G20開催でわきかえるソウル、あちこちで最先端ICTを体験

ソウルでは2010年11月11日~12日、G20が開催される。G20のGはGroupの略字で、20カ国・地域首脳会合のことである。世界GDPの85%を占めるG20だけに、サミット開催中に韓国が誇る最先端技術をG20関係者らに宣伝するため、展示会や体験ゾーンがソウル市内のあちこちに登場し始めた。一般市民も自由に観覧できる展示場も多いため、IT・電気自動車・3D放送・エコなど、韓国自慢の最新技術を体験できるいいチャンスでもある。

 G20サミットは韓国では初めての大規模な国際首脳会議で、国別の代表団やプレス合わせて少なくとも1万人が参加すると見込まれている。参加者らが落としていく消費支出約35億円、G20開催による付加価値創出効果約45億円、企業の広報効果と輸出増大効果などの間接効果は2兆円を超えると推定されている。


 ソウル市内はどこを向いてもG20のポスターや歓迎の旗が掲げられている。企業の広告にもG20、バスにも電車にもG20、ビルの屋上看板にもG20、テレビをつければG20開催国らしくエチケットを守りましょう、外国人観光客にはやさしくしましょう、道に迷っている人がいたら自分から先に声をかけましょうのキャンペーンが流れている。ワールドカップ以来の盛り上がりに、G20となんの関係もない私ですら興奮してしまうほどなのだ。






G20のスターサポーターとして活躍している少女時代(2010 G20 Seoulsummit準備委員会)

メイン会場であるCOEXでは11月1日、公務員とボランティア総出の大掃除が行われた。ショッピングモールになっている会議場地下には、以前から楽しいITスポットとしてデジタルサイネージを使った多国語の案内地図やタッチ式広告版が置いてあり、ショッピングモール内のお店や周辺グルメ情報、観光情報、今日のニュース、天気、為替レートなどを検索できるようになっている。ストリートビュー方式で、周辺の写真を見ながら地図検索できるので、初めて行く場所でも迷わず探せる。こうした検索できる情報発信型デジタルサイネージは韓国ではお馴染みの設備であるが、海外観光客には珍しいようで、G20をきっかけに再び注目されている。

 COEXがある地下鉄2号線「三成駅」には、韓国内のどこにでも無料で電話をかけられるVOIP付きのデジタルサイネージもあるので、お店を検索してその場で予約もできるところが便利。映画や演劇のチケットを無料でもらえるイベント応募もできるようになっているので、定期的に立ち寄りたくなる。

ソウル市はCOEXに電力いらずで温室ガスも発生しない、スマートフォンで遠隔制御できるソーラーLED照明を設置し、「低炭素グリーンエネルギー都市ソウル」のイメージを広めるとしている。昼間に太陽光を充電して夜は照明として使うもので、まだ商用化されてはいないが、照明のベストな高さやデザイン、消費電力チェック、遠隔制御方式などの実証実験を経てG20期間中COEXに設置されることになった。


 代表団とプレスには韓国メーカーの電気自動車、電気バス、水素燃料電池自動車が提供され、エコな都市ソウルのイメージアップも図る。まだ量産されていないモデルではあるが、1度の充電で170km走れて、スピードも165km/hまで出せる電気自動車や、1度の充電で650kmを走れる水素燃料電池自動車は、世界のメディアに注目されると期待されている。


 また、COEXには3DTVを体験できるコーナーもあり、韓国が2010年から国をあげて実験している高画質3DTVを観ることができる。


 11月5日からは「G20放送通信未来体験展」(G20 Communications Exhibition)が開催する。韓国の主なIT・放送事業者が参加し、最先端サービスを体験させる展示会で、現在提供されているサービスと、今後提供される未来生活サービスも展示される。モバイルIPTV、デジタル教科書や電子黒板・RFID・3D仮想現実などを活用して授業を行うスマート教室、エコなスマートIT製品、3Dタブレットパソコンや3Dエンターテインメント、電気自動車やスマート自動車などが展示される。各国首脳やプレスに韓国はIT強国であるという強烈な印象を残すため、政府も企業も熱心である。

企業のショールームもG20のための衣替えを済ませ、各国代表団の訪問を待っている。空港の携帯電話レンタルコーナーも古い端末を一新し、スマートフォンやかわいいデザインの端末を使えるように準備した。






KTはG20参加者に最先端IT機器を提供する(KT提供)


G20の主管通信事業者に選ばれたKTは、G20首脳と代表団に提供されるIT機器を一足先に公開した。


 IPTVからはCNN International、 Euronews、 France 24、 CCTV 9、 NHK World News などG20国家のニュースチャンネルを提供し、SoIP(モニター付きインターネット電話機)から観られるようにした。14カ国を利用できるようにし、リモコンも付けて、電話でもありIPTV用のモニターとしても使える。Wibro(モバイルWiMXA)を利用したモバイルIPTVも提供し、スマートフォンからG20の日程、告知、ニュースなどを提供し、世界最高水準のモバイルネットワーク技術を持っていることもアピールする。


 韓国の空港鉄道、電車、バス、タクシーなど全交通機関と自動販売機や公衆電話、コンビニなどで使える電子マネー「T-Money」もG20首脳と代表団に配られる。乗り換えに関係なく、乗った距離に応じて料金を計算するとても便利な交通システムを体験してもらいたいからだ。


 G20は韓国にいながら主な経済大国の代表団に自社製品を宣伝できる絶好のチャンスであるため、企業も宣伝に力が入る。韓国を訪問する外国人のための特別セールや無料観光バス運行などイベントも盛りだくさん!熱気むんむんな今が観光するにも絶好のチャンスかもしれない。それに11月の韓国は雨もほとんど降らず、紅葉もきれいなので、飽きるほどソウル出張をしているビジネスマンでも、今まで見たことのない新しいソウルを体験できること間違いないだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月4日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101104/1028315/

傷つけたくないもん! iPhone 4やGalaxy Sのアクセサリーが大人気

最近韓国で人気なのが、お笑い芸人が貧乏旅行をするバラエティー番組や、人気歌手が仮想夫婦となって新婚生活を送るリアリティ番組(日常生活を追いかける番組)である。視聴率の高い番組だけに、出演者のファッションやアクセサリーも話題となり、ヒット商品につながっている。

 この季節、これら番組から生まれたヒット商品は、スマートフォンのカバー。カラフルで革素材のかっこいいカバーで個性をアピールする芸能人のおかげで、iPhone 4やサムスン電子のスマートフォンGalaxy S向け端末カバーがばか売れしている。







iPhone 4は韓国で発売されたばかりで、予約から端末を手に入れるまで早くて2週間待たないといけない。しかしさすが芸能人。テレビに私物として登場する携帯電話のほとんどがiPhone 4かGalaxy Sだった。みんな同じスマートフォンを持っているからか、誰もがカバーを付けてすぐ自分の物を見分けられるようにしていた。芸能人だけでなく、Twitterで人気の財閥御曹司らが何気に自慢したスマートフォン向け手製高級革カバーも輸入が追いつかないほど売れまくっているというからすごい。


 韓国では携帯電話にストラップをじゃらじゃら付けることはあまりしない。ストラップを売っている露店やアクセサリーショップはたくさんあるのになぜ付けないんだろう。周りの人は、ストラップが端末にぶつかってキズを付けるのがいや、重くなるのがいや、ポケットに入らないしかさばる、などの理由を挙げていた。若い女性でも、せいぜい小さい鏡やミニチュアのリップグロス、金やクリスタルのジュエリーをさりげなく付ける程度である。


 または、T-Money(韓国のプリペイド式交通カード、自動販売機やコンビニでも使えるSUICAのような電子マネー)のストラップ式カードを付けて、iPhoneを使いながらモバイルペイメントを利用できるようにする。これはかなり便利で、モバイルペイメント機能を持たない端末であっても、親指ぐらいの大きさのカードをストラップのようにぶら下げるだけ。電車も乗れて、乗り換えもでき、バスにも乗れる(乗り換える度に運営会社が違うからと切符を買い替えないといけない日本とは違って、韓国ではすべて統合してどんな乗り物だろうが、乗った距離で計算するようになっている)。


 もちろん、これはT-Moneyまたはクレジットカードの交通カード機能を使ったときだけ適用され、現金払いの場合は乗り換える度に交通費を支払わなくてはならない。なお、3G端末の場合は、SIMの中にT-Money機能が入っているので、ストラップ式のカードはいらない。







さまざまな形状のT-Moneyストラップ式カード。モバイルペイメント機能がない携帯端末に付けて使うと便利(T-MONEYのサイトより)


携帯端末にキズがつくのがいや、というのはスマートフォンでも同じで、タッチで液晶が汚れたり傷ついたりを防ぐための透明シールはほぼ100%付けている。端末にカバーを付けるのが好きなのもその延長なのかもしれない。

サムスン電子はGalaxy Sをはじめ、スマートフォンやタブレットパソコン向けのアクセサリーショッピングモールを運営している。街中や電車の中で使っている人をよく見かけるのは、クロコダイル模様になった革製カバー4万4000ウォン(約3400円)、ランボルギーニのロゴ入りで液晶まですぽっとかぶせる革製ケースは4万5000ウォン(約3500円)、爪が長く指先でタッチするのが難しい女性向けスタイラスペン1万9800ウォン(約1500円)である。






革製ケースは約3500円(写真左右とも:スマートフォンアクセサリーショッピングモール Anymode)






爪の長い女性向けスタイラスペン


もう一つ、韓国にはアップルの修理センターが少なく、修理代もかなり高額なので、iPhoneは気を付けて使わなくてはならないという認識が広がっていることも、カバーの人気に火を付けた。


今年は冬の訪れが早く、10月で既に気温が氷点下に下がるほどの寒さである。凍えそうなほど寒い韓国で、いちいち手袋を脱いでタッチしなくてはならないというのはとても不便である。携帯電話加入者の約15%が利用しているスマートフォンだけに、日本で発売されたiPhone用手袋もブログを中心に紹介され、注目を集めている。

 韓国では昨年の冬、手袋を脱がずにiPhoneにタッチできる方法として「魚肉ソーセージ」で画面をタッチするのが大ブームとなったことがある。







iPhone画面をタッチする「魚肉ソーセージ」。去年はやった

そのほかには、スマートフォンから動画を楽しむ人が増えていることから、パソコンのモニターのようにスマートフォンを固定できるアクセサリーも多数登場。ナビゲーションの代わりに使う人もかなりいるせいか、自動車や自転車に固定できるアクセサリー、車の中で充電できる車両用充電池、車のオーディオにつなげられるジャック、無線でスマートフォンの音楽ファイルを伝送できるオーディオなども売れている。

 韓国ではスマートフォン向けアクセサリー市場は国内だけで年間700億ウォン(約54億円)に上ると見込まれている。アクセサリーはデザインやアイデア勝負でいくらでも高く売れ、世界市場でも販売できるだけに、いろんな産業からアクセサリー市場に飛び込む、特に中小企業が増えるものと見られている。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月28日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101028/1028200/







[日本と韓国の交差点] 白菜の価格が20倍に高騰:キムチ大乱がもたらした社会混乱と政治不信(1)

中国から輸入する白菜に対する関税をゼロに



 「キムチなしでは生きられない。本当に生きられない」。こんな歌詞の歌謡曲があるのをご存じだろうか。韓国人なら誰もが口ずさめるほど有名な歌である。韓国人の食事に欠かせないおかずであり、健康食品として元気の源になってくれるキムチ。今年の秋はこのキムチが食べられなくなるかもしれない!という一大騒動が巻き起こった。


 韓国では毎年秋になると大量に白菜を買い込んでキムチを漬ける「キムジャン」をする。春まで食べるキムチを漬ける家もあれば、1年分のキムチを漬ける家もあるので、とにかく量が半端ではない。4人家族でも20株、30株を漬けるなんてざらである。


 カットされていない丸ごとの白菜を買ってきて、家で4等分して塩を振って一晩寝かせる。それから水気を絞って、唐辛子とにんにく、にら、大根、たまねぎ、なし、もち米粥、牡蠣などを混ぜた薬味を葉っぱ一枚一枚に丁寧に塗る。最後は、丸めて、専用の箱に詰めてキムチ冷蔵庫に入れる。作り方はみんな似ているが、家によって全部味が違うのがキムチの特徴である。



キムチ冷蔵庫が大人気



 昔は同じマンションに住む主婦同士で順番を決めて、今日は101号室のキムジャン、明日は102号のキムジャン、と手伝うのが当たり前だった。キムジャンはけっこうな重労働。なので、この日は、ご馳走をつくったり、出前をとったりする。典型的なご馳走は、豚肉の三枚肉を蒸して、漬けたばかりのキムチに脂ののった肉を包んで食べるものだ。子どもにとってはお祭りのような日でもある。しかし、最近は共働きが増えたせいか、キムジャンなんて面倒だと思う家庭が増えているようだ。キムチをスーパーで買ったり、実家の母に漬けてもらう家がかなり増えてきた。


 キムジャンのキムチは、壷に入れて庭に埋めるのが本来のやり方。だけど、マンション暮らしの人は、みんなキムチ冷蔵庫を使う。キムチが発酵しすぎないように味を長く保ってくれるキムチ冷蔵庫は必需品! ワインセラー兼用、冷凍庫兼用、キュービックをちりばめたど派手なデザインなど、キムチ冷蔵庫の種類は数え切れないほどある。実際にキムチ冷蔵庫に野菜や肉を保存すると、とても長持ちするので手放せない。さらに、化粧品も新鮮に保管できるとして人気を集めている。



失恋も挫折も、キムチで癒す



 韓国人にとってキムチのない生活は考えられない。「どんな料理にもキムチが必要。キムチがないと、胸焼けがして食べられない」という人をよくみかける。イタリアンでも、中華でも、ステーキハウスでも、和食屋さんでも、頼めばキムチを出してくれる。キムチの味でその食堂の良し悪しが決まる。キムチのおいしい食堂はどんなメニューもおいしい、というのが韓国人の信念だ。海外にいても韓国食でないと食べた気がしないという人も多い。(筆者もその一人)


 韓流ドラマが好きな人なら一度は見たことがある場面が、これ。失恋したヒロインが、真夜中ぼそぼそ起きては大きなボールに、ご飯と、冷蔵庫にあるキムチとナムルを適当に入れ、ごま油とコチュジャンをこれまた適当に入れて力いっぱい混ぜる。そして泣きながらやけ食いする。貧乏ながらも夢を追い続ける主人公が、キムチとインスタントラーメンだけで生活しているといった場面もよく登場する。


 男性版やけくそとしては、緑のビンに入った韓国のソジュ(焼酎)を、キムチだけをおつまみに飲み続ける、というシチュエーションがよく描かれる。キムチは、貧乏人でもお金持ちでも、みんなが「これなしでは生きられない」というほど食べる韓国人のソウルフードだからだ。


>>次ページ 白菜の価格が20倍に跳ね上がった 
   



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By 趙 章恩

2010年10月27日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101025/216812/

SNSで拡散する個人情報とデジタル証拠(2)~犯罪増で監視体制強化なるか

(前回はこちら


 ソーシャルメディアに限らず、ネットを使い、デジタルデバイスを使っている限り、記録は残る。韓国ではこのような記録を物証とするデジタルフォレンジック(Digital Forensics)による捜査が年々増えている。


 削除したEメールやショートメッセージ、デジカメの写真、検索したキーワード、チャット内容、訪問したホームページなどから探し出した決定的な証拠が犯人逮捕につながることが何度もあったからだ。携帯電話を使った位置追跡、サイトにログインしたIPアドレスから場所を割り出すのは基本中の基本である。YouTubeや動画投稿サイトにあった何気ない動画が証拠や事件解決の糸口になることもあった。目撃者がこんなことがあったと動画を載せる場合もあるが、犯罪を自慢するため犯人が自ら写真や動画を投稿することもあるそうだ。


 また、メッセンジャーを使ったなりすまし詐欺は韓国でなくならない犯罪の一つである。メッセンジャーのIDをハッキングして、その人の友人にチャットで母の急病だとか、交通事故で加害者になってしまってお金が必要だとか、嘘のメッセージを送って振り込んでもらう手法である。こういった事件もデジタルフォレンジックによる捜査で解決していく。


 韓国検察庁デジタルフォレンジックセンターのデジタル証拠分析件数は、2008年の916件から2009年には1546件に急増し、2010年は8月時点で1774件を突破している。これに対抗して、自分の記録をきれいに削除できる、ファイルを復元できないよう完全に削除するプログラムもどんどん普及しているから怖い。


 ただしプライバシー侵害、人権侵害という批判もあるためデジタルフォレンジックによる捜査は慎重に行われる。そのせいで思うように捜査できないこともあるという。






韓国警察サイバー犯罪担当組織のサイト。詐欺事件が発生したWEBサイト、振り込め詐欺に使われた電話番号と口座を表示し、サイバー犯罪注意報、警報を流している


検察はデジタル捜査を担当する専門家を増やすため、検察内部で実施していたデジタル捜査資格認定試験を韓国刑事訴訟法学会に移管して一般人も試験を受けられるようにする方針だという。警察庁のサイバー捜査隊も警察内部から専門知識のある人を採用していたが、民間からの特別採用を実施している。ハッキング担当、データベース担当、ネットワーク担当、ワイヤレス担当、プログラミング担当、デジタルフォレンジック担当に分けて採用する。情報処理関連資格を持ち、民間企業で電算管理業務3年以上経験のある人、またはコンピューター工学、ソフトウエア工学、情報保護を専攻した修士以上が対象となる。

アメリカでは、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアとインターネット電話を対象に司法当局が監視できるようにする技術導入を義務化する話が出ているというからすごい。監視できないシステムではサービスを提供できなくする強引なもので、政府がソーシャルメディアをずっとモニタリングしていられる技術を導入するという話である。まだ検討中とのことだが、アメリカがやれば世界で広まることは間違いない。

 アメリカでは麻薬犯罪にP2Pやソーシャルメディアが使われることが多いということで、監視体制を持つことが大事だという意見もあれば、大量に確保した個人情報が悪用される可能性、監視システムそのものがハッキングされる可能性を指摘する意見もあり、議論は続きそうだ。


 ソーシャルメディアを使うことで口コミを広げ、自殺を食い止めたり、急患を助けたり、いいこともたくさんある。韓国の警察はTwitterも運営していて、一般人は、ここに110番(韓国では112番)するのは怖いけど、自分が目撃したことがもしかして捜査のためになるかもしれない、という情報を寄せられる。そのため、警察はTwitterを使った迅速な通報システムを構築するかどうか悩んでいるという。


 ネットなしの生活はもう考えられない。一方でネットに書き込んだ一言で会社をクビになったり、訴訟されたり、命取りになってしまった人がどんどん増えている。ソーシャルメディアを使った詐欺もどんどん増えている。デジタル捜査官やサイバー捜査隊を増やすとしても、犯罪が発生してから動くしかないので、予防のためにはユーザー個人がしっかりしていないといけない。Twitterに気ままにつぶやき続けるべきか、他人を意識して当たり障りのないことだけつぶやくべきか、悩む日々だ。疲れる~。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月21日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101021/1028095/

[日本と韓国の交差点] 芸能人オーディション番組が増えているのは政治から目をそらすため?

多様性を認め、事実を伝える報道が大事



前回から続く

 韓国では今、会社でも、地下鉄の中でも、道端でも、ネットでも、「スーパースターK」の話ばかりをしている。誰がスーパースターに選ばれるのか?


 「スーパースターK」が放映される金曜の夜になると、Twitterに一斉にコメントが上がり盛り上がる。「○○の歌が良かった」。ポータルサイトは、スーパースターK 関連記事だけを集めたコーナーまでつくっている。さらに、新聞やネット新聞にも毎日のようにスーパースターKのニュースが登場している。


 「スーパースターK」のオーディションは2010年3月から始まり、9月末時点でファイナル4人にまでスーパースターの候補者が絞り込まれた。誰が選ばれてもおかしくないという段階なので、なおさら「誰がスーパースターになるのか」おせっかいが止まらないのだ。


 4人の候補者はそれぞれ過去があり、苦労の末にここまでたどり着いたというストーリーを持っている人ばかりである。番組の趣旨が、歌が上手い人がスーパースターに選ばれ歌手デビューするというものだからだろう。お金があるかどうか、お父さんの職業は何か、良い大学を卒業しているかどうか、はもちろん、性別も年齢も関係ない。



努力を公正に評価する姿勢が評価されているのかも



 スーパースターKは1回ののど自慢で選ばれるオーディションではない。他人の生活を垂れ流しにするリアリティー番組と同じで、数カ月かけてオーディションと合宿の様子を放映している。


 参加者はいろいろだ――自分が優勝するためにあの手この手で他人を落とそうとする人、地道に練習する人、不遇な家庭で育ち歌だけが生きる希望という人、歌が好きでしょうがない人など。歌唱力だけでなく、人間性も試される。制作陣は、すべてを明らかにした上で、なるべく「公正」に優勝者を選ぶとしている。このオーディションに国民の視線がくぎ付けなのは、「公正」にステップアップしていく出場者に自分を投影して見ている人が多いからかもしれない。現実の世の中は、努力するだけでは報われないことが多い。


 ただし、スーパースターKにも問題がある。審査員の態度がなってない、「公正」な審査になってないという批判も多い。番組の掲示板、ブログ、Twitterでは、応援のコメントだけでなく、なんで自分が応援している人ではなくあんな人が選ばれたのか、歌の実力ではなく、けっきょ顔の良しあしで選んでいるではないかという抗議もある。「私だったらAさんよりBさんを選ぶ」といったネットユーザーによる審査も過熱している。


 コメントを寄せるのは視聴者だけではない。制作陣やオーディションに出演した人、その家族や知人までもが参加しての大騒ぎとなっている。


 加えて、オーディションで生き残るためにはネット投票も重要な点数となるため(100点満点の70点は視聴者投票)、お気に入りの出場者を応援するため投票を促す書き込みもSNS上で急増している。



辛辣なコメントが魅力の一つ



 オーディション番組がここまで話題になるもう一つの理由は、人を踏みつける楽しさがあるから、と分析する人も少なくない。


 韓国にもコメンテーターが登場して意見を言う日本のワイドショーのような番組がある。しかし、コメンテーターが辛口のコメントをすることはまずない。政治や時事問題の話はほとんどせず、ほのぼのしたネタが中心だ。


 しかしオーディション番組ではうって変わって、審査員のみんながこれでもか~というほど辛辣なコメントをする。御曹司だの、名門大学に通う学生だの、親戚に有名な歌手が居る、だのと自信満々に自分が一番!と乗り込んできた出場者たちを次々に不合格させていく。だから面白い、という人もいるほどだ。




>>次ページ 報道番組を中止してオーディション番組に入れ替える動きも   



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By 趙 章恩

2010年10月13日


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http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101007/216545/?P=2

SNSで拡散する個人情報とデジタル証拠(1)~書き込むときは慎重に?

北朝鮮が労働党創建65周年の記念式典に海外メディアを招待した。北朝鮮を訪問する外国人には監視が付き、通信も自由にできないことで有名である。しかし、今回は変化があったようだ。平壌のプレスルームでは自由にインターネットが使え、一部記者はTwitterで北朝鮮の様子や写真を投稿してつぶやいた。もちろん、取材チームごとにガイドという名目で監視人が付き添い、北朝鮮側の日程に沿って軍のパレードを取材させている。だとしても、北朝鮮とTwitterってなんだか不思議な組み合わせなので、韓国では大変な話題になったものだ。

 Twitterといえば韓国でもスマートフォンの普及と並んで利用者が急増し、今では中学生や主婦もメール代わりにTwitterでつぶやいているほどポピュラーなものになってきた。


 リサーチ会社のTNSが世界46カ国5万人を対象に調査した結果、モバイルユーザーがソーシャルネットワークサイトに使う時間は週3.1時間で、週2.2時間のEメールよりも多かったという。


 芸能人、政治家、スポーツ選手、小説家、ブロガーなど、Twitterでたくさんフォローされていて影響力を持っている人ほど「マーケティング力」があるとしてもてはやされる時代になってきた。一般人であってもフォローされる数が多いと業界のパーティーに招待されたり、商品が無料でもらえたりする機会も多くなる。


 韓国では、Facebookは海外向け、Cyworld(老舗の韓国版ソーシャルネットワーク)とMetoday(韓国のNAVERが運営するTwitterのようなサービス)は韓国向け、Twitterは多国語(韓国語、英語、日本語、中国語などごっちゃ混ぜでつぶやく人が増えている)で、と分けてつぶやく人も多い。最近は一度つぶやけばすべてのソーシャルサイトに掲載できる連携サイトまで登場したほどである。ポータルサイトでは検索結果にTwitterのようなつぶやきサイトも含めるところも増えている。Cyworldは個人と個人企業とがつながる「ソーシャルコマース」を始めるという。




キャリアのKTが始めた「ソーシャルハブ」を利用すると、同じ写真やつぶやきを同時に複数のSNSに登録できる。いちいち訪問して書き込む必要がなくなるので便利



つぶやきは気軽にできるが…



 あるテレビ番組がソーシャルメディアからその人をどこまで把握できるか実験してみたところ、Twitterとブログを30分ほど見ただけで、名前、年齢、誕生日、配偶者の名前と年齢、自宅住所、職業、会社名、家族構成、子どもの名前と年齢と学校名、オンラインショッピングで何を注文して、いつどこで誰と会ったのか、趣味は何で、どこに旅行に行ってきたのかなど、かなりの個人情報を特定してしまったことがある。


 ユーザーが増えつぶやきも増えた分、Twitterからその人の個人情報を入手して悪用するケースも出ている。韓国では犯罪捜査のために容疑者の名義で加入しているコミュニティサイトやオンラインゲーム、EメールなどのIDを追跡し、いつどこでログインしたのかなどを分析して足跡を追うことが多い。


 検索技術は日々進化していて、数え切れないほどの検索結果から相関関係を分析してその人が欲しがっている情報に限りなく近くまとめて出すことができるようになった。


 ソーシャルメディアの利用が盛んなアメリカも同じような状況らしく、CNNもオンライン上の書き込みをちゃんと管理しないと求職や銀行の貸出、離婚訴訟などで不利になることもあると報道したほどだ。企業の採用担当者や法律事務所では証拠集めのためにあの手この手でソーシャルメディアを検索しているのに対し、つぶやくユーザーは無防備にも個人情報を丸投げにしているように見える。もっと自分の情報を自分でコントロールする必要があるのではないだろうか。


 韓国のソーシャルメディアサイトの場合は、友達をランク付けして閲覧できる情報をコントロールできる。誰でも見てかまわない内容と個人的な内容を区別しながらうまく自己アピールして人脈を作れるようにもなっている。また国民総背番号の国らしく、個人情報を守るため、自分の住民登録番号がどのサイトの会員登録に使われているのかチェックするサービスも政府が提供している。それでも何気なくソーシャルメディアに書き込んだ一言が問題になることは少なくない。


 一番いいのは慎重に、神経質になってつぶやくことより、データマイニングで個人情報を抽出される不安から開放されることなのだけど。しかしこのような情報抽出は犯罪防止に役立っているのだ。


(次回に続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月14日

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http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101014/1027953/

[日本と韓国の交差点] 韓国中が芸能人オーディション番組に大騒ぎ

学縁、地縁が要らない、お金持ちになれる!?



いつからだろう。韓国は子供も大人も芸能人になりたくてしょうがない国になってしまった。2010年5月、小学生に将来の夢を聞いたところ、1位は歌手や俳優といった芸能人だったそうだ。親が子供にさせたい職業も芸能人が多いというから驚きだ。

 小学生向け学習サイトが全国の小学生6397人を対象にアンケート調査した結果、20.5%は芸能人、20.1%が医者や弁護士といった専門職、14.8%が先生、11.4%が芸術家、9.1%がスポーツ選手と答えた。


 日本の子供のようにケーキ屋さんとか、電車の運転手さんとかが全くないことも面白い。日本では将来なりたい職業が「ない」子ども増えていることが問題になっているようだ(ベネッセ教育研究開発センター第2回子ども生活実態基本調査)それに比べ、はっきりとした夢を持っている子供が多いことは良いことなのかもしれないが、なんだかすっきりしない。


 私が子供のころは、男子は大統領、女子は医者とか判事とか、そんな夢を持っていた。このごろは、なんでこんなにも芸能人になりたがる子供が多いんだろう。



子供も、親も、プロダクションも一生懸命


 そういえばこの前、小学校の学芸会を見てびっくりしてしまった。子供らしい童謡や演劇なんてなく、ほとんどがアイドルのモノマネで、小学校低学年の子供たちが腰振りダンスでセクシーさを競い合っていた。見ているこちらの方が恥ずかしくて耐えられない。


 なのに、誇らしく「うちの子はダンスがうまいから、今度オーディション受けさせるのよ」と喜ぶ親を見て何も言えなかった。子供は子供らしく外で遊んで~、なんて考える人はもう居ないかもしれない。子供の才能を早く見つけて、英才教育でさらに磨いてあげるのが親の役割なのだから。


 子供を芸能人にするため、猛烈ママになる人も増えている。赤ん坊のころから演技学校に通わせ、プロダクションのオーディションを片っ端から受けさせまくる。歌やダンスのうまい子供は小学校低学年から芸能プロダクションの「練習生」に登録され育てられる。プロダクションは、子供たちに10年近くトレーニングをさせ、テレビ映りを良くするため整形手術や歯の矯正もさせる。もちろん、練習生同士も競争させてだんだん落としていく。こうして生き残った子供たちが、今アジアで大活躍している韓国のアイドルたちだ。


 ハリウッドをはじめ世界どこでもそうだろうけど、芸能人は特権層である。韓国で芸能人といえば、有名で、ちやほやされ、高額ギャラを得てお金持ちになれ、良いことばかり、と思われているのかも。以前紹介したように徴兵も免除される。裏ではどんなことがあろうと、一般人には、芸能人はそれほど苦労もせず裕福な生活ができる職業に見える。


 韓国は1997年の通貨危機(注:韓国では「IMF経済危機」と呼ぶ)を乗り越えたのはいいものの、その後からは、「助け合う」という美徳が少しずつ薄れてしまい、何よりも学縁、地縁、そして「自分」を最優先しないと生きていけない競争社会になってしまった感じがする。生きるためには「みんなで仲良く譲り合う」ことができないのだ。「少しぐらいなら、他人に迷惑かけてもかまわない」、「目立ちたい」という考えが、韓国をここまでも競争好きな社会にしてしまったのかもしれない。もちろん韓国は昔から縁故社会ではあったが…。


 そんな中、芸能人は学縁や地縁などのバッググラウンドがない人でも、体一つで成功できる最後の希望として映っているのかもしれない。





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By 趙 章恩

2010年10月6日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101005/216507/

これからはスマートTVだ! 世界1位を狙う韓国(2)~サムスンの戦略

 サムスンの場合、世界市場で戦っているだけに、政府の支援に頼らずどんどん先にビジネスを進めている。スマートTVも例外ではない。


 同社は世界109カ国向け(2010年9月14日時点)にSamsung Appsというアプリケーションストアを運営している。テレビ販売では世界市場で5年連続1位のサムスンであるが、これからはソフトウエア、コンテンツの時代だとして最も積極的にアプリケーションやOSに投資している。スマートフォンではグーグルのAndroidを採用。独自のモバイルOS「BADA」を搭載した「WAVE」というスマートフォンもあるし、テレビでは自社のOSで自社のアプリを流通させたいとしている。




サムスンのスマートTV向けアプリケーションはこうなる

サムスンは2007年から「インターネットTV」といって、リモコンとキーボードを使って検索できたり、ポータルサイトを利用できたりするテレビを販売していたが、「インターネットTV」の場合は決まったサイトにしかアクセスできないようになっていたせいか、それほど話題になることはなかった。

 同社は地道に取り組みを続けている。2010年3月、スマートTVで使えるアプリケーションコンテストを実施した。サムスンの説明によるとこれは世界初のコンテストなのだとか。公募の結果、多言語童話、カラオケ、テレビの画面から新聞を新聞の形のまま読めるTペーパー、学習関連コンテンツなど、家族向けアプリが選ばれた。160件の応募があり、一般ユーザー2500人が投票に参加して人気順位を決めた。これからはコンバージョンスアプリケーションとして、一度購入したら端末を選ばず使えるアプリケーションを流通させるとしている。この9月からはアメリカでスマートTV向けアプリケーションコンテストを開催している。





サムスンのブースに展示されたスマートTV(IFA2010の会場で)

先日ドイツで開催された家電展示会IFAで、サムスンは「2011年に発売するほとんどのテレビに3DとスマートTV機能を搭載する」とした。2010年発売するTVの場合は、半分ほどにスマートTV機能が搭載されるという。どんなテレビだろうと、「テレビ=サムスン」にすると自信満々である。ブロガーからはリモコンやUIがちょっと…と突っ込まれたりしたが、これぐらい強気でないと世界で戦えないだろう。

スマートフォンに出遅れた責任を取らされたのか、LG電子はCEOが創業者の孫に入れ替わった。LGもスマートTVには積極的で、2010年末に今までのインターネットTVとは全く違う新製品を披露するとしている。韓国ケーブル放送チャンネル大手事業者であり、映画制作もしているCJグループと提携し、LGのスマートTV専用サービスとして韓国政府が考えているスマートTV戦略は「韓流」。アジアで人気の高い「韓流ドラマ」を目玉にすれば韓国のスマートTVは売れるのではないかという考えだ。韓流コンテンツの多言語翻訳支援、中小企業のスマートTV向けアプリケーション開発支援といった政策も発表された。


 韓国では難視聴地域が多いことから、全世帯の約84%がケーブルテレビまたはIPTVに加入している。地上波放送を見るためには有料放送に加入しなくてはならなかったため、加入するのがもったいないと考える家庭は少ない。スマートTVの本体そのものが高くなければ、地デジ対策を兼ねて、3Dでアプリケーションをたくさん利用できるスマートTVに乗り換える人も少なくないだろう。


 スマートTVは家電メーカーがあって、地上波放送局やIPTV・ケーブルチャンネル事業者があって、という産業構造を変えることになる。家電メーカーがコンテンツも提供し、インターネット事業者がテレビも作る。


 韓国では既に放送局が自社番組のDVD販売をあきらめ、動画をIPTVやスマートフォン向けに提供するようになった。違法にコピーされず少額でも確実に課金できるからだ。これからはスマートTV向けアプリに変わるだろう。アメリカでもグーグルTVやアップルTVが放送を変え、コンテンツ流通方式を変え、人々の生活を変えると既存の業界プレーヤーに恐れられているようだ。


 テレビなんてコンセントを差し込めば観られるもの、と言えるのも後残りわずかかもしれない。日本も家電メーカーやキャリアなど、スマートTVを準備し始めていると聞く。スマートTVになって便利になるのはいいけど、お金を払わないと砂嵐以外何も観られなくなるのではないか、それがちょっと怖い。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年10月6日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101001/1027749/

これからはスマートTVだ! 世界1位を狙う韓国(1)~「選択と集中」を推し進める政府

スマートフォンブームについていくのもやっとなのに、タブレットPCが出てきたと思ったら今度はスマートTVなのだそうだ。そう言えば、グーグルTVやアップルTVが始まるというニュースもよく耳にするようになった。

 検索やメール確認といったインターネットサービスが使えるテレビもあるし、動画が観られるIPTVもある。テレビのリモコンでほかの家電を動かしたり、照明を点けたり消したりできるホームネットワークに対応したものもある。ちょっと前までもメガネをかけて立体映像が観られる3DテレビのCMばっかり流れていた。こんなにテレビの種類が多いのに、まだ新しいテレビが登場する余地があったのね。


 スマートTVは簡単にいうと、スマートフォンで利用できるアプリケーションをテレビからも同じように使えて、インターネットも使えるテレビ。動画(VOD)、ゲーム、検索、音楽、生活情報など、いろんなコンテンツをより便利に使えるというもの。インターネットにつながるテレビなんてずっと前からあったけど、テレビごとに決まったサイトしか利用できないようになっていた。スマートTVは、iPhoneやAndroidのアプリケーションのように、数え切れないほどのアプリケーションをテレビからも使えるというのが新しい機能といえる。韓国や日本にいながらアプリを使って海外のテレビも自由に観られる時代になるのだ。


 2012年には一般家庭にもスマートTVを普及させて、世界のどこよりも早くスマートTV大国になるのだと、韓国政府はさまざまな戦略を打ち出し始めた。ついこの間までもスマートフォンを世界どこよりも早く普及させるための戦略がどんどん発表されていたのに…。とにかく「スマート」という言葉が入るものは何でも集中投資の対象になっているので、スマートヘルスケア、スマート教育、スマート国防、スマート電子政府などなど、「デジタル」、「電子」といった言葉の代わりに「スマート」が付けられるようになったほどである。


 韓国の経済産業省にあたる知識経済部は、2010年9月「スマートTV産業懇談会」を開催した。韓国が世界シェア1位を占める「テレビ」の輸出をさらに確固たるものにしようと、スマートTVでも世界をリードできる戦略を議論するためである。テレビを製造するメーカーだけでなく、放送事業者、コンテンツ事業者、ネットワーク事業者を集め、お互いがうまく融合して新しいビジネスモデルをつくれるよう、国家戦略を樹立しようということで、話し合いが始まった。


 韓国はいつも、ハードウエアは強いけどコンテンツやソフトウエアは弱い、というのが問題であり課題である。スマートTVでも、ハードウエアはうまくつくれるので世界で優位に立てるかも知れないが、核となるサービスのアプリケーションをどうするのか、という疑問がある。


 スマートTVの時代になれば、テレビコンテンツのグローバル化による放送産業構造の変化に対応できる制度、法律改定も必要になるので、中央省庁である「放送通信委員会」の中に「スマートTV専担班」を設立・運営するという。グローバル競争力確保、新市場創出、技術力強化、インフラ構築、中小企業や個人デベロッパー支援をテーマに、細部の課題をリストアップしている。懇談会で事業者から政府にリクエストがあった支援が必要な分野としては、アプリケーション確保、海外市場創出、アプリケーションを流通させるためのプラットフォーム開発、使いやすいUI開発、標準化・特許支援、ネットワーク高度化、人材養成システム、法制度改善などが挙げられている。


 次回はサムスンのスマートフォン戦略を見ていく


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年9月30日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100930/1027711/

若者取り込みにあの手この手、政府省庁SNSの意外な狙い

日本でもTwitterやUstreamを使って政策や仕事内容を国民に知ってもらうとする政府広報活動が行われている一方、韓国でも政府省庁や地方自治体のブログやTwitterが話題になっている。

 政府機関がソーシャルメディアに登場するようになったのは既に5~6年ほど前。ブログが登場し、Cyworldというソーシャルネットワークが大ブームだった2004年、政府機関がCyworldにHompy(ミニホームページ)やアバターを作って親近感を持ってもらおうとしたのが始まりだったように覚えている。


 スマートフォンの普及で、24時間絶えずTwitterのようなつぶやきサイトやマイクロブログ(モバイル端末から利用するブログ)に書き込みする若い世代が増えたせいか、このごろは韓国の政府機関も公式サイトのほかにブログも当然運営し、Twitterとの連動も重視するようになった。TwitterやソーシャルネットワークサイトのIDをブログのIDとしても使えるようにしているので、ユーザーが何かTwitterに書き込むと、自動的にブログのコメントとして登録される。


 政府機関の公式サイトはまず訪問者数が少ない。何か調べようというはっきりとした目的がない限り、政府のサイトなんて滅多にアクセスしないだろう。ところがブログやTwitterの場合、自然と訪問者数が増える。韓国ではポータルサイトが運営するブログを利用する人が圧倒的に多いので、ポータルサイトの中の検索結果やランダムリンクなどで政府ブログの存在を知る人も多い。


 公式サイトの場合は誰が訪問したのかIPアドレスから分析するしかないが、ブログだとどんな人が訪問したのか足跡が残り、また気軽にコメントを残してくれる。ブログやTwitterでは実名確認をしなくても、本人の顔写真や年齢や職業や日常を公開しているので、どういう人がどんなコメントを残してくれたのか分かる。


 政府ブログの運営は、最初はαブロガーとして知名度の高い人にコラムを書かせることでクリック数を伸ばし、かわいい連載マンガと懸賞イベントで定期訪問者数も伸ばす、といったところだが、ブログ記者やサポーターという肩書きで大学生を採用して、政府政策を宣伝するための分かりやすく面白い記事も書かせている。こうした政府の努力はもちろん、若い世代にアピールするため。


 中央省庁の中でも堅そうなイメージのある企画財政部、統計庁、保健福祉部、放送通信委員会、国防部、兵務庁、国軍、国会、大統領官邸などなど、ブログとTwitterを持っていない省庁はないほど。しかも面白いのは、国会Twitter、企画財政部ブログという名前ではなく、企画財政部は「ブルーマーブル」(億万長者になるのを競うボードゲームの名前)、保健福祉部は「タスアリ」(暖かいという意味)、国会は「丸い屋根」といった具合でかわいい名前を付けているのだ。背景画面にもパステルカラーのイラストを使ったり、人気マンガのキャラクターを登場させたり、気を使っている。


 最初政府ブログにアクセスしたときには、「一体ここは誰のブログだろう?」とさっぱり理解できないこともあったが、政府ブログの連載マンガが意外と面白くてついつい訪問してしまう。中でも国防部のブログ「同苦同楽」は、2009年の「大韓民国ブログアワード」で公共部門1位に選ばれたほど人気を集めている。





韓国国防部のブログ「同苦同楽」


国防部、陸軍、兵務庁などがブログを運営する目的の1つは、徴兵制を怖がる最近の若者に、約2年の軍生活を通じて、人間として大きく成長できると思わせる(!)ためなのかもしれない。軍に入ってみたら資格もたくさん取れていいことだらけ、軍で芽生えた友情は一生もの、といった内容のWebマンガがずらりと並んでいる。このマンガがあまりにも面白く、しかもかわいいので、「軍に入っていろいろ経験してこそ大人よね~」なんてついつい「お気に入り」に追加してしまった。


 Twitterでは軍生活のエピソードを描いたこのマンガにリンクして、「私が軍にいたころは~」と始まる徴兵自慢話のネタにもなっている。兵務庁のブログには、徴兵で軍に入隊した人気芸能人の軍生活の写真も掲載されているので、ファンにとってはありがたいブログなのだ。


 韓国では就職が厳しく失業率も高いだけに、労働部のブログも人気が高い。大学生向けに労働基準や勤労者の権利などを分かりやすく解説するため、人気ドラマのストーリーを事例にして解説したりもする。アルバイトをするときに確認すべきことだとか、給料をもらえなかったときにはどこに相談すればいいのかといった基本的なことから、まじめな国家政策に至るまで、文字よりもマンガと写真をいっぱい掲載している。


 しかもこのブログの運営者は人気コミックマンガの主人公という設定。中小企業に勤める営業マンたちの苦労と人情と友情をテーマにしたマンガの世界そのままをブログに生かしている。


 就職活動中のブロガーの投稿も多く、海外でのワーキングホリデー体験談、アルバイト体験談などが盛りだくさん。クイズ形式の懸賞イベントもよく開催されている。2010年9月には米スタンフォード大学で行われたという5ドルプロジェクトの韓国版コンテストを行っていた(これは、5ドルを投資して、4週間後、社会的価値のあるビジネスとして誰が最も高い収益を上げられるのかを競うコンテスト。実際にスタンフォード大学で優勝したチームは5ドルで650ドルを稼いだという。そのビジネスモデルとは、学生の前でプレゼンする3分間をある企業に売り、その企業の求人広告をプレゼンの代わりにすることで広告料として650ドル稼いだ、というものだった。頭いい!)。


 このようにTwitterと連動させてみたり、イベントを開いてみたり、若い人が喜んで使ってくれる機能は何だろうと四苦八苦した甲斐があったのか、政府ブログは平均1日4000~5000人ほどが訪問していて、Twitterのフォロー数もぐんぐん伸びている。韓国の人口は日本の約3分の1なので、1日これだけの人が訪問するというのはけっこうな数字なのである。


 訪問者数が伸びて国家政策の宣伝につながり何かいいことがあったのかというと、まだそれは分からない。でも政府のやることに興味を持ち、一言二言つぶやき始めた人が増えているのは確かだ。





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年9月22日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20100922/1027580/