韓国デジタル教科書事情(2)~電子黒板は当たり前、10Gbpsネットワークで教室情報化

「韓国デジタル教科書事情(1)」から続く)


 韓国ではデジタル教科書以前からも、NEISやサイバー家庭学習サイトを通じて子どもが学校で何をしてどんな勉強をして、どう学力が向上しているのか、よくできる部分と補うべき部分を分析してネットで保護者に公開している。これは高い教育熱に少子化の影響から、自分の子どもが一番という(モンスターペアレント化する)保護者が増えてきたことで、保護者が学校や教師に不満を持たないよう「見える教育」にするという意味もある。


 また熾烈(しれつ)な大学入試競争の中で、所得の格差による教育の格差、地域差による教育の格差をなくすのもデジタル教科書の役目である。教科書に参考資料がリンクされているので、高い参考書を買わなくても済む。また塾がない山間、離島に住む子ども達もマルチメディア教材を使って個別学習ができるので、塾のある都市まで通う必要がなくなる。長期入院、海外滞在中もデジタル教科書を使えば遠隔授業ができるので休学することなく進級できる。もちろん、教科書改訂を迅速にできるのもメリットだ。



電子黒板とマルチメディア教材を「10Gbps高速学校LAN」で利用しやすく



 デジタル教科書をさくさく動かせるよう教室のネットワークは政府が投資して学校LANを構築し、2010年は実測で全国平均50Mbps、教室の中にはIPTV、電子黒板、パソコンがあり、教師が作ってきたマルチメディア教材で授業を行っている。学校LANの速度は固定で10Gbpsにアップグレードする予定で、一部大学では10Gbpsが導入された。デジタル教科書実験学校でなくても、電子黒板を使った授業は当たり前のように定着していて、教師も教科書の内容に合わせて動画や写真を準備する。


 もちろん、デジタル教科書や電子黒板をより教師が利用しやすいようマルチメディア教材を提供するサイトもたくさん登場した。中でも2009年デジタルコンテンツ大賞を受賞したI-screamは教師向けの教材サイトで、全国小学校教師の98%が有料会員(2010年11月時点)というほど利用されている。教科書の内容に合わせた動画、写真、音楽、テキストが用意されているので、国定科学教科書60ページと検索すればそれに合わせた教材が登場するほど便利になっている。教師はその素材を使ってパワーポイントなどでオリジナル教材を作り、電子黒板で授業を行う。


 教師のパソコン保有率は98年ごろから100%を超えている。教師一人に1台、教室に1台、授業用ノートパソコン、PCルームにもパソコンがあるので教師だけでなく子ども達も既に一人1台、学校でパソコンを使える環境近づいている。


 小学校だけでなく中学・高校でも電子黒板は広く利用されている。黒板を使わず教師はマルチメディア化された教科書を電子黒板に表示させ、タッチ式で重要なところに指で線を引きながら、時々音声ファイルや動画を再生させながら、授業を進める。






高校でも電子黒板を使った授業は当たり前。仁川 デゴン高校の英語の授業では、先生が一方的に教えるのではなく、マルチメディア化された教材を活用して一緒に問題を解きながら解説を加える。学生のレベルに応じて教材を選択、優等クラス、標準クラスに分けて授業を行う


「英語」学習熱もデジタル教科書を後押し



 韓国でデジタル教科書が話題になり始めたのは「英語」とも関連が強い。国際競争力を高めるために英語は必須ということで幼稚園から英語を教え、私立小学校では1年生から英語と中国語を教えている。公立小学校でも3年生から正規授業として英語を教えるようになり、これを1年生からに変えようとしている。


 全国の小中高校には英語のネイティブスピーカーの教師が数人ずつ派遣されている。学校の英語授業に教師は2人以上、つまり、文法は韓国人の教師が担当し、会話や発音はネイティブスピーカーに学ぶ構成になっている。デジタル教科書を使ってマルチメディアを活用すれば、ネイティブスピーカーがいない地方の学校でも都市の学校と変わらない英語教育環境を整えられるのではないかと期待された。デジタル教科書の英語科目には学生が英語を録音し、その波長を分析してネイティブの発音に近づくよう個別指導してくれる機能もある。



スマートフォンやモバイル端末は中高生に必需品



 韓国の教育熱の高さは日本でも有名だろう。高校生になると夜10時まで学校で自習し、それから塾へ行くほどだ。いつも電子辞書、音楽再生、動画再生などの機能があるPMP(Portable Multimedia Player)を持ち歩き、休み時間にはEラーニングで勉強を続ける。韓国ではスマートフォンやモバイルデバイスが教育のためにもマストアイテムになっている。







デゴン高校の学生たちが休み時間や自習時間に活用しているPMP(Portable Multimedia Player)。ほとんどの学生が持っていて、教育放送のインターネット講義を見ながら受験勉強しているという。韓国では2011年の新学期向けにPMPが5型タブレットPCへと進化、それに向けて商戦が始まっている


2009年11月に発売されたiPhoneを追うようにSamsungのGALAXY Sが登場し、海外勢のスマートフォンも出揃ったことから韓国は一気にスマートフォン普及が加速し、2010年9月時点で500万台突破、年末には当初の予測の3倍である600万台を突破しそうな勢いである。2011年には1500~1600万台、携帯電話加入者の約3分の1がスマートフォンを使うとまで予想されている。

 韓国政府は経済的に貧しい、地方に住んでいて周辺に塾がないといった理由から教育の機会を子どもが奪われないよう、公営放送である教育放送のWebサイト上で大学入試講座動画を無料提供している。ここからセンター試験の問題が出題されることから、全国の高校生はほぼ全員この動画を見ている。そこで必要なのがPMPだった。電子辞書も音楽・動画再生機能も搭載されたスマートフォンが登場してから、PMPは無線LAN機能を搭載した学習用5型タブレットPCへと進化した。無線LAN機能経由で教育放送の動画をダイレクトにダウンロードできる機能が目玉となっている(PMPはPC経由でダウンロードする)。(次回に続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月2日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101130/1028847/

韓国デジタル教科書事情(1)~15年かけて築いてきた教育情報化が花開く

日本でここ最近脚光を浴びているデジタル教科書。2015年までに子ども一人に一台タブレットPCを支給し、紙ではなくマルチメディアの教科書を使って授業し、学校でも家庭でも高速モバイルネットワークを使っていろいろな教育コンテンツを見られるようにするというもの。子ども達が重いランドセルを背負うこともなく、教科書をクリックするだけで百科事典や動画、写真、ニュースなどの参考資料も一緒に見られるので学習効果も高まると期待されている。もちろん、紙を使わないのでエコという点でもデジタル教科書は来るべき未来であり、子ども達のためにも早期に実現させるべき国家政策と言える。

 日本ではデジタル教科書というとタブレットPCや情報端末を先に思い浮かべるが、韓国ではその逆で「どんな端末からも使える教科書」を想定して中身の開発に力を入れてきた。個別学習、個別指導・評価を可能にするインタラクティブな教科書にするために必要な教材、端末、ネットワークが必要で、そのためにはどんな技術を開発すべきなのかに関して議論が続けられてきた。






仁川 トンマク小学校で使うデジタル教科書実験用端末と教科書画面。教科書は家庭のパソコンからも利用できるので端末は学校においたまま使うが、予習復習は家庭にいながらもできる。学校からの告知や宿題の提出などもすべてネットを経由して行う



 韓国の文部省である教育科学技術部の定義を見ると、デジタル教科書とは「学校と家庭で時間と空間の制約なく利用でき、既存の教科書に、参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーション、仮想現実などのマルチメディアで統合提供し、多様な相互作用機能と学習者の特性と能力、水準に合わせて学習できるように具現化された学生向けの主な教材」としている。つまり教科書の内容をデジタル化して、有無線ネットワークを利用してその内容を見て聞いて書きこんで読めるようにしたものであり、どんな端末やどんなネットワークからも利用できないと「デジタル教科書」とならないので、端末はタブレットPCだけに縛られない。


 また、デジタル教科書はデジタルネイティブ世代に合わせた効果的学習ツールとして脚光を浴びているが、小学生だけでなく、生涯教育の第一歩として導入したいとも考えている。

韓国のデジタル教科書は既に1996年から構想が始まった。それから約15年、デジタル教科書を導入するために国は導入のバックグラウンドとして学校情報化、校務情報化、教育行政情報化、家庭学習情報化を進め、学生の学習情報を記録、分析して保護者に公開するシステムをオープンした。2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入するのを目標に、2007年から600億ウォン(約48億円)を投資して小学校を中心に実証実験を始めている。


 これまでの過程を振り返ると、学校情報化、デジタル教科書構想、教員情報化研修が1996年に始まり、1997年には学校総合情報管理システムが始まっている。これをアップグレードした校務情報化システムとして2002年にNEIS(National Education Information System)が始まった。NEISには子どもの成績や個人情報が記録され、保護者も実名確認をすればいつでも自分の子どもの情報を閲覧できる。このデータが大学に渡されるので大学入試の願書は100%電子化された。


 NEISによってバックグラウンドがある程度固まったところで、デジタル教科書の開発も始まった。小学校5、6年向け英語と数学から実証実験が始まり、2007年には正式に国家戦略として「デジタル教科書商用化推進計画」が発表された。


 2008年から全国の小学校20校を対象にデジタル教科書商用化のための実証実験が始まり、Windows基盤に続いてオープンソース・リナックス基盤教科書開発も始まった。また、「IPTV放課後教室」といって、共働きの家庭のためのサービスも始まった。授業が終わってから家に帰っても誰もいない、経済的事情で塾に行けない子ども達のために、放課後学校でIPTVを使ったEラーニングを利用できるようにした。これも教室のネット環境が超高速ブロードバンドだから実現できたことである。







仁川 トンマク小学校ではデジタル教科書と電子黒板を連動した授業が行われている。紙の教科書と同じ画面が映し出され、タッチすると次々に動画やアニメなどで作られた参考資料を表示。子ども達の学習効果を高める



 2009年からは実験学校を132校に増やし、デジタル教科書が本当に学習効果を高められるのかを研究する「教育情報化成果測定指数開発」にも着手した。


 2010年には教員能力評価制度が実施され、同僚教師・専門家・学生・保護者が教師を評価する。子どもの目線からは、デジタル教科書や電子黒板といったIT機器類をうまく活用して面白く授業を行う教師の評価が高くなっていくだろう。韓国の教員採用試験は700倍とも900倍とも言われる超難関であるため教師のレベルも高く、電子黒板やマルチメディア教材を制作できるようにする研修は義務化されているため、教師が教育情報化についていけない、IT機器を使いこなせないといった問題が起こったのは90年代後半、最初のころだけだった。


 2011年に小中学校の英語・国語・数学の教科書がCD-ROMになり、2013年には、全国の小学校でデジタル教科書を全面的に導入することを目標とする。まだデジタル教科書の端末規格は決まっていないが、スマートフォンやiPadのようなタブレットPCが安くなっているので、デジタル教科書用に一から開発するよりも販売されている中から自由に選択するようにする可能性もある。(次回に続く)



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月26日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101126/1028811/

趙章恩氏セミナー「2011年、韓国スマートITの展望」


★ 韓国ITビジネステーマ部会 趙章恩氏セミナー
「2011年、韓国スマートITの展望」 


12月17日(金) 夜 
東京・大崎
主催:NPO法人アジアITビジネス研究会
———————————————————————


2010年はスマートフォンで激変した韓国でしたが、2011年はさらにタブレットPCや端末のラインアップ競争が激化し、「アップル対韓国勢」の動きが、さらに強くなると予想されます。 世界に先駆けて電子政府化をすすめ、教育、医療、国防などあらゆる分野の情報化を進めてきた韓国ですが、スマートフォン利用者の増加、社会情勢を含め、2011年のIT業界はどうなっていくか、事例と共に、お話ししていただきます。


■ 内容-


危機管理を含めスマート社会を構築- スマートフォン、タブレットPC- スマートTV、スマートグリッド- スマートオフィス- クラウドコンピューティング- 電気自動車- デジタル教科書- デジタルヘルスケア- サムスンやLGなど韓国を代表する企業の新規事業


■講師趙章恩(チョウ・チャンウン)氏
(韓国ITジャーナリスト、アジアITビジネス研究会顧問)


(プロフィール)韓国ソウル生まれ。日本で高校を卒業、韓国に帰国し梨花女子大学卒業。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネート(NTTドコモNTTデータ、各地商工会議所、経済産業省など)を 行っている「J&J NETWORK」の共同代表。2000年4月創立された、韓日インターネット ビジネス実務者団体「KJIBC(Korea Japan Internet Business Community)」会長。 KDDI総研特別研究員。韓国IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「NIKKEI NET(日経新聞)」や「日経パソコン(日経BP)」、「BCN」、「夕刊フジ」、「西日本新聞」、「デジタルコンテンツ白書」、韓国の「中央日報」や月刊誌「Media Future」等に寄稿。韓国と日本のネット事情を比較しながら、韓国IT分野の話題を分かりやすく提供している。


【連載中のコラム】日経PCオンライン Korea On The Webhttp://pc.nikkeibp.co.jp/pc/column/cho/index.html


———————————————————-
■実施要綱———————————————————-
日 時:12月17日(金) 19:00~20:30(18:30受付開始)
会 場:東京都南部労政会館 第6会議室品川区大崎1-11-1ゲートシティ大崎ウェストタワー2F)最寄駅:大崎(JR山手線/埼京線/りんかい線/湘南新宿ライン)より徒歩5分


地 図:http://www.asia-itbiz.com/map.htm


主催:NPO法人アジアITビジネス研究会 http://www.asia-itbiz.com/


定 員:60名(申込先着順)参加費:1,000円(当日、会場受付にてお支払いください)


※お申し込み/お問い合わせ先氏名と所属先、部署・役職、ご連絡先を明記の上、事務局・田所までメール info@asia-itbiz.com でお申込ください。事前申込必須です。 
———————————————————-


◇12/17(金) 19:00~ (韓国ITテーマ部会 参加申し込み)———————————————————-氏名:会社名:部署/役職:TEL:e-mail:———————————————————-

韓国 ITジャーナリスト趙章恩氏が語るスマートフォン/タブレットPC市場の最前線(日本語講演)


==============================================================
第9回 TSR セミナー開催のご案内==============================================================
韓国 ITジャーナリスト第1人者の趙章恩 氏が語るスマートフォン/タブレットPC市場の最前線(日本語講演)━━━━━━━━━━━━
タブレットPCという新しい領域を引っ張ってきた米Apple製の「iPad」の販売伸張がここに来て、第1次の踊り場に入ってきたのではないかとも言われている。
「2ndバージョン iPad」では新機能を付加し、再び上昇カーブを維持できるのか、混沌としてきた。
一方、Samsung Electronicsの「Galaxy Tab」の販売が好調であり、7”クラスの製品も確実にひとつの世界を造りつつある。
2011年はさらに、各国政府の方針やサポートのもとでタブレットPCやスマートフォンの新機能付き新製品開発が激しくなり、多くのメーカーから販売されることで、シェア競争が激化する。
これらの背景を踏まえ、2011年の展望として ”Samsung をはじめとした韓国メーカーvs Apple” など、事例を紹介しながら日本にとって参考になる点を分析したいと思っております。


Ⅱ.【基調講演】 11時~   
韓国 IT・FPD業界における国策支援と将来展望(仮)     
~ Samsung、LG、Appleの戦略 ~             


ITジャーナリスト兼KDDI総研究特別研究員           
 東京大学大学院学際情報学府博士課程                   
趙章恩(チョウ・チャンウン)氏


◆◆開催概要◆◆─────────────────────────
■タイトル   第9回 TSRセミナー 『FPDマーケットトレンド 2011』
■日 時   2010年12月16日(木) 10:00~17:30 (質疑応答~17:55)
■会場   東京コンファレンスセンター品川
■参加費    アーリーバード45,000円+税(11/30まで)、通常価格50,000円+税


■プログラム                


Ⅱ.【基調講演】    


韓国 IT・FPD業界における国策支援と将来展望(仮)     


~ Samsung、LG、Appleの戦略 ~             


ITジャーナリスト兼KDDI総研究特別研究員            
東京大学大学院学際情報学府博士課程                   


趙章恩(チョウ・チャンウン)氏


Ⅲ. 【FPD/次世代デバイスセッション】  
Ⅲー1. モバイル用FPD、2010年の分析と将来予測~ OLED、LTPSの需要拡大に向けた各社の新規投資とFFS(広視野角化)、3D化への取り組み ~テクノ・システム・リサーチ  岸川 弘
Ⅲ-2. FPD用光学フィルムの現状分析と、今後の展開予測~大手3強偏光板メーカー vs. 新興偏光板メーカーの戦略 ~テクノ・システム・リサーチ  染谷 友規        
Ⅲ-3. LED-BLUの急拡大に伴うLED市場動向考察~スマートフォン、タブレット、TV市場の拡大に対するLEDメーカーの戦略 ~テクノ・システム・リサーチ  藤田 光貴        Ⅲ-4. LED・OLED照明市場の最新動向と将来展望~次世代に向けて広がるLED・OLED照明の新提案~テクノ・システム・リサーチ  太田 健吾       


 Ⅳ.【特別講演】    2011年FPDエリア別市場動向と展望(仮)~中国の勃興、北米の下降、日本メーカーの戦略~    ドイツ証券株式会社 マネージングディレクター 中根康夫氏 Ⅴ. ご希望者と講師との質疑応答・名刺交換(講師別コーナー) ━━━<<第9回TSRセミナー開催>>━━━━━━━━━━━━━━━


○テーマ:『FPDマーケットトレンド 2011』○日時:2010年12月16日(木)10:00~17:30(個別Q/A17:30~17:55)  


 ○セミナー詳細&申し込み: http://www.t-s-r.co.jp/seminar/index.html━━━━━━━━━━━━━━━━━アーリーバード4.5万円+税━━━━

「スマートフォンでもゲーム漬け」韓国の深刻~ゲーム中毒による母殺しに思う

ついこの間、釜山で中学3年生の男の子がパソコンゲームをやめるよう注意する母親を殺して自殺し、小学生の妹が遺体と遺書を発見するという痛ましい事件が起きた。家族の証言によると自殺した中学生は学校に行く、食事をする、トイレに行く以外はゲーム漬けの生活で、深夜2~3時までオンラインゲームを続けるほどの中毒状態であり、母親とトラブルが絶えなかったという。しかもこの中学生は専門機関よりオンラインゲーム中毒治療カウンセリングを受けていたにもかかわらず、ゲームをやめることができなかったという。

 ちょっと前にはオンラインゲームに夢中になって新生児を放置し死に至らせた親もいた。子どもがゲーム中毒になり、パソコンを使わないようにする親ともめて暴力をふるったり、殺人事件にまでなったり、自殺をしたりする。このような事件は毎年どころか毎月のように起きている。


 韓国の中央省庁である女性家族部は、夜12時以降、青少年がオンラインゲームをプレーできなくする強制的シャットアウトの内容が含まれた青少年保護法改定案を提案した。これが、事業者が選択的にシャットアウトするのはいいが強制して過剰な取り締まりはしない、というゲーム産業振興を担当する文化体育観光部の方針と衝突。国会で係留中である。


 ゲームを長時間すると面白くなくするシステムも導入されたが(関連記事)、多人数がアクセスして一緒にロールプレイングしてミッションをクリアしていくゲームだけに適用され、シューティングや一人でもできる戦争ゲームには適用されない。ほとんどのユーザーはオンラインゲームを種類別に利用しているので、このシステムが作動するとほかのゲームに移り、また次のゲームへ移るといった具合に1日中オンラインゲームを渡り歩くので、大きな効果が得られなかったという。


 韓国内では本当にゲームだけが悪いのか?という意見も少なくない。もうすぐ年に一度の大規模なゲーム展示会が開催されるだけに、年間1兆5000億ウォン(約1050億円)規模の輸出産業としてゲームをもっと評価してほしいという業界の主張もある。オンラインゲームといえばアジアでも欧米でも中近東でも、韓国産ゲームが人気上位にランクされているほどである。


 すべて悪いのは子どもを中毒状態にさせる「オンラインゲーム」と片付けるわけにはいかない教育問題、家族問題も潜んでいる。子どもがなぜゲームに溺れてしまうのか。それは家庭がしっかりしていないから、という分析にもつながるのだ。






キャリアのKTが実施している大学生ボランティア「ITサポーターズ」。オンラインゲーム中毒を克服した大学生が子どもたちにゲーム中毒の危険性を教える活動をしている


韓国の今年の大学受験試験日は11月18日。受験生のために会社員の出勤時間が1時間遅くなるこの日の試験成績で、その後の運命が決まる。いいところに就職するためいい大学に行くのではない。いい大学を卒業しても「就職」そのものが難しい。無職になれば、無所得の状態になってしまう。食べていくためにはいい大学、名門大学に入らなくてはならない。だから必死なのだ。

 こんな受験戦争の中、学校と塾だけを往復する子ども達の唯一の息抜きがオンラインゲームなのだ。こっそり塾をサボって行けるような場所なんてPCバン(ネットカフェ)ぐらいしかない。インターネットにつながったパソコンはどの家にもあるので、勉強以外のことがしたくても一人でできることといえばオンラインゲームぐらいだ。最近はインターネット経由で受験用の動画を見ないといけないからとスマートフォンを買ってもらい、ゲームばかりしている子どもが増え親を悩ませている。


 親がしっかり子どもの生活に関心を持って会話をし、パソコンを部屋におかないといった工夫をした家庭ではオンラインゲーム中毒がほとんど発生しなかったという研究もある。オンラインゲーム中毒になるのはゲームの問題ではなく生活の問題の方だとしたら、その方が深刻なのではないだろうか。


 失業率も高く働きづめで子どもと一緒にいる時間がない親も増えている。家族のために働いているはずが、子どもは毎日一人でゲームしかすることがない家庭を生み出している。大学に行かなくても就職できる社会、最低限の生活ができる給料、自分の才能を見つけられるクラブ活動が楽しめる学校生活、そういう環境が整えば少しはよくなるのでは?

韓国でネットのリテラシーを高めるということは、使い方を教えるというより中毒にならないための健全な使い方を身につけさせるということである。小中高校では年中、ネット上のエチケットを守ろう、著作権を守ろう、違法ダウンロードはやめよう、ネット中毒にならないため1時間以上連続してパソコンを使うのはやめようなど、外部講師を招いて特別授業を行っている。ゲーム中毒予防教室やゲーム中毒を改善するためのカウンセリングもいろんな市民団体や自治体が開催しているが、それでもゲーム中毒による殺人事件や自殺は後を絶たない。

 韓国情報化振興院が2009年実施した、9~39歳を対象にした調査結果では、ネットユーザーの8.5%がネットにつながっていなかったりオンラインゲームをしていないと心理的に不安になって落ち着かない状態になる中毒症状を見せていることが分かった。オンラインゲーム中毒カウンセリングを受けた青少年も2007年の3440人から2009年の4万5476人へ13倍以上増えている。


 省庁の行政安全部は「インターネット及びゲーム過多使用に対する危険性を知らせ、健康なインターネット文化を醸成する」のを目的に「インターネット中毒克服手記公募」なんていうのまで開催している。最優秀賞には100万ウォン(約8万円)の賞金が出る。専門家のカウンセリングも効果がないのなら、感動的な手記でやる気を出してもらうのもいいアイデアかもしれない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月17日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101117/1028599/

いまだ根強いIE6利用の韓国で「もう止めよう!」キャンペーンの嵐

韓国のポータルサイト「DAUM」にアクセスすると、メイン画面の右に「少女時代の特命、私のPCを守って!」というバナーが登場する。これは何だ? とクリックしてみると、この夏より全世界で巻き起こっているWebブラウザーアップグレードキャンペーンだった。

 「少女時代と一緒に新しくて安全なインターネットの世界へ! IE6はもう止めよう!」という特設コーナーまで登場し、このページからIE(Internet Explorer)8にアップグレードすると、毎日抽選で50人に映画チケットをプレゼントするという大々的なキャンペーンである。








ポータルサイト「DAUM」トップページ。右上のバナーがキャンペーンサイト。クリックすると…







少女時代を起用した「IE6はもう止めよう!」の特設コーナー


この少女時代キャンペーンでは、IE8ではインターネットバンキングが使えないといった問題もWeb標準化問題も解決されたから安心して使いましょう、という二つをキャンペーン理由として挙げている。IE6のままのPCが多いため、DDoS攻撃のゾンビーPCにされたり、悪性コードに感染したりする危険度も高いという。

 IE6はWeb標準をサポートしていないため、Webサイトで文字化けやカラーの表示が違うようになってしまう「標準化問題」があり、Webアプリケーション開発に多大な時間がかかる、そのためインターネットの発展を阻害する障害であること。IE8が登場して間もないころは互換性に問題があるとされたが、今では韓国のほとんどのサイトがIE8に最適化されていること。なのでこれからは自分のPCを守り、より便利にDAUMを利用するためにもIE8にアップグレードしましょう、というのが趣旨である。


 セキュリティ脆弱点があるIE6の利用を止めてアップグレードするよう、韓国マイクロソフトも、ほかのポータルサイトも、IT業界も8月から呼びかけてきたが、全くといっていいほど効果がなかった。マイクロソフトの調査によると、韓国で使われているWebブラウザーの98%がIE、しかもその内39.1%がいまだにIE6だという。日本のIE6利用率は14.4%、OECD国家の IE6利用率平均は6%だというから、韓国がどれほど古いままなのかが分かる。そういえば韓国はまだWindows XPを使う人が圧倒的に多かったような…


 韓国人はパソコンの買い替えをしないのか? なぜ9年も前に登場したIE6をいまだに使っているのか? 少女時代の力まで借りないと解決できない問題なのか?…といろいろ疑問がわく。

実は韓国では、IE6でないと動かない社内システム、行政・校務情報化サイトが依然あって、PCを最新版に買い換えても、わざわざブラウザーをIE6にダウングレードしていたというのだ。新しい物好きの韓国人のはずが、ブラウザーだけは仕方なく古いのを使っていたという面もあるのだ。今はだいぶ改善されているものの、一度でもブラウザーをアップグレードして痛い目に合った人はもう二度とIE6から抜け出せなくなる。


 ガートナーの調査でも似たようなものを見た。全世界でIE6だけで動くアプリケーションはまだ多く、IE6向けアプリケーションの4割はIE8では動かない。企業がアプリケーションをIE8向けにアップグレードするためかなりの費用をかけることになるので躊躇するしかない。IE6利用を止めさせるためにマイクロソフトはもっと時間をかけなくてはならないだろう。どうやったらアップグレードしてもらえるか支援する方法を工夫しなくてはならない…といった内容の調査レポートもあった。


 一昔前のActiveX騒動のつながりで、Web標準化とは関係なく古い体制を崩さない開発環境にも問題があるのではないだろうか。でもプログラマーの間では、Web標準で作って、もう一度IE6に合わせてテストしないといけないので時間もかかるし大変だと愚痴っているのだ。韓国がいまだにIE6から逃れられないのは結局ユーザーのせいなのか? とも思ってしまう。


 2年ほど前までもIE6でないと利用できないサイトがかなりあったが、2010年の今となってはIE8が標準ブラウザーのようになっている。IE6に脆弱点があるとマスコミが騒いでも、まさか自分がハッキングされることはないだろうとか、使い慣れたブラウザーなのにアップグレードしてメニューの位置が変わると面倒だからこのままでいいとか、そういう理由でずるずると使ってしまっているのかも。


 少女時代が登場する前もいろんなキャンペーンがあった。韓国マイクロソフトは慈善団体と一緒に、キャンペーンサイト経由でIE8にアップグレードした1件ごとに500ウォン、台風で家を失った姉妹のために寄付をしたこともある。最大手ポータルのNAVERも6月より「Goodbye IE6」キャンペーンを実施した。ショッピング大手のGマーケットもIE8を使ってより安全なショッピングを楽しもうとキャンペーンを行った。


 それまでのWebブラウザーアップグレードを呼びかけるキャンペーンには面倒というだけでびくともしなかったネットユーザーらが、少女時代のパワーには負けたようだ。Twitterでは「とにかく少女時代が言ってるんだからIE8に変えなくては」、「みんな少女時代の言うことは聞きましょう」とやっと聞く耳を持つようになった様子。


 韓国ではIE6からIE8にするだけでなく、FirefoxやGoogle Chromeにも興味を持ってみようというユーザー同士の呼びかけも活発になっている。2010年7月時点での世界のブラウザーシェアはIEが60.7%、Firefoxが22.9%、Chrome 7.2%、Safari 5.1%だというのに、先述したように韓国はIEが98%。これはすごすぎると思いません?


 スマートフォンとか、タブレットPCとか、3DTVとか、そういうのは新製品が飛ぶように売れるのに、ブラウザーはどうして新しいものに興味がないんだろう。ユーザーが興味を持たないから政府も企業もIE8向けにアップグレードしない、しかもIE以外ではまともに表示されないサイトを作る、IE6に戻る、の悪循環になってしまっているのかも。スマートフォンやタブレットPC向けのモバイルブラウザー競争がヒートアップしているだけに、韓国でのIE6問題は最優先課題なのかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101111/1028492/

G20開催でわきかえるソウル、あちこちで最先端ICTを体験

ソウルでは2010年11月11日~12日、G20が開催される。G20のGはGroupの略字で、20カ国・地域首脳会合のことである。世界GDPの85%を占めるG20だけに、サミット開催中に韓国が誇る最先端技術をG20関係者らに宣伝するため、展示会や体験ゾーンがソウル市内のあちこちに登場し始めた。一般市民も自由に観覧できる展示場も多いため、IT・電気自動車・3D放送・エコなど、韓国自慢の最新技術を体験できるいいチャンスでもある。

 G20サミットは韓国では初めての大規模な国際首脳会議で、国別の代表団やプレス合わせて少なくとも1万人が参加すると見込まれている。参加者らが落としていく消費支出約35億円、G20開催による付加価値創出効果約45億円、企業の広報効果と輸出増大効果などの間接効果は2兆円を超えると推定されている。


 ソウル市内はどこを向いてもG20のポスターや歓迎の旗が掲げられている。企業の広告にもG20、バスにも電車にもG20、ビルの屋上看板にもG20、テレビをつければG20開催国らしくエチケットを守りましょう、外国人観光客にはやさしくしましょう、道に迷っている人がいたら自分から先に声をかけましょうのキャンペーンが流れている。ワールドカップ以来の盛り上がりに、G20となんの関係もない私ですら興奮してしまうほどなのだ。






G20のスターサポーターとして活躍している少女時代(2010 G20 Seoulsummit準備委員会)

メイン会場であるCOEXでは11月1日、公務員とボランティア総出の大掃除が行われた。ショッピングモールになっている会議場地下には、以前から楽しいITスポットとしてデジタルサイネージを使った多国語の案内地図やタッチ式広告版が置いてあり、ショッピングモール内のお店や周辺グルメ情報、観光情報、今日のニュース、天気、為替レートなどを検索できるようになっている。ストリートビュー方式で、周辺の写真を見ながら地図検索できるので、初めて行く場所でも迷わず探せる。こうした検索できる情報発信型デジタルサイネージは韓国ではお馴染みの設備であるが、海外観光客には珍しいようで、G20をきっかけに再び注目されている。

 COEXがある地下鉄2号線「三成駅」には、韓国内のどこにでも無料で電話をかけられるVOIP付きのデジタルサイネージもあるので、お店を検索してその場で予約もできるところが便利。映画や演劇のチケットを無料でもらえるイベント応募もできるようになっているので、定期的に立ち寄りたくなる。

ソウル市はCOEXに電力いらずで温室ガスも発生しない、スマートフォンで遠隔制御できるソーラーLED照明を設置し、「低炭素グリーンエネルギー都市ソウル」のイメージを広めるとしている。昼間に太陽光を充電して夜は照明として使うもので、まだ商用化されてはいないが、照明のベストな高さやデザイン、消費電力チェック、遠隔制御方式などの実証実験を経てG20期間中COEXに設置されることになった。


 代表団とプレスには韓国メーカーの電気自動車、電気バス、水素燃料電池自動車が提供され、エコな都市ソウルのイメージアップも図る。まだ量産されていないモデルではあるが、1度の充電で170km走れて、スピードも165km/hまで出せる電気自動車や、1度の充電で650kmを走れる水素燃料電池自動車は、世界のメディアに注目されると期待されている。


 また、COEXには3DTVを体験できるコーナーもあり、韓国が2010年から国をあげて実験している高画質3DTVを観ることができる。


 11月5日からは「G20放送通信未来体験展」(G20 Communications Exhibition)が開催する。韓国の主なIT・放送事業者が参加し、最先端サービスを体験させる展示会で、現在提供されているサービスと、今後提供される未来生活サービスも展示される。モバイルIPTV、デジタル教科書や電子黒板・RFID・3D仮想現実などを活用して授業を行うスマート教室、エコなスマートIT製品、3Dタブレットパソコンや3Dエンターテインメント、電気自動車やスマート自動車などが展示される。各国首脳やプレスに韓国はIT強国であるという強烈な印象を残すため、政府も企業も熱心である。

企業のショールームもG20のための衣替えを済ませ、各国代表団の訪問を待っている。空港の携帯電話レンタルコーナーも古い端末を一新し、スマートフォンやかわいいデザインの端末を使えるように準備した。






KTはG20参加者に最先端IT機器を提供する(KT提供)


G20の主管通信事業者に選ばれたKTは、G20首脳と代表団に提供されるIT機器を一足先に公開した。


 IPTVからはCNN International、 Euronews、 France 24、 CCTV 9、 NHK World News などG20国家のニュースチャンネルを提供し、SoIP(モニター付きインターネット電話機)から観られるようにした。14カ国を利用できるようにし、リモコンも付けて、電話でもありIPTV用のモニターとしても使える。Wibro(モバイルWiMXA)を利用したモバイルIPTVも提供し、スマートフォンからG20の日程、告知、ニュースなどを提供し、世界最高水準のモバイルネットワーク技術を持っていることもアピールする。


 韓国の空港鉄道、電車、バス、タクシーなど全交通機関と自動販売機や公衆電話、コンビニなどで使える電子マネー「T-Money」もG20首脳と代表団に配られる。乗り換えに関係なく、乗った距離に応じて料金を計算するとても便利な交通システムを体験してもらいたいからだ。


 G20は韓国にいながら主な経済大国の代表団に自社製品を宣伝できる絶好のチャンスであるため、企業も宣伝に力が入る。韓国を訪問する外国人のための特別セールや無料観光バス運行などイベントも盛りだくさん!熱気むんむんな今が観光するにも絶好のチャンスかもしれない。それに11月の韓国は雨もほとんど降らず、紅葉もきれいなので、飽きるほどソウル出張をしているビジネスマンでも、今まで見たことのない新しいソウルを体験できること間違いないだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101104/1028315/

傷つけたくないもん! iPhone 4やGalaxy Sのアクセサリーが大人気

最近韓国で人気なのが、お笑い芸人が貧乏旅行をするバラエティー番組や、人気歌手が仮想夫婦となって新婚生活を送るリアリティ番組(日常生活を追いかける番組)である。視聴率の高い番組だけに、出演者のファッションやアクセサリーも話題となり、ヒット商品につながっている。

 この季節、これら番組から生まれたヒット商品は、スマートフォンのカバー。カラフルで革素材のかっこいいカバーで個性をアピールする芸能人のおかげで、iPhone 4やサムスン電子のスマートフォンGalaxy S向け端末カバーがばか売れしている。







iPhone 4は韓国で発売されたばかりで、予約から端末を手に入れるまで早くて2週間待たないといけない。しかしさすが芸能人。テレビに私物として登場する携帯電話のほとんどがiPhone 4かGalaxy Sだった。みんな同じスマートフォンを持っているからか、誰もがカバーを付けてすぐ自分の物を見分けられるようにしていた。芸能人だけでなく、Twitterで人気の財閥御曹司らが何気に自慢したスマートフォン向け手製高級革カバーも輸入が追いつかないほど売れまくっているというからすごい。


 韓国では携帯電話にストラップをじゃらじゃら付けることはあまりしない。ストラップを売っている露店やアクセサリーショップはたくさんあるのになぜ付けないんだろう。周りの人は、ストラップが端末にぶつかってキズを付けるのがいや、重くなるのがいや、ポケットに入らないしかさばる、などの理由を挙げていた。若い女性でも、せいぜい小さい鏡やミニチュアのリップグロス、金やクリスタルのジュエリーをさりげなく付ける程度である。


 または、T-Money(韓国のプリペイド式交通カード、自動販売機やコンビニでも使えるSUICAのような電子マネー)のストラップ式カードを付けて、iPhoneを使いながらモバイルペイメントを利用できるようにする。これはかなり便利で、モバイルペイメント機能を持たない端末であっても、親指ぐらいの大きさのカードをストラップのようにぶら下げるだけ。電車も乗れて、乗り換えもでき、バスにも乗れる(乗り換える度に運営会社が違うからと切符を買い替えないといけない日本とは違って、韓国ではすべて統合してどんな乗り物だろうが、乗った距離で計算するようになっている)。


 もちろん、これはT-Moneyまたはクレジットカードの交通カード機能を使ったときだけ適用され、現金払いの場合は乗り換える度に交通費を支払わなくてはならない。なお、3G端末の場合は、SIMの中にT-Money機能が入っているので、ストラップ式のカードはいらない。







さまざまな形状のT-Moneyストラップ式カード。モバイルペイメント機能がない携帯端末に付けて使うと便利(T-MONEYのサイトより)


携帯端末にキズがつくのがいや、というのはスマートフォンでも同じで、タッチで液晶が汚れたり傷ついたりを防ぐための透明シールはほぼ100%付けている。端末にカバーを付けるのが好きなのもその延長なのかもしれない。

サムスン電子はGalaxy Sをはじめ、スマートフォンやタブレットパソコン向けのアクセサリーショッピングモールを運営している。街中や電車の中で使っている人をよく見かけるのは、クロコダイル模様になった革製カバー4万4000ウォン(約3400円)、ランボルギーニのロゴ入りで液晶まですぽっとかぶせる革製ケースは4万5000ウォン(約3500円)、爪が長く指先でタッチするのが難しい女性向けスタイラスペン1万9800ウォン(約1500円)である。






革製ケースは約3500円(写真左右とも:スマートフォンアクセサリーショッピングモール Anymode)






爪の長い女性向けスタイラスペン


もう一つ、韓国にはアップルの修理センターが少なく、修理代もかなり高額なので、iPhoneは気を付けて使わなくてはならないという認識が広がっていることも、カバーの人気に火を付けた。


今年は冬の訪れが早く、10月で既に気温が氷点下に下がるほどの寒さである。凍えそうなほど寒い韓国で、いちいち手袋を脱いでタッチしなくてはならないというのはとても不便である。携帯電話加入者の約15%が利用しているスマートフォンだけに、日本で発売されたiPhone用手袋もブログを中心に紹介され、注目を集めている。

 韓国では昨年の冬、手袋を脱がずにiPhoneにタッチできる方法として「魚肉ソーセージ」で画面をタッチするのが大ブームとなったことがある。







iPhone画面をタッチする「魚肉ソーセージ」。去年はやった

そのほかには、スマートフォンから動画を楽しむ人が増えていることから、パソコンのモニターのようにスマートフォンを固定できるアクセサリーも多数登場。ナビゲーションの代わりに使う人もかなりいるせいか、自動車や自転車に固定できるアクセサリー、車の中で充電できる車両用充電池、車のオーディオにつなげられるジャック、無線でスマートフォンの音楽ファイルを伝送できるオーディオなども売れている。

 韓国ではスマートフォン向けアクセサリー市場は国内だけで年間700億ウォン(約54億円)に上ると見込まれている。アクセサリーはデザインやアイデア勝負でいくらでも高く売れ、世界市場でも販売できるだけに、いろんな産業からアクセサリー市場に飛び込む、特に中小企業が増えるものと見られている。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月28日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101028/1028200/







SNSで拡散する個人情報とデジタル証拠(2)~犯罪増で監視体制強化なるか

(前回はこちら


 ソーシャルメディアに限らず、ネットを使い、デジタルデバイスを使っている限り、記録は残る。韓国ではこのような記録を物証とするデジタルフォレンジック(Digital Forensics)による捜査が年々増えている。


 削除したEメールやショートメッセージ、デジカメの写真、検索したキーワード、チャット内容、訪問したホームページなどから探し出した決定的な証拠が犯人逮捕につながることが何度もあったからだ。携帯電話を使った位置追跡、サイトにログインしたIPアドレスから場所を割り出すのは基本中の基本である。YouTubeや動画投稿サイトにあった何気ない動画が証拠や事件解決の糸口になることもあった。目撃者がこんなことがあったと動画を載せる場合もあるが、犯罪を自慢するため犯人が自ら写真や動画を投稿することもあるそうだ。


 また、メッセンジャーを使ったなりすまし詐欺は韓国でなくならない犯罪の一つである。メッセンジャーのIDをハッキングして、その人の友人にチャットで母の急病だとか、交通事故で加害者になってしまってお金が必要だとか、嘘のメッセージを送って振り込んでもらう手法である。こういった事件もデジタルフォレンジックによる捜査で解決していく。


 韓国検察庁デジタルフォレンジックセンターのデジタル証拠分析件数は、2008年の916件から2009年には1546件に急増し、2010年は8月時点で1774件を突破している。これに対抗して、自分の記録をきれいに削除できる、ファイルを復元できないよう完全に削除するプログラムもどんどん普及しているから怖い。


 ただしプライバシー侵害、人権侵害という批判もあるためデジタルフォレンジックによる捜査は慎重に行われる。そのせいで思うように捜査できないこともあるという。






韓国警察サイバー犯罪担当組織のサイト。詐欺事件が発生したWEBサイト、振り込め詐欺に使われた電話番号と口座を表示し、サイバー犯罪注意報、警報を流している


検察はデジタル捜査を担当する専門家を増やすため、検察内部で実施していたデジタル捜査資格認定試験を韓国刑事訴訟法学会に移管して一般人も試験を受けられるようにする方針だという。警察庁のサイバー捜査隊も警察内部から専門知識のある人を採用していたが、民間からの特別採用を実施している。ハッキング担当、データベース担当、ネットワーク担当、ワイヤレス担当、プログラミング担当、デジタルフォレンジック担当に分けて採用する。情報処理関連資格を持ち、民間企業で電算管理業務3年以上経験のある人、またはコンピューター工学、ソフトウエア工学、情報保護を専攻した修士以上が対象となる。

アメリカでは、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアとインターネット電話を対象に司法当局が監視できるようにする技術導入を義務化する話が出ているというからすごい。監視できないシステムではサービスを提供できなくする強引なもので、政府がソーシャルメディアをずっとモニタリングしていられる技術を導入するという話である。まだ検討中とのことだが、アメリカがやれば世界で広まることは間違いない。

 アメリカでは麻薬犯罪にP2Pやソーシャルメディアが使われることが多いということで、監視体制を持つことが大事だという意見もあれば、大量に確保した個人情報が悪用される可能性、監視システムそのものがハッキングされる可能性を指摘する意見もあり、議論は続きそうだ。


 ソーシャルメディアを使うことで口コミを広げ、自殺を食い止めたり、急患を助けたり、いいこともたくさんある。韓国の警察はTwitterも運営していて、一般人は、ここに110番(韓国では112番)するのは怖いけど、自分が目撃したことがもしかして捜査のためになるかもしれない、という情報を寄せられる。そのため、警察はTwitterを使った迅速な通報システムを構築するかどうか悩んでいるという。


 ネットなしの生活はもう考えられない。一方でネットに書き込んだ一言で会社をクビになったり、訴訟されたり、命取りになってしまった人がどんどん増えている。ソーシャルメディアを使った詐欺もどんどん増えている。デジタル捜査官やサイバー捜査隊を増やすとしても、犯罪が発生してから動くしかないので、予防のためにはユーザー個人がしっかりしていないといけない。Twitterに気ままにつぶやき続けるべきか、他人を意識して当たり障りのないことだけつぶやくべきか、悩む日々だ。疲れる~。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月21日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101021/1028095/

SNSで拡散する個人情報とデジタル証拠(1)~書き込むときは慎重に?

北朝鮮が労働党創建65周年の記念式典に海外メディアを招待した。北朝鮮を訪問する外国人には監視が付き、通信も自由にできないことで有名である。しかし、今回は変化があったようだ。平壌のプレスルームでは自由にインターネットが使え、一部記者はTwitterで北朝鮮の様子や写真を投稿してつぶやいた。もちろん、取材チームごとにガイドという名目で監視人が付き添い、北朝鮮側の日程に沿って軍のパレードを取材させている。だとしても、北朝鮮とTwitterってなんだか不思議な組み合わせなので、韓国では大変な話題になったものだ。

 Twitterといえば韓国でもスマートフォンの普及と並んで利用者が急増し、今では中学生や主婦もメール代わりにTwitterでつぶやいているほどポピュラーなものになってきた。


 リサーチ会社のTNSが世界46カ国5万人を対象に調査した結果、モバイルユーザーがソーシャルネットワークサイトに使う時間は週3.1時間で、週2.2時間のEメールよりも多かったという。


 芸能人、政治家、スポーツ選手、小説家、ブロガーなど、Twitterでたくさんフォローされていて影響力を持っている人ほど「マーケティング力」があるとしてもてはやされる時代になってきた。一般人であってもフォローされる数が多いと業界のパーティーに招待されたり、商品が無料でもらえたりする機会も多くなる。


 韓国では、Facebookは海外向け、Cyworld(老舗の韓国版ソーシャルネットワーク)とMetoday(韓国のNAVERが運営するTwitterのようなサービス)は韓国向け、Twitterは多国語(韓国語、英語、日本語、中国語などごっちゃ混ぜでつぶやく人が増えている)で、と分けてつぶやく人も多い。最近は一度つぶやけばすべてのソーシャルサイトに掲載できる連携サイトまで登場したほどである。ポータルサイトでは検索結果にTwitterのようなつぶやきサイトも含めるところも増えている。Cyworldは個人と個人企業とがつながる「ソーシャルコマース」を始めるという。




キャリアのKTが始めた「ソーシャルハブ」を利用すると、同じ写真やつぶやきを同時に複数のSNSに登録できる。いちいち訪問して書き込む必要がなくなるので便利



つぶやきは気軽にできるが…



 あるテレビ番組がソーシャルメディアからその人をどこまで把握できるか実験してみたところ、Twitterとブログを30分ほど見ただけで、名前、年齢、誕生日、配偶者の名前と年齢、自宅住所、職業、会社名、家族構成、子どもの名前と年齢と学校名、オンラインショッピングで何を注文して、いつどこで誰と会ったのか、趣味は何で、どこに旅行に行ってきたのかなど、かなりの個人情報を特定してしまったことがある。


 ユーザーが増えつぶやきも増えた分、Twitterからその人の個人情報を入手して悪用するケースも出ている。韓国では犯罪捜査のために容疑者の名義で加入しているコミュニティサイトやオンラインゲーム、EメールなどのIDを追跡し、いつどこでログインしたのかなどを分析して足跡を追うことが多い。


 検索技術は日々進化していて、数え切れないほどの検索結果から相関関係を分析してその人が欲しがっている情報に限りなく近くまとめて出すことができるようになった。


 ソーシャルメディアの利用が盛んなアメリカも同じような状況らしく、CNNもオンライン上の書き込みをちゃんと管理しないと求職や銀行の貸出、離婚訴訟などで不利になることもあると報道したほどだ。企業の採用担当者や法律事務所では証拠集めのためにあの手この手でソーシャルメディアを検索しているのに対し、つぶやくユーザーは無防備にも個人情報を丸投げにしているように見える。もっと自分の情報を自分でコントロールする必要があるのではないだろうか。


 韓国のソーシャルメディアサイトの場合は、友達をランク付けして閲覧できる情報をコントロールできる。誰でも見てかまわない内容と個人的な内容を区別しながらうまく自己アピールして人脈を作れるようにもなっている。また国民総背番号の国らしく、個人情報を守るため、自分の住民登録番号がどのサイトの会員登録に使われているのかチェックするサービスも政府が提供している。それでも何気なくソーシャルメディアに書き込んだ一言が問題になることは少なくない。


 一番いいのは慎重に、神経質になってつぶやくことより、データマイニングで個人情報を抽出される不安から開放されることなのだけど。しかしこのような情報抽出は犯罪防止に役立っているのだ。


(次回に続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月14日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101014/1027953/