2011年6月7日 韓国デジタル教科書先進事例の問題点と日本の挑戦 セミナー


http://www.jpi.co.jp/seminar/seminarDetail.aspx?seminarNo=11262&bunyaNo=27


2011年6月7日(火) 09:30-11:55
東京


文部科学省『教育の情報化ビジョン』の重点取組み課題と
「韓国デジタル教科書」先進事例の問題点と日本の挑戦


講義項目2 第二部
韓国のデジタル教科書導入等の現状とビジネスチャンス
講師 趙 章恩 (10:45~11:55)
 1996年から構想が始まり、6年以上の実証実験を経て2013年商用化を迎える韓国デジタル教科書。実証実験の結果からわかった問題点とデジタル教科書参加企業のビジネス戦略から、日本のデジタル教科書のビジネスチャンスを探る。
1. 2011年韓国のICT現況
2. デジタル教科書とは何か
3. 韓国デジタル教科書の特徴
4. 韓国デジタル教室、スマート教室
5. デジタル教科書を導入するまでの過程
   学校情報化、校務情報化
6. デジタル教科書授業様子・事例紹介
7. デジタル教科書参加企業と技術
8. デジタル教科書の効果
9. デジタル教科書関連企業戦略
10. デジタル教科書義務化に向けた課題
11. デジタル教科書と教育情報化の未来
12. 関 連 質 疑 応 答
13. 名 刺 交 換 会
   講師及び参加者間での名刺交換会を実施いたします


「スマートフォン+4G」競争が激化の一途

韓国初の4G向け周波数競売も予定



 スマートフォンが生活の基盤になりつつある韓国では、スマートフォンから利用できる高速モバイルネットワークである4Gへの関心が何よりも高まっている。


 TwitterやFacebook、人気のアプリケーションも、ネットワークにつながっていないと使い物にならないため、通信キャリアのCMも、端末の機能より、Wi-Fiスポットを他社よりたくさん持っている、モバイルインターネット使い放題料金が安いといった「ネットワークにより安く、速く、つながりやすい」ことを強調する内容になっている。


 最大手のKTは、「4Gで一足先に行く」をテーマにしたCMを流していて、6月からWibro(韓国のモバイルWiMAX)基盤の4GスマートフォンとタブレットPCを発売する。SKテレコムは7月、LGU+は10月よりW-CDMAより下りが5倍ほど速いLTEで4Gサービスを始めるとしている。






KTの4Gサービス広告


KTが4Gとして発売するのは、Wibro+Wi-Fi+W-CDMAの3種類のネットワークに対応した台湾HTCのスマートフォンとタブレットPC。KTは既に3月からWibroが使えるサムスンのGalaxy Tabを発売していて、Wi-Fiより速い4Gが使えると宣伝してきた。また幼児向け教育ロボット、クラウドコンピューティング、モバイル端末で操作できる遠隔業務処理など、4Gネットワークを使った応用サービスも次々に発表している。


 KTは韓国最南端の島でレジャー・観光の名所であるチェジュ道と提携し、「チェジュ・モバイルワンダーランド」構想にも参加している。海、山、滝といった観光スポットはもちろん、バス、タクシー、レンタカーにも4Gネットワークを張り巡らせ、6月までは誰でも無料で移動しながらも高速モバイルネットワークを体験できるようにしている。またKTと自治体が協力してチェジュ道に「スマートワーキングセンター」という拠点を作り、公務員が自分のオフィスにいなくてもこの拠点を訪問して遠隔で仕事ができるようにしている。


 「チェジュ=観光」という単純なイメージを脱皮するため、自治体の積極的な支援のもとで、2009年から大規模なスマートグリッド実証実験を行っている。ここにKTのWibroを追加して、電力使用もWibroで管理し、エネルギー使用パターンを分析して効率よく電力を使えるようにしてくれる「スマートホームエネルギーサービス」も始める。チェジュは過ごしやすい自然環境と、最先端のグリーンITビジネス環境の両方を取りそろえた島であることをアピールしようというのが「モバイルワンダーランド」構想の目的である。


 KTと同じくiPhoneを販売するSKテレコムも4Gを強調したCMを流し、一方、スマートフォンに出遅れ存在感が薄いLGU+は、LTEでどのキャリアよりも速度の速いネットワークを提供すると強調する。


このような中、新たな論点となっているのが周波数だ。


 WibroだけでなくLTEサービスも計画しているKTは、6月で2Gサービスを終了し、その周波数(1.8GHz)をLTE向けに使う方針だと発表したことがある。KTはこれまで、2Gを終了させるため、ユーザーに対し無料で3G端末やスマートフォンに機種変更させてきたが、それでもまだ2G加入者は100万人近く残っている。放送通信委員会は2G加入者が1万人以下になればサービスを終了してもいいとしており、このままではKTの計画通りにはなりそうにない。


 KTはLTE用に900MHzを確保しているが、欧米のキャリアが900 MHzのLTEにあまり投資をしていないため端末を確保するのも難しいと判断したのか、1.8GHzを狙っているのだ。放送通信委員会は、韓国で初めて行われる予定の周波数競売(2.1GHzの20MHz幅)に、KTが6月中に返納する予定の1.8GHzの20MHz幅を追加するかどうか検討している。


 LTEの場合、SKテレコムは800MHz、KTとLGU+は1.8GHzの周波数を使う。2.1GHzの場合は、SKテレコムが60MHz、KTが40MHzを持っているが、LGU+だけが持っていないため、競売といっても放送通信委員会がLGU+の肩を持つ可能性が高いのではないかと言われている。周波数が競売にかけられるとしたら、観戦ポイントは1.8GHzの20MHz幅をKTがまた持っていくのか、それともSKテレコムがKTには渡せないと新たに手を出すか、になりそうだ。


 というのも、スマートフォンが発売されてから、KTとSKテレコムはお互いをけなすCMを頻繁に流している。おかげで得をするのは米アップルだ。KTのCMもSKテレコムのCMも、iPhoneを楽しく使うためには自分たちの4Gが必要だと宣伝しているので、テレビをつけるとiPhoneのCMばかり流れているような気がするからだ。


 トラフィック暴走で4Gの早期サービス実施に周波数確保に必死になっているキャリア。この競争がアップルではなく加入者が得する競争になってくれるといいのだが。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年5月13日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110513/1031787/
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9割引きも当たり前のソーシャルコマース、人気もすごいが被害も拡大

毎年20%近く物価が上昇している韓国。天候や原油価格高騰によるもので仕方ないというが、インフレは止まらない。そこで脚光を浴びているのが、50%値引きは当たり前というソーシャルコマースである。決まった人数が集まれば50~90%値引きされた値段で商品を購入できるというもの。

 韓国にもグルーポンが進出し、ソーシャルコマースサイトは雨後の筍のように急増している。携帯電話やスマートフォンの位置情報を利用して、近くで使えるソーシャルコマース商品券を案内している。中でも人気の商品は地元レストランのセットメニュー商品券。美容院、化粧品、不動産、会員権などありとあらゆるジャンルへソーシャルコマースが広がり、人気を集めている。ソウルから2時間ほど南に離れた天安市では、526世帯集まれば相場より500万円ほど安くマンションを分譲するというソーシャルコマースも登場して話題をさらった。


 ソウルの隣にある京畿道では、自治体がインフレ対策としてソーシャルコマースを積極的に利用するという「物価安定化支援政策」を発表した。6月より、自治体が運営する農産物オンラインショッピングモールをソーシャルコマースにして、売り手が直接商品を登録し、買い手が一定人数集まればスーパーで買うより30~50%値引きして販売するという。


 携帯電話加入者の3分の1がスマートフォンを使っている中、モバイル通信事業者3社もスマートフォンの機能をフルに生かせるソーシャルコマースに力を入れている。


 スマートフォンに出遅れてシェアが最も少ないLGU+は、4月25日より位置情報「+NFC」を利用したモバイル決済とソーシャルネットワーク、そしてゲームを合わせたショッピングを提供している。専用アプリをインストールしてからマップに表示される加盟店を訪問してショッピングすると自動的に位置情報を確認してポイントが積み立てられ、それをコンビニやファストフード店などで商品に変えられるというサービスだ。加盟店はまだ1000店ほどだが、年内に10万店突破を目指す。SKテレコムは会員登録をすると、ブランド物を50%以上割引して販売するソーシャルコマースを利用できるサービスを始めた。







LGU+が提供する「位置情報+SNS+ゲーム」を組み合わせたソーシャルコマース「Dingdong」。スマートフォンやタブレットPCから利用できる


閉店に追いやられる店も



 加熱する一方に見えるソーシャルコマースだが、ソーシャルコマースによって閉店を余儀なくされたというレストラン経営者のネット上への書き込みが話題になった。ソーシャルコマースで半額チケットを購入する人が予想をはるかに超えたため、最初は売り上げが伸びてよかったもの、割り引きで利益は少ないのに客が増えるので人件費が増える。すぐ赤字になり経営難に陥るレストランもあるという。ソーシャルコマース会社に取られる手数料も高く、店の意向とは関係なく数千枚の商品券を販売したため、殺到する客を対応しきれず不満ばかりネットに書き込まれ、結局店を閉めるしかなかったというところもあった。


 ソウル市電子商取引センターの調査によると、ソーシャルコマースサイトはこの1年間新しくオープンしたのが100サイトを超え、20代の60%が利用したことがあると答えたそうだ。ソーシャルコマースで購入したことがある商品はレストラン商品券、映画・エンタメチケット、ファッション雑貨、食料品・健康食品、美容の順だった。


 しかし購入経験者の26%は被害にあったことがあると答えた。広告と実際の商品が違う、ソーシャルコマースで購入した商品券を使う人だけ食事の量が少なく不親切にされた、払い戻しや返品を受け付けない、という不満が圧倒的に多かった。


 ブログやTwitterにはソーシャルコマース失敗談がよく登場するようになった。「ネイルケアの商品券を購入したところ、商品券を持っていることを伝えた途端に予約でいっぱいといわれた。有効期限が切れる前に予約できるだろうか」、「セットメニュー半額の商品券を購入したが、写真とは全然違うメニューで量も少なすぎ。これじゃ割引でもなんでもない」などなど。「ソーシャルコマースがっかり事例」を集めて紹介するサイトまで登場したほどである。


 韓国のソーシャルコマース市場規模は2010年に約400億円、2011年には600億円を超えると推定されている。海外勢のグルーポンよりも韓国ベンチャーが立ち上げたサイトの方が商品数が多く人気を集めている。このごろはソーシャルコマース業者があまりにも多いせいか、人気芸能人を起用したテレビCM競争が始まっている。商品よりも広告宣伝競争になってしまった。


 ネットでは既に「ソーシャルコマースに飽きた」、「グルメサイトのクーポンを利用して割引してもらう方が安心でお得」、「ソーシャルコマースと既存の共同購入ショッピングモールとの違いが分からない」といった声も多く客離れも始まっている。商品券を購入した後で問題が生じても、ソーシャルコマースサイトは「通信販売」ではなく「仲介」なので責任がないと言い逃れできるからだ。


 韓国の消費者権利保護団体は、「ソーシャルコマースはこの1年で急激に市場が成長したため、標準約款もなく業者の勝手に運営されている。商品券を販売してからサイトを閉鎖するところも多い。払い戻しやアフターサービスに関する約款を導入するべき」、「70%割引、90%割引という文字につられて注意事項を読まずに衝動買いしてしまうのも問題」だという。消費者がもっと賢くソーシャルネットワークを使って悪い業者に引っかからないよう注意すべきともしている。


 公正取引委員会は、米国のように韓国のソーシャルコマースサイトも電子商取引法を守るべきとして実態調査に着手したという。インフレ対策で家計にやさしいはずのソーシャルコマースが無駄遣いの元になっているとは。安くて便利で信用できるショッピングサイトに巡り合える日は果たして来るだろうか。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年4月28日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110428/1031571/

「7年間同じ管理者パスワードだった」銀行システムに大非難

2011年4月12日に発生した韓国農協銀行のシステム障害は、1週間を過ぎた19日時点でも正常回復できず、22日を目途に作業が進められている(前回記事参照)。貯金の引き出しや振り込みなどの業務は再開されたが、クレジットカード関連業務はまだ取引データ損傷により復旧が長引いている。1週間以上も続く銀行のシステム障害は韓国で初めてのことである。

 Twitterでは「農協」がキーワード検索上位にランクされているほど。「今日も友達の農協のクレジットカードが使えず、私がおごった。4日連続~」、「学生証と農協のクレジットカードがセットになっていて、使いたくないのに使うしかない。なんとかならないのか」、「農協のネットバンキング使えないの、私だけですか?」などなど、農協と取引している顧客の不満が呟かれている。


 システム障害の原因については、サーバー管理を委託している下請け会社のノートパソコンに1カ月も前からサーバーのプログラムを全て削除してシステムを破壊するよう命令が仕込まれていたことまでははっきりした。ところが、ハッカーからの脅迫がなかったため、誰が何のために仕込んだのか分からず、犯人捜査は難航している。


 当初、システム障害は外部からのハッキングではなく、システム管理委託業者である韓国IBMの職員が何かの間違いでプログラムを削除してしまったようだとされていた。しかし、IT担当職員約550人の中で最高レベルの管理者権限を持つ人はIBMと農協職員合わせて8人ほどしかおらず、委託業者の職員は作業をするだけで権限がないため削除命令を仕込めない。ファイルの削除命令は通常何段階もの内部統制を経てから実施されるのに今回は一発で削除が始まった。これは外部からのハッキングとしか考えられない、という結論に達している。


 検察の捜査結果では、外部からハッキングでノートパソコンを動かした形跡も見つかった。ところがもっと深刻なのは、3000万人もの顧客を抱える農協の管理者パスワードが7年近くも変更されないまま使われ続けたことであった。セキュリティ管理がどれだけ適当に行われてきたのかを象徴するようなもので、Twitterでは非難が相次いでいる。








1週間以上もシステム障害が続いている農協について、Twitterでは顧客の不満が後を絶たない。赤枠は「農協検索結果」を示す


 サーバーのプログラムを削除するようにした命令語は、たった5分で275のサーバーを破壊し、バックアップシステムも作動しないよう止めてしまうほど、とても緻密に作られた組み合わせであった。情報をコピーする命令ではなく全てを破壊するように仕掛けられていた。このことから、システム障害の裏でまた何かが仕掛けられているのではないかと心配する人も多い。


 農協は、4月19日に開かれた記者会見で、「高度な技術を持つ者によるサイバーテロ」が発生したとし、システム障害はあったものの「顧客情報が流出されるようなことはなかった」と何度も繰り返し強調した。システム障害による顧客の被害を全て補償するとしている。例えば農協の口座から振り替えできずクレジットカード決済代金やローン返済の延滞が発生した場合、延滞金は農協が払うというものである。延滞により信用等級が下落した場合は、その記録を削除する。


 金融会社への行政指導を行う金融監督院は、金融会社のITセキュリティ全般の点検、セキュリティ事故に対する体系的対応と再発防止のため「金融会社ITセキュリティ強化タスクフォース」を始めた。農協の内部でセキュリティ統制管理に問題はなかったのか、管理監督規定を守っていたのか、委託業者の管理に万全を期していたのかといった調査も始める。民間専門家はもちろん、国家情報院、国民IDといった個人情報を担当する行政安全部、情報通信政策を担当する放送通信委員会など、他の省庁とも協力する。


 また金融監督院は、2009 年から全金融会社に対してセキュリティ保護責任者であるCSO(Chief Security Officer)任命を勧告したが、農協はCSOがないままだったことから、金融会社のCSO実態調査も着手した。情報システム責任者であるCIO(chief information officer)とCSOを兼任、またはCIOがいればCSOはいらないと考える企業がまだまだある中で、CSOの業務を独立させ権限を与えることで、金融会社のセキュリティ事故の再発防止を狙う。


 これは、今後このような事態が発生した場合は厳しく責任を追及するという政府の意思を表すものと分析されている。金融監督院は、これからCSOのいない金融会社に対してはセキュリティ体制が万全でないとして経営実績評価に反映するとしている。


 国会は金融会社のCSO任命を義務化する「電子金融取引法一部改定案」を発議した。「ハッキングや情報流出が毎年のように繰り返されているが、そのときだけ慌ててセキュリティに投資してまたすぐ忘れる。金融会社の信頼性を確保するためにも責任と権限があるCSOは必要だ」というのが改定案の趣旨である。


 銀行やクレジットカード会社では、IT部署とは別に情報管理と保護を専門とするセキュリティ担当部署を急いで新設している。東日本大震災の影響から、災害時のセキュリティ・情報保護・システム復旧体制を整えることも注目されているだけに、情報システムとセキュリティの専門家を確保するための競争が始まりそうだ。これもまた一過性のイベントで終わってしまわないといいのだが。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年4月21日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110421/1031393/

繰り返されるハッキングと脅迫、韓国で金融システム不安広がる

2011年4月10日、韓国消費者金融業界1位の現代キャピタル(現代自動車系列)のシステムがハッキングされた。これにより、全顧客180万人の23%にあたる約42万人分の住民登録番号(国民ID)や氏名、電話番号、住所といった個人情報、ローンカード番号と暗証番号、信用情報(どこでいくら融資してもらっているとか断られたといった記録による信用等級)がハッカーの手に渡った。

 ローンカードは暗証番号が流出したとしても、カードそのものがないとお金を引き出せないので大丈夫だというが、住民登録番号や電話番号といった個人情報が盗まれた人の中には、さっそくいろんな消費者金融からお金を貸してあげるという電話やショートメッセージが届いているという。


 警察の捜査によると、ハッカーは現代キャピタルを脅迫して受け取った1億ウォン(約80万円)を、ソウル市内とフィリピンで引き出していた。サーバー攻撃もフィリピンから行われていたため、インターポールにも捜査を要請したという。


 現代キャピタルへのハッキングは2月から続いていたが、4月7日になってハッカーから脅迫されるまで全く気付かなかったという会社側に説明に、唖然とするばかり。他の消費者金融会社は次々にシステム点検を始め、セキュリティに異常なしと発表している。


 現代キャピタルへのハッキングは「Blind SQL Injection」という方法だと推定される。自動的に攻撃を繰り返し、データベースの情報を盗み出すというもので、同社はデータベースの暗号化をアップグレードしていなかったために、簡単に盗まれたという。


 警察のサイバー捜査隊によると、韓国では2008年から、これと同じ手法によるハッキングと脅迫が繰り返されているにもかかわらず、「お金がかかる」からと何の対策も取らないでいる企業が多いとして、今度こそはデータベースの暗号化、セキュリティ強化に深刻に取り組んでほしいとしている。


 政府機関である金融監督院も特別監査に着手し、現代キャピタルが政府のIT監督基準を順守していたのか確認するとしている。金融機関全般のハッキング対策体制を点検すると発表したその次の日、今度は農協銀行のシステムが止まった。これもハッキングによるものではないかと緊張が走った。


 4月12日午後5時ころから農協銀行のシステム障害が発生し、ATM、ネットバンキング、モバイルバンキング、テレフォンバンキング、さらには窓口の利用も止まってしまった。みずほ銀行のシステム障害に関するニュースがここで大きく報じられたばかりなので、事態が長期化するのではないかと恐れた顧客達が朝から農協店舗の前に集まり焦っていた。銀行のATMが数時間利用できなくなることは以前もあったが、システム障害によってATM、ネットバンキング、窓口まで全て利用できなくなる今回のケースは、初めてのことである。








農協銀行のWebサイトとシステム障害に対する謝罪文


 徹夜で復旧してみたものの間に合わず、13日の昼から20時間ぶりに窓口営業と他の銀行のATMから農協のキャッシュカードを使ってお金を引き出せる業務だけが再開された。ATM手数料は後に払い戻しされるという。その他のサービスは14日中には解決したい、というだけで見通しが立っていない。


 ソウル市内にはいろんな銀行があるので農協の看板をあまり見かけないが、ソウル郊外から地方に行くほど、銀行業務は農協に頼っている。農村、漁村に行くと、銀行といえば農協か郵便局しかないところが多い。自治体の取引銀行もほとんどが農協となっている。


 13日昼時点で発表された障害の原因は、ハッキングではなく「内部者のプログラム操作によるサーバー機能障害」であった。運営システムに問題があり、それを直す途中でシステム障害が発生した。電算センター内部と外部を中継する運営ファイルが削除されたのが原因だった。


 誰かがメインサーバーと全国のシステムを連結するプログラムファイルを削除したためと判明しても、災害復旧システムも稼働せず、どのプログラムが削除されたのかはまだ分からないという。しかも、ファイルを間違って削除してしまった場合にはバックアップできるが、意図的に削除された場合はシステム復旧までに相当な時間がかかるという。


 それに、誰かが内部の人を利用してシステム障害を発生させた、または電算センターのサーバーにアクセスできるパソコンをハッキングして、障害を起こすようファイル削除を命令するプログラムを仕掛けたということも考えられる。ハッキングではない、と断定できないのだ。


 ネットでは「農協のカードもエラーになって、バスにも地下鉄にも乗れず、現金もなく、途方に暮れている」、「農協のカードが使えず、何も買えず、何も食べられず、ダイエット中」という書き込みがあった。


 韓国はクレジットカードが後払い式の交通カードにもなっていて、プリペイドでチャージしなくてもバス、地下鉄、電車、タクシーを利用できるようになっている。コンビニでも1000ウォン(約80円)以上であればクレジットカード払いできるため、現金を持ち歩かない人が多い。


 ATMで振り込みできないのも大問題だが、カードを使えないのがもっと怖い。未成年者の場合はチェックカード(日本でいうデビットカード)を作りクレジットカードと同じように使っている。チェックカードの場合、交通カード機能はプリペイド式になり、これもシステム障害によって使えなくなっている。


 ひどいのは、農協を詐称し、システム障害のため個人情報を入力し直す必要があるとして口座番号やカード番号、暗証番号などを聞く電話詐欺まで起こっていること。そういう話を聞くと、常に人を疑わないと生きていけない世の中になったような気がしてしまう。


 金融機関へのハッキングも繰り返され、銀行のシステム障害も繰り返されている。少しずつセキュリティに投資をしてあらかじめ確認していれば予防できたものを、事件が起きてからあわてて大規模な資金を投入してシステムを直す。そしてまた放っておいて、事件が起きてからまた莫大な資金を使って直す。この繰り返しを断ち切らない限り、まだ被害のない企業でも、ハッキングの標的になるのは時間の問題だろう。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年4月14日

Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110414/1031287/

震災で大活躍したスマホアプリは憎き敵!?

東京に住む韓国人のネットコミュニティで、東日本大震災の時にどこで何をしていたのか、どんなことを感じたのかといった書き込みが続いている。

 中には東京に到着した2日目に震災にあい、「日本は地震が多いと聞いていたので、これぐらいの揺れは年中あるのだと思った」という留学生もいたほどである。「地震の後どうしたらいいのか分からなくて、余震の度に怖くて、わざわざ避難所に行って帰宅難民と一緒に夜を明かした」という女性もいた。韓国には地震がないというのが前提になっていて、学校でも会社でも地震が起きたらどうすればいいのか、訓練などしたこともないからだ。月に一度、北朝鮮が攻めてきたときを想定した避難訓練があるが、サイレンが鳴ると、車の中にいる人は運転をやめてその場でストップ、歩いている人は近くのビルの中に隠れるというものなので、地震のときは全く役に立たない。


 今回の大震災では、東京に長く住んでいる人も、来たばかりの人も、共通しているのは「スマートフォンを持っていて本当によかった!」という書き込みであった。4月の新学期を前に東京に到着したばかりの留学生の中には、韓国にいる家族や友達からスマートフォンに送られてきたメッセージを見て深刻な事態であることを知ったという人が多かった。


 電話も通じなくなり、当然のことであるが国際電話も使えなくなった。海底ケーブルが損傷したそうで韓国やアメリカのWebサイトにアクセスできなかったり、速度が極端に遅くなったりしていた。3月11日から2日間ほどは、パソコンから韓国のポータルサイトにアクセスしてメールを送ろうとしたが、なかなかつながらずにあきらめるしかなかったという状態が続いた。


 そんな中で活躍したのがスマートフォンの無料メッセンジャーアプリ「カカオトーク」。米ウォールストリートジャーナルは3月30日付の記事で、東日本大震災で活躍したアプリとしてカカオトークを紹介していた。


 カカオトークは1000万ユーザーを突破した韓国を代表するアプリの一つで、無料で使えるモバイルメッセンジャーアプリ。パソコンでよく使われるインスタントメッセンジャーを、スマートフォンでも楽に使えるようにしたものだ。加入者同士でメッセージ、写真、動画などを無料で送受信できて、グループチャットは韓国語、日本語、英語の3カ国語に対応する。







カカオトーク(日本語のWebサイト)。iPhone/Androidとも使える

3月11日には日韓の間で国際電話使用量が一時期通常の91倍にまで急増してつながらなくなったが、カカオトークとインターネット電話、TwitterといったSNSは問題なくつながり、緊急連絡の手段として大活躍した。当時東京にいた韓流スターらもカカオトークで韓国にいる事務所に連絡をしたり、ビジネスマンらもカカオトークを使って他の社員と連絡を取り合ったりしたとTwitterでつぶやいた。

 カカオトークによると、3月11日は2億件以上のメッセージが送信され、その後も1日平均1億8000件ほどのメッセージが送信されているという。3月11日にはたった1日で日本地域の加入者が2万人近く増え、海外ユーザーが増えたことから予想よりも早く1000万ユーザーを突破した。

カカオトークは韓国でスマートフォンを買ったら真っ先にダウンロードするアプリとして人気を集めている。米グーグルやマイクロソフトなどからもメッセンジャーが出ているが、一目で分かる使いやすさと、SNSとチャットの両方の機能を持っていること、チャットの途中でアプリが落ちたりしないことも人気の秘訣である。韓国のスマートフォンユーザーは2011年末に人口の約4割に当たる2000万人まで増加すると予測されているため、カカオトークのユーザーも同じぐらい増えると見込まれている。


 ここまで人気のアプリであるが、モバイル通信事業者からは目の敵のようにされている。これら通信事業者が提供するショートメッセージを使うと、40文字で20ウォン(約1.6円)、写真や動画を送信するマルチメディアメールは1件30ウォン(約2.4円)の料金がかかる。それがカカオトークだと3GやWi-Fiといったモバイルインターネットさえつながっていれば無料になる。カカオトークから送信されるメッセージ分を金額で換算すると1日2億件×20ウォンで40億ウォン(約3億2000万円)。かなりの金額である。


 通信事業者からするとこの分の売り上げは減り、逆に大量のデータトラフィックだけを誘発することになる。それゆえカカオトークは憎い相手に違いない。特定アプリのトラフィックによってネットワークが遅くなったり問題が生じたりする場合でも、その責任は彼らに回ってくるからだ。


 3月末にはカカオトークのアクセス制限や有料化を検討するべきとSKテレコムが話したことから、スマートフォンユーザーが猛反発して結局なかったことになった。ただ、トラフィックに相当な負荷がかかっているだけに、この手のモバイルメッセンジャー対策を急いでいるという。


 カカオトークの場合、ユーザーはログイン状態を保つために、中央サーバーに絶えず信号を送る。10分に一度、280バイトほどの信号だが、これが1000万人分となれば通信事業者にとっては相当な負担となる。通信事業者からすると「莫大な資金を投資したネットワークをただ乗りするアプリ」なのだ。


 一方、ユーザーにとってはスマートフォンを買うと専用料金制度に加入しなければならない。ほとんどのユーザーが「3Gネットワーク使い放題+Wi-Fiは無料」の料金制度を選ぶので、「毎月10万ウォン(約8000円)近い料金をもらっていながら、メッセンジャーぐらいで経営難を訴える通信事業者の方がおかしいではないか」と、どうしてカカオトークを名指しして騒ぐのか分からないという反応も多い。ネットワークさえつながれば無料で利用できるカカオトークのようなメッセンジャーは、ユーザーにとってはありがたいサービスだからだ。


 放送通信委員会の移動通信データトラフィック推移をみると、2010年1月に449TBだったのが2011年1月には5463TBと11.2倍も増加しており、このうち91%をスマートフォンが占めるという。さらにスマートフォン加入者のうち10%が90%のデータトラフィックを占めるということも発表されている。


 カカオトークはこれから音声チャット機能も追加するとしている。ポータルサイトが提供するメッセンジャーの場合は既にスマートフォンから音声チャットも利用できるようになっている。音声まで無料で使えるようになれば、通信事業者の通話料売上はさらに落ち込み、データトラフィックは今以上に問題になる。通信事業者とアプリのデータトラフィック論争は、これからが本番である。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年4月7日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110407/1031159/

世界一電子化した行政システムも後手に回る災害対策

東日本大震災は韓国にたくさんの課題を提示した。防災対策や原発問題だけでない。自治体の業務継続態勢やデータ保護、公的災害情報提供、災難時の統合指揮無線通信網構築、国家機関による災害復旧コントロールなど、必要だけど「予算がない」を理由に韓国政府が今まで後回しにしていた災害関連システム構築に拍車がかかりそうだ。

 韓国では震災後の日本の状況や復興に関するニュースが毎日報道されている。津波で自治体の戸籍データが消失した、電話が通じないので政府もソーシャルネットワークサービスを活用して情報を提供している、アクセスが集中する公的災害情報サイト向けにクラウドサービスを無償で提供する企業が増えている――といった日本発のニュースに「韓国は大丈夫なのか」と不安に思う国民が増えていることから、中央政府や自治体の災害対策について特集を組むメディアが出てきている。



政府・自治体が持つデータのバックアップをどうする



 韓国は電子政府、電子自治体を早期に導入した。国民に対しては、政府統合電算センター(政府機関ごとのシステムを集めた場所。大田と光州の2カ所にある)にデータは保存されている、万一災害で紙の戸籍が消失したとしても住民登録されている国民のデータはちゃんとここに残っているから大丈夫、とされてきたが、実はそうでもないという問題提議が相次いでいる。


 電子政府や電子自治体のデータをより安全に保存するため、政府バックアップセンターが2009年に計画されたものの、立地選定と2000億ウォン(約160億円)規模の予算を確保できなくて2011年の今でも計画段階に留まっているからだ(大田と光州の政府統合電算センターが災害で動かなくなった場合に備えて第3のセンターにバックアップセンターを計画)。


 今すぐ予算が付いたとしても、バックアップセンターが稼動するのは2015年以降になるという。その間に韓国で大規模な地震や北朝鮮の攻撃があった場合は、データの安全は保障できないというのだ。韓国の面積は日本の3分の1ほどしかなく、人が住める平地も少ないため、データセンターが互いに離れているとしても距離は近い。複数のセンターに保存して安全性を高めるしかないのかも。



電子化行政の落とし穴



 韓国は国連が選定する電子政府評価1位、ブロードバンド普及率も1位であり、行政機関も民間企業もほぼすべての仕事が情報システムの中だけで行われる。エコのためにどんどん「紙」をなくしているので、生活全般におけるICT依存率も世界一かもしれない。情報システムのおかげで、何もしなくても自分に払い戻される税金が自動計算されて口座に振り込まれるほどである。


 ICT依存が高いと電力確保が重要であり、政府統合電算センターは無線電源供給装置、非常発電装置を備えている。問題なのは、政府統合電算センターにつながっていない、散発的に構築された行政システムもまだまだ残っている点である。日本でも政府の電子政府とは別に電子自治体が構築されているが、自治体でデータセンターを持つだけでなく、政府のセンターとバックアップセンターにも保存し、連動することで、万一に備えることも考えなくてはならないだろう。韓国では2009年からチェジュで実証実験が始まったスマートグリッドも再び注目を浴びている(関連記事)。


 一方、民間データセンターは耐震とバックアップ態勢をアピールしている。韓国のサムスンSDS、LGCNSといった大手のデータセンターは遠距離地点で災難復旧センターを運用し、二重のデータバックアップを行う。2009年以降データセンターや基地局などは耐震設計が義務付けられていることから、震度8~9の地震でも耐え、衝撃を吸収して電算装備を保護できるという。


警察・消防・軍の災害復旧システムに互換性を



 データ保存のほかにも急いで改善すべき点はまだある。


 行政機関も民間機関も、震災後から中断することなく組織を動かすための災害復旧計画(DRP、Disaster Recovery Plan)と業務継続計画(BCP、Business Continuity Plan)に関してシナリオを明確にするための点検を始めた。しかし、遅々として対応が進まないところもある。


 自治体ごとにある総合防災センター。自家発電で非常事態に備えるが、防災センターに耐震設計がされていないので、大地震が起こればセンターそのものが倒壊してしまう可能性があるという。バックアップシステムがない、非常用の食料と水がないので職員がセンターの中で閉じ込められたら大変、という基本的な問題があることも指摘されている。それらの問題を認識していながらも、「予算がない」という理由で後回しにされてきた。


 復旧業務を担当する警察、消防、軍のシステムも改善を急いでいる。災害復旧支援システムが個別に構築され、相互運用できないという問題があるからだ。


 例えば電話やネットが通じなくなる緊急事態が発生した際に、警察と消防と軍の無線通信方式と周波数が違うので、うまくコミュニケーションできずに右往左往する可能性もある、ということである。災害が発生すると真っ先に現場に向かう警察、消防、軍が直接連絡を取り合って、リアルタイムで作戦を練り指示を出せる協調体制が取れないようでは、被害を大きくするだけだ。


 そのため2003年から中央政府の災害安全無線通信網である「統合指揮無線通信網」構築が議論されてきた。しかしこれもまた「予算がない」という理由で未だに議論の段階のままである。


 東日本大震災は「政府の信頼性」という問題も浮き彫りにした。調べれば調べるほど災害対策がはっきりせず、「予算がない」とばかり言う我が政府に韓国民は不安を感じるしかない。


 いつどうなるか分からないのが災害である。電子政府でこんなサービスも使えます、こんな情報も提供しますというパフォーマンスもいいが、基本的なところをしっかりしてくれない政府を信頼できるだろうか。社会のためのICT利活用、社会保障としてのICT利活用について今こそ真剣に議論すべきときだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年4月1日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110401/1031030/

原発の情報が欲しい! 韓国語への同時翻訳サイトで情報入手

東日本大震災後、原発事故と放射性物質が連日話題になっている。健康に影響はないという日本のメディアと、まだまだ危険で安心できないと疑う海外メディア。

 一時期、韓国や中国、米国のメディアは騒ぎすぎではないかといった批判もあったが、欧米各国の政府が自国の日本在住者に対し、国外へ避難するよう勧告してから、東日本に住んでいる韓国人の間でもじわじわと不安が広がっていった。韓国政府は避難勧告を出していない。日本は高い安全基準を適用している国であるとして、日本産食品の輸入を規制するような動きもしていない。それでも日本のメディアで「外国人の帰国ラッシュ」といったニュースを目にすると、どうしたらいいのか悩んでしまう。


 韓国のポータルサイトは東日本に住んでいる韓国人向けに、より正確な状況を把握できるようにサポートするため、NHK、AP通信、CNNといった主なメディアによる福島第1原子力発電所と震災関連ニュースを韓国語にまとめて2時間ごとに更新している。


 ネットユーザーはそれに満足せず、Google翻訳を使って日本、フランス、ドイツ、中国のメディアまで情報源を拡大。Twitterやブログ、掲示板を通じてこの媒体はこういう話をしているようだとつぶやくと、外国語が堪能な人や専門家も参加して、より正確な翻訳が付け加えられ、こっちではこういう話もあると情報が集まる。


 これはネットの無料翻訳サービスが脚光を浴びるきっかけにもなった。日韓の翻訳以外の翻訳精度はまだ高くないため、サイトごとに翻訳された内容が違っていて逆にわけ分からなくなることもあるが、自動翻訳を使って外国語の新聞や本、動画も自由自在に楽しめる時代が近くなったと実感した。


 中でも注目を集めたのが、NHKニュースを同時翻訳で字幕を付けてくれるサービスだった(現在は終了)。3月18日から23日まで提供したもので、機械翻訳ではなく6人の同時通訳専門家がNHKのニュースをリアルタイムで、アナウンサーが話す内容を翻訳して韓国語で入力した。ネットユーザーはUstreamやニコニコ生放送を利用してNHKの日本語ニュースを見ながら、NAVERの字幕を利用して韓国語で日本の原発や震災後の状況を把握することができた。








NHKニュースの同時翻訳を付けたNAVERのWebサイト

日本に住んでいて日本語をあまり話せない韓国人もいる。情報不足でパニックになったり不安になったりしないように、韓国のメディアによってろ過されていない生のままの日本のニュースが知りたい人のために提供されたものである。震災後、韓国のポータルサイトでは「NHK」というキーワードが検索ランキング上位に登場したほど。日本ではどのように報道されているのかを知りたがった韓国人が多かったわけだ。

 ネットでは原発や放射性物質に関してデマも広がっているだけに、できるだけ科学的根拠のある信頼できる情報をたくさん集めて、自分で判断したいという人も増えている。出所の分からない情報に惑わされないよう、韓国の外交通商部(外務省)、気象庁、消防防災庁の公式ミニブログ「me2day」 (NAVERが提供する韓国のTwitter)も忙しくなった。


 宮城・岩手などに派遣された救助隊や仙台領事館から送られてきた現地の写真が公開され、東日本の地震速報、日本と韓国の放射線量の数値、放射性物質に関する説明、日本での緊急連絡先などを随時更新している。


 駐日韓国大使館では、日本政府が発表した東京の放射線量数値を韓国原子力安全技術院に依頼して、人体に影響があるかどうか分析して毎日ホームページで告知している。


 東日本大震災は、韓国から最も近く、韓国人が最も多く住んでいる日本で起きた震災だけに、韓国内の事件と同じ扱いで連日トップニュースとして報道されている。「Pray For Japan」の熱気(前回記事参照)もまだまだ続いている。韓国の大学では、日本から来た留学生が被災して帰国が難しくなった場合、無料で大学の寮を提供して生活を支援するといった案を発表したところもある。韓国内の在庫が足りなくても、日本にミネラルウォーターや非常食品を優先的に提供するという食品会社も増えている。震災の不安と影響、そして痛みを韓国も共有している。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年3月25日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110325/1030911/

携帯電話の時計が一斉に狂った! 原因は北朝鮮のGPS妨害か?

3月4日午後から6日にかけて、韓国首都圏の一部地域で携帯電話の時計が突然14時間も遅れたり、直ったと思ったらまた8時間遅くなったり、時計の時間がおかしくなった。

 携帯電話の時計の時間は、衛星を使うので、どの時計よりも正確と信じられている。携帯電話を時計代わりにし、携帯電話で毎朝アラームをセットしている人がほとんどだ。金曜の夜から週末の間だったので何かがおかしいというだけで大きな問題にはならなかったが、もしこのような問題が平日に起きていたら、遅刻したり時間を間違えたりして一騒動起きていたかもしれない。


 通信事業者は携帯電話の時計が狂ったということに気付かず、コールセンターへの問い合わせが届いてから知ったという。放送通信委員会が原因究明に乗り出したところ、衛星から携帯電話に情報を伝えることを妨害する「GPS妨害電波」が発生していたことが分かった。妨害電波によって北朝鮮から近い仁川、ソウル北西地域、京畿道北部にある145カ所の基地局が影響を受けた。時計だけでなく音声通話に雑音が入りよく聞こえなくなる地域もあった。


 驚いたことにその妨害電波を発信した位置を追跡したところ、北朝鮮のケソン周辺地域だった。砲撃事件以降、北朝鮮がまた韓国を攻撃しようと準備しているのではないかという不安が国中に広がった。ちょうど2月28日から3月10日まで北朝鮮が反対した米軍との連合訓練が実施されているだけに、攻撃の前兆ではないかと思われた。韓国軍の計測器や一部の装備も障害が発生したというニュースがあったからだ。昨年8月にも米軍との連合訓練の間に、北朝鮮からGPS妨害電波が発信されたことがある。


 しかしGPS妨害電波は継続的ではなく途切れ途切れだったことや、電波がそれほど強くなかったことから、北朝鮮が海外から仕入れたGPS電波妨害装置をテストしていただけで、韓国に影響を与えようという意図はなかったのかもしれないと分析された。また韓国軍が「これぐらいのGPS妨害電波は十分制御できる範囲内なので問題ない」と話したというニュースもあったので安心した。


 毎日使っている携帯電話の時計が狂ってしまうなんて想像もしていなかったことなのに、それが北朝鮮からの電波妨害によって起きただなんて。分断国家といっても北朝鮮という存在をあまり意識することなく生きている中、一般の人にまでこういう影響が出るとはちょっと怖い。


 北朝鮮問題はこれで終わりではない。同じく3月4日にはDDoS攻撃(標的のコンピューターに大量のパケットを送りつけたりして障害を起こす)もあった。政府機関、国防部、統一部、国家情報院、金融機関、ポータルサイトなどが対象になった。2009年7月7日に莫大な被害が発生した「77DDoS大乱」のときも北朝鮮が背後にいるのではないかと疑われた。民間企業に対するDDOS攻撃は日常茶飯事だが、政府機関に対する攻撃はこの「77DDoS大乱」以来初めてということも北朝鮮背後説を煽っている。北朝鮮の逓信省が中国内で使っているIPアドレスが攻撃に使われたといったニュースもあったものの、正式には北朝鮮の仕業とは断定できないとされている。


 今回のDDoS攻撃によって、これといった被害はない。何度も攻撃された経験から万全を期していたからだ。P2Pサイトからウイルスをダウンロードしてしまった1万3000台のPCがゾンビーPCとして攻撃に使われた(2009年当時は11万台以上)。政府が早期に「サイバー危機注意報」を発令し、ポータルサイトらが一斉に注意を呼びかけたことで、一般のユーザーも無料のアンチウイルスソフトをインストールして自分のパソコンがゾンビーPCになるのを防いだ。


 面白いのは北朝鮮の砲撃を非難し、金正日パロディ画像などを投稿できる「挑発掲示板」を開設した「DCインサイド」(よく日本の2ちゃんねると比べられるコミュニティサイト)もDDoS攻撃の対象になったことである。民間のコミュニティサイトが国防部や国家情報院と一緒に攻撃されたのはやはり北朝鮮を非難したから? これじゃ犯人が誰なのか自分で明かしているようなものだよね。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年3月10日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110309/1030691/

どこの事業者のiPhone使おう? SK Telecom、2社目のiPhone通信事業者に

韓国人の生活を激変させたiPhoneが、ついにKTだけでなく携帯電話加入者シェア1位のSK Telecomからも発売されることになった。早ければ3月末にでもiPhone 4がSK Telecomから発売される。iPad 2、iPhone 5も続々と導入する計画だという。

 韓国初の携帯電話事業者であり、市場シェア50%以上、長期加入している人が多いSK Telecomであるが、長期割引や家族割引をあきらめてまでKTのiPhoneに乗り換える人が後を絶たず、頭を痛めていた。流出するユーザーを引き止め、iPhoneに対抗するためのマーケティング費が3000億ウォン(約220億円)を超えたことから、いっそiPhoneを発売してはどうかということで話がまとまったようだ。


 国中にモバイルインターネット革命を巻き起こしたiPhone 3GSとiPhone 4のユーザーはKTだけで220万件、携帯電話加入件数の約5%を占めている。SK TelesomはサムスンのGalaxy Sをはじめ、Android端末の宣伝に必死になっていた。SK TelecomはGalaxy Sだけでも240万件以上の加入者を確保し、スマートフォンユーザーはKTより多い(2010年末時点でKTが245万、SK Telecomは390万人)。


 韓国人がiPhone大好きな理由はやはりアプリケーション。これは日本のユーザーも同じだと思うが、世界で話題になっているアプリをリアルタイムで自分も使ってみたい、トレンドに敏感な人になりたいという意欲は、韓国の方がものすごくあるように感じる。


 KTが独占していたiPhoneがほかの通信事業者からも発売されることから、端末の売れ行きや通信事業者を選択する理由にも差が出そうだ。今までははっきりとKT(iPhone)対SK Telecom(Galaxy S)の攻防戦があり、KTはあまり好きじゃないけどiPhone使いたいから仕方なくKTにしたという人も少なくなかった。


 iPhoneを発売したことで一時期サムスンとKTの仲が悪くなったといううわさがあった。いつもならSK TelecomとKTがほぼ同時にサムスンの新機種を発売したのに、Galaxy SだけはKTからの発売がとても遅かったからだ。それが今度はサムスンとSK Telecomの仲が悪くなったといううわさが広がっている。サムスンの新機種をKTとLGU+にも同時提供するという。長年SK Telecomに端末を独占供給していたモトローラもKTと手を組むことになったので、ユーザーにとっては、端末で通信事業者を選ばないといけない時代はもう終わったようだ。








KTはソウル市内のカフェと提携し、店内でiPhone 4やiPadを体験できるようにしている


これからはiPhoneなのか、そうでないのかで通信事業者の選択を迫られることはなくなった。どっちの事業者の料金が安いか、Wi-Fiスポットが多いか、親切でアフターサービスも万全にしてくれるのか、サービス競争になるだろう。同じiPhoneで、同じく毎月9万5000ウォン(約7000円)のスマートフォン定額料金制でも、KTは800分無料通話・1000件無料SMSなのに対してSK Telecomは1000分無料通話・1000件無料SMS、SK Telecomは家族全員の加入年数に応じて割引幅が違う家族割り引き、KTは1年ごとに基本料が10%ずつ値下げされる自分割り、といった具合にサービス内容が違う。

 事業者の競争はユーザーにとってはうれしい話である。韓国ではスマートフォンを買うと専用料金制に加入しないといけない。通常の携帯電話料金の2倍以上あるので家計の通信費負担は年々増えるばかりである。iPhoneに対抗するために莫大な広告費を使うより、その予算で通信費を安くしてくれるとか、端末を安くしてくれるとか、そういう競争に火がついてほしい。


 韓国では2008年から約定加入が導入され、2~3年の間、同一の事業者に縛られていたユーザー1500万人が2011年に開放される。1500万人の多くは違約金が怖くてスマートフォンに乗り換えできなかった人とみられているので、SK TelecomはKTにこれ以上ユーザーを取られないためにもアップルと手をつなぐ必要があった。


 サムスンの端末を全面に売り出していたSK TelecomがiPhoneを発売したことで、Galaxy Sの人気はかげるだろうか。2011年2月韓国内の携帯電話端末シェアはまだまだサムスンが50.5%を占めている。売れた端末の内訳としてスマートフォンの割合は68%となっている。サムスンは普及型スマートフォンとしてGalaxy Sより安い端末も出し、Galaxy S2も十分話題になっている。とまれ、携帯電話加入シェア1位のSK TelecomからiPhoneが出るとなれば、韓国のモバイルインターネット事情はまた大きく変わるだろう。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年3月3日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110303/1030583/