ソウル市、不要な携帯電話を回収して奨学金にする取り組み

日本と同じく、韓国の携帯電話販売代理店にも要らなくなった携帯電話端末を回収するボックスがある。それだけでなく全国の郵便局、区役所にも回収ボックスが置かれている。家の中で眠る携帯電話やバッテリーを回収してリサイクルしようというキャンペーンは何度も行われてきた。しかしそのほとんどが単発的な期間限定のイベントだったため、期間終了後は代理店や郵便局まで持って行くのが面倒だからとゴミとして捨てる家庭も多かった。

 そこで思い立った時にいつでも携帯電話を回収できるよう、ソウル市では2012年1月から279の地下鉄駅構内にも回収ボックスを置くことにした。マンション団地ではゴミ回収の日に携帯電話を別途回収するようにした。


 さらに、回収された携帯電話をリサイクルして、部品を再資源化し、その収益を奨学金にする「廃携帯電話奨学金」という活動を始めた。日本でも総務省、経済産業省、環境省が力を合わせて「携帯電話リサイクル推進協議会」を運営する。韓国は一歩進んで、携帯電話を捨てずに回収すれば環境のためにもなり、さらにその収益が奨学金となるので2度社会貢献できるという点をアピールする。






韓国では2009年から全国の郵便局でもいらなくなった携帯電話を回収している。2012年1月からはソウル市全ての地下鉄の駅でも回収する


この「廃携帯電話奨学金」のきっかけは、環境キャンペーンがきっかけとなった。2011年、中央省庁の一つである環境部が全国の携帯電話販売代理店、学校、大手スーパーマーケット、競馬場で携帯電話回収キャンペーンを実施し、151万台を回収、再資源化して部品を売り10億8000万ウォン(約747万円)の収益を上げた。これを全額、低所得層青少年のための奨学金として使った。このキャンペーンを継続して奨学金を増やしていくため、ソウル市をはじめ、自治体が積極的に動き始めた。


この「廃携帯電話奨学金」のきっかけは、環境キャンペーンがきっかけとなった。2011年、中央省庁の一つである環境部が全国の携帯電話販売代理店、学校、大手スーパーマーケット、競馬場で携帯電話回収キャンペーンを実施し、151万台を回収、再資源化して部品を売り10億8000万ウォン(約747万円)の収益を上げた。これを全額、低所得層青少年のための奨学金として使った。このキャンペーンを継続して奨学金を増やしていくため、ソウル市をはじめ、自治体が積極的に動き始めた。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年2月10日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120210/1041106/

NTTドコモの通信障害は“対岸の火事”ではない韓国通信事情

スマートフォンから使う無料通話アプリが原因で、2012年1月25日にNTTドコモのサービスで通信障害が発生したというニュースは韓国でも報道された。韓国も同じく3Gネットワークを経由した無料通話アプリが大人気で、これが大量のデータトラフィックを誘発していることからネットワーク障害が度々発生しているからだ。

 韓国ではスマートフォンを買うと真っ先に無料メッセンジャーと、加入者同士が無料になる音声通話アプリをダウンロードするほどである。通信キャリアのLGU+からは、Skypeのように加入者同士は無料、通常の半額ほどの料金でスマートフォンから固定電話や携帯に電話をかけられる有料の音声通話アプリも登場した。






キャリアのLGU+が始めた有料音声通話アプリ「U+070」。Skypeのように加入者同士は無料で、スマートフォンから固定電話や携帯電話へは通常の半額ほどで電話をかけられる


韓国放送通信委員会は2012年2月より、韓国内の有無線データトラフィック状況を把握できる「トラフィックマップ」制作に着手する。どのサイトがどれぐらいデータトラフィックを使用しているのかを把握できるようにするためのものである。トラフィックマップがあれば、ブロードバンド、2G、3G、Wibro(韓国のWiMAX)、LTEそれぞれのネットワーク上でどのような類型のサービス(例えば音声通話・映像通話アプリ、映像配信、テキスト、ゲームなど)が、どれぐらいのトラフィックを使っているのかが分かる。

 同委員会は2012年度の主な事業としてこの「トラフィックマップ制作」を挙げているほど力を入れる。より効率的なネットワーク投資計画を立てられるデータとして活用できると期待しているからだ。


 トラフィックマップについて「通信障害を事前に防止するための処置」、「キャリアと政府系ITシンクタンク、学界が参加するモバイルトラフィック急増対策班がマップをどのように活用するか議論していく」(同委員会)としている。説明によると、トラフィックマップを作り国全体のネットワークを管理することは米国で始まり、主な先進国で既に導入されているという。マップは企業の内部資料を集めたものなので一般に公開せず、通信事業者のネットワーク投資の資料として利用するという。


何が「合理的なトラフィック管理」なのか



 また合理的なトラフィック管理のためのガイドラインも公開した。これには大量のトラフィックを誘発しているアプリやサイトに一時的にアクセスできないよう通信事業者が遮断できるという内容が含まれているため、ネットユーザーの間で反発が巻き起こっている。トラフィック増大を理由に無料通話や無料テレビ中継といったサービスをシャットアウトし、通信事業者の有料電話や有料アプリだけ使わせるのではないかという心配からだ。


 同委員会は基本的にはネットワーク中立性を守り、どのサイトやアプリにもアクセスできるようにするのが前提とした上で、利用者の権利を守るため「シャットアウトできる条件」3つを挙げている。ネットワーク障害から多数の利用者の利益を保護するために必要と認められた場合、ネットワークのセキュリティと安全性を確保するために必要と認められた場合、国家機関の法令に基づく要請や法執行のために必要と認められた場合である。トラフィックマップとガイドラインを作るきっかけとなった無料音声通話アプリのことは具体的に触れていないため、「合理的なトラフィック管理」とは何かをめぐり、当分は議論が続きそうだ。


 SKテレコムの資料によると、2011年韓国のモバイルインターネットはSKテレコムだけで月1万TBのデータトラフィックがあり、夜9時から11時にトラフィックが集中し、常に処理できる容量の95%を使い切っているという。韓国のキャリアは3社ともに似たような状況で、「データトラフィックが爆発的に増えると予測はしていたものの、あまりにも急速なのでネットワークを増設しても追いつかない」、「クラウドサービスが本格化したらもっと大変なことになる」と口をそろえている。


 ネットワーク障害を防ぐための対策として、周波数確保も話題になっている。放送通信委員会は2013年までに700MHz、1.8GHz、2.1GHzの帯域170MHzをキャリア3社に割り当てる。2020年まで600MHz以上の周波数を確保するプランも練っている。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
[2012年2月2日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120202/1040844/

「実名登録で本人確認」国民総背番号制の“功罪”

 2007年7月から始まったインターネット実名確認制度に変化が訪れた。ネットの会員登録や掲示板に書き込みをする際には、国民IDである住民登録番号と氏名で本人確認をしないといけないというのが「インターネット実名制度」である。


 警察庁サイバーテロ対応センターの統計によると、韓国のサイバー犯罪(違法複製、詐欺、誹謗中傷など)の検挙率は90%近く。他の国より圧倒的に検挙率が高い理由の一つとしてインターネット実名制度が定着していることを挙げていた。


 ところが2009年、YouTubeが韓国の実名制度に反発して韓国語サイトからは動画をアップロードできないようにしたことがきっかけとなり、Webサイトを利用するだけでもっとも重要な個人情報である住民登録番号を企業に提供する必要があるのかという議論が続いていた。


 2010年と2011年にはインターネットショッピングサイトとポータルサイトが次々にハッキングされ、3500万人を超える会員の氏名、住民登録番号、電話番号といった個人情報が盗まれた。中国の掲示板サイトに韓国人の住民登録番号が出回り、問題になったこともある。


 政府機関である韓国のインターネット振興院は「住民登録番号クリーンセンター」を運営していて、自分の住民登録番号がどのWEBサイトでどのような目的で使われたのかを確認できるようにしている。住民登録番号と名前を入力すると、その番号が使われたサイト名、サイト区分(ポータル、ゲーム、アダルトといった区分)、利用された日付、利用目的(会員登録、年齢確認など)といった情報を確認できる。ここで住民登録番号を確認してみたところ、会員登録した覚えのないアダルトサイト、オンラインゲームサイトの会員になっていたという被害が続出した。






韓国インターネット振興院が運営する「住民登録番号クリーンセンター」のホームページ。自分の住民登録番号がどのWebサイトの会員登録に使われたのか、つまり個人情報が盗用されていないか確認できる



 それだけではない。電話を使ったなりすまし詐欺であるボイス・フィッシングにもこの住民登録番号が使われた。金融機関を装い、あなたの住民登録番号でクレジットカードが発行されたが本人確認のために電話したといい、住民登録番号をいう。自分の住民登録番号に間違いないので相手を信用してしまう。すると相手は「クレジットカードが悪用され口座からお金が引き出されるのを止めるために、指定の口座に貯金を全額振り込めば保護する」と言う。これが韓国の典型的なボイス・フィッシングである。名前、住民登録番号、電話番号、住所を相手が全部知っているのでつい騙されるお年寄りが多く、社会問題にまでなった。


 韓国にしか存在しない住民登録番号を使った実名制度に対して海外企業の反発も根強く、結局2011年4月、ネット政策を担当する放送通信委員会は、TwitterやFacebookといった海外企業が提供するSNSサイトは実名制度を適用しないことを決めた。



 2011年12月にはポータルサイトのNAVERとDAUM、オンラインゲームサイトらが会員情報として保存している住民登録番号を破棄し、今後は第3の本人確認を専門とする機関を通すなどして、住民登録番号をサイト運営会社が保存しない本人確認制度を導入すると発表した。


 NAVERの場合、携帯電話番号で会員登録できるが、掲示板に書き込む際には住民登録番号を使った実名確認が必要である。以前と違うのは住民登録番号をNAVER側が保存しないということである。実名を確認したらすぐ個人情報を廃棄することで、ハッキングされる危険もなくなる。NAVERは会員情報として氏名、ID、電話番号だけ保存するとしている。


 オンラインゲームサイトのNEXONも2012年4月からは会員情報として住民登録番号を要求せず、個人情報は最小限しか保存しないと発表した。NEXONは2011年、1320万人の会員情報がハッキングされる被害に遭っている。


 国民IDである住民登録番号を使って番号で個人を管理すると、企業側にとっては番号で会員を管理できるのでとても便利であり、複数のDBを番号で紐づけてつなげられることからが効率よくマーケティングができるという利点もあった。「個人情報活用同意」というところにチェックしないと会員登録できないようにして、グループ会社同士で氏名と住民登録番号を共有し、保険や有料サービスの勧誘をするところもあった。


 放送通信委員会は、2014年までに「情報通信網医療促進及び情報保護などに関する法律」を改訂して、一般事業者が営利目的で住民登録番号を収集することを禁じる制度をつくろうとしている。


 住民登録番号という国民IDは本来、北朝鮮からのスパイを選び出すための制度として60年代に導入され、教育、医療、徴兵、租税、福利厚生、金融といった個人情報をベースによりよい行政サービスを提供するために使われるはずだった。それが個人を簡単に管理できるとして、企業が無理やり住民登録番号を登録させるようになっていた。


 ネットでは「日本やアメリカではネットサービス会社がメールアドレスで個人認証をしている。韓国だけが過剰に個人情報を収集している。今からでも住民登録番号は行政サービスのためにしか使えないように管理すべき」と賛成意見が多い。一方で「既にハッキングで個人情報を盗まれた人はどうしたらいいのか。自分の住民登録番号が知らないところでたくさん使われているので怖い。番号を新しく変えたいがどこで相談すればいいのか」という意見もあり、ハッキング被害者の個人情報管理についても政府がガイドラインを出すべきという意見もあった。


 日本でも国民IDを導入する議論が続いている。韓国のようにならないためにも、国民IDの使用目的と使用範囲を明確にしないといけないだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2012年1月27日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120127/1040663/

2012年、スマートフォン普及の次は高速通信LTEに大注目

 スマートフォンを「よりスマート」に使えるネットワークとして、韓国では今、LTE(long term evolution)が注目されている。LTEは、理論上の最大伝送速度が下り326Mbps、上り86Mbpsと高速通信を可能にする仕様。2009年11月のスマートフォン発売をきっかけにパソコンからモバイルへとネット利用環境が大きく変化しているこの国では、2012年もスマートフォン、SNS、クラウドコンピューティングなどが重要なキーワードになっている。


 LTEであれば、スマートフォンユーザーはいつでもどこでも高速通信できるので、高精細クラスの動画を見たり、SNSを楽しんだり、クラウドを利用したりと幅広いサービスが使いやすくなる。


 2011年9月、SKテレコムがLTEサービスを開始した。その後、LGU+が「SKテレコムのLTEは途切れやすく使い物にならない」という比較広告を2011年11月に始めてから、LTE競争に火がついた。LTEに興味を持つユーザーが増え、LTE加入者も2011年末でSKテレコムとLGU+合わせて120万人を突破した。KTも2012年には2Gサービスを終了してLTEに力を入れるとしているので、通信キャリア3社のLTE競争は今年から本格的に幕開けとなる。


 キャリア3社の中でシェア3位であるLGU+は、2012年6月に予定していた全国LTEカバレッジ達成を3カ月早め、3月には達成するとしている。3月に実現すれば、韓国は世界で初めてLTEの全国カバレッジを達成することになる。LGU+は「2012年、生き残りをかけてLTEに全力を注ぐ」とする。


 SKテレコムも予定を8カ月早めて2012年4月にはLTE全国カバレッジを達成すると宣言した。KTも予定を1年8カ月以上早めて2012年4月までは全国カバレッジを目指し、より安いLTE料金で差をつけてスマートフォンユーザーを囲い込むとしているので、スマートフォンに続いてLTEも韓国が他の国より早く普及するだろう。


 2009年末から2010年の初め、スマートフォンが登場して間もない頃に購入した人の場合は、24カ月の契約期間も終わり、機種変更する時期でもある。スマートフォンに新規加入する人や機種変更する人は、シンプルな端末よりもNFC(近距離無線通信)によるモバイル決済(スマートウォレット)にも対応していてネットワーク速度も速いLTE端末を選ぶと見込まれる。



 米ラスベガスで1月10日~13日に開催した家電展示会「2012 International CES」でも、各メーカーはLTE対応をうたうスリムでバッテリーが長持ちするスマートフォンとタブレットPCを展示した。


 サムスンとLGからはLTE対応スマートフォンとタブレットPCが続々発売されている。2012年上半期はLTEスマートフォンだけでなくLTEタブレットPCの商戦も激化すると予想されている。2012年3月にLTE対応iPad 3が発売するのではという可能性について報道があったことから、サムスンはGalaxy8.9 LTE(8.9型)に続いてGalaxyTab 7.7 LTE(7.7型)を、LGはOptimus Pad LTE(8.9型)を1~3月の間に発売するとしている。2011年11月に発売したLTEスマートフォンの「GalaxyNote」は液晶が5.3型と大きく、タブレットPCとスマートフォンの両方を持ち歩くより便利だとして人気を集めている。







サムスンは2012 International CESでGalaxyTab 7.7 LTEを展示した








1月4週目から発売されるLGのLTE対応タブレットPC「OptimusPad LTE」は、一足先に発売されたGalaxyTab 8.9 LTEと同じ8.9型である。

サムスンもLGも、高速のLTEネットワークを使って、クラウドサービスを利用できて、スマートラーニング、スマートヘルスケア、スマートワーク(在宅勤務)といった本格的なスマートライフを堪能できる端末であると宣伝している。

 韓国のキャリアは、スマートフォンが登場してから爆発的に増加しているトラフィック問題を解決するため、LTEではデータ通信使い放題の定額料金をやめた。LTE料金体系はキャリア3社がほぼ同じものを提供するが、LGU+はデータ通信が少し安く、KTは音声通話無料分が多いといった差がある。LGU+の場合、一番安い料金は月額3万4000ウォン(約2300円)で音声通話160分、SMS200件、データ通信500MBまで使える。一番高い料金は月12万ウォン(約8100円)で、音声通話1500分、SMS1000件、データ通信13GBまで使える。


 データ使い放題がなくなったことで料金的負担はあるものの、2012年のLTE加入者をSKテレコムは500万人、KTとLGU+はそれぞれ400万人と、スマートフォンユーザーの3分の1はLTEを使うと見込んでいる。キャリアの予測通りにいけば、2012年にはスマートフォンユーザーの2.5人に1人はLTEを使うことになる。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2012年1月19日]

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120119/1040447/

韓国20~30代、パソコンとモバイルのネット利用時間が逆転

 韓国インターネット振興院が毎年発表する「無線インターネット利用実態調査」によると、2011年9月時点で12~59歳の韓国のモバイルインターネット利用率は前年比で5.9ポイント増加し、65.2%となった。


 年齢別には20代の利用が94.1%と最も多く、その次が12~19歳の85.2%、30代の78.2%、40代の45.0%と続く。


 スマートフォンの利用率は2.6%(2009年)から36.6%と約15倍に増えている。タブレットPC(韓国では「スマートパッド」という)の利用者は2010年の1.2%から3.1%に伸びた。


 モバイルインターネットにアクセスしている端末はスマートフォンが60.1%と最も多く、これも2010年(13.8%)と比べ4倍以上伸びている。利用するモバイルインターネットの種類はWi-Fiが69.2%と最も多かった。韓国は2010年から地下鉄駅構内はもちろん、地下鉄の車両の中、バスの中、図書館、いたるところでWi-Fiが使える。フリースポットも多い。そのため3Gよりは料金の負担なく使えるWi-Fiの利用が集中している。





韓国は2010年からWi-Fiスポットが増えていて、全国のほぼどこでも、地下鉄の車両の中でも、バスの中でもWi-Fiが使える。フリースポットも多いため、3GよりWi-Fiを利用する人の方が多い


モバイルインターネットから利用するコンテンツは情報検索(71.4%)、音楽(70.1%)、ニュース(57.6%)、メッセンジャー(56.1%)、SNS(45.0%)の順だった。

 またモバイルインターネットユーザーの51.6%が「モバイルインターネットを使うようになって有線インターネット利用時間が減少した」と答えている。また36.4%は「有線インターネットが使える環境でもあえてモバイルインターネットを使う」と答え、「インターネット」=「有線ブロードバンドとパソコン」だった韓国のネット環境が、急速にスマートフォンとWi-Fi中心に変わっていることを確認できた。


 今回の調査の中で浮き彫りになったのは、「スマートデジタルデバイド」である。


 大卒以上のモバイルインターネット利用率は69.8%、高卒以下の利用率は40.3%と、その差は広がっている。韓国はデジタルデバイド、所得による情報格差を解消するため、生活保護を受けている低所得層には国が無料でパソコンを支給し、KTが無料でインターネット接続を提供するといった支援を行っていた。スマートフォンの時代でもそのような支援をするのか、それとも別のアイデアがあるのか、対策を考えるべき時期を迎えている。



 一方、ポータルサイトのDAUMとLG経済研究院が共同で、2010年8月から2011年9月までモバイルWebとPC Webの利用動向を比較した結果も発表された。


 これによると、20~30代の場合、インターネットに接続する際に携帯やスマートフォンを使う「モバイルWeb」が70.6%、パソコン経由でWebに接続する「PC Web」が57.5%とモバイル機器からネットにアクセスする方が多くなっていた。PC Webは主に仕事用として昼に利用し、モバイルWebは私用に移動中や夜間に利用していた。


 モバイルから利用するコンテンツとしては、交通情報、乗り換え案内、バス到着時間、道路情報、出前、グルメなど位置情報基盤検索やリアルタイム情報検索を利用する人が多い。移動中や暇つぶしに利用できるエンタメ情報、ソーシャルコマースやオーディション番組の情報も頻繁に検索されていた。


 またページビューを比較してみたところ、女性はマンガ、音楽、映画、料理、女性用掲示板のコンテンツをよく利用し、男性はニュース、スポーツ、掲示板のコンテンツをよく利用することが分かった。


 今後は20~30代だけでなく、中年層においても有線インターネットよりモバイルインターネットの利用者が増えると見込まれていることから、KTは40代以上主婦向けサービスとして「スマートホームパッド」を発売した。


 サムスンの8.9型Galaxy Tab端末に、主婦向けアプリとしてテレビ電話、位置情報を利用した地域情報案内、IPTV、音楽鑑賞、ニュース、クーポン、ホームセキュリティ、スマートホームドクター(ヘルスケア)などをインストールしている。KTのアプリケーションストアを利用すれば他のアプリもインストールして使える。タブレットには地上波DMB(ワンセグ)受信機能が付くので、テレビも観られる。


 スマートホームパッドは設定をいじる必要もなく、顔写真を登録すると性別と年齢を判断しておすすめの音楽と動画を推薦してくれる機能が付くのが特徴である。若い人のように自分もタブレットPCを使ってみたいけど、使い方が難しそうだからとあきらめていた主婦をターゲットに、誰に教えてもらわなくても使える端末とアプリであることをアピールしている。


 スマートホームパッドの利用料金はテレビ電話・音声通話100分、Wi-Fi、IPTV、音楽、専用アプリ含めて2年間契約すると端末価格を含めて1カ月3万ウォン(約2100円)。KTは幼児向け、シニア向けのタブレットとアプリ、Wi-Fiをセットにしたサービスも企画しているそうで、国民がパソコンよりスマートデバイスとモバイルインターネットを使う日も遠くないようだ。

趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2012年1月17日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120105/1040084/

人気検索キーワードで分かった、韓国人はスマホとエンタメ情報に首ったけ?!

 韓国の検索ポータル市場シェア73%を占めるNAVERが、2011年の検索キーワードランキングを同年12月、発表した。


 NAVERで検索されたキーワードの1位はソーシャルコマースサイトの「クーパン」、2位もソーシャルコマースサイトの「チケットモンスター」であった(関連記事)。ソーシャルコマースは日替わりで商品を半額で販売していて、SNSで口コミが広がり一定以上の人が購入するとさらに割引されるショッピングサイトである。


 3位は地上波テレビ番組の「私は歌手だ」。歌番組なのだが、歌手を7人出演させて、聴衆の投票で1位から7位までを決め、最下位になった人は脱落しまた新しい歌手が登場するというプロの歌手を対象にしたサバイバル番組である。毎回自分の持ち歌ではなく、他の歌手の曲をアレンジして歌う課題が出されるので、今週はどんな曲が課題なのか、誰が脱落するのか、新しく合流するのは誰か、今番組で流れる曲名は何か、といったことを検索する人が多く、ポータルサイトごとに特設コーナーまであるほどだ。






NAVERの2011年検索キーワードランキング発表画面。1位「クーパン」(ソーシャルコマースサイト)、2位「チケットモンスター」(同)、3位「私は歌手だ」(テレビ番組)

俳優のペ・ヨンジュンも出演したドラマだったので、韓国でも大変な話題になった。

 ブルーホールスタジオが開発し、NAVERの運営会社NHNが提供するオンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)の「TERA」は5位。中世ヨーロッパを舞台したファンタジーで、2011年韓国ゲーム大賞で大賞である大統領賞、サウンド賞、グラフィック賞、キャラクター賞を獲得し4冠に輝いたゲームでもある。生き生きしたキャラクターとグラフィックが印象的で、ゲーム大賞の審査員からもMMORPGのレベルを上げたと評価された。



 6位は日本でも販売されているサムスンのスマートフォン「Galaxy S2」。2011年7~9月期は世界市場でiPhoneよりも売れたスマートフォンとして話題になっている。


 7位はケーブルテレビ番組「スーパースターK3」。米国の人気テレビ番組「アメリカンアイドル」のようなオーディション番組で、2011年はシーズン3が放送された。オーディションの予選参加者だけで196万7267人に上る。人口5000万人の国で200万人近い人がオーディションを受けたということからも、国民的な人気ぶりが分かる。優勝者には賞金5億ウォン(約3500万円)が与えられ、プロの歌手としてデビューする。


 スーパースターK3はネットからも番組が見られるようにVOD(ビデオ・オン・デマンド)が公開されている。一方、誰が合格するのか知りたくて、オンエアといってテレビと同時にネットでも配信する生放送を見ようとアクセスした人も多く、毎週平均3万8000人が同時接続していた。携帯電話から投票するSMS投票も最終回のファイナル投票には170万件の投票が殺到した。


 オーディション出演者の名前を検索したり、オーディションの投票に参加したり、裏話を検索したりとネットでも話題が絶えなかった。


 8位はiPhone 5。iPhone 5のスペック、発売日が気になるのは韓国のスマートフォンユーザーも同じである。2012年早々サムスンのGalaxy S3が発売されると噂されているだけに、購入を検討するユーザーは、iPhone 5 にするかGalaxy S3にするか、悩ましい。


 9位はイ・ジア、10位イム・ジェボムと世間を騒がせた芸能人の名前が挙がっている。秘密主義で私生活がヴェールに包まれていた女優のイ・ジアが、ずっと独身だと思われていた一世を風靡した大物歌手を相手に離婚訴訟を起こし韓国社会を驚愕させた。イ・ジアは日本でも放映されたドラマ「太王四神記」と「ベートーベン・ウィルス~愛と情熱のシンフォニー~」の主人公である女優。イム・ジェボムはキーワードランキング3位の「私は歌手だ」に出演して再起に成功した往年のロック歌手である。


 2011年から新しく集計されることになったスマートフォンからの検索キーワードランキングは、1位が「私は歌手だ」、2位が「スーパースターK3」で優勝したグループ「ウララセッション」、3位がiPhone 5、4位が「スーパースターK3」、5位がポータルサイトで無料公開されているウェブマンガ(韓国ではWebtoonという)であった。


 一方、移動通信キャリアSKテレコムのグループ会社であるSKマーケティング&カンパニーが成人9016人を対象に調査した「2011年IT・モバイル最高のイシュー」では、1位はスティーブ・ジョブス死亡、2位が次世代高速通信仕様であるLTEの時代到来、3位がスマートフォン加入者2000万人突破(人口の4割)、4位はサムスンとアップルの訴訟、5位がソーシャルコマース市場の急成長であった。2011年末にはサムスン、LG、パンテックからLTE搭載スマートフォンが出そろい、2012年から本格的な競争が始まると予想されているだけに、LTEは当分重要なキーワードになりそうだ。


 韓国では日本のグーグルやMSN、Biglobeなどネットサービスの検索キーワードランキングもいろいろな媒体で紹介されている。東方神起や少女時代、KARAといったKPOPアイドルの名前が日本の検索キーワードランキングに入っていることがTwitterやブログなどで話題になった。韓国人が好きなアイドルが日本でも人気を集めていることが嬉しくもあり不思議でもあるといった反応だった。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2012年1月5日]

 
-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20120104/1040054/

スマホ普及と安さが後押し、「ソーシャルコマース」が大躍進

 韓国インターネット企業協会が選定した「2011年インターネット業界10大ニュース」が発表された。大手ポータル、コミュニティ、オンラインゲームなどネットサービス会社のCEOが会員になっている団体で、毎年インターネット業界CEOが注目した話題を発表する。

 2011年はスティーブ・ジョブス死亡、スマートフォン加入者が全国民の40%/経済人口の80%突破、モバイルポータルサービス拡大、SNSの進化、ソーシャルコマース急成長、インターネット経済規模がGDPの5.94%にあたる63兆ウォン(約4兆2300万円)に成長したこと—などが選ばれた。


 話題が集中したのはなんといってもソーシャルコマースである。取引額がこの1年の間に500億ウォン(約34億円)から1兆ウォンへ(約670億円)と20倍成長しているからだ。ポータルサイトのNAVERが発表した2011年度のキーワード検索1位と2位もソーシャルコマースだった。1位はクーパン、2位はチケットモンスター、どっちもソーシャルコマース事業者の名前である。






ソーシャルコマース1位「クーパン」のアプリ



 ニールセンコリアが発表した「成長サイト」でもソーシャルコマースサイトの躍進が目立つ。2011年1月と11月の訪問者数を比較して、最も訪問者数が伸びたサイトを分野別に発表するものである。電子商取引ではクーパンが320万8805人から829万5095人へ158.5%増加、チケットモンスターが313万1808人から580万2745人へ85.3%増加し、成長率1位、2位となった。


 韓国のソーシャルコマースは2010年2月にウィーポンという会社が登場してから、チケットモンスター、ウィ メイク プライス、クーパン、グルーポンをはじめ2011年8月時点で500社以上もある。

韓国のソーシャルコマースも日本と同じで、5000ウォンの商品券が1000ウォンで買えるとか、特定の商品と交換できる商品券(クーポン)を半額以下の値段で買って、お店で交換するというものである。レストランのセットメニュー、ケーキなど食べ物とネイルサロン、エステが人気を集めている。

 ソーシャルコマースの商品券はスマートフォンからも購入できる。AR(「拡張現実」の略。現実の映像にデジタル情報を重ね合わせる技術のこと)と位置情報を利用して自分の周りにソーシャルコマースで安く商品券を販売しているお店を探すアプリ「スキャンサーチ」も300万人がダウンロードしたほど人気を集めている。


 日本でも有名な女優キム・テヒと徴兵制により出入隊したピ(Rain)がイメージモデルのクーパンは会員数900万人を突破。チケットモンスターは400万人を突破した。Webサイトログ分析専門会社のrankey.comによると、ソーシャルコマース訪問者数1位は「クーパン」、2位は「チケットモンスター」、3位は「グルーポン」、4位は「ウィ メイク プライス」で、この4社対残り500社以上の競争になっている。







女優のキム・テヒはクーパンのCMにイメージモデルとして出演している


 米国のソーシャルコマースは、SNSを基盤にしているのでその分マーケティング費用がかからないから安く販売するという趣旨であるが、韓国は「○○を半額で買える商品券販売」という一種の商品券サイトのようになってしまった。


 日本では2011年の年初、サイトに掲載された、割引クーポンで申し込むおせち料理と見た目が違うおせちが配送された「おせち事件」をきっかけにソーシャルコマースが委縮したというが、韓国でも似たような事件があった。商品券を買ってレストランに行ったところ、ソーシャルコマース会社が宣伝していた写真と全然違うメニューを出された、商品券を買ったのに予約がいっぱいだと断られ有効期間内に使えなかったなど、消費者センターへの苦情が相次いだ。


 2011年5月に韓国公正取引委員会がソーシャルコマースを「通信販売仲介業者」ではなく「通信販売業者」として定義し、顧客が購入した日から7日以内であれば自由に払い戻しできるようにし、商品の販売方式や品質なども厳しく監督するようになった。


 それでもソーシャルコマース会社は雨後のたけのこのように設立している。その理由はやはりお金になるからだ。


スマートフォンが普及してから、韓国の人口の4割はいつでもどこでもネットにつながっている。買う前にスマートフォンのアプリで価格を比較して、同じものなら安い方で買うのがライフスタイルとして定着しつつある。長引く不況の影響もあるが、買うかどうか迷う時も、SNSを利用して友達に聞けばすぐ答えが帰ってくるので、衝動買いというのもだんだんしなくなった。

 そのため一つの商品を大量に売ることで安くしているソーシャルコマースに人が集まり、ソーシャルコマースを利用しないと、なんだか払いすぎているような気分になることすらある。いろいろなクレームがある中でも、ソーシャルコマースの市場規模が2011年の1年間に20倍も成長している理由はやはり「安い」からだ。それに今韓国でソーシャルネットワークは最もホットな話題になっているので、ソーシャルコマースに商品を提供しただけで一緒に話題になり広告効果が倍になるため、企業側も喜んで商品を出すというのもある。


 最近はソーシャルコマースでも、レストラン、ファッションだけでなく歯科のインプラント治療、眼科のレーシック手術の商品券を安く販売するところも出てきた。育児専門、ウェディング専門、食材専門など、分野別専門ソーシャルコマースも登場し始めている。SNS経由で口コミが広がり商品の売上にも大きな影響を与えるのがソーシャルコマースである。人々の口コミを欲しがる企業をターゲットに、グルーポンは中小企業の「名品」、ウィ メイク プライスは地方特産品を日替わりで安く販売するコーナーを設けている。


 2012年もソーシャルコマースは勢いよく成長すると見られる。クーパン、チケットモンスター、グルーポン、ウィ メイク プライスの4社は「信頼」される企業になりたいとして顧客センターの人員を増やし、購入取り消しや払い戻し手続きを改善した。また未使用商品券の場合は、顧客が払い戻し申請をしなくても、有効期間が終わった日から20日後購入価格の90%を自動払い戻しする。宣伝したのとは違う商品を渡された、写真と違う料理だったという苦情を防止するため、品質管理も徹底して行うとしている。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
 [2011年12月28日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111228/1040023/



2011年のヒット商品も「スマート」でサムスン強し

年末になると韓国でも新聞社やシンクタンクなどが「2011年ヒット商品」を発表し始める。サムスン経済研究所が選定した2011年のヒット商品にはスティーブ・ジョブス、Galaxy S2、KPOP、PB(流通事業者のプライベートブランド)商品などが選ばれた。

 PB商品の中でも韓国最大手スーパーのEMARTが10月末に発売した激安LED TVの人気はすごかった。台湾で製造された32型フルHD LED TVで、サムスンやLGのLED TVよりも4割ほど安い49万9000ウォン(約3万5000円)で発売されたところ、2日で5000台が完売した。画質もきれいで、最大手スーパーが売り出したTVだからアフターサービスの心配もないということで飛ぶように売れた。EMARTを追うように次々に大手スーパーがPBブランドで32型フルHD LED TVを発売している。


 LGの3DスマートTVは世界市場で競争力を持つため、目玉として「KPOP」動画が無料で観られるようにした。2011年9月からLGのアプリケーションストアである「LG Apps TV」にアクセスすると、KPOPアイドルのライブ実況動画やプロモーションビデオを無料または月毎の定額で利用できるようになった。「LG Apps TV」はフランス、イタリア、ブラジルなど25カ国で提供している。


 最大手インターネットショッピングモール「Auction」のIT部門ヒット商品として選ばれたのは、32型以下のLCD・LED TVと、タブレットPCやスマートフォンを家庭で使えるようにするための無線LANルーターだった。無線LANルーターは21万台が売れAuction側もびっくりしたという反応だった。無線LANルーターの中ではEFM NETWORKS社のIPTIMEが人気を集めている。自転車、自動車、ベビーカーに取り付けられるスマートフォン置き台も3万台売れ、ヒット商品に選ばれた。自転車に乗りながらもスマートフォンをいじりたがるのは韓国人ぐらいかもしれない。


 各新聞社が発表したヒット商品を見ていると、やっぱりサムスンが強かった。サムスンのスマートフォン「Galaxy S2」、スマートTV、スレートPC、デジカメ「ミラーポップ」、冷蔵庫、ドラム式洗濯機はどの新聞社のヒット商品にも必ず含まれていた。


 Galaxy S2は世界市場で3000万台以上売れた(Galaxy Sを含む)韓国IT業界最高のヒット作として話題になっている。「Speed」、「Screen」、「Slim」の頭文字を取ってGalaxy Sと名付けられただけに、画面が大きく、すいすい動いて、よりスマートなデザインでグリップ感もいいところが人気の秘訣でもある。Galaxy S2はアップルのiPhoneと競争したことでさらに注目を浴びヒットした面もある。









2011年のヒット商品、サムスンのGalaxy S2とスマートTV

Galaxy S2がリードする韓国のスマートフォン市場であるが、LGもスマートフォン「Optimus LTE」で巻き返しを狙っているし、パンテックもLTEに対応したスマートフォンを発売している。2012年はLTEスマートフォン競争になりそうだ。

 3DスマートTVはサムスンとLGが露骨な比較CMを流して競争したおかげで認知度が高くなった。2010年まで全TV市場に占めるスマートTVの割合は10%にも満たなかったが、2011年7月時点で50%近くまで増えている。高画質なのは当たり前で、TV画面の縁取りを5mmにまで薄くしたデザイン、使いやすいUI、多様なアプリケーションの競争になっている。LGがKPOPアプリで勝負するなら、サムスンのスマートTVはゲーム、動画、スポーツ、ライフスタイルなどのカテゴリーに1100件以上のアプリが登録されていて世界120カ国で利用できるという点が魅力である。


 ノートパソコン部門では、タブレットPCのようなデザインながら高性能ノートパソコンでもあるサムスンの厚さ12.9mm、重さ860gのスレートPC、LGのXNOTEの他に東芝コリアのPortege R830も複数の新聞がヒット商品として取り上げていた。


 韓国の2011年のネットサービス分野のヒット商品はなんといっても「ソーシャルコマース」である。次回は2011年の1年間取引額が500億ウォン(約35億円)から1兆ウォン(約700億円)と20倍も成長したソーシャルコマース事情を紹介する。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年12月22日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111222/1039908/

政府機関もスマホのアプリ開発競争に参戦

韓国インターネット専門家協会が主催する「2011スマートアプリアワード」で、ソウル市の「i Tour Seoul」が公共部門大賞に選ばれた。韓国インターネット専門家協会はWebアワードを主催する団体でもあり、デザイン、UI、技術、コンテンツ、サービス、マーケティングの観点から、優秀なアプリとWebサイトを選定している。

 「i Tour Seoul」は2009年に提供開始したソウル市の観光案内アプリで、公共機関がアプリを提供するブームの火付け役にもなった。


 「i Tour Seoul」のコンテンツは2001年ソウル市がオープンしたソウル観光ホームページのもので、韓国語、日本語、英語、中国語で情報を提供している。スマートフォンが発売されてから2009年12月にはアプリ、2010年4月からはモバイルページも追加された。アプリも前述の4カ国語でサービスされていて、スマートフォンを持って韓国を訪問する外国人観光客は、重いガイドブック代わりに使える。2012年1月にはタブレットPC向けアプリも公開する。


 アプリの中身は、観光スポット案内、グルメ、宿泊、交通案内、推薦旅行コース、ショッピングなど、ソウルを楽しめる2万件の情報。利用者の位置情報を使って徒歩ナビをしてくれる機能や、AR(拡張現実)機能を使って、カメラを街中にかざすと、その周辺のグルメやショッピング、名所案内がスマートフォンの画面に登場する機能も付いている。公共機関のアプリなのでもちろん無料で利用できる。ネットにアクセスすることなく利用できるアプリなので、データローミングをうっかり長時間使って高額請求される心配もない。








「i Tour Seoul」の画面。真ん中がメニュー画面となる。左は位置情報を使い、近くのお店や施設を検索したところ。右は特定の観光地についての情報ページ

ソウル市が観光アプリに力を入れている一方、ソウル市の江南区では、地域経済活性化のため、通訳アプリ「江南観光通訳秘書」を2011年12月に公開した。お店の人が外国人観光客とうまくコミュニケーションできるようにするためのアプリで、無料で利用できる。英語、日本語、中国語の通訳ができるもので、音声認識をして通訳する機能や、文字を入力すると通訳をして音声で読み上げてくれる機能もある。韓国語で話したことを音声認識で通訳して日本語を画面に表示し、日本語で読み上げてくれるので、日本語が全くできないお店の人も、スマートフォンの画面をお客さんに見せれば会話成立というわけだ。ショッピング、食事、ホテル、交通などカテゴリー別に3400の文章が登録されてあり、それを応用して使うこともできる。

韓国は2011年の1年間で1000万人の外国人観光客を誘致することを目標にしている。2011年10月時点で800万人を突破した。政府機関である韓国観光公社もより便利に韓国を旅行できるようにして観光客の満足度を高めようと、観光アプリの開発に力を入れている。

 「大韓民国すみずみlive」は、ユーザーが観光地の動画を撮影してスマートフォンから投稿し、他のユーザーと共有できるアプリ。2011年6月の公開以降、人気を集めている。2011年4月からは韓国観光情報3万件、画像100万件をアプリ開発に使えるようOpen APIサービスを行っている。観光アプリを開発するためのガイド、サンプルも提供していて、アプリの著作権は開発者が持てる。


こうした観光アプリがあることは他の国も同じなのだが、IT強国を自負する韓国ならではの面白いところは、金浦空港と仁川空港で「i Tour Seoul」アプリを搭載したスマートフォンをレンタルできることである。KTのローミングセンターで予約するとiPhoneを、中小事業者のローミングセンターを利用するとGalaxy SやOptimusなどのスマートフォンをレンタルできる。1日5000ウォン前後(約350円)なので、スマートフォンと観光アプリを韓国で体験してみるのも楽しい旅の思い出になるかも。1日の利用料金にはデータ通信料も含まれている。


 スマートフォンを買うかどうか悩んでいるなら、ソウル旅行のついでにスマートフォンをレンタルして使ってみるのもおすすめだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年12月16日]

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111216/1039767/

歌手の人気で料金が変わる“韓国型iTunes”でもっと多様な音楽を

ソウルの地下鉄に乗ると、向かい側に座っている乗客の全員がスマートフォンを手にして、イヤホンを耳にさして音楽を聴きながら端末をいじっている光景をよく目にする。50代以上の中年層の人でも、イヤホンで音楽を大音量にして聴いている人をよく見る。音漏れして地下鉄内のBGMのようになっているが、嫌な顔をする人は見たことがない。ほとんどの人がイヤホンで何かを聴いているので、お互い気にならないのかもしれない。

 ブロードバンドが普及してから、ここ10年の間、音楽をCDで楽しむという韓国人をほとんど見かけなくなった。デジタル音楽をパソコンにダウンロードして、そのファイルをMP3プレーヤーやiPod、携帯電話、スマートフォンに移して聴くのが一般的な利用形態である。文化体育観光部によると、2010年韓国の音楽市場規模は約3900億ウォン(約270億円)で、デジタル音楽が約84%を占めているほどである。

 そのため韓国ではCD販売数よりもデジタル音楽ダウンロード件数、テレビ・ラジオでの露出回数が、音楽のチャート順位を決めるのにより重要な位置を占めている。








韓国で人気の音楽ダウンロード・ストリーミングサイト「Bugsmusic」と音楽を聴けるアプリ

音楽を有料で利用するユーザーが増え、違法ダウンロードする人は減り、ユーザーの著作権に対する認識は大きく改善してきた。ただ、デジタル音楽市場はこの10年間成長が止まっていることが問題になっている。それは安すぎる価格に理由がある。

 音楽ダウンロードサイトの場合、平均的にストリーミングは月5000ウォン(約350円)、ダウンロードは1曲600ウォン(約42円)の料金体制である。定額料金制度もあり、1曲平均60ウォン(約4円)で音楽をダウンロードできるサービスもある。


 韓国のデジタル音楽市場は均一価格なので、新人歌手の曲も、大人気の少女時代や2PMといったKPOPアイドルの曲も同じ値段でダウンロード販売される。同じ値段なら人気の歌手の曲をダウンロードし、新人歌手の曲はストリーミングで聴くぐらいになってしまう。そのため新人歌手の音楽が世の中に紹介されるいいチャンスとしてデジタル音楽は歓迎されたのに、今では結局人気歌手の歌しか売れない構造になってしまった。


デジタル音楽ブームは、90年代後半、パソコン通信の時代から始まった。新人歌手がCDを制作しても流通させる費用がないため、自分の音楽をMP3ファイルにして無料で配布したわけだ。それを聴いた人たちの口コミで火がつき、ヒットとなった。デジタル音楽をきっかけにテレビに出演するほどの人気歌手になったケースはいくつもある。


 2011年12月9日、文化体育観光部は音楽ダウンロードサイトの料金構造を合理的に、つまり流通業者ではなく著作権者がダウンロード価格を決められるようにし、著作権者により利益が回るようにすべきとして、“韓国版iTunes構想”を発表した。著作権者がダウンロードの販売価格を決められるので、新人歌手は安くして宣伝効果を狙い、人気アイドルはちょっと高く、といったこともできる。


 また、iTunesの平均ダウンロード価格を見習って1曲1500ウオン(約100円)ほどに値段を上げようとしている。定額料金だと1曲約4円でダウンロードできてしまうのはどう考えても安すぎるからだ。


 収益配分も著作権者の取り分を多くする。文化コンテンツ振興院の調査によると、2011年11月時点で、流通サイトが約46%、著作権者が約54%の収益配分になっている。iTunesはアップルが30%、著作権者が70%なので、韓国もそのようにすべきだという声が高まっている。


 流通会社が、自社が制作に参加した音楽を強く薦めてダウンロード件数を伸ばすようにしてきた慣行もなくし、ユーザーのダウンロード件数に応じて本当のヒット曲を推薦するようにもする。


 また文化体育観光部が決めている音楽著作権手数料率を、政府が決めるのではなく著作権者と流通業者の間で自由に調整できるようにする。ユーザーが無料でダウンロードできるようにもする。現在は1曲当たりの著作権料金が決まっているため、無料ダウンロードは提供できないようになっていた。


 政府が主導する“韓国版iTunes”はデジタル音楽市場のパイを大きくさせることができるだろうか。ユーザーにとっては利用料金が高くなるかもしれないのでちょっと不満な点もあるが、無料でダウンロードできる曲が増えれば、ユーザーの利用動向も変わっていくだろう。そうなれば、アイドルの曲ばかりが売れるのではなく、多様な音楽も市場に流通するきっかけになるかもしれない。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
  [2011年12月9日]

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111209/1039552/