを3Dに変換して楽しむコーナーも設け、観客を集めた。


 LGはスマートTV向けコンテンツとして、地上波テレビ局の子会社であるSBSコンテンツハブと提携し、韓流ドラマとKPOPコンサートとプロモーションビデオ、KPOPスターのファンミーティングやプライベートなど未公開映像260本80時間分を用意した。3DスマートTVを購入すれば誰でも利用できるグローバルライセンスのコンテンツであり、今後も持続的にアップデートされる。韓流コンテンツは有料と無料に分かれている。


 LGは欧米で3DスマートTVブームを巻き起こしたいと意欲的になっていることから、今ヨーロッパで話題の韓流コンテンツもセットで提供することで注目されることを狙っているようだ。韓流コンテンツが付くスマートTVは9月中に韓国と米国で発売され、フランス、イタリア、ブラジル、インドネシアなど韓流ブームが起きている地域から順に発売していく。


 3D以外にLGの面白いデバイスとして展示されたのはマウススキャナー。マウスで文書と画像を選択するだけで自由に保存でき、A3用紙(297×420mm)の大きさまでマウスでスキャンすることができる。スキャンした図表と文字をテキストに変換するOCR(Optical Character Recognition)機能も搭載した。


 そのほか、LGは会場で記者懇談会を開き、「2015年までにヨーロッパ市場で洗濯機は13%、冷蔵庫12.5%の市場シェアを目指し、売り上げ1位を達成する」と宣言した。そのために人工知能を備え、スマートグリッドを利用して節電効果の高いスマート家電も展示した。「Smart ThinQ」という独自の技術を搭載する。


 Smart ThinQの具体的な内容は、冷蔵庫の中の食品を最適な温度に自動調整して管理する「スマートマネージャー」、製品に問題が発生した場合スマートフォンへ知らせてくれる「スマート診断」、電源や機能を遠隔で制御する「スマートアクセス」、製品の細かな機能をダウンロードしてアップグレードできる「スマートアダプター」の4つである。


 韓国からはサムスンとLG電子の他にも50社ほどの中小企業が参加し、スマート家電を展示した。自動的に機械の内部を掃除する浄水器、水だけで細菌を99.9%殺菌するという電気分解ビデ、美容家電、防犯カメラが付いたロボット掃除機などである。電子メーカーが会員として参加する韓国電子情報通信産業振興会もブースを出して、韓国企業の技術力をアピールした。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年9月22日]

-Original column
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KT「スパイダーフォン」のユニークな“変身”タブレットPC

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IFA2011は家電の展示会として主に家電メーカーが参加してスマート家電や3DTV、タブレットPC、スマートフォンを展示した。韓国からは通信事業者のKTも展示に参加した。KTがIFAに参加するのはこれが初めてである。


 KTの目玉は「スパイダーフォン」。発売日は未定である。スパイダーフォンは、「Pad kit」、「Laptop kit」、「Game kit」というアクセサリーキットを端末につなげることで、スマートフォンがタブレットPCに変身したり、ノートPCに変身したり、ゲーム機に変身するといったものである。


 米モトローラからもノートパソコンの合体する「アトリックス」というスマートフォンが発売されている。ただ、アクセサリーの価格が高くてノートパソコンを買った方が安いのが難点である。アトリックスは韓国でもKTから発売されているが、スマートフォンの端末価格は約7万円、ノートパソコン型のドッキングアクセサリーは約3万5000円もするのだ。サムスンのスマートフォンを買って、安いネットブックを買った方がもっと使いやすく安上がりである。


 スパイダーフォンとノートパソコンの形をしたLaptop kitを合体させると、スマートフォンのCPUとメモリーがLaptop kitを動かしノートパソコンを使うかのように作業ができる。スパイダーフォンをPad kitの後ろに入れると、10.1型のタッチ式画面が使えるようになりタブレットPCに早変わりということである。KTのクラウドサービスにも簡単につながるので、仮想オフィス、仮想デスクトップ機能も利用できる。




初めてIFAに参加した通信キャリアのKTの目玉は「スパイダーフォン」。アクセサリーキットとドッキングしてノートパソコンとしてもタブレットPCとしても使える。女性が右腕で持ち上げるノートパソコンの手前、左腕奥のタブレットの裏側、手前のゲームコントローラーの前面にスライドして挿し込む




スパイダーフォンのCPUは、米クアルコム1.5GHzデュアルコア、OSはAndroid 2.3。4.5型の画面(WXGA)に800万画素と300万画素のカメラを備える。バッテリーの容量は1710 mAh、重さは141 gである。製造はKTの子会社であるKTテックである。


韓国のスマートフォンユーザーが集まるコミュニティサイトでは、去年(2010年)の11月ごろからKTテックがスマートフォンを開発しているという噂が流れ、どんなものなのか注目されてきた。KT独自のスマートフォンはIFAで初めて公開されるらしいという情報が流れ、IFA開幕直後にはスパイダーフォンのデモ動画が投稿された。


 サムスンやLGのスマートフォンとスペック競争をするより、スマートフォンの拡張性というアイデアでKTが勝負しているところは高く評価するとしながらも、「肝心なのはアクセサリーキットの値段」、「アトリックスのように絵に描いた餅にならないといいのだが」といった人々の書き込みがコミュニティサイトで増えている。


 スパイダーフォンはまだ発売日も値段も決まっていない。初期の販売台数を伸ばすために、Game kitの値段を1500円ほどに安くして発売する可能性もあるのでは、といった予測もされているが、KT側は11月に発売を予定しているというだけで、まだ公式には値段を発表していない。しかし、KTがスパイダーフォンを開発した理由は複数のデバイスを買わなくても済むようにするためなので、値段はモトローラよりも安く設定される見込みである。


 KTは、スパイダーフォンの拡張性を広げるために、ハードウエアとソフトウエアのインタフェースソースを公開して、どのメーカーからもスパイダーフォンとつながるキットを発売できるようにする方針だという。スパイダーフォンにつなげられるヘルスケア機器、ドッキングスピーカーなど、スパイダーフォンを中心とした周辺機器市場が生まれることにも期待しているという。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年9月16日]



-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110915/1036888/

5.3型「Galaxy Note」初公開、最多展示で注目集めたサムスン

2011年9月2日から7日までドイツのベルリンでIFA2011(Internationale Funkausstellung)が開催された。世界最大規模の電子・家電・マルチメディア展示会だけに、韓国からもサムスン、LG、KTをはじめ、50社ほどの中堅企業が参加した。

 IFAに参加した韓国勢のテーマは「スマートライフ」と「3D」。サムスンとLGはタブレットPC、スマートフォン、3DスマートTV、3Dウォール、スマートグリッドシステム、情報家電を中心に多彩な新製品を展示して注目を浴びた。韓国でもサムスンがIFAでどんな新製品を展示したのか、使ってみるとどうだったのかがTwitterやブログに多数投稿された。展示会前日に行われたプレスカンファレンスはネットで生中継され、32万人が視聴したほど人気を集めた。






IFA2011で最多品目を展示したサムスンのブース。独自のOS「BADA2」を搭載したスマートフォン「WAVE3」(真ん中)などを見せる展示会スタッフ。5.3型のスマートフォンでSペンという電子ペンがついているGalaxy Note、3DスマートTV、2000万画素のデジタルカメラ、スマート冷蔵庫など、「スマートライフ」をテーマに約2200坪ものスペースを使って新製品を展示した

サムスンはアップルとの特許訴訟問題で、タブレットPCでは初めてAMOLEDを搭載し、タブレットPCの高画質競争を巻き起こすと期待された「GalaxyTab7.7(7.7型)」の展示を2日目から取りやめるというハプニングもあったが、2012年発売予定の5.3型スマートフォンGalaxy Noteだけでも観客の視線を集めるには十分だった。

 Galaxy Noteは、Sペンという電子ペンが内蔵されていて、これを使って手書きメモをそのまま保存できるのはもちろん繊細な絵まで描けてしまうという。Sペンは既存の電子ペンとは違い、自然な筆記感を持っているというので、メールや写真の上に書き込むなどいろいろな用途で使えそうだ。


 Galaxy NoteはGalaxy S2(4.5型)よりは大きく、Galaxy Tab(7型)よりは小さい。重さは178gで380gのGalaxyTabの半分ほどである。Android2.3、LTEネットワーク対応、800万画素カメラ、フルHD動画の録画などスマートフォンの中でも最高レベルの仕様となっている。画面はWXGA(1280×800ドット)のスーパーAMOLEDを搭載しているだけあって、観客らのブログで紹介された内容を見ると、自然の色彩をほぼ100%再現できていると評価されていた。サムスンはSペンを利用したアプリを増やすため、APIを公開するとしている。


 スマートフォンは、サムスンが開発したOS「BADA2.0」を搭載した4型のスーパーAMOLEDディスプレイの「WAVE3」が公開された。BADAは2010年5月に発売した端末「WAVE」に初めて搭載されてから、「WAVE2」、「WAVE525」、「WAVE575」など7つのモデルが発売されている。


 グーグルのモトローラ・モビリティー買収後、Androidに依存せず独自のOSとソフトウエア開発に力を入れているとしきりに強調してきたサムスンだけに、BADA2.0はHTML5対応、音声認識、マルチタスキング、ソーシャルハブ(複数のソーシャルネットワークサイトをまとめて管理できるメニュー)、メッセンジャーなどの機能が追加された。


 2011年10月には韓国でBADA2.0が搭載されたスマートフォン「WAVE M」と「WAVE Y」が発売される予定である。「WAVE M」は3.65型で320×480ドットのHVGA TFTディスプレイに500万画素のカメラ、女性が持ちやすいよう曲線的なデザインになっている。「WAVE Y」は初めてスマートフォンを使うユーザー向けで、シンプルなUIで使いやすさを追求した。3.2型HVGA TFTディスプレイに200万画素のカメラが搭載されている。


 ノートパソコンの性能とタブレットPCの携帯性を持ち合わせたサムスンのWindows搭載「SLATE PC」は、タブレットPCでは物足りず、ノートパソコンよりはさくさく使える端末をほしがるビジネスマン向けに企画されたもので、「これは便利!」と観客をうならせた。11.6型で厚さ12.9mm、重さ860g、15秒でWindowsが立ち上がり、スリープモードからは2秒でWindowsを再開できる。ディスプレイはタッチ方式で、仮想キーボードにも対応している。しかし問題はタブレットPCにしては高い値段。約15万円もする。この値段ならハイスペックノートパソコンを買いたいという人の方がまだ多いかもしれない。


 性能とデザインが改善されたレンズ交換式のミラーレスカメラ「NX200」もサムスン自慢の新製品である。2000万画素APS-C サイズのCMOS、1秒7連写、フルHD動画も撮影できる。デジカメの「MV800」には、サムスンデジカメ初の3DPhoto機能が搭載された。


 サムスンの情報家電は、既存の洗濯機より最大70%電気代を節約し、細かい泡をたくさん作ってよりきれいに洗濯してくれる「Eco Bubble」洗濯機、米国で販売を開始したスマート冷蔵庫、遠隔制御できる掃除機などが展示された。スマート冷蔵庫はWi-Fiと8型のLCDを搭載して、多様なアプリケーションを利用できるようにした冷蔵庫である。ショッピングアプリケーションを利用すれば、冷蔵庫から食材を注文して決済までできるという。


 また、サムスンが力を入れているスマートグリッド関連システムも展示され、エネルギー消費を効率的に管理するためのホームエネルギーシステム、太陽光発電を利用した洗濯機、地熱システムによる暖房を体験できるスマートホームが公開された。


 IFA2011を報道する新聞記事に寄せられた読者のコメントを見ると、サムスンも面白い新製品がたくさんあって興味深いが、東日本大震災にもかかわらず新製品を多数公開したソニー、東芝、シャープといったメーカーもすごいという反応が多数書き込まれていた。3DTVとタブレットPCは日本メーカーのものは個性があるので使ってみたくなるというコメントも多かった。


 次回はLGと中堅メーカーの展示内容を紹介する。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年9月9日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110909/1036727/