モバイルネットが不人気の韓国 政府主導の活性化策が始動






韓国サムスン電子のスマートフォン「OMNIA」シリーズ


韓国政府は今年、3月と9月の2回にわたってモバイルインターネットを活性化させるための国家戦略を発表した。「モバイルインターネット活性化計画」と「モバイルインターネット活性化推進計画」がそれである。


 韓国は日本と同じく1999年、モバイルインターネットサービスを始めた。ところが、その普及度合いでは日本に大きく水をあけられている。


 旧メリルリンチがまとめた「Global Wireless Matrix」(09年第1四半期)は韓国に衝撃を与えた。日米韓の通信キャリアのARPU(一人当たり月額利用料)に占めるデータ通信の割合を07年と08年で比較したところ、韓国だけが減っていた。08年の韓国キャリアのデータ通信ARPU比率は17%で、日本の41%はもちろん、北米の25.5%、ドイツの25.3%も下回った。



■世界の潮流から取り残される?


 韓国でモバイルインターネットが普及しない理由について、キャリアや専門家は、有線ブロードバンドインフラが早期に発達しすぎたためと見ている。パソコンからインターネットを利用する習慣が根付いた半面、有線ブロードバンドに比べて速度が遅く画面も小さいモバイルインターネットは多くの人から敬遠された。その結果、世界のモバイルコンテンツ市場が年平均30%以上成長しているのに対し、韓国ではゲームを除けば06年から足踏み状態となっている。


 さらにメリルリンチの調査によると、韓国のモバイルインターネット料金は対象15カ国の中でもっとも高いという。日本は携帯電話利用者の4割がパケット定額制に加入しているが、韓国ではまだ10%にも満たない。プランの仕組みも日本のような使い放題ではなく、1GBまでいくら、5GBまでいくら、といった定量制になっている。


 この報告書が引き金になり、韓国政府はキャリアに対して命令に近いかたちで料金値下げを要求し始めた。日本でも一時期「パケ死」という言葉があったが、韓国ではいまだに100~300円のコンテンツをダウンロードするのにその倍以上のパケット通信料がかかる。世界の携帯電話人口が40億人を超え、インターネット接続端末がパソコンからスマートフォンへ移行するなかで、政府には「韓国だけが世界に取り残されるかもしれない」という危機感がある。



■日本を参考にデータARPUを40%に引き上げ


 3月にまとめたモバイルインターネット活性化計画は、日本を優秀事例として参考にし、使い放題のパケット定額導入などによるデータ通信料金引き下げ、キャリアとコンテンツプロバイダーの不公正契約改善を通じたモバイルコンテンツ流通の環境改善、ユーザー中心のサービス環境造成などの施策を盛り込んだ。


 具体的には、13年までに携帯キャリアのデータ通信ARPUの割合を40%まで引き上げ、モバイルコンテンツの市場規模を1兆ウォン(約830億円)から3兆ウォンへ拡大するという。さらにキャリアとコンテンツプロバイダーによる収益配分ガイドラインの策定、排他的行為の禁止、ネットワーク開放もこの計画の重要な部分である。


 これまでは料金回収手数料の基準がなく、キャリアの言い値が手数料だった。このため、コンテンツプロバイダーがキャリアに支払う手数料は30~40%に上ることもある。さらに、勝手サイトが存在できないように、キャリアは契約した公式サイトやポータルサイトだけにアクセスできるようネットワークを閉鎖している。政府はこれらの不公正な取引を改善すれば目標達成は可能で、コンテンツ産業の海外進出も活発になると見込んでいる。


 モバイルインターネット活性化計画の策定には、放送通信部だけでなく文化部、行政安全部も参加している。ネットワークとコンテンツ、セキュリティー面の支援を一体で推進していくという考えからだ。モバイルインターネットを活性化させることで、「モバイル電子政府」の早期提供につなげるとともに、セキュリティー対策も固定通信と携帯電話の融合を見据えて検討しようとしている。





LGテレコムの料金プラン「OZ」のプロモーション風景


■SKテレコム、KTの動向がカギに


 通信キャリアのなかでは、加入者シェア最下位のLGテレコムが値下げに積極的だった。08年に「OZ」というブランドで開始した料金プランは月6000ウォン(約500円)で1GBまで利用できる。他のキャリアに比べると4分の1ほどの水準である。LGテレコムはネットワークも開放し、ポータルサイトやコミュニティーサイトなどに携帯電話から自由にアクセスできるようにした。


 このLGテレコムの攻勢と政府の圧力で、携帯シェア1位、2位のSKテレコム、KTがどこまで料金制度の見直しに動くかが今後のポイントだ。


 韓国の通信業界はKTとKTF、SKテレコムとSKブロードバンド、LGテレコムとLG DACOMが統合するなど、有無線通信会社の再編が進んだ。これにより現在は、携帯電話、ブロードバンド、無線LAN、IPTV、VoIP、固定電話といった通信サービスを同じ会社で複数加入すると基本料金が50%まで安くなるといった「バンドル割引」競争が激しくなっている。


 11年には固定で1Gbps、モバイルでは100Mbpsの速度でネットにつながる4Gの標準化が予定されている。韓国の携帯電話ベンダー、サムスン電子とLGエレクトロニクスはすでにスマートフォンのラインアップを重視している。行政はもちろん、金融、ヘルスケア、教育などあらゆる産業もモバイルインターネットによるサービス展開を見込んでいる。


 政府の圧力による値下げが最善の解決策とは思えないが、お膳立てはそろった。韓国が過去の「ブロードバンド大国」「IT強国」で終わってしまわないために、安く速く安心できるモバイルインターネットの登場が待ち望まれる。


– 趙 章恩  

NIKKEI NET  
インターネット:連載・コラム  
[2009年10月28日]
Original Source (NIKKEI NET)
[
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000028102009