[日本と韓国の交差点] 北朝鮮による延坪島砲撃:私が見た仁川の光景(後編)

韓国に生まれたことを後悔させないで

前回から続く


 北朝鮮の延坪島攻撃で、海兵隊の若い兵士17人が負傷した。そして、徴兵で軍に入ったばかりの2等兵が1人、徴兵を満了し除隊するまであと1カ月だった兵長が1人、戦死した。亡くなるのはいつも、徴兵で入隊した20歳そこそこの青年である。


 海兵隊の工事現場で5カ月も家族の元を離れて働いていた民間人も2人亡くなった。12月2日には工事を終えて、郷里に帰るはずだった。「砲弾の音が聞こえるけど大丈夫」という電話が最後だったという。「犠牲者は砲弾の破片によって出血多量で亡くなった」という発表に、砲撃のすごさを知った。民間人の犠牲者は遺体の損傷が激しくDNA鑑定する予定だという。


 住民が撮影した写真や動画が次々にネット上に公開されている。砲撃を受けている真っ最中の軍部隊の様子も公開された。自分の国でこんなことが起きるなんて、怖い。悲しすぎる。



避難した住民を出迎えたのは報道陣だった



 延坪島は漁業の島で、今はちょうどカニのシーズンである。しかし、ブログには「砲撃が止んだとしても怖くてもう延坪島には戻れない」という住民の声が並んでいる。知人からも「村の修復にも時間がかかるだろうが、いつまた北朝鮮が砲撃してくるか分からないあの島ではもう怖くて住めない」といった話が伝わってくる。住民らは当然のことであるが移住を求めている。島から逃げてきた避難民の保護、生業を失った漁民の生活対策も大問題になっている。


 状況も把握できないまま防空壕で一夜を明かした島民に対して、これといった対策はなかった。あれだけ北朝鮮の陣地から近く、海上での軍事衝突を経験していながら、延坪島には防空壕があるだけで防空壕の中には非常食糧も水も電気も何もなかった。一睡もできなかった住民らは、砲撃の翌朝、漁船に乗って陸である仁川へ逃げてきた。


 島から避難するためには船が必要だ。海洋警察の船が迎えに来るのを待てない住民を、民間の連絡船が運んだ。この騒ぎの中でもしっかり有料だった。命がらがら逃げてきた住民を迎えたのは取材陣であった。



「これからどうすればいいのか?」 島の住民に対するケアは準備されていなかった



 6時間かけて陸に到着した延坪島住民に、健康診断はもちろん、食事すら提供されることはなかった。自治体の役人(延坪島がある仁川オンジン郡庁)はとにかく「親戚の家に行くか、近くのチムジルバン(韓国の健康ランド)に行け」と言うばかりだった。チムジルバンの大広間に何百人かの住民を収容しただけで、何があったのか、これからどうすればいいのか、を説明することもなかった。


 しかも、このチムジルバンの場所と毎日の食事ですら、政府が用意したのではない。チムジルバンの社長が好意で提供したものだった。政府は11月30日時点で、個人の好意に甘え、島の住民をここに置き去りにしているのだ。こんな状態でありながら、国会では11月26日、歳費の5%値上げを議決している。政府よりもチムジルバン社長の方が頼りになる今のこの事態を、どう受け止めたらいいのか。


 砲声や煙で耳鳴りがしてのども痛いという人が多いのに、政府も郡庁もこれといった処置を取らなかった。子供の学校はどうすればいいのか? これからどこに住めばいいのか? 生業はどうなるのか? 郡庁の役人は何の答も持っていなかった。


 北から攻撃があった場合に住民をどう避難させ、生活をどう支援するのか――というシナリオが全くなかったということなのか? 疑問だ。砲撃から1週間以上が経過してやっと、政府は被害救済特別法の制定を検討、医療費や生計費支援のための特別予算を組んだ。郡庁は11月30日に、ようやく慰労金――中学生以上1人100万ウォン(約8万円)、小学生以下50万ウォン(約4万円)――を支給し始めた。移住計画や住民の今後の生活については、まだこれといった結論がなく話し合いが続いている。


 住民の心配はもう一つある。住民たちは、ペットや家畜を残したまま避難した。水もなく餌もないまま、飼い主の帰りを待っている。住民はこうした動物たちの命も助けてほしいと願っているが、放置されたままだという。ある市民団体が郡庁に問い合わせたところ、「担当部署がない」との回答だった。


 延坪島は韓国民の盾となって犠牲になった島である。物質的な被害も大きいが、それよりも心理的被害は計り知れない。この騒ぎの中で人間の命が優先されるのは当たり前だが、住民の心理的被害を最小限にするために、島に残されたペットや家畜の命も守ってほしい。
 少しでも早く普通の生活に戻れるよう、移住対策や生活支援をしてほしい。



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By 趙 章恩

2010年12月3日


-Original column
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101201/217355/