怒濤の“スマホ化”、ソウル市が目指す「スマートソウル2015」のすごい内容

 ソウル市は現在、「スマートソウル2015」戦略を進めている。具体的には、2015年までにソウル市内のすべての公共施設をフリースポットにする、スマートフォンから各種行政情報や書類申請を利用できるモバイル行政を実現する、といった内容だ。このために2015年まで8500億ウォン(約670億円)の予算を使う。国連が評価した2010年世界電子政府ランキングで1位になった国らしく、スマート電子政府でも世界のトップになるという計画だ。


 同市はすでに2010年4月から、急速に普及率が伸びているスマートフォン向けモバイル行政サービスを提供している。ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーション開発やフリースポット拡大を目指して、“モバイル・ソウル”を進めてきた。


 同市のアプリケーション開発支援により、2010年には公衆トイレ位置情報検索アプリ、交通情報を分析してバスと地下鉄の最短移動経路を探してくれるアプリなど6つのアプリが無料で利用できるようになった。毎年2回、市民参加型でアプリのアイデア公募を実施、実際のアプリ開発はSKテレコムや民間企業に任せる方式でアプリの本数を増やしている。






ソウル市の公共データベースを活用したアプリケーションの一つで、ソウル市内の主な道路に設置された防犯カメラから交通情報を確認できる「ソウル市交通CCTV情報」



モバイル・ソウルを活性化していくためには、何よりもソウル市内全域でWi-Fiを自由に使えないといけないと判断し、情報格差をなくすためにも誰でも無料で使えるようにするべきということから、市は、市内のフリースポットを増やし始めた。無料Wi-Fiは、所得の格差でWi-Fiに加入できず、行政情報や緊急災害情報を受信できないといったことを防ぐためである。フリースポットなのでWi-Fiが使えるデバイスを持っていれば、外国人観光客でも無料でインターネットにアクセスできる。

 2010年末時点ですでにソウル市内の公共施設295カ所がフリースポットになった。これを2015年までに地下鉄車両の中、バスの中、タクシーの中へ広げる。野外のフリースポットは繁華街、公園、ショッピングセンターなど1万430カ所に拡大する。

 モバイル・ソウルをさらに高度にしてスマートシティにしていくのが今回の「スマートソウル2015」といえる。2010年末時点ですでにソウル市民の80%がスマートフォン/タブレットPC/Wi-Fiを利用しているというソウル市の調査結果を反映して、市民の利便性を高めるためにもスピードを上げてスマート化に取り組む必要があると判断したようだ。


 また、スマートフォンやタブレットPCだけでなく、スマートTV、電子書籍リーダー端末からもソウル市のアプリケーションとモバイル行政サービスを使えるようにする。モバイル行政サービスは、ソウル市がすでにネットで提供している63種類の電子申請・書類発給サービスをこれらの端末から利用できるようにするというもの。


 スマートフォンやWi-Fiを使っていない残りの20%のデジタルデバイド(情報格差)を解消するため、主婦や高齢者を対象に年間20万人ずつ5年間で100万人を教育するという計画も発表された。


 「スマートソウル2015」は、3段階に分けて進めていく。2010年に続いて2012年まではスマート基盤構築、2014年まではスマートサービス実行、2015年にはスマート高度化である。重点課題は4つで、「スマートインフラ拡充と情報格差解消」、「スマートデバイスを活用した一人ひとりのための行政、社会安全向上」、「雇用創出」と「スマートセキュリティ高度化」である。


 例えば、インフラ関連では、Wi-Fiでバスとタクシーに取り付けられたGPS信号をキャッチしてバスの到着時刻と道路状況を案内するデジタルサイネージがすでにあり、全国のバス停に設置されている。これの精度がまだ95%なので、100%近く正確に案内できるよう高度化するとする。


 社会安全という例では、ソウル市内の約1000カ所に取り付けられた防犯カメラを2015年までに1万カ所に増やして都市の安全性を高める計画もある。またこの防犯カメラの一部の映像を市民にも公開して、交通状況を確認できるようにもする。


 ソウル市内ではすでにほぼどこでも無料でWi-Fiが使える。パスワードを設定していないWi-Fi信号もたくさんあるので、スマートフォンやノートパソコンを持っていればインターネットを使うのに困ることはない。逆にあまりにも「スマート」に力を入れすぎているので、スマートフォンがないとソウルに住むのが不便になるのではないか、その方が心配だ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月11日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110811/1034726/

ピョンチャン冬季五輪の準備始まる~未来インターネットで世界を驚かせる

3度目の挑戦で2018年冬季オリンピックを誘致できたピョンチャン。フィギュアスケートのキム・ヨナ選手もオリンピック誘致のためのプレゼンテーターとして参加し、流暢な英語と堂々たる態度で、「国宝少女」というニックネームが付いた(国宝少女は韓国で7月に放映されたドラマの中のアイドルグループの名前でもあり、国宝○○というのが流行語にもなった)。

 キム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画はネットの動画サイトでも人気爆発。何度見ても飽きないとファンの間で絶賛されている。ネットではキム・ヨナ選手がプレゼンのときに着ていた衣装やアクセサリー情報まで検索キーワード上位を記録したほどである。








民放SBSは自社の動画サービスの一つとしてキム・ヨナ選手のプレゼンテーション動画を公開。通訳や編集のないオリジナル動画で、1日で35万ビューを記録した




 ピョンチャン冬季オリンピックは、誘致段階から韓国の最新IT技術を総動員した「ユビキタスオリンピック」にすることを公約している。何をどうユビキタスにして世界が驚くすごいオリンピックにするのか、それを決めるための討論会が7月26日に行われた。


 韓国情報化振興院が主催した「スマートピョンチャンオリンピック討論会」には、各省庁とオリンピックのスポンサーになっている企業の担当者が参加した。韓国が今まで築いてきたモバイル電子政府、モバイルヘルスケア、スマート教育、スマートシティ、スマートグリッドなどすべての技術をオリンピックに応用するためには、まず何から始めればいいのか、ということを議論した。まずは2011年末までにマスタープランを作ることで合意した。


 2012年からは組織委員会が「スマートワーク」を導入し、ソウルとピョンチャンを行き交いしなくても、スマートフォンやタブレットPCから不便なく業務ができるようにすべき、オリンピック準備状況を誰でも随時確認できるよう情報を公開すべき、という意見もあった。


 ピョンチャンで冬季オリンピックを開催できることはうれしい一方、新聞記事のコメント投稿欄をにぎわせているのは「赤字オリンピックになっては困る」ということだ。ピョンチャンはスキー場が有名なリゾート地で、冬しか人が集まらない。ピョンチャン側も、競技場を建てたのはいいが、オリンピックが終わってからは管理費用ばかりかかって冬以外は使い道がない、なんてことにならないようにするにはどうしたらいいのか、と悩んでいるはずだ。


 通信事業社のKTとSKテレコムは討論会で、オリンピックのためのインフラ建設に約7兆ウォン(約5600億円)の予算が必要であると推算し、道路や競技場などの工事と有無線ITインフラを同時に構築することで費用を節約して、インフラ投資で終わらずオリンピックの後も活用できるサービス基盤を作ることを強調した。


 韓国のIT業界では、2002年FIFAワールドカップをきっかけにデジタル放送やモバイルサービスの技術が発展し、韓国はIT先進国であるという宣伝になったことで輸出も伸びたとしている。2018年の冬季オリンピックでは、ピョンチャンをスマートシティにして、人々の生活はこれからこうなるという未来を体験してもらうことで、さらなるIT輸出につなげたいと期待を膨らませている。


 ピョンチャンのユビキタスオリンピックのために、「未来ネットワークフォーラム」という組織も始動している。未来ネットワークは次世代インターネットのことで、3Dの大容量コンテンツを楽しめるほど高速で、セキュリティの高いネットワークであるという。韓国ではスマートTV、スマートフォンから利用できる3D映像がとても人気で、サムスンが3月から始めたスマートTV用3D映像は3カ月で100万ビューを突破したほどである。スマートフォンから3D映像を利用するためには高速モバイルインターネットが必要で、4GといわれるWibro(韓国のモバイルWiMAX)やLTEも商用サービスが始まった。


 韓国ではピョンチャンを未来ネットワークモデル都市にして、企業からどんなサービスを提供するかアイデアを募集し、想像していたことが現実となる様子を見せたいとしている。入国した時点で観光客にタグを発行し、空港からホテル、競技場、観光地、ショッピングセンターいたるところでその人に合わせた情報サービスを提供しながら、テロ防止にもつなげるといったこともアイデアとして提案がある。個人情報をどこまで使えるかが課題ではあるが、医療支援が必要な観光客や選手の場合は、センサーを利用して機械が異常を感知したら、本人が異常を感じていなくてもすぐ近くの病院にSOSの信号を送り処置を取るといったことも検討する。こうした未来ネットワークを使った韓国のサービスモデルを世界に広げていくのが未来ネットワークフォーラムの役割でもある。


 2018ピョンチャン冬季オリンピックは韓国のIT企業にとって大きなチャンスになることは間違いない。オリンピックをきっかけに韓国はまたどんな「世界初」サービスでユーザーを楽しませてくれるのだろうか。スポーツよりITに興味のある私としては、オリンピック競技よりもそっちの方が待ち遠しい。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年8月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110802/1033462/

ソウル市の集中豪雨で被害拡大、「Twitterが頼り」またもや立証

2011年7月26日16時から27日の午前にかけて、ソウル市では338mmの集中豪雨に見舞われた。1時間あたり110.5mmが降った地域もある。気象庁の予報がなかったため市民らは慌てふためいた。豪雨は予想以上で、携帯電話がつながらない、ネットが使えない、テレビが映らないという被害が発生した。

 ソウルは6月から雨が多く、既に平年の2.3倍も雨が降っているのに、また集中豪雨が発生した。気象庁の大雨警報が出る前にもう道路は浸水し、地下鉄の駅の中まで水が溜まり、川の中を歩いているようなものだった。ソウルの中心部である光化門と市庁周辺道路はひざぐらいまで水が溜まった。漢江沿いを走る首都高速も一部区間で漢江が溢れて浸水したため通行止めになり、道路ではなく「駐車場」になってしまった。道路の浸水状況はどんどん悪くなり、バスは道路ではなく水上を走っているような状態で、バスの中にまで水が入ってきたほどである。まさかソウルのど真ん中でこんなことが!と驚かずにはいられない光景であった。


 サムスンの本社がありITベンチャー街でもある江南駅周辺は、自動車が屋根まで水に浸かりぷかぷか浮いている写真がTwitterに投稿され、「ここがソウルだなんて信じられない」というつぶやきが後を絶たなかった。


 韓国では大雨になると有線インターネットがつながらなくなることがある。この日もインターネットがつながらなかった。テレビが映らなくなった地域もある。モバイルインターネットだけがライフラインとなった。ほんの5分ほどで道路が浸水して車ごと流された地域もあったため、ニュースの速報も追い付かず、一刻を争う緊急事態の中で頼れるのはTwitterのつぶやきだけだった。


 Twitterへは人々がソウル各地の浸水状況をつぶやき、写真も投稿した。「○○駅周辺は浸水で地下鉄駅を閉鎖中、運転中の方は迂回してください」、「○○マンション周辺の道路が浸水して団地内に入れない状態」、「○○駅前のマンホール、蓋がずれてるから気を付けて!」など、絶えず浸水状況が更新された。Twitterで地域名と被害状況を検索しながら、どうやったら家に帰れるのか頭を抱えたものだ。







Twitterに投稿されたソウル市内の浸水状況






刻々と変わる被害状況の写真が投稿される


テレビや新聞も、記者の身動きが取れなくなったこともあり、Twitterのつぶやきをニュースとして報道する状況になってしまった。ソウル市はTwitterで地下鉄運行状況、避難警告を出し始めた。ラジオでもソウル市内に付けられた防犯カメラの映像とTwitterのつぶやきを頼りに地下鉄やバスの運行状況、道路状況を伝えていた。


 土砂崩れで死者が発生した地域でも、真っ先に危険を知らせてくれたのはTwitterだった。基地局も被害にあい音声通話ができない状態だったため、Twitterで避難を呼びかけ救助を要請し、消防隊が出動した。マンションの2階まで土砂が流れ込み、流された自動車がぐちゃぐちゃにつぶれてビルの2階に突っ込んでいる写真を見ると、恐ろしくなってしまった。


 27日の朝には、江南地域の道路浸水がひどく、歩く人が感電する危険があることから停電することが決まり、周辺の携帯電話基地局も電力を供給してもらえず臨時バッテリーで作動させることになった。


 豪雨が続いたため停電が長引き、SKテレコムの基地局は臨時バッテリーの電源が底をつき、午前9時から電力送信が再開された14時ころまで5時間ほど携帯電話がつながらなくなった。LGU+は不通までにはならなかったものの、中継機の電源が切れたために信号がつながりにくい、雑音がひどくてよく聞こえないといった状況が続いた。放送通信委員会によると、停電地域内にあった基地局の数はKTが20、SKテレコムが3、LGU+が7だった。


 同じ時刻、江南では唯一KTだけ携帯電話が通じた。KTの説明によると、クラウドコンピューティングを活用した基地局のおかげだという。基地局のデジタル信号処理をビルの屋上に置いて光ケーブルでつなげ、データ処理は中央集中局(電話局内)に分離して管理する「クラウドコミュニケーションセンター」を導入したため電力消耗が非常に少なく、小型発電機で基地局のアンテナを運用できて、停電になっても2時間は耐えられるようになったことから、携帯電話が不通になることはなかったという。


 豪雨をきっかけに、少ない電力でも動くクラウド基地局を増やして、災難時に備えるべきという声が高まっている。東日本大震災をきっかけに韓国も災害時の情報伝達方式を見直すとしていた矢先、結局またTwitterに頼ってしまった。韓国はIT強国のはずだが、気象、災害、こういうところはITがうまく活用されていなくて残念だ。日本の「10秒後に揺れます」、という地震警報のように正確でなくても、「今日は大雨が降ります」くらいの天気予報はしてほしいものだ。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月29日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110729/1033359/


市場シェア実に7割、韓国最大オークション「eBayKOREA」誕生


 韓国シェア1位のオークションサイトAuctionと2位のGmarketが合併し、eBayKOREAとして生まれ変わることが決まった。Auctionは2001年、Gmarketは2009年、eBayの子会社になっていた。7月5日、公正取引委員会は子会社同士の合併は問題ないと承認し、eBayKOREAが誕生することになった。


 韓国では今までヤフーやグーグルといった外国企業のネットサービスに人気がなく、NAVER、DAUM、Hangame、Yes24、Interparkなど、韓国生まれのネットサービスにユーザーが集中していた。韓国にはまだAmazonもiTunesも入ってきていない。そこに突然巨大なeBayKOREAが生まれるというので、ネットユーザーの間では衝撃的な出来事としてとらえられている。


 韓国企業のサイトが人気なのは、移り変わりの早い韓国人のトレンドをすぐ把握してサイトに反映できたからだ。ポータルサイトが登場して間もなかったころ、Yahoo!が没落してNAVERとDAUMが成長したのも、アバタ―、ゲーム、ブログ、Cafe(ポータルの中の同好会サイト作り)と1~2カ月でころころ変わる韓国ネットユーザーのトレンドを、米本社の許可をもらうまで数カ月はかかるYahoo!は追いつけなかったからであった。AuctionとGmarketの名前がeBayに変わるだけで今までのように韓国系サイトの運営方式を守れるのか、それともeBay方式に変えるのか、これもユーザーにとっては気になるところである。





eBayKOREAに合併されることになったGmarketのWebサイト。韓流スターBigbangのG-dragonがイメージキャラクターになっている



AuctionとGmarketの合併は、いわば日本のYahoo!オークションと楽天とAmazonを一つに合併してeBayに名前を変えるというほどのインパクトである。公正取引委員会の資料を見ても、AuctionとGmarketだけでオープンマーケット市場シェア72%を占めている。オープンマーケットとはインターネットショッピングモールの一つで、1社が商品を仕入れて決済配送までするのではなく、個人や中小企業が入店して商品を販売できるよう場を提供するオークションのような形式のサイトをいう。


 韓国のオープンマーケット市場規模は25兆ウォン(約2兆円)と推定されている。韓国では2008年からデパートよりインターネットショッピングの流通規模が大きくなり、流通市場は大型スーパー(ディスカウントショップ)→インターネットショッピング→デパートの順になっているほど、インターネットで商品を買うことが広く普及している。


AuctionとGmarketの運営方式は全く同じである。個人から大手企業まで商品を登録して販売できる。中古でも新品でも構わない。販売手数料は商品カテゴリーによって違うが平均10%というのもほぼ同じである。ポータルサイトで検索すると、キーワードに該当する両社に登録された商品が検索結果として表示される。インターネットショッピング最安値を強調しているのも同じである。両社を合併した方が効率的だが、競合会社の合併反対に押され様子見状態だった。


 AuctionとGmarketの合併の背景には、大手企業のオープンマーケット進出がある。通信キャリアのSKテレコムが運営する「11番街」のシェアが拡大し、KTもIPTVやスマートTV向けオープンマーケットを始めた。韓国で検索市場シェア7割を占めているポータルサイトNAVERもオープンマーケットを準備しているという。SKテレコムがオープンマーケットに進出してから、AuctionとGmarketの市場シェアはGmarketもeBayの子会社になった2009年の86%から2010年には72%に減少した一方、SKテレコムの11番街は5%から21%に増加していることがある。ここからも、AuctionとGmarketの合併によって市場競争が制限される、販売手数料を談合するといった問題が起こる可能性は低いと公正取引委員会は判断している。


 しかしSKテレコムやその他オープンマーケット会社は、市場シェア72%もあれば市場を支配できる立場であるため不公正な取引が起こり得る可能性を排除できない、小規模の販売者はeBayKOREAからしめ出されないよう気を使い他のオープンマーケットに参加しなくなるかもしれないと指摘する。


 新しくeBayKOREAを誕生させるeBayの韓国支社は、健全なオープンマーケットを作り販売者と消費者の権利を守り、販売者と一緒に成長していくといった内容の公正取引自律遵守プログラムを運営すると発表している。また、韓国の競争力のある商品を世界のeBayに紹介するとして、8月3日まで100人の販売者を選定してeBayドイツに100個まで無料で商品を登録できるようにするイベントを行っている。


 韓国ではスマートフォンを経由したインターネットショッピング市場が急成長中だ。オープンマーケット市場もモバイル競争になっているので、SKテレコムが本業のモバイルを生かしてシェアを拡大するのか、それともeBayKOREAがグローバル競争力でシェアを守るのか、それも注目である。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月21日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110721/1033119/

幼児からデジタル教科書に慣れさせるコンテンツ続々

2014年からは小中学校、2015年からは高校もデジタル教科書を使うことが決まった韓国では、タブレットPCを使った幼児向けの教育アプリケーションが人気を集めている。教育熱の高い韓国の親は、今からタブレットPCで本を読んだり書き込んだり学習したりすることに子どもを慣れさせようとしているからだ。

 KTやSKテレコムなど通信事業者(キャリア)も新規事業の一つとして、小学校低学年と就学前の幼児を対象にした学習アプリケーションを展開している。KTは「オルレ幼稚園」に続いて「オルレスクール(olleh school)」という名前で小学生向けのアプリケーションを開発し、アップルのApp StoreやAndroid Market、KTのアプリケーションストアであるオルレマーケットに登録した。スマートフォンからもタブレットPCからも利用できる。


 オルレスクールにように漫画やアニメで歴史の勉強をしたり漢字を覚えたりするコンテンツを韓国ではエデュテインメント(Edutainment)という。パソコンから利用できるエデュテインメントのWebサイトはいくつもあるが、アプリケーションとして提供されるのは2011年になってからである。


 オルレスクールは読む、見る、だけでなく体験できるアプリケーションであることを強調している。例えば音楽に関するページを開くと、楽器を選択して音を鳴らしたり自分の演奏を録音して聴いたり、インタラクティブな活動ができることから「ユビキタスブック」とも呼ばれている。





小学生向けエデュテインメントアプリケーションとして人気を集めているKTのOlleh School。球状になっているメニューを指でタッチして回しながら見たい学習マンガやアニメを選ぶ


オルレスクールは、参考書や子ども向け学習辞書などを出版する大手出版社と子ども向け新聞を発行するメディア、Eラーニング事業者、公共機関が参加する。10分程度で全問解けるように構成されたドリルや英語を教える漫画などいくつかのメニューは無料。有料会員になると学習効果のあるゲームやクイズ、アニメなどを利用できるようにする。7月まで加入した人には1年間無料で提供し、その後は月4000ウォン(約320円)の定額制にする。

 KTは通信キャリアである一方、アプリケーションマーケットを提供するだけでなく、自らアプリケーションを企画し、制作にも参加している。プラットフォームでもありコンテンツプロバイダーでもあるところが韓国のキャリアの特徴であるが、KTは「だからこそユーザーが欲しがるアプリケーションを素早く提供できる」と宣伝する。


 KTはスマートフォンやタブレットPCを利用して大学の講義を受講できるようにする「スマートキャンパス」事業も進めていて、スマートデバイスを利用した学習に力を入れていくとしている。今後は中学生向けオルレスクール、高校生向けオルレスクールも展開する計画だという。


SKテレコムも幼児・小学生向け学習アプリケーションである「スマートセム(スマート先生)」を始めた。教科書会社、参考書会社が提供する動画コンテンツをベースにしたもので、年齢に合わせて幼児はハングルや基本的な数字を覚えるといったコンテンツを、小学生は学校の試験勉強のためのコンテンツを利用できるようになっている。


 SKテレコムの「スマートセム」は科目別、学年別に設定できる学習管理システムが特徴で、毎月目標を設定し、目標達成はできたか、学習効果はあったのか、といったことも確認できるようにしている。また1対1で担当の先生を付けてくれるので、学習目標を設定するための相談や、よく分からない問題を質問できる。利用料は月5000ウォン(約400円)の定額制。


 SKテレコムは「スマートセム」をNスクリーンにする計画で、一度購入すればタブレットPC、スマートフォン、IPTVからも利用できるようにする。Nスクリーンとは、韓国のキャリアが提唱する戦略で、同一のコンテンツを複数の端末(スクリーン)で見られるようにするというもの。国内ではすでに全国の小中高校の教室にIPTVが導入されていて、低所得層の子どもを預かる放課後教室「IPTV勉強部屋」も全国に1000カ所ほどあるため、IPTVから使える学習アプリケーションも需要がある。


 政府が目指す「所得差や地域差による教育格差をなくす」という教育政策を実現するためには、スマートデバイスとアプリケーションを活用した教育が効果的であるため、学習アプリケーション市場が拡大、参考書や辞書を買うよりも安く良質なコンテンツをいつでもどこでも利用できるので、学習アプリケーションはこれからどんどん増えていくだろうとSKテレコムは予想する。


 そのため、SKテレコムは韓国教員団体とも提携している。スマートデバイスを利用した教育コンテンツの制作や授業設計、教育効率性向上のためのIT通信技術適用などスマート教育のために相互協力するという内容で、まずは2011年の夏休みの間、SKテレコムが教師を対象に学習アプリケーションの開発や活用に関する教育を行う。


 アニメ制作会社や絵本を専門とする出版社も続々と学習アプリケーション、エデュテインメントアプリケーションに参入している。オフラインで人気のシールブック(子どもたちがシールを貼って絵本のストーリーを完成させていく本)のほとんどがアプリケーションとして制作され、人気ランキング上位を占めている。


 首が座ればマウスを握るというほど赤ちゃんからネットを使うのが当たり前な韓国だが、これからはタブレットPCをタッチすることから覚えそうだ。何事もあっという間に広がるスピードの速い国だけに、デジタル教科書やエデュテインメントアプリケーションもあと数カ月もすれば新しくもなんともない日常になってしまうだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月14日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110714/1032964/

Galaxy Tabを利用して授業する~成績表も紙からモバイル通信へ

韓国政府が6月29日に発表した「スマート教育推進計画」は、国内外で大きな話題になっている。これは紙からタブレットPCへ教科書が変わるだけでなく、学校の教育そのものを根本的に変える政策だからだ。

 一足先にスマート教育計画を導入した学校がある。ソウルから東南に車で3時間ほど離れた大邱(テグ)市にある大邱高校は、サムスン電子のGalaxy Tabを活用したスマートスクールシステムを実験的に導入した。


 サムスン電子のスマートスクールは、先生と生徒がGalaxy Tabを使ってより便利に学校生活を送れるようにするというものだ。Galaxy Tabに保存したコンテンツを教室の中にあるテレビやプロジェクターに映して授業をするモバイルコンテンツ共有システムを使った授業を行う。先生も生徒もGalaxy Tabだけあれば重い教科書類や資料を持ち歩く必要がない。教室の中にはパソコンがあるが、事前に立ち上げてプロジェクターにつなげるのも面倒である。




Galaxy Tabを利用する大邱高校の授業風景。端末内に保存したコンテンツを、教室の中にあるテレビやプロジェクターにつなげて利用できる


 「学生総合管理システム」を使ってRFIDで出席をチェックしたり、成績管理などができるようになった。教師と保護者とのコミュニケーションもGalaxy Tabを使ってリアルタイムで行う。成績表や家庭通信簿も紙ではなくモバイルで送信し、先生のコメントを確認して返事をしたり、1:1で質問したりすることもできる。「学生総合管理システム」は5月にソウルで開催されたWorld IT Show2011にも展示され、注目を集めた。

韓国政府が打ち出した「スマート教育推進計画」の具体的な柱として取り上げられたのは、「デジタル教科書」の他に、「オンライン授業活性化」、「オンライン学習診断・指導体制構築」、「教育コンテンツを自由に利用できる環境造成」、「教員のスマート教育実践力の強化」、「クラウドコンピューティング基盤造成」がある。「スマート教育推進計画」を推進するために、教育科学技術部(韓国の文科省)に「スマート教育推進委員会」を新設する。


 政府はデジタル教科書のプラットフォームを民間に提供し、いろいろな企業が参加してスマート教育産業がより活性化するよう支援していく方針である。10年ほど前から無料で政府が提供する教育サイト「EDUNET」を基盤に、学校の授業に必要な学習資料を網羅したコンテンツのオープンマーケットを運営し、タブレットPCを使って授業中に利用できるよう、全教室に高速モバイルインターネットのインフラを提供する。


 生徒が授業の復習や予習をするときもEDUNETにアクセスすれば動画や画像を使った参考資料を利用できるので、有料のEラーニングサイトを利用する必要がないようにする。デジタル教科書は所得や地域の格差を乗り越えて公平に、誰でも高い水準の教育を受けられるようにするための制度なので、デジタル教科書そのものはもちろん、参考資料になるコンテンツ開発も重要な課題だ。授業だけでなく学校の校務全般もタブレットPCを使って行えるようにする。


 サムスン電子は大邱高校のスマートスクールについて、「より効率的な授業と学校経営のためになるソリューションを開発していく」としている。韓国では校務情報化も90年代に開発され全学校での導入が終わっているだけに、これをモバイル化できればさらに便利になることは間違いない。デジタル教科書が導入される前から、このようなスマートスクールシステムを活用しはじめる学校はどんどん増えそうだ。


 次回は通信キャリアが新規事業として始めているタブレットパソコン向け教育アプリケーションについて紹介する。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年7月7日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110707/1032815/

韓国、2015年までにすべての小中高にデジタル教科書を導入

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「スマート教育推進戦略」を発表、全教員にタブレットPC支給も


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韓国国家情報化戦略委員会と教育科学技術部(韓国の文部省)は6月29日、2014年から小中学校、2015年からは高校でデジタル教科書を導入し、教室と家庭のインターネット環境もADSLより100倍速い4Gネットワークにするといった「スマート教育推進戦略」を発表した。まずは法律を改定して、デジタル教科書に「教科書」として法的地位を与える。紙に印刷されたものが教科書であるという規定をなくす。

 元々韓国は2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入する計画であった。そのために、1996年からデジタル教科書開発を進めてきた。2007年からは小中学校でデジタル教科書実証実験が始まり、2011年も全国の小学校100校以上でデジタル教科書を使った授業が行われている。


 教育科学技術部は、「2009年度OECD学習到達度調査(PISA:Programme for International Student Assessment。参考記事)によると、デジタル読解力では韓国が1位 。すでにデジタル社会に慣れている学生の未来のために、教育のパラダイムシフトが必要である」として、デジタル教科書の必要性を強調した。


 紙の教科書からデジタル教科書に変えることで、「重い教科書を持って登校しなくてもいい」、「デジタル教科書には辞書、参考書、各種データベースがリンクされているので、塾がない過疎地に住んでいる子どもたちにもレベルの高い学習環境を提供できる」、「お金がなくて参考書が買えない子どもでも、デジタル教科書さえあればいくらでも自習できる」、「教科書の中身が随時アップデートされるので最近の事例を取り上げながら勉強できる」、「デジタル教科書を使えば、子どもの学習能力に合わせてテスト問題や課題を調整できる」など、生徒一人ひとりの目線に合わせた教育を提供できるようになる。



サムスンが提供するスマート教育の様子。韓国では2015年までに小中高校すべての学校へデジタル教科書を導入することが決まった


デジタル教科書実証実験を行った学校のアンケート調査を見ると、子どもも保護者も先生も、満足度が非常に高い。特に子どもたちは「授業が楽しくなった」、「紙の教科書よりも理解しやすい」と大喜びだった。


 スマート教育のためのデジタル教科書は教科内容、学習参考書、学習辞典、問題集、ノート、マルチメディア資料などのコンテンツが盛り込まれる。モバイルクラウドコンピューティングをベースに、インターネットさえつながれば、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVなど、どんなデバイスからも自分の教科書を使えるようにする。

スマート教育のために学習評価方式もインターネットベースに変える。学生の成績管理や先生の校務はすでにすべてクラウド化されているが、評価そのものも紙のテストではなくインターネット経由で行うという。韓国では毎年全国の学校で基礎学力評価テストを行っている。テストは匿名で行われ、地域別平均点を出したり、基礎学力の足りない子どもの多い学校にはそれに合った指導を要求したりするのが目的。このテストも紙ベースではなく2015年までに段階的にIBT(Internet Based Testing)に変わる。


 学校の授業もオンライン化して、学校を欠席してもオンライン授業を受講すればその日の授業を履修したことにする方針だ。


 政府はスマート教育のために2015年まで2兆2280億ウォン(約1780億円)の予算を使う。デジタル教科書、モバイルクラウドコンピューティング、オンライン授業などを導入することで、教育分野での国の競争力を2015年までに世界10位以内、2025年までには世界3位以内にするのが目標である。


 このニュースはTwitterでも話題で、「世の中の動きを考えれば、デジタル教科書はもっと早く導入するべきだったのでは」という意見もあれば、「デジタル教科書を使うためにはタブレットPCが必要だけど、パソコンは故障することもあるから不安」、「デジタル教科書にするのはいいけど、全国の小中高校生が全部タブレットPCを買わないといけないってこと?」、「端末ベンダーだけがもうかる政策ではないか」など、Twitterやブログではさっそく「スマート教育」を巡り、多くの人たちが意見を言い始めている。


 2011年度の全国の小中高校生は約750万人。実証実験段階では政府が無料で端末(タッチ式ノートパソコン)を提供した。ところが、2014年からはデジタル教科書を使うための端末は生徒個人で購入するという計画だ。どんな端末からも使えるというが、結局親は、子ども用にタブレットPCを買わないといけないだろう。デジタル教科書は地デジとは違うので、タブレットPCを買わなくても踏ん張ればなんとかなると放っておくわけにもいかない。


 また、スマート教育推進のために最も重要なのは、教員の研修である。デジタル教科書そのものも重要であるが、それを活用して授業を行う先生がデジタル教科書をフルに使えないと意味がない。教育科学技術部は2015年までに地域の教育庁別に「スマート教育体験館」を作り、全教員にタブレットPCを支給するとしている。


 次回は一足先にスマート教育環境を構築した学校の事例を紹介する。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年6月30日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110630/1032704/

それ、軍法違反! SNSに写真を載せる兵士たちに注意喚起

 2011年春、セリフやドラマのストーリーすべてが話題となり韓国で社会現象にまでなったヒットドラマ「シークレットガーデン」。人気絶頂の俳優ヒョン・ビンはこのドラマの主人公を最後に30歳で海兵隊に入隊した。これは韓国人男性なら避けて通れない兵役の義務のためであるが、30歳で海兵隊に入隊したのはヒョン・ビンが初めてだそうで、最高齢記録を塗り替えてしまった。


 兵役の義務を終えるまで2年間は芸能生活ができないのでファンともお別れとなるが、ヒョン・ビンは例外の待遇。海兵隊は毎日のようにヒョン・ビンがどのような訓練をして何をしているのかブログで写真を公開し、ドキュメンタリー番組、はては写真集まで作ってしまった。







海兵隊ブログが掲載した人気俳優ヒョン・ビンの訓練の様子



 海兵隊のブログ「飛べ、マリンボーイ」は、家族に見てもらうため、入隊したすべての訓練兵らの写真や動画を掲載して開設された。実際に訓練兵の写真の下には、母から「うちの子は風邪をひいてないか、ご飯はちゃんと食べているか」といったメッセージが書き込まれ、新兵教育担当者が「○○は元気にしています。風邪もひいていません」と答えている。


 ドラマ「バリでの出来事」で日本でも人気の高い俳優チョ・インソンも徴兵のため2009年空軍に入隊し、空軍ブログの顔として活躍した。空軍はチョ・インソンの軍生活を写真と動画で見せるコーナーまで作り、ブログの目玉にしてしまったほどだった。空軍ブログではクリスマスイベントとして、ブログにコメントを残すと抽選でチョ・インソンのサイン入り年賀状をプレゼントする企画まで催した。ブログが更新される度にファンがTwitterでつぶやき、ネット新聞の記事になり、テレビにまで紹介された。チョ・インソンが軍にいた25カ月の間、空軍はお金で換算できないほどの宣伝効果を上げたといえるだろう。









空軍ブログに掲載された人気俳優チョ・インソンの軍生活

 入隊した芸能人の軍生活がネットに公開され、ファンを喜ばせているのを見て、自分も注目されたいと思ったのか、芸能人でない人までも自分の軍生活を写真に撮ってソーシャルネットワーキングサービス(SNS)サイトに載せるようになった。これが今、問題になっている。

国防部によると、韓国には法律やネット関連知識のある専門兵士で構成する国防サイバーパトロールチームが82チームあり、軍事機密や国防を害する書き込みがネットにないか24時間モニタリングしているそうだ。そのサイバーパトロールチームが2011年1~3月に摘発した「サイバー軍紀綱違反行為」は1029件にのぼるという。この内300人が懲戒処分となった。パトロールチームが摘発した違反行為は上部に報告され、違法なのかどうか判断し刑事処罰される。


 摘発した写真や動画は、ほとんどが軍内部での日常を記念に撮影したものだが、うっかり背景に重要な軍事施設が写り込んで機密を流出してしまったケース。軍内部の生活を面白おかしく撮影して元気にしていることを友達に見せようとしただけなのに、軍人の名誉を失墜させたと摘発されたケースもあった。


 芸能人の軍生活がネットで話題になっているのを見て、自分もSNSサイトに軍隊の写真を載せて訪問者数をもっとたくさん集めたい、もっとコメントを書き込んでもらいたい、といった単純な動機の人がほとんどで、それが違反だと気付いていないようだ、と国防部は分析している。芸能人の軍生活はちゃんと検閲した写真だけを載せているから問題になるようなことはない。


 テレビ局SBS(ソウル放送)のニュースによると、2011年陸軍訓練所の入営対象者だけでも12万人余り。毎年これだけの人が新兵になるので、問題は繰り返されているようだ。


 国防部のサイバー犯罪捜査課の関係者は、「注目されたい気持ちは分かる」としながらも、最近はSNSサイトの利用者が増え、軍内部にもネットカフェがあってメールやテレビ電話を使えるようになってから、自分でも気付かないうちに「軍事機密保護法」、「情報通信網利用促進及び情報保護法」、「国防サイバー軍紀綱統合管理訓令」違反になることもあるので気を付けてほしい、と注意を呼び掛けた。


 青春の思い出(というか自慢したがる苦労話)を友人とシェアしたいという気持ちが思わぬ機密流出になることもあるのが、韓国という分断国家の悲しみかもしれない。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年6月22日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110623/1032566/

電気料金8%値上げの韓国でパソコン節電ソフトが人気

日本の節電に負けず、韓国もこの夏は節電、省エネを重視するようになってきた。その理由は電気代の値上がり。2011年の下半期に約8%の値上げが予定されている。家計負担を重くしないため、家庭用よりも産業用の電気代をもっと値上げする方針ではあるが、給料だけが上がらないインフレの中で、節電は家計を助けるため切実となっている。

 ここで節電といえば何よりもパソコンを思い浮かべる。


 韓国はネット大国らしく、すぐインターネットが使えるようにと、家庭にいる主婦の多くがパソコンを一日中つけっぱなしで利用する。スマートフォンやタブレットPCが普及したとしてもまだ大学生やビジネスパーソンが中心なので、主婦のネット利用は家庭のデスクトップパソコンが多い。


 韓国の携帯電話はネットに自由にアクセスできないようになっているので、料理のレシピを調べたり、主婦コミュニティで育児の悩みを書き込んだりするにはパソコンが必要になる。


 筆者は、学生のネット利用やネットを使った学習関連の取材で、一般家庭を訪問することがよくある。ほとんどの家庭がデスクトップパソコンを子どもの人数分持っていて、1台は必ず電源をつけっぱなしにしていた。検索したりニュースを見たりする度にデスクトップパソコンを立ち上げるのが面倒だからと、本体はつけっぱなしにしてモニターだけ電源を切る家庭がとても多い。


 2010年9月に実施されたインターネット利用実態調査(韓国インターネット振興院)によると、国内ネットユーザーの週当たり平均ネット利用時間は約15時間、ネットの利用場所はほとんどが家庭で、アクセスする端末も複数選択であるが8割がデスクトップパソコンを選んだ。


 韓国では消防防災庁が開発して無償配布する「PCグリーンパワー」が話題だ。これはデスクトップパソコンを節電してくれるソフトウエアである。時間を設定すると自動的に作業内容を保存してデスクトップパソコンの電源を切ったり休止状態にしてくれるので、ランチタイムも、うっかり消し忘れて帰宅してしまったあと深夜の時間帯も電源を切るよう設定できる。また書類作業の途中で急な会議に呼ばれパソコンをつけっぱなしにしてしまったときも、パソコンが自動的に動作を認識して作業内容を保存して休止状態にしてくれる。







韓国消防防災庁が無料で提供するパソコン節電ソフト「PCグリーンパワー」


Windowsの電源設定は複雑だし、何分後に電源を切るという設定しかできない。最新のデスクトップパソコンはノートパソコンのように節電機能が搭載されているが、そうでないパソコンの方が多いので、ソフトをインストールするだけで複数のスケジュールを設定してこまめにパソコンを休止状態にし、電気の無駄使いを防止できるところにこのソフトの利用価値がある。アイコンをクリックするだけで休止状態にする機能もある。「PCグリーンパワー」のダウンロードサイトでは、一日中デスクトップパソコンをつけっぱなしにする家庭の電気代節約のためにも、このソフトは効果的とうたっている。



 消防防災庁がPCグリーンパワーを職員のパソコン1200台にインストールして使ったところ、電力使用量を年間444MWh、電気代にして5300万ウォン(約430万円)が節約できたと宣伝している。たかがパソコンの電源と思いがちだが、同庁の説明では全政府・公共機関に「PCグリーンパワー」が導入されれば、最大360億ウォン(約29億円)の電気代を節約できるという。韓国の自治体や公共機関は既に「PCグリーンパワー」を使用していて、消防防災庁のホームページから誰でもダウンロードして使えるので個人でも使える。


 一部の自治体では中央制御サーバーから個別にパソコンを制御できる節電モニタリングも実施している。これは職員の健康と節電による予算節減の両方を狙ったもので、パソコンの利用時間、キーボードの入力打数、マウスが動いた距離を計算して、ユーザーが過度にパソコンを利用したと判断された場合には、アラームを鳴らしてパソコンを休止状態にして休憩するように知らせる。


 パソコンごとにどれぐらいの電力を使ったのかも表示するソフトもある。これは韓国の中小企業が開発した「enSaver」というもので、節電ばかりでなく業務環境と業務効率性も高めるためにも導入する自治体が増えている。また、政府機関のプレスリリースを見ると、パソコンやプリンターの待機電力を節電するコンセントを利用して電気代を節約していることをアピールする自治体も多い。


 スマート革命といってもまだまだデスクトップパソコンの利用率が高い韓国。ノートパソコンより電力消耗も大きいが、デスクトップパソコンから放出される熱気もすごいので、「電気代値上げをきっかけにノートパソコンかタブレットPCに買い替えたい!」というつぶやきもTwitterでよく目にするようになった。節電しながらも涼しくパソコンが使える夏を迎えたい。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年6月16日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110615/1032387/

携帯電話に電磁波リスク?! WHO発表でパニック

韓国では地下鉄やバスの中でも普通に携帯電話で通話する。大体は声をひそめて小さく話すか、「後でかけ直す」といって切るのだが、中には大音量で着うたを鳴らし、平気な顔して大声で通話する迷惑な人もいる。ネットの動画投稿サイトには「地下鉄迷惑女」といった動画がよく出回っている。公共の場で自分の恋愛話や人の悪口を大声で通話している様子を動画に撮り、恥をかかせてやろうと投稿したものだ。

 スマートフォンユーザーが携帯電話保持者全体の半分近く占めるようになったこのごろは、地下鉄の中で通話している人をよく見ると、ほとんどの人が携帯電話を耳に近付けて、ではなく口の前にささげ持って通話している。耳にはイヤホンを付けて、自分の話声が聞こえやすいようにと端末のマイク部分を口に近付けてしゃべっているのだ。タッチパネルを上にしてお盆を持つような状態で端末を口に近付け、端末の四角の隅に向かってしゃべっているような姿になる。こうすれば騒音の大きい地下鉄の中でも大声をたてず通話できる。また、携帯電話を頭から遠ざけて通話することで、電磁波の危険性をほんの少しではあるが避けられるというのも、通話方式を変えた理由の一つになっている。


 韓国では5月31日、WHO(世界保健機関)の傘下にあるIARC(国際がん研究所)が携帯電話を使い続けると脳腫瘍の発生の可能性が高まる、電磁波にがんを引き起こすリスクがあるので携帯電話の使い方を工夫しなければならないと正式に警告した、というニュースが大々的に報道された。


 携帯電話の電磁波は国際基準があり、人体に影響を与えるレベルのものは販売できない。それでも電磁波が健康に悪い影響を与えるという話はずいぶん前からあったが、権威のあるWHOがわざわざ携帯電話の電磁波の危険性を認める発表をしたからには、その危険性を甘くみてはならないという雰囲気になっている。


 IARCは携帯電話の脳腫瘍発病に関する数百件の先行研究を分析した結果、携帯電話を長く使うと脳腫瘍の発生リスクが増加するとしている。携帯電話の電磁波を「発がん危険評価基準2B」に分類した。レベル1のタバコや紫外線、ディーゼルエンジンのガス、鉛といったレベル2Aに続いて3番目に危険なレベルが2Bである。2Bに区分されているのはガソリン、排気ガス、殺虫剤などがある。


 特に電磁波は7歳以下の子どもに影響を与えるという。子どもは大人よりも電磁波吸収率が50%ほど高いので、脳の神経細胞の遺伝子が変形する可能性が大人より大きいと考えられる。携帯電話を長く使うと脳腫瘍ができてがんの可能性がある、というのは、大人よりも、幼稚園ぐらいから自分の携帯電話を持ち始める子どもたちに該当する危険を警告するものなのだ。電磁波とがんの相関関係は認められないという研究者らも、子どものころからずっと使い続けることによって脳腫瘍が発生する危険性が高まるということは認めているという。


 用心に越したことはないということで、携帯電話をより安全に使う方法として言われているのが端末を耳にぴったりくっつけないでイヤホンを使うか、端末を頭から少し間隔を置いて使うというもの。また携帯電話をポケットに入れないでカバンに入れた方がいいという。電波が弱い場所では基地局とつながろうとして普段より多い電磁波が発生するので、そういう場所ではショートメッセージかメールを送信した方がベターだという。



電磁波が心配な人のために、携帯電話の「人体電磁波吸収率(SAR)」調査も話題になった。米連邦通信委員会(FCC)が認証した試験場で、エンジニアの団体IEEEが定めた方式によって測定した結果を米CNETが掲載したもので、電磁波吸収率が低い携帯電話端末ベスト10の中で8つの端末がサムスンのものだった。


 1位に選ばれたのは電磁波放出量が0.196w/kgのサムスン「Blue Earth」。韓国では2010年2月に発売されたモデルで、太陽光で充電できるというエコを売りにする。2位もサムスンのスマートフォンInfuse 4G、3位も同Acclaim、4位も同Replenishとずっとサムスンが続いている。ベスト10の中でサムスン以外の端末はLGのスマートフォンQuantumとHuawei IDEOS X5だけだった。






電磁波人体吸収率が最も低いと調査されたサムスンの携帯電話「Blue Earth」


韓国政府は2004年、国内で販売されている携帯電話の電磁波吸収率を測定して結果を発表したことがある。同じメーカーの端末でも電磁波吸収率は全部ばらばらで、基準値以下だとしても、端末によっては7倍ほどの差があった。この調査でも、携帯電話の電磁波吸収率は海外メーカーの端末よりもサムスンやLGといった韓国産端末の方が少なかった。当時、サムスンとLGはアンテナを端末の下に配置し、電磁波が端末の後ろの方に放出されるようにして人体への影響を最小限にしていると説明したことがある。

 そのころから、カメラの画素数、画面サイズ、バッテリーの持ち時間と同じように電磁波吸収率も仕様の一つとして公開すべきではないかという意見があった。それはまだ実現されていない。


 子どもに買ってあげるならできるだけ電磁波が少ない端末にしたいと思う親心はどの国も同じはず。今回話題になったCNETの調査は米国で販売されている端末だけをテストした結果ではあるが、サムスンとLGにとってはいい宣伝になったのではないだろうか。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年6月9日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20110608/1032269/