T-OMNIA、不況下に携帯電話の価格が史上最高額更新ってどういうこと?

日本も韓国も、世界中が不況だ不況だと嘆いているこの時期に、韓国ではサムスン電子の携帯電話新機種が史上最高額を更新した。

 その主人公はサムスン電子のT-OMNIA。 4GBが96万8000ウォン(約6万4000円)、16GBが106万8100ウォン(約7万1000円)という低価格ミニノート(ネットブック)よりも高い価格設定!T-OMNIAはサムスン電子、韓国の最大手キャリアであるSKテレコム、そしてマイクロソフトが提携してこの世に送り出したスマートフォンの最高傑作、という広告通り、発売初日から予約なしでは手に入らないすごい勢いで売れていった。OMNIAとはラテン語で「Everything」という意味で、TはSKテレコムがキャンペーンを行っている3Gのブランド「T life」を合わせてT-OMNIAにした。





3.3インチの液晶にWindows Mobile 6.1搭載、50種類のウィジェット、動画再生にナビゲーションにパソコンのような文書作成なども楽にできる。韓国最大ソーシャルネットワークサイトのCyworldがSKテレコムの子会社であるだけに、T-OMNIA向けCyworldも提供している。7.2Mbpsの3GとWi-Fiが使え、衛星DMB(モバイル衛星放送)、GPSも搭載している。携帯電話で撮った写真を無線でテレビに送信して表示できる機能、なんていうのもついている。

 100万ウォンというと、中小企業に勤める新卒社員の1カ月給料が100万~150万ウォンなので、その全額もしくは3分の2に当たる金額だ。韓国統計庁のデータによると、2008年4~6月期の30代共働き夫婦の月間所得は246万9000ウォンに過ぎない。


 一体誰がこんな高い端末を買っているんだろうか。ちなみに、韓国のマクドナルドやコンビニの時給は3770~5000ウォンなので日本円で約226~320円、最低賃金ぎりぎりしかもらえない。韓国にフリーターという職種が存在しないのも納得できるだろう。時給5000ウォンで生活もして、なお100万ウォンの携帯電話を買って電話料金も払って、なんていうことは到底できない。それにもかかわらず、メーカーは80万ウォン、90万ウォン、100万ウォンとどんどん端末の値段を吊り上げているのはどうしてなんだろう。


 不況だからこそ、ある程度所得に余裕があって消費ができる裕福層向けの製品に集中するしかないという戦略なのかもしれない。BMWのNEW7シリーズを購入するとT-OMNIAがついてくる裕福層を狙ったマーケティングをしているのを見ると、不況下のメーカーは、誰にでも好かれる安い商品よりも、お金を持っている人に好かれる商品を作るべきなのかもしれない。またこの頃の新機種はほとんどがスマートフォン。そのために携帯電話の値段が高くなったこともあるのだが、これも不況と関係があるそうだ。


 欧米ではリストラが進み所得が減ったビジネスマンたちが、インターネット接続料にパソコンに固定電話にと、色々使っていたのを全部やめて、スマートフォン1台だけにしているという。だから、不況下こそスマートフォンが売れるのだとか。本当だろうか?欧米ではiPhone 3Gにしたって安いから売れているんじゃないか!韓国ほど高くないぞ!と突っ込まずにいられない。


 もちろん、番号移動制度を利用してキャリアを変え、機種変更すると補助金がもらえるので、100万ウォンの端末でも70万ウォンぐらいで購入できる方法もある。でもまだまだ高い。ちょっと不便でもスマートフォンよりネットブックを買ってWibro(モバイルWiMAX)に加入し、インターネット使ってスカイプで通話すれば、もっと安く済ませられる。


 しかし、SKテレコムによると、10月に売れた端末の25.9%が60万~90万ウォンのスマートフォンだったという。サムスン電子のHapticフォンやパンテックのプレストフォンも液晶がとてもきれいで使い勝手のよいスマートフォン、なかなかのものだ。実物を見ると、ちょっと無理をしてでも買ってしまいたくなる。


 大学生の中ではT-OMNIAを買ってノートパソコンやネットブックの代わりにするという使い方もあるようだが、韓国でいよいよ!そろそろ!と何度も噂されているiPhone 3Gが発売されれば、T-OMNIAの運命も変わるかも、なんていじわるなことを考えてしまった。iPhone3Gが韓国で発売されれば携帯電話の端末も安くなるだろうに。まだかな~まだかな~。



(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年12月10日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20081210/1010430/