【韓国教育IT事情-6】省庁が力を合わせて取り組んできた教育の情報化

 「【韓国教育IT事情-3】デジタル教科書とVR教室で教育現場に変化」で紹介したように、2010年韓国はスマートフォンが大流行し、2011年には携帯電話加入者の4割はスマートフォンを使うとまで予測されているほどである。スマートフォンを使わせるため、全国各地に無線LANスポットも急増し、都市部だけでなくリゾート地や農漁村でも無線LANの電波が届くほどだ。キャリアはこぞって「うちはフリースポットをこんなに持っている」「うちのスマートフォンに加入すると、全国どこでもWi-Fiが使える」と、お互いにものすごく張り合ってCMを流している。

◆旅先でも手軽に使えるデジタル教科書

 韓国のデジタル教科書はどんな端末からも使えるのが特徴である。子どもを連れて旅行に行っても、旅先でスマートフォンと無線LANを使ってデジタル教科書を読み込んで勉強し、宿題をさせられる。子どもにとっては大変な世の中になったものだ。

 大学でも、これまではノートパソコンを使うモバイル・キャンパスや、携帯電話を使うものがあったが、今は全部スマートフォンに変わっている。スマートフォンで大学の講義をリアルタイムで聴けるのみならず、出欠チェックや、先生への質問など、全部がスマートフォンで行えるようになった。

 日本ではすでに発売されているiPadであるが、韓国では2010年11月30日にようやく発売された。10月からサムスンのGalaxy Tab(ギャラクシー タブ)、最大手キャリアのKTからIdentity Tabという7インチのタブレットPCが発売された。持ち歩ける大きさということでiPadより小さく軽く、300万画素のカメラ、DMB(韓国のワンセグ)受信機能、音声通話機能が付いているのが特徴である。また中小メーカーからはさらに小さい5インチの学習用タブレットPCも登場した。5インチは主に高校生向けで、休み時間にも受験サイトにアクセスして講座動画を見たりして受験勉強ができるよう作られたものである。

 2010年末になってようやくタブレットPCが出揃い価格競争も始まるだけに、デジタル教科書実証実験校でも、現在タッチ式ノートパソコンで行っている実験をタブレットPCに変更する計画が出始めている。

◆学習効果を見ながら徐々にデジタル化

 デジタル教科書実証実験5年目を迎える2011年には小学校3~6年の国語、英語、数学と中学1年生の英語が紙教科書+CD-ROMになる。中学までは義務教育であるため無償で配布される。CD-ROMのコンテンツは、パソコンはもちろん、モバイル端末にもインストールできるように準備している。電子黒板とIP-TV、子ども用の端末を活用して授業を行い、学習効果を見ながら徐々にデジタル教科書へと切り替える計画である。重いカバンを背負わなくても済む、参考書を買わなくてもCD-ROMにあるアニメ、動画、百科事典などの付加コンテンツを活用して勉強できる、といったメリットがある。

 2011年には「デジタル教科書2.0」実験も始まる。韓国政府はもっとも付加情報が多く端末の操作も要求される科学の教科書を中心に、2007年から行われているデジタル教科書をアップグレードさせるための研究である。デジタル教科書が本当に学習効果を高められるのかを研究する「教育情報化成果測定指数開発」にも着手した。

 デジタル教科書というのは、ただ端末の中に教科書を入れればいいというものではない。韓国では、教育の情報化、校務の情報化等、すべて情報化して、デジタル教科書と連動させている。教科書だけではなくて、学生たちがデジタル教科書で何を入力したのかを把握し、それを全部評価して、校務のデータベース化と連動させるシステムも全部整っている。

 韓国政府の教育政策は「ビジョン2015年」として、先進教育学術情報化による健康で創造的人材育成を目的としている。5大戦略目標の一つにGreen IT 基盤の新教育システム構築があげられ、学習と技術基盤の相互イノベーション、初等教育から生涯学習まで個人の成長に合わせて対応できるシステム環境構築に重点が置かれている。デジタル教科書はデジタルネイティブ世代に合わせた効果的学習ツールとして脚光を浴びているが、小学生だけでなく、生涯教育の一歩として導入したいとも考えている。

◆デジタル環境における著作権法改善方案

 経済産業省にあたる知識経済部と文化庁にあたる文化体育観光部は「融合コンテンツ開発支援」として、デジタル教科書につながるマルチプラットフォーム標準電子本制作、3D教科書、仮想現実・ホログラムを使った教科書コンテンツ開発を支援している。また教科書のために著作権も改訂しようとしている。現行の著作権法では「教科書に掲載」することは著作権が免責されるが、デジタル教科書の場合、その資料を再加工して宿題をしたり、そのデータを他の学生に転送したりすることもできるので、著作権違反になる可能性がある。

 「デジタル環境における著作権法改善方案」をまとめ、デジタル教科書にリンクするDBや情報の範囲をどこまでにするのかというのも決めようとしている。

 韓国ではデジタル教科書導入に向けて15年もバッググラウンドのシステムを開発し、先生のスマート化を図り、省庁が力を合わせて制度を改善、中身の開発のために支援を惜しまないできた。日本のデジタル教科書はある日突然沸いて出たようなイメージがある。紙の教科書をデジタル化して子ども1人に1台パソコンを配ったからといって教育効果が高まるだろうか。デジタル教科書は教育情報化、教室情報化、校務情報化といった一連の流れの中で登場するものである。日本はデジタル教科書だけを目的にしているのではないかと、疑問に思ってしまう。今の日本の教育問題、子どものICT利活用問題、先生や学校の問題、全部を見通して政策的に進めているのか、自問してほしいものだ。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年12月23日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/12/23/813.html

【韓国教育IT事情-5】98%が満足する韓国のデジタル教科書

韓国では、教育行政改革とシステム開発に15年以上の歳月を費やし、教育の情報化、学校の情報化、家庭の情報化、教務の情報化、行政の情報化を進め、どんなデバイスからも利用できる教育デジタルコンテンツを揃えるなど、地盤を固めたうえで、2007年から本格的にデジタル教科書の実証実験を始めた。

◆小学校5、6年向け英語教科書からデジタル化

 2007年にはまず小学校5、6年向け英語教科書がデジタル化された。端末会社、通信キャリア、教科書会社などがコンソーシアムを組んで入札した。この時のデジタル教科書は、まだ紙の教科書をHTMLにして音声ファイルが動画を追加しただけのシンプルなものだったが、2008年からは全国の小学校20校、2009年~2010年には全国の小学校132校(全国小学校数は2009年5,829校)で、5、6年生の国語、英語、数学、社会、科学をデジタル教科書で教える実験を始めた。

◆健康被害の検査も実施

 実証実験を始める前に保護者を集めてデジタル教科書を体験させ、毎日学校のホームページから今日はデジタル教科書でどの科目のどの部分を勉強し、テストを行った結果学習効果はこうだった、など実験情報を公開している(これはもちろん実証実験に参加している子どもの保護者だけが見られるようになっている)。

 保護者からはデジタル教科書を搭載したノートパソコンに電子黒板を使うことで電磁波が過剰に発生し、子ども達の健康に悪影響を与えるのではないかと心配する声もあった。背が伸びない、免疫力が落ちる、視力が悪くなる、あるいはネット中毒になるのではないかといった問題が提議されたため、学校ごとに健康診断と心理検査を行い、実証実験前後を比べることにした。検査をしてみると、子ども達の健康状態に問題はなく、授業中だけデジタル教科書を使い、休み時間は保管箱に入れておくという使い方をしたため、ネット中毒の心配もなかった。

◆98%がデジタル教科書に満足

 その結果、デジタル教科書実証実験校では子どもも保護者も先生も、デジタル教科書の満足度が98%に達しているほどである。

 日本ではデジタル教科書というと、タブレット型の端末を思い浮かべるほど端末優先である。日本の場合、インフラがあって、デバイスがあって、環境が整ったので何かいいコンテンツはないかと探し始めるが、韓国は逆で、いつもコンテンツが先だ。韓国のデジタル教科書は教科書そのものの中身をどう改善するか、といった悩みから出発している。

◆デジタル教科書の定義

 韓国の文部科学省にあたる教育科学技術部は、デジタル教科書を「学校と家庭で時間と空間の制約なく利用でき、既存の教科書に、参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーション、仮想現実などのマルチメディアで統合提供し、多様な相互作用機能と学習者の特性と能力、水準に合わせて学習できるように具現された学生向けの主な教材」と定義している。つまり、教科書の内容を画像や動画にして見せるだけのデジタル化ではなく、有無線ネットワークを利用して、その内容を見て聞いて書き込めるようにしたもので、個別学習や個別指導・評価を可能にするインタラクティブな教科書を、デジタル教科書としている。

 韓国政府は、大学入試のための教育費負担が家計を圧迫していることから、塾に行かずお金をかけなくても勉強できるシステムを作るため、教育放送の入試講座から試験問題を出すことにしている。そのため教育放送の動画をいつでも好きなときに見られる動画再生端末が、高校生の間では大ヒットした。これをデジタル教科書にもつなげるというのが基本的な考えで、所得や地域、障害といった格差を感じることなく、ネットさえつながっていればレベルの高い教育を受けられるようにするというのがデジタル教科書である。

 韓国でも、デジタル教科書は紙を使わなくなるということでエコのためにも必要といわれているが、90年代からずっと目標としていたのは「見える教育」と「格差をなくす」「均等な教育機会」であった。少子化によって自分の子どもが一番と信じてやまない親が急増し、その教育熱は想像を絶するほどである。

 収入の7~8割を子どもの教育のために使う家庭も少なくない。子どもに投資することが老後対策と考えているからだ。2009年10月韓国銀行が発表した「韓国家計消費の特徴」報告書を見ると、家計消費に占める教育費は2009年上半期平均7.4%で、アメリカ2.6%、日本2.2%、ドイツ0.8%に比べ3~9倍も多いと指摘している。

 地域によって受けられる教育の水準が違うことからソウルに人口が一極集中し、不動産バブルになっている問題を解決するためにも、所得が少なく塾に行けないと勉強についていけないという問題を解決するためにも、学校で一人ひとりに合わせた教育を行っていることを客観的に示すためにも、紙の教科書より情報量が豊富で、学校でも家庭でも楽しく勉強できるデジタル教科書は必要だった。さらに、生まれた時からパソコン、携帯電話、インターネットに慣れ親しんでいるデジタルネイティブ世代に合わせた効果的学習方法としても、デジタル教科書は必要とされていた。

◆保護者がデジタル教科書に興味を持ったきっかけ

 韓国でデジタル教科書が話題になり始めたのは「英語」とも関連がある。国際競争力を高めるために英語は必須ということで幼稚園から英語を教え、私立小学校では1年生から英語と中国語を教えている。公立小学校でも3年生から正規授業として英語を教えるようになり、これを1年生からに変えようとしている。

 全国の小中高校には英語ネイティブスピーカーの先生が数人ずつ派遣されている。学校の英語の授業は、先生は2人以上で、文法は韓国人の先生が担当し、会話や発音はネイティブスピーカーに学ぶ構成になっている。

 デジタル教科書を使ってマルチメディアを活用すれば、ネイティブスピーカーがいない地方の学校でも都市の学校と変わらない英語教育環境を整えられるのではないかと期待された。デジタル教科書の英語科目には学生が英語を録音し、その波長を分析してネイティブの発音に近づくよう個別指導してくれる機能もある。英語を効率的に教えるためにもデジタル教科書の方が紙の教科書よりもいい、というチクミが広がったのも、保護者がデジタル教科書に興味を持つようになったきっかけになった。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年12月22日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/12/22/798.html

【韓国教育IT事情-4】教育情報化に見る日韓の違い

日本でも2015年デジタル教科書導入を目標に、子ども1人1台パソコン、学校と教室の情報化を進めていると聞いた。





デジタル教科書実証実験校の様子


◆韓国では教員1人1台PCは当たり前

 ところが、文部科学省の資料を見て驚いた。2010年までに教員1人1台のパソコンを普及すると書いてある。韓国では教員1人1台のパソコンなんて当たり前すぎて、政府が目標として掲げるようなことでもないからだ。

 韓国では、教員用1人1台どころか、2~3台はある。教室ごとに電子教卓(パソコンが中に入っている教卓)がある。デジタル教科書実証実験校でなくても、電子黒板とパソコンを連動して教員が準備したマルチメディア教材を使って授業を行っている。先生達は教科書の内容を子ども達により分かりやすくするために、マルチメディア教材サイトの会員になり、教科書の内容に合わせて動画やアニメを準備する。教員ごとにオリジナルの教材を作り、電子黒板でそれを見せながら教えるのがいつもの授業光景である。教室の中にはネットにつながったIPTVもあり、休み時間には教育放送のネット放送から好きな番組を選んでみんなで一緒に観たりもする。デジタル教科書実験校(小学校)ではこれにプラスして、生徒全員がタッチパネル式のノートパソコンを使って、一部の科目の授業を行っている。

 学校には必ずPCルームもあり、「放課後教室」といって子ども達が教育用に制作されたアニメを見て復習したり、社会科目の発表準備のためにネット検索して調べてパワーポイントで資料を作ったり、先生と一緒に利用できるようになっている。

◆学校の情報化が遅れる日本

 学校の情報化なんてもう90年代で終わり、VR教室へと進んでいるのに比べ、日本は会社や家庭でのICT利活用は世界1~2位を争うほど進んでも、学校だけが取り残されているようで心配だ。

 韓国では2013年全小学校におけるデジタル教科書導入を目標に、1996年からバックグラウンドとして学校情報化、校務情報化、教育行政情報化、家庭学習情報化に取り組んできた。

 
「【韓国教育IT事情-2】熱血教育ママに学ぶ教育とICT…教育情報化編」で紹介したように、もともと韓国では国民のネット利用率が高く、子どもも保護者も教員もネットに慣れていて、学校からの告知や宿題もネット経由でやっている。これも90年代からの学校情報化、教育情報化システムの成果といえる。

◆韓国の教員は学習指導に専念

 韓国では1996年に学校情報化、教員情報化研修、デジタル教科書構想が始まった。1997年には学校総合情報管理システムSIMS(School Information Management System)が導入され、2002年には教育行政情報化NEIS(National Education Information System)に拡大された。小学校から高校までの学校生活と成績記録が情報化されて大学に渡されるので、大学入試の時に添付書類や紙の願書を書く必要がなくなった。電子政府サイトもオープンし、卒業証明や成績証明を電子政府サイトからも申し込めるようになった。

 2006年には校務システムが全面的に導入され、先生方の仕事はほぼすべてが情報化・自動化されている。雑務と呼ばれていた統計作業や報告業務が大幅に減り、学習指導だけに集中できるようになった。

 2008年からは教育現場にモバイルクラウドコンピューティングを導入することで、「先生のパソコンはネットの中にある」というコンセプトで、中央センターに各種プログラムやデータをおいて、全国の教員はそれをネットにアクセスするだけで、どこにいても使えるというシステムを構築し始めた。セキュリティを高め、教員専用のネット本人確認システムを導入したことで、家でも外でも安全にシステムにアクセスして業務を行えるスマートワーキング環境を目指している。

◆15年以上もの歳月を費やされた教育行政改革とシステム開発

 デジタル教科書を使って勉強、その端末でテストを行い、学習効果を測定・分析、そのデータが自動的に教員の端末に送信され一人ひとり個別指導を行う。学生が毎日どんな学習をして教員がどのように指導したのかは、保護者にもすべて公開される。小学校から高校卒業までこのデータが蓄積され、大学入試の資料になる。韓国ではデジタル教科書実証実験を始めるために、15年以上も教育行政改革とシステム開発を行ってきた。

 デジタル教科書は、教育の情報化、学校の情報化、家庭の情報化、教務の情報化、行政の情報化、どんなデバイスからも利用できる教育デジタルコンテンツをたくさん揃えるなど、バッググラウンドがしっかりしていないと成り立たない。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年12月21日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/12/21/782.html

【韓国教育IT事情-3】デジタル教科書とVR教室で教育現場に変化

2010年韓国でもっとも人気を集めたのは「スマートフォン」である。主婦の間でもスマートフォンは大ヒットした。




韓国のデジタル教科書

◆スマートフォンは必需品

 韓国の主婦は専業主婦であっても子どものために忙しい。学校まで送り迎えは基本、子どもの教科書でママが先に勉強していつでも質問に答えられるよう準備をしておく。良い塾と家庭教師を調べるため情報収集にも時間をかける。進学校の近くに引っ越すための不動産投資にも忙しい(韓国では名門大学の進学率が高い高校の近くほど不動産が高い)。

 移動しながら子どもの成長や教育に関する豆知識を集めたアプリケーションを利用したり、Twitterを経由してママ友同士で情報交換したりつぶやいたり、子どもの学校のホームページを随時確認して告知を確認したり、マンションの管理費や光熱費をインターネットバンキングから支払ったり、近所のスーパーに食材を注文して配達してもらったり、パソコンを持ち歩かなくても手軽にネットで調べものができるスマートフォンは、忙しい教育ママにはぴったりなのだ。

 韓国では、スマートフォンの次はiPadのようなタブレットPCがヒットし、その次はスマートTVといって、インターネットにアクセスしたり、スマートフォンと同じくアプリケーションを利用できるTVがヒットするといわれている。家電がすべてネットにつながりスマートフォンで操作できるようになるため、電力を効率的に使用するためのスマートグリッドも2011年からは一般家庭に導入されるとも見込まれている。これからは何でも「スマート」がキーワードになるようだ。

◆教育現場の変化

 「スマート」は機械だけではない。人間も「スマート」にするため、教育現場では色んな変化があった。その代表的な事例がデジタル教科書とVR教室である。韓国では2013年デジタル教科書商用化を目指し、2007年から実証実験を行っている。教科書内容をデジタル化しただけでなく、参考書、問題集、辞書、動画、アニメ、音楽といったマルチメディア資料が追加され、教科書を見ながら疑問なところはクリックするだけで無限の資料が登場して、子ども達の理解力を高められるというのがデジタル教科書である。

 さらに面白い教室も登場した。VR教室といって教員が画面の中に入ってキャラクターが一緒に授業を進める「仮想現実」の教室。これを実用化するための実証実験も行われている。天気予報やニュース番組などでよく使われているもので、あるはずのない地図やキャラクター、映像の中に教員が入っていって授業をする。英語の授業だと外国人のキャラクターと先生が一緒に登場して会話しながら子ども達に話しかけたり、歴史の授業だったら昔の王様を呼び出して会話しながら歴史の勉強ができるというもの。

◆教員能力評価制度

 どんなに技術や端末機能が優れているとしても、このような最先端の教科書やVR教室を活用してより楽しく授業ができる教員がいない限り、教育の情報化なんて絵に描いた餅にすぎない。韓国では90年代から教員のICT研修を義務化し、2010年からは教員能力評価制度を導入した。同僚教師と子ども、保護者も評価し参加する。
 ・何十年も同じ教え方をする
 ・ネットを活用できない
 ・デジタル教科書を使いこなせない
といった先生は自然と評価が落ちる。先生も定年までクビになることはないと安心してはいられない。ここまで厳しく先生にも危機意識を持ってもらわないと、教育現場は動かないのかもしれない。




趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年12月20日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/12/20/779.html

【韓国教育IT事情-2】熱血教育ママに学ぶ教育とICT…教育情報化編


韓国では、子供も親もインターネットに慣れていて、eラーニングをはじめICTによる教育にも慣れている。政府も積極的で、ICTを利活用した教育で国民にお金をかけず質の高い教育環境を提供しようと、バッググラウンドとして校務の情報化、教育行政の情報化を完成させた。




スマートフォンが売れたのも大学入試向けeラーニングがあったからこそ。韓国では自治体が無料で提供する入試eラーニングも多数ある



◆3~5歳のネット利用率は63%

 放送通信委員会の「インターネット利用実態調査」では、ネット人口を「6歳以上の人口」から「3歳以上の人口」に変更したほど、韓国のネット利用開始年齢は低くなっている。赤ちゃんの首がすわればマウスを握らせるというほど、どんな分野でも生活とネットは切り離せなくなっている。2010年上半期の、3~5歳のインターネット利用率は63%、3~9歳は85.5%、10代~20代は99.9%、30代は99.3%と10代以上は限りなく100%に近い。今や、ネットは水道や電気と同じレベルのインフラになっている。

◆世界トップレベルの政府・教育の情報化

 電子政府、教育行政の情報化も世界トップレベルであり、学校からの連絡事項は1999年あたりから、すでにネット経由で行われている。学生用、保護者用のIDがそれぞれにあり、先生からの連絡事項、学校生活評価、成績などすべての情報がネット経由で公開されている。子供が成績表を隠す、なんてことはもうできないのだ。

 韓国人のインターネット利用目的は、情報収集が91.6%、ゲームや動画といった余暇活動が89.1%、コミュニケーションが88.4%、ショッピングおよび販売が57.7%、教育・学習が53.4%の順となっており、インターネットと教育・学習の関係は密接で、通信事業者やパソコンメーカーは新製品を販売する際には必ず「子供の教育のために必要」という宣伝文句を付け加える。

 ネットブック(インターネット接続が主な用途の小型ノートパソコン)が売れたのも、スマートフォンが売れたのも、IPTV(テレビから地上波放送・ケーブル放送・インターネット経由で各種動画を利用できるサービス)が売れたのも、モバイルインターネット(Wi-Fi、WiBro:時速120kmで移動しながらでも高速モバイルインターネットが使えるサービス)利用者が急増したのも「教育のため」だった。

◆塾に依存しない大学入試

 韓国政府は進学塾や予備校に依存しない大学入試を目指し、お金がなくても質の高い教育を受けさせることを政策的課題としている。

 その一環として、無料で利用できる教育放送の入試講座から、センター試験の問題を出題すると発表している。韓国の大学入試に欠かせない教育放送のインターネット講座をいつでもどこでも好きな時に受講するため、ネットブックやスマートフォン、IPTVが売れ、モバイルインターネットの利用も伸び始めたのだ。

 当然eラーニングも活発で、大学入試用だけでなく、幼児向け教育アニメや英語教育サイトも人気が高く、連日新しいサービスが登場している。タッチスクリーンのモニターに、百科事典や英語・数学などの基礎が学べる動画・アニメがプリインストールされた子供用教育パソコンも人気が高い。

◆目玉は教育アプリ

 この頃話題のスマートTVも、目玉は教育アプリケーションだった。

 スマートTVはIPTVと似ているが、スマートフォンから利用できるアプリケーションをテレビからも同じく利用できる。動画だけでなくゲーム、スポーツ、音楽、電子書籍、生活情報など何でもありのテレビである。サムスン電子は、スマートフォンに続いてスマートTVでも、子供の教育のためになるアプリケーションを無料でお試しできるようにして需要を伸ばしている。

 ここまでネット利用が盛んになった結果、韓国は、子供にインターネットを使わせることより、ネット中毒にならない方法、正しい使い方を教えるのに苦労している。この頃は中高生より小学生のインターネット中毒が問題になっているほどである。

 学校で「インターネット文化教室」を開催し、ネットで個人情報を書き込んではいけない、顔が見えないからといって悪口を書き込んではならない、著作権とは何か、オンラインゲーム中毒になるとこんな問題がある、といったネチケット(ネット上のエチケット)を教えている。

◆ネット利用のコントロールは大人の責任

 子供の教育費のためにと共働きが増えた結果、放課後一人でいくつもの塾に通う子供が増えている。塾に行かないと友達にも会えないというほど、公園で遊ぶ小学生は少ない。学校と塾を往復するだけの生活で、休み時間にすることといえばオンラインゲーム。そのため、通信キャリアが提供する子供のネット利用をコントロールするためのサービスも数え切れないほどある。

 携帯電話から遠隔操作で曜日ごとにパソコンの利用時間を設定できて、決まった時間が過ぎると電源が自動的に切られ、パソコンを使えなくするサービスも人気が高い。特定のサイトまたは電話で申し込みをするので、子供にパスワードがばれてしまう、なんてことも防げる。

 IPTVも同じで、子供がどんな番組を見て、どんな動画を見たのかを携帯電話からチェックできるようになっている。自分の家のIPTV画面にメッセージを表示させることも可能だ。「そろそろ塾の時間よ」「アニメばかり見ないで英語の動画も見てね」といったお母さんのメッセージが、字幕でテレビに出てきて子供はびっくり!

 フィルタリングは基本で、政府が提供する無料のフィルタリングもあれば、青少年団体が提供するフィルタリング、通信事業者が提供するフィルタリング、色々なフィルタリングがある。

 保護者らはフィルタリングのためのモニタリングにも積極的で、子供の教育によくないと思われるサイトを見つけると政府のフィルタリング窓口に通報し、情報を共有する。

 韓国では30~50代の親世代のネット利用が活発なせいか、子供がどんなサイトを見ているのか、どんな使い方をしているのかサッパリわからない、なんてことはあり得ない。

 さらに儒教の考えがまだ強く残っている国だからか、親と子の絆がとても強い。「子供は親のもの」という意識からか親も熱血で、「子供のため」ならどんなことだろうが専門家になってしまうのだ。


 次回は韓国で2007年から行われているデジタル教科書実証実験を紹介する。そこで浮き彫りになった保護者の考え、子供への影響を紹介し、さらに問題と解決策を中心に日本の教育とICTを考えてみたい。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年11月2日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/11/02/204.html

【韓国教育IT事情-1】熱血教育ママに学ぶ教育とICT…大学入試編

 韓国の大学入試は毎年11月に行われる。白バイの後ろに遅刻しそうになった受験生を乗せてピーポーピーポー猛スピードで走るシーンは、今年もあちこちで見られるだろう。

◆大学入試にパトカーはつきもの

 大学入試がある日は混雑を避けるために、公務員や大手企業の出勤時間が1時間遅くなり、全国民が息をひそめるほどだ。パトカーで受験生の送り迎えをすることに違和感を感じる人は、韓国にはいない。

 入試会場の前で祈り続けるママ達の姿も恒例であるが、韓国は受験日の100日前からお寺や教会、聖堂に毎日通い合格祈願をするママ達が非常に多い。この時期になるとCMの内容も受験一色に染まる。受験生のための頭がよくなる牛乳、受験生のための体力をつける高麗人参エキス、正しい姿勢を維持させ疲れなくする椅子、などなどきりがないほどだ。

 また受験が終わると、今度は一世に受験セールが始まる。受験で疲れた子供とママのために、受験票を持参した人に、特別価格で販売するイベントが全国のデパートやショッピングセンターで行われる。大学生になる前に「顔のパーツをチューニング」するとして、親子で整形外科に行くのもこの時期である。

◆受験生のママはスーパーウーマン

 韓国の受験は世界一厳しいともいわれ、母と子の二人三脚でないと乗り切れない。お母さんが予備校に通いカリスマ講師の講義を録画して要約ノートを作り、子供はまた別の有名受験塾に通いながらお母さんの受験ノートを参考書にする。ネットでコミュニティを作り科目ごとにカリスマ先生の情報を共有して、成績別にグループを作って有名な先生から個別指導を受ける。受験コンサルティングや入試説明会にも頻繁に出席し、最大限の情報を収集する。塾の送迎、栄養食作りも手がかかる。さらに、教育費のために共働きするママがほとんどなので、受験生のママはスーパーウーマン! 受験生よりも大変といわれているのだ。

◆教育格差を是正する情報化

 韓国はいつだって元気溢れる生き生きとした国、という印象があるが、日本と同じくますます就職が厳しくなっている。4年生大学卒の2割程度しか正社員になれない時代になってしまった。

 韓国は朝鮮時代から、勉強さえできれば出世できる社会であった。今までは、どんなに家が貧しくても、勉強さえできれば奨学金がもらえ、名門大学を卒業して国家公務員か大手企業に就職して裕福な生活ができた。だから教育に命がけだった。しかしこの頃は貧富の差が教育の格差につながっている。

 参考書を買うお金がない、塾に行くお金がないといった貧富の差、家の周りに進学塾どころか学校すらないという地域の差(島、過疎地域)、そういった格差のない「均等な教育機会」を与えるため、「教育の情報化」「デジタル教科書」の開発が15年も前から始まった。

 学校の情報化もすでに10年前には終わり、学校の情報化という言葉は死語。今は「教室の情報化」がテーマになっている。教室の中にはIPTV、デジタル黒板、デジタル教卓(パソコンが中に入っている教卓)があり、2007年からはタッチ式ノートパソコンとWi-Fi(無線の規格)を使った「デジタル教科書」の実験が始まった。

 デジタル教科書は、教科書に参考書、百科事典、各種データベースがリンクされていて、子供の学習能力を記録して個別指導もできるようにしたもの。デジタル教科書があれば、お金をかけなくても質の高い学習環境を整えられると考えられている。

 中央省庁の文化体育観光部は2010年より「融合コンテンツ開発支援」として、デジタル教科書につながるマルチプラットフォーム標準電子書籍制作、3D教科書、仮想現実・ホログラムコンテンツ開発を支援している。デジタル教科書の中身も、現実拡張(AR)や3Dが導入され、より立体的なものにするとしている。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

リセマム (ReseMom)
2010年11月1日

-Original column
http://resemom.jp/article/2010/11/01/203.html

推定被害者60万人、韓国のグーグルストリートビュー問題

今韓国で大問題になっているのがグーグルの個人情報無断収集である。これは2010年から世界のあちこちで問題になっている件で、グーグルは違法なことはしていないというが、16カ国以上で警察が調査をしたり、個人情報削除命令を出したりしている。

 韓国でも2010年8月、ストリートビュー制作過程で個人間の通信情報を無断で収集、通信秘密保護法を違反した疑いがあるとして警察がグーグルの韓国オフィスを家宅捜索した。米本社に送られたものを含め、ストリートビューの制作に使われたハードディスクを押収、警察のサイバーテロ対応センターがハードディスクの暗号を解除して分析した結果、ついにグーグルが個人情報を無断で収集していた証拠が見つかったという(グーグルは自ら暗号を解除してハードディスクを渡したとして警察の発表を否定)。


 グーグルが実際に個人情報を集めているという疑惑はかねてよりあったが、証拠をつかみ事実と確認したのは16カ国の中で韓国警察が初めて、お手柄!と大々的に報道されている。


 ここでいう個人情報とは、ログインの際に使われるIDとパスワード、決済に使われたクレジットカード番号とパスワード、氏名や住所といった個人情報、メールやチャットの会話といった個人的な通信記録である。グーグルは特殊カメラで道路を走りながら街の写真を撮影する際に、近くにあるWi-FiのAPシリアル番号を収集し、そのAPを経由して行われたメール送受信内容、メッセンジャーの会話内容といった通信内容までも収集していた。


 グーグルの韓国ストリートビューは、2009年10月から2010年5月にかけて制作され、大都市を中心に5万kmあまりを撮影している。グーグルのカメラが通った時間に、その地点のAPをアクセスしてネットを使っていた人が被害者ということになる。ネットで何をしていたのか、IDとパスワードまでばっちり収集されてしまっては怖い。警察の発表では被害者は推定60万人とされる。


 グーグルは間違ってデータを収集してしまったというが、なぜ警察が押収するまでハードディスクに残った個人情報を削除していなかったのかが疑問だ。それに、そもそもWi-Fiのネットワークって簡単に通信情報が漏れるものなの? グーグルの個人情報収集とハッカーによるハッキングも情報を持っていったという点では同じじゃないの? 疑問は尽きない。


 APのシリアル番号を収集していたのは、GPSに対応していない端末からも、アクセスしたAPの情報から現在位置を把握して、ストリートビューを提供するためであるとしている。これを、韓国の警察は通信秘密保護法の盗聴疑惑、情報通信網利用促進及び情報保護などに関する法律、位置情報の保護及び利用などに関する法律の違反にあたると見ている。


 ストリートビューの制作そのものを担当した人は「どんな情報が収集されているのか知らなかった」、「韓国のストリートビュー制作は米本社が行っているので詳細は分からない」と主張する。それで2011年1月、韓国警察は責任者を処罰するとしてAP経由で行われる通信内容を収集できるプログラムを作った人とプログラム制作を指示した人が誰なのかグーグル本社に確認を要請した。警察は1月13日グーグルを立件、検察がグーグル本社の起訴を検討する。


 この事件はスマートフォンに夢中になり一気にWi-Fiスポットが増えた韓国にとって、重要なニュースとなっている。パスワードを設定せず誰でも使える状態のままWi-Fiを使う家庭やオフィスが多い。街中どこでも無料でWi-Fiを使えるのは便利であるが(もちろん勝手にアクセスして使わせてもらうわけだが)、その分データのやりとりが全部盗まれる可能性もあるということを忘れてはならない。


 これをきっかけに、Wi-Fiを経由したクレジットカード決済は大丈夫なのかといった心配も出てきた。スマートフォンやタブレットPCの普及によって、固定ブロードバンドよりもWi-Fiをはじめモバイルインターネットを使うことが増えたこのごろ。どんなに高度なセキュリティシステムが開発されても、ますます個人情報保護やデータ保護は問題になっていくだろう。なんとも、怖い~。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年1月13日

-Original column
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韓国IT業界の2011年はCESから始まる! ~スマートTVで世界シェア1位狙う

韓国は陰暦を使っているので、2011年のお正月は2月3日である。まだだいぶ先にあるせいか、西暦では年は明けたものの、なんだかまだ新年気分がしない。1月1日だけが休みで連休でもないからなおさらそうなのかもしれない。それでも12月が年度末なので、各企業や省庁では始務式がすでに執り行われ、新年の業務が始まってはいる。ただ、お正月前だと「2011年初仕事!」の気合がなかなか入らない。

 新年なんだけどまだ新年ではないような、そんな気分を一気に覚ませてくれるのが、米ラスベガスで1月6日から始まる世界最大級の家電展示会「2011 International CES」と言える。サムスン電子、LG電子を中心に韓国が誇る「世界初」、「世界最高」という宣伝文句を掲げた新製品を一挙公開する。世界の家電とIT製品のトレンドを把握できる展示会だけに、IT輸出が経済を支える韓国ではIT業界人だけでなく、一般市民も注目するニュースでもある。開催前からネットでは今年のCESにはどんな新製品が出展されるのか現地からの報道が絶えず、出展するメーカーは現地からネット中継で自社の展示内容を宣伝するほど力を入れている。


 2011年のCESは、欧米の景気回復を反映して、より画面が大きくて薄いパソコン・携帯電話・テレビ、インターネット経由でつながるスマート家電が注目されているという。今年の目玉としてサムスンとLGが宣伝しているのはなんといっても「スマートTV」。テレビを観たり、ネット検索をしたり、動画を観たり、ゲームをしたり、テレビからTwitterにつぶやいたり、スマートフォンやタブレットPCと連動してアプリケーションを利用したりできる。サムスンとLGは世界TV市場シェア1位を守るためにも3DTVに続いてスマートTVでも1位を狙う。


 サムスンは史上最大規模、参加企業の中でも最大規模の展示ブース(2584平方メートル)で参加する。既存のものより10インチも大きくなった世界最大という75型スマートTVも初めて公開される。フルHD、2Dから3Dに変換する機能付き、大型には適用するのが難しいといわれたエッジ型LEDバックライトを搭載しているのが特徴である。スマートTVだけで2011年の世界市場において1000万台の販売数を予想する。


3DTV用のメガネも進化を遂げた。初めて公開されるという3Dメガネは28gという超軽量シャッターグラス、鼻の高さを調整できるので子どもも使える。かけているのかいないのか分からないほどの着用感だといい、既存のメガネより約10g軽くなったという。ネジを使用しない人体工学的なデザインで有名なオーストリア「シルエット」とデザイン提携によって生まれた。メガネの上にもかけられるといいけど、その手のデザインではなかった。視力補正レンズを付けられるという説明だが、3Dメガネ用のレンズを作らないといけないのだろうか。






CESで公開されるサムスンの28g超軽量3Dメガネ


3DTVやスマートTVの複雑な機能をより簡単に利用できるよう3型タッチリモコンも展示されるという。これは面白そうだが、スマートフォンにタブレットPCに画面付き電話機(韓国ではVoIPはSoIPといって、タッチパネルが付いてちょっとしたコンテンツ利用、メモ、テレビ電話ができるVoIPが普及している)に画面付きリモコンまで登場するとなれば、機能がちょっとずつかぶる「画面付き○○」が増えることになるので、これもまた整理されて一つのタッチパネルに集約していくのではないだろうか。2012年のCESではこの画面一つ持っていれば何でもできます、なんていうのが登場するかも。

 サムスンはデザインが美しい「3D LEDモニター」にも注目してほしいということだった。オンラインゲーム好きの韓国人だけに、家庭でもノートパソコン+大型モニターの組み合わせをよく見かける。普段メールをチェックしたりネットサーフィンしたりする際にはノートパソコン、ゲームや動画、ネットショッピングはモニターをつなげて使う場合が多いので、デスクトップパソコンの販売は減っているものの、画面がきれいでデザイン性の高いモニターは需要がある。



LGも2045平方メートルのブース規模で、独自のプラットフォーム「NetCast2.0」を搭載した72型のフルLED3DスマートTVや3DTV、スマートフォン、家電などを展示する。同社もメインはスマートTVと3DTVとしている。また、冷蔵庫や洗濯機、ロボット掃除機などの家電とスマートフォンやタブレットPCがつながるホームネットワークで、どこにいても家電を遠隔操作し電源をつけたり消したりできるスマートソリューションも展示する。スマートフォンで観ていた映画を面倒な作業なく続けてスマートTVから観ることができる機能などが紹介される。

 パソコンとスマートフォンもどんどん軽く薄くなっていて、サムスンは11型軽量ノートパソコンと、世界最薄という厚さ23mmの3Dブルーレイプレーヤー、4GのLTE基盤端末、iPadに対抗する7型タブレットPC「GALAXY Tab」に続いてWindows 7を搭載した10型タブレット「Gloria」も展示する。世界で最も薄いとLGが宣伝する9.2?のスマートフォン「Optimus Black」を公開する。「Optimus Black」はスマートフォンの中では最も明るい700nitのLCD、109gの軽さも自慢。






LGが公開する厚さ9.2mmスリムスマートフォン「Optimus Black」

CESではハードウエアだけが注目されるが、韓国内では既に家電メーカーと通信事業者、ネット動画サービス事業者の間で「Nスクリーン戦略」として熾烈なコンテンツ確保競争が巻き起こっている。サムスンとLGももちろん、スマートTVやスマートフォン、タブレットPCといったハードウエアだけでなく、アプリケーションやコンテンツ確保に力を入れている。自らプラットフォーム事業者になるアップル式囲い込みで差別化を狙う。LGの場合、グループ会社で通信事業者のLG U+がIPTVからスマートTVへ戦略を変えたことで、共同でコンテンツ流通に乗り出すことも考えられる。各種デバイスがスマートTVとつながるため、スマートTVのプラットフォームを制したものが、今後ハードウエアでもコンテンツでもリーダーになると見られている。

 サムスンは若手役員起用と果敢な投資を打ち出し、LGは役員の入れ替えや通信事業再編でどんどん効率性を高めている。2010年まであまり目立たなかった中小企業もスマートフォンやスマートTVをきっかけに動き出している。CESでの初仕事を終えた韓国IT業界が本格的にどのような戦略で動き始めるか、楽しみだ。ただ、人もビジネスもだめなものはすぐ切り捨てるという容赦ない選択と集中、終わりのない競争の中で成長してきた韓国が、疲れることなくこのまま今年も突っ走れるか、ちょっと心配だな~。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2011年1月6日

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韓国デジタル教科書事情(5)~利用端末は未定でも「果敢な選択と集中」を急ぐ

「韓国デジタル教科書事情(4)」から続く) から続く


 韓国政府の教育ビジョンは「先進教育学術情報化による健康で創造的人材育成」である。


 5大戦略目標として「健康な市民養成」、「創意的グローバル人材養成」、「疎通と信頼の教育文化造成」、「持続可能な教育体制具現」、「Green IT 基盤の新教育システム構築」を挙げている。そのために初等教育から生涯学習まで、個人の成長に合わせて対応できる教育環境をつくることを目指し、その流れの中でデジタル教科書が生まれた。


 少子高齢化が日本よりも早いスピードで進んでいる韓国では、持続的成長のため教育、医療、環境とICTの融合は重要な課題である。2011年韓国政府の経済活性化テーマも「融合」がキャッチフレーズだ。デジタル教科書やデジタルヘルスケアといった既存サービス+ICTの融合サービスを活性化するために政府がするべきことは、技術開発支援よりも制度改善であるとして、関連法や制度改善に拍車をかける。


 デジタル教科書にかける期待は大きい。全国経済人連合(日本経団連に当たる団体)はデジタル教科書のコンテンツ開発、教室インフラ改善などのために向こう3年間に2兆ウォン(約1800億円)が必要であるとし、塾や印刷会社、書店の雇用が減る代わりに、コンテンツ分野の新規雇用が増えることで、9000人以上の雇用効果があると予測している。


 日本の文部科学省にあたる教育科学技術部だけでなく、経済産業省にあたる知識経済部もIT融合支援策でデジタル教科書を支援している。タブレットPCやスマートTVが脚光を浴びることが予想されることから、デバイス普及の鍵となるアプリケーション開発、教育現場で使われるシステムのクラウド化、eラーニング産業としての教育情報化、リナックス基盤デジタル教科書開発などを進めてきた。





デジタル教科書端末としてはGALAXY Tabのようなタブレットパソコンが有力といわれているが、まだ公式に決まっていない。韓国では「どんなデバイスからも利用できる教科書がデジタル教科書である」としている

「eラーニング産業発展及びeラーニング活用促進に関する法律」も検討する。デジタル教科書や教育情報化に合わせてeラーニング市場全般を活性化させるために支援するというもので、デジタル教科書プラットフォーム標準化、幼稚園向け教育情報化システム支援、学校向けeラーニングシステム構築コンサルティングとシステム構築などを支援する。

 「スマートラーニングコリアプロジェクト」として、マルチプラットフォーム環境での「オーダーメイド型学習サービス」を提供するため政府はどのような支援をするべきかに関する研究も始まっている。



子ども達は自由に著作物を使えるのか?

 政府はデジタル教科書向けコンテンツ開発と著作権改訂も検討する。3D、拡張現実(AR)、ロボットなどを適用したマルチメディア教科書が期待される中、教科書のためには著作権法も改訂しなくてはならない。現状のままでは「教科書に掲載」は許可されても、それを子ども達がコピーして再編集したり、教科書専用端末ではなく家庭から見たりした場合は著作権法違反になるのか、疑問が生じる。デジタル教科書に掲載していろいろと活用できるようにしてもいいが、その分著作権料を高く払ってほしいという著作権者側の主張も納得できる。


 デジタル教科書商用化のための準備は着実に進む。2011年からは「教科書先進化」として、教科書のサイズやデザインを自由に作れるようになった。アメリカの教科書のようにサイズも大きくフルカラーの紙の教科書に解説書とCD-ROMを付録にしている。デジタル教科書に市場を奪われまいと教材出版社もCD-ROMを付録にし、アプリケーション参考書を開発して電子ブックリーダーやiPad、スマートフォンからも使えるように準備している。


 2010年の秋には科学教科書を中心に「デジタル教科書2.0」の実証実験が始まった。既存のデジタル教科書は端末にインストールして使うのが前提となっているが、2.0ではいつでもどこでもWebベースでOSも端末も関係なく使える教科書にする。この「いつでもどこでもどんな端末からも」というのが果たして便利で学習効果があるのか、といったことを学校で使わせて実験することになる。


 タブレットPCよりもちょっと画面が大きめのスマートフォンの方がいいという子どももいるだろうし、やっぱりノートパソコンから使いたいという子どももいるはず。子ども達が自分に合った端末を選んで使えるようにするというのも面白い。デジタル教科書は学校の中だけで使うものではないので、病院に長期入院している子どもや海外転勤で外国に住んでいる子どもでもデジタル教科書で勉強できるようになれば休学する必要もなくなる。


デジタル教科書はレンタル制にするのか未定

 残すは教育科学技術部の端末予算確保である。小中学校は義務教育であるため、教科書は無料で配られる。デジタル教科書であっても義務教育なので教科書は無料でないといけない。子どもに与えるのか、それともレンタル制にするのか(卒業すると返納するとか)、タブレットPCにするのか、といった具体的なことはまだ何も決まっていない。


 国定教科書発行費用を全部端末購入に使うとしても端末の仕様が決まらないので「どんな端末からも使える教科書」という定義のまま、予算策定が難しくなっている。現在実証実験に使われているヒューレット・パッカード製のタッチパネルノートパソコンは多機能で値段も高く重くて持ち歩けない。今のところはiPadやGALAXY TabのようなタブレットPCが有力とされているが、シンプルにして値段を1万円ほどに落としたデジタル教科書専用端末が必要なのではないかという意見も根強く残っている。教育科学技術部は「急いで決めずに2012年まではあれこれじっくり試したい」としている。端末選定の悩みはまだまだ続きそうだ。


 先日、韓国の教育政策を発表する場で李明博大統領は「科学技術を活用した教育」、「果敢な選択と集中」を要求した。「すべてにまんべんなく予算を配分しては、どの分野も競争力を持てなくなる」という大統領の言葉はまさに韓国の今を象徴していると言える。


 「できない人」に焦点を当てるのではなく、「優れている人」、「できる人」がさらに才能を発揮できる環境をつくらないと韓国はだめになってしまうという危機意識を国民が共有している。だから韓国は前に進むことができた。2011年も韓国はデジタル教科書やヘルスケア、スマート端末、スマートグリッドなどにおいて世界に先立ち新サービスを商用化、世界のテストベッドとして注目されること間違いないだろう。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月27日

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2010年、韓国の年末商戦キラーアイテムはやっぱりこれ

国民の半分以上がキリスト教の韓国ではクリスマスは祝日である。韓国にもサンタさんは存在して、クリスマスイブの夜にプレゼントを枕元に置いてくれる。クリスマス当日の午前は教会や聖堂に行き、それから家族または恋人同士で遊ぶ、というのが典型的なパターンではあるが、「今年もクリスマスはホーム・アローンの再放送と一緒に部屋でゴロゴロ…」という人も少なくない。それでもクリスマスは街のイルミネーションを見たりキャロルを聞いたりするだけで心が躍るもの。

 今年は11月から雪が降り始め、足首まで積もるほど。旧正月にするお歳暮とは別に、クリスマスにも家族や知人にプレゼントをする。寒さが早くやってきたせいか例年より早く10月末ぐらいからもうクリスマス商戦が始まった。


 この年末は去年に比べかなりゴージャスになったような気がする。景気回復なのか、まずイルミネーションが派手になり、ホテルのクリスマスパッケージも去年に比べ豪華になった。ヨーロッパ王族のようなクリスマスパーティー、ニューヨーク本場のクリスマスパーティーのプランなどを売り出した。アイドルが歌うクリスマスキャロルのデジタルシングルやコンサートの話がネットをにぎわせているのをみると、やっぱりこのクリスマスは景気がよくなったのかな? と思わずにいられない。


 韓国でも広告代理店やマスコミ、研究所などが「2010年のヒット商品」というタイトルでランキングを発表する。ここでヒット商品として挙げられた商品のほとんどがクリスマスや年末年始のプレゼントとしてまた売れる。


 2010年のヒット商品はなんといってもスマートフォン! 誰も文句がつけられないほど売れまくった。

韓国の年間携帯電話端末出荷台数は2500万台前後である。一方、スマートフォンはこの1年間に700万台近く売れた。これは2009年に予想していた200万台の3.5倍の数字である。2011年は1500万台以上と見込まれているので、新しく携帯電話端末を購入する人の6割がスマートフォンを選択するということになる。


 ヒット商品ランキングでもほぼすべてのランキングで1位がスマートフォンだった。売れた商品も欲しい商品もスマートフォンというほどの盛り上がりだ。サムスンのGALAXY SとアップルのiPhone 4が人気を二分していて、媒体のヒット商品としてはGALAXY Sがよく紹介されており、「2010年クリスマスに欲しいのは?」といったユーザーアンケートではiPhone 4が1位、iPadが2位だった。


 販売台数では11月末時点でGALAXY Sが約180万台、iPhone 4が約72万台、iPhone 3GSが約90万台なのでGALAXY Sがもっとも売れていると言える。前者2つは未だに予約しないと手に入らないほどの人気だ。いつもアイデアで勝負する携帯電話端末ベンダーのパンテックは、ここ数年これといった人気端末がなかったが、スマートフォンでは次々に新機種を発売し、出す機種すべてヒットを飛ばしている。海外ベンダーのスマートフォンもどんどん発売されるようになった。ベンダーが増えることで競争も激しくなるので、ユーザーにとってはありがたい。






2010年ヒット商品第1位はスマートフォン、そして年末商戦でじわじわ台数を伸ばしているのがタブレットPCである。写真はキム・ヨナ選手が1日中GALAXY Tabを手放さず生活するという内容の話題のCM

ブログを運営する人は相変わらず多く、1000万画素以上の小型デジカメ、一眼デジカメもよく売れている。毎年行われるインターネット利用実態調査によると、韓国のネットユーザーの約半分は自分のブログまたはSNSサイトを運営しているという。韓国のブログを見ていると写真や動画をネットに載せるのが好きで、自分撮りするのはもっと好きな人をよく見かける。クリスマスのイルミネーションがきれいだからと、あの重たい一眼を片手にぶるぶる震える手で自分撮りしている女性を結構見かけた。手ぶれ防止機能が付いているから大丈夫なのかな?人に撮ってもらうときれいに写らないから嫌なのだとか。


 3DTV、スマートTVもヒット商品に選ばれていた。一度アプリケーションを購入すれば、スマートフォン、タブレットPC、スマートTVからコンテンツを利用できるようにつながるのはとても便利である。韓国ではデバイス普及のためにはまずコンテンツから、という政府の支援戦略により、自治体や公共機関が開催するアプリケーションコンテストをよく目にする。スマートTV向けアプリケーション公募もあったので、スマートTVはこれから盛り上がるだろう。楽しみである。


 韓国では芸能人の影響力が絶大で、ドラマに登場したブランドや人気芸能人が身に着けたという商品は飛ぶように売れる。2010年は米国の音楽プロデューサー、Dr. Dreのヘッドホンがそうだった。地下鉄や街中でDr. Dreのヘッドホンを首にかけたり耳にかけていたりする人をやたらと見かける。元々有名ブランドではあるが、3万5000円くらいする高価なものだけにそう簡単に買えるものではないはずだが、スマートフォンユーザーが増えて移動しながら音楽を聴いたり動画を見たりすることが増えたせいかもしれない。韓国では10~20代だとイヤホンよりヘッドホンを使う人が多い。季節的に耳をカバーして温めるという効果もあるし、ファッションの一部だからだ。Dr. Dreは芸能人のプライベート写真によく登場するせいもあり、音質を追求するというよりファッションとして真似て買う人の方が多いかもしれない。ネットショッピングでも売れ筋商品としてよく紹介される。



世界的に「エコ」がブームなだけに、韓国でも省エネエアコンや省エネ冷蔵庫といったエコ家電が売れた。韓国人の生活に欠かせないマストアイテム!「キムチ冷蔵庫」も省エネ+多機能になっているので、毎年のように買い換えたくなる。キムチが発酵しすぎないようにちょうどいい温度で新鮮に保ってくれる上水分を逃がさないので、野菜も長持ちするという機能が人気で売れ始めたキムチ冷蔵庫は、年間100種類以上の新製品が発売されているほど熱い市場だ。


 冷蔵庫とは思えないほど派手なデザインにワインセラー付き、飲み物を取り出しやすくしたホームバー付き、化粧品冷蔵庫付きなど、キムチだけを保存する冷蔵庫ではなくなりつつある。キムチ冷蔵庫はキムチを大量に漬ける秋によく売れるが、お母さんへの年末年始用プレゼントとしても喜ばれている。







母へのプレゼント、主婦の自分へのご褒美としても人気の高いキムチ冷蔵庫。一家に1台はある韓国人のマストアイテム


IT製品以外の売れ筋を見てみると、寒いだけに発熱素材の下着もヒットしている。日本では「食べるラー油」が流行ったと聞くが、韓国では「生マッコリ」が大ヒットした。冷蔵流通で新鮮に、収穫されて1年経っていないお米だけで作るという高級化を図ったのが生マッコリ。既存のマッコリとは違って、牛乳が置いてある冷蔵コーナーで販売される。このほかにも健康食品やオーガニック系のものが売れている。高くても健康にいいものを選ぶようになった人が多いのをみるとやっぱり景気回復なのかも…


 韓国では2011年にはスマートフォンとタブレットPCの競争がさらに激化すると予測されている。この調子だと2011年の年末商戦でもスマートフォンが1位になる可能性が高い。「スマート」をキーワードにしたアプリケーション競争も熱い。今年のヒット商品ランキングにアプリケーションはなかったが、2011年はもっとも売れた商品の一つとして特定のアプリケーションが紹介されるかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月29日

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