韓国最大SNS「Cyworld」の3D仮想社会、サービス前から不安

人口4800万人の韓国で2300万人の会員を持つSNS「Cyworld」がセカンドライフのように3D仮想社会「ミニワールド」サービスを2008年6月より開始する。Cyworldの仮想社会は2007年下半期から出る出ると言われ続けていたので、ネットでの反応は「ついに来るべきものが来た」、「これでCyworldも最終戦となった」といった感じだ。Cyworldが歳月をかけて準備した野心作であるにも関わらず、「ミニワールド」に対して「過去の栄光を取り戻すのは難しいだろう」と否定的な書き込みばかり。

 Cyworldを運営するSKコミュニケーションズは韓国最大移動通信キャリアSKテレコムの子会社である。そのためパソコンだけでなく携帯電話からもらくらく利用できるサービスを特技としていた。Cyworldも電話をかけるように自分のHOMPY(Cyworld内の自分のホームページ)の番号を入力して通話ボタンを押すだけで利用できるのが魅力だった。しかし飛ぶ鳥も落とす勢いだったCyworldも2005年をピークに下り坂、株価は2008年1月までも1株3万ウォン台だったのに5月には1万5千ウォンと半分に折れてしまった。


 2008年1~3月は営業利益が前年同期比196%減少した42億8200万ウォンの赤字となった。純利益も5億ウォン赤字となった。訪問者数も2007年1月と2008年5月を比べると10%ほど落ちていて、PVは他のポータルサイトより断然多いといっても30%以上落ちている。会員が2300万人もいるからにはこれ以上の会員増加は難しい。


 SKコミュニケーションズの現状は、負のスパイラルを描いている。Cyworldの売上が落ちる一方なので、検索ポータルサイトを買収してバナー広告を追加したら、コミュニティサービスというよりありきたりのポータルサイトになってしまった。今度は逆に訪問者数も売上も落ちて苦戦中。そこでSKコミュニケーションズは新しい切り口としてセカンドライフのような3DSNS「ミニライフ」を提供しようとしている。赤字の理由としてSKコミュニケーションズはミニライフへの投資をあげ、サービスが始まれば問題ないとしているが、どうだろう。


 日本のmixi疲れと同じように韓国でもネットワーク疲労からCyworld離れが始まっていて、友達を管理しなくてはならないSNSよりも、一人で日記を書いたり写真を保存できるBlogにユーザーの利用は移っている。クリスマスや年賀状代わりにCyworldのHOMPYに挨拶を残したり、芸能人のHOMPYに載せられた写真をみるためにアクセスするといったことはまだ続いているが、学生の間では「まだCyworldやってるの?」といわれるほど注目度は落ちている。


 そのような状況の中で登場したミニライフはCyworldが持つアバターの着せ替えや部屋を飾るといった遊びの部分を最大限いかしながら、チャット機能を強化し、ユーザーとユーザーのつながりももっと密接になるサービスなるそうだ。が、セカンドライフとの違いがよく分からない。唯一違うのはセカンドライフのようにプログラムをインストールすることなくWebからActiveXでいくつかの機能をダウンロードすればすいすい使えるというところだ。でもミニライフに登場するアバターは今までCyworldに登場していたかわいいキャラクターではなく妙に欧米っぽいアニメキャラになっていてなじめない。


 SKコミュニケーションズはセカンドライフやフェイスブックなど海外SNSの韓国サービスが増えていることをそれほど気にしていない様子だ。韓国人の文化や情緒を理解できないグローバルサービスは韓国でヒットしにくいという前例をたくさん見てきたからだ。だからセカンドライフよりはミニライフを利用してくれるだろうという計算なのだろうか。ビジネスモデルは広告と有料アイテム販売の混合でアバターの部屋の中にサムスンのテレビにLGの冷蔵庫を置くといった感じの広告モデルを考えている。派手なグラフィックのオンラインゲームに慣れ親しんでいる韓国ユーザーには受け入れがたいサービスとして利用者が伸びないセカンドライフだが、企業はどんどん広告を出している。家電、携帯電話、化粧品、食品など色んな業種の大手企業が次々にセカンドライフの中にブランドショップを作ることがステータスみたいになっていることから、ミニライフのユーザーがそれほど増えなくても企業の色んな広告を誘致できると見込んでいるのかもしれない。ミニライフは現在50万人のテスターによるクローズドテスト中で、6月中に商用化される。


 しかし3D SNSはCyworldだけではなかった。より精密なアバターを再現した「NURIEN」や、UCCといってユーザーが製作した動画を投稿して遊ぶコミュニティサイトを中心にユーザーが動画+3Dでコンテンツを作れるようにし、それを投稿してコメントをつけて遊ぶ「kloseup」、「zeb」などいくつものサービスが登場している。これらのサイトは始まったばかりでユーザーの反応はまだ届かないが、毎日のように3Dサービスが登場したという記事をみると、これからのWebはコミュニティも検索も3Dに変わっていくようだ。3Dになった車のナビゲーションさえ見辛くて方向がわからなくなってしまう私みたいな人には嬉しくないが、3Dにすると色々と広告を誘致しやすくなるからもしれない。ところで、セカンドライフに広告を出している企業は効果があったのだろうか?去年まではセカンドライフにショップを作った、というだけで話題になってたけど、この頃はすっかりそういうニュースも聞かなくなったし。気になるので自分で調べてみることにするか。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年5月28日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080528/1003567/