韓国版WiMAX,最後の賭けに出る,音声通話サービスの成否が命運握る

日経エレクトロニクス2009年10月19日号


ワールド・レポート

韓国版WiMAX,最後の賭けに出る,音声通話サービスの成否が命運握る



趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


 2009年9月3日,李明博政府初のIT戦略である「ITコリア5大未来戦略」が発表された。「韓国の全産業の競争力はIT(情報技術)の力にある」(李大統領)とし,IT産業そのものを支援すると同時に,他の産業とITの融合などを支援していく。これによって,自動車,造船に続いて国内生産で1兆ウォン(1ウォン=約0.07円で700億円)を超える産業を10部門以上に増やすのが目標である。政府はこのIT戦略によって,韓国の潜在成長率が0.5%上昇すると見込んでいる。


 具体的には,「既存産業とITの融合」「主力IT関連産業(半導体,ディスプレイ,携帯電話機)」「ソフトウエア」「放送通信(WiBro,IPTV)」「Gビット高速インターネット」の5大部門を強化する。これらにおいて,装置の国産化や世界市場シェアの増加などを支援していく。2013年までに,政府が14兆1000億ウォン(約9900億円)を,民間が175兆2000億ウォン(約12兆2600億円)を投資する。


 この戦略を推し進める司令塔として,李政府は2009年下半期に大統領直属の「IT特別補佐官」を新設した。同政府は2008年,IT産業の振興ではなく,すべての産業をITと融合して発展させるとして,それまでIT政策を担当していた情報通信部を廃止している。


加入者はわずか23万人


 今回のIT戦略の中で,大きな注目を集めているのが「WiBro」である。WiBroは,WiMAX(IEEE802.16)規格をベースに,韓国の ETRI(電子通信研究院)らが中心となって独自に拡張した無線通信規格である。料金が高い3Gのモバイル・インターネットに代わる,安価で,かつ時速 100kmで移動しながらでも使える高速インターネット・サービスとして,政府の肝いりで開発が進められた。商用化は2006年6月と,WiMAX関連のサービスでは世界で最も開始が早かった。WiBroを内蔵し,全国各地に設置したカメラによる道路のリアルタイム映像を確認できるPNDが登場するなど,新たな市場の形成に向けて期待も大きかった





WiBroへの期待は大きいが…





『日経エレクトロニクス』2009年10月19日号より一部掲載


続きは日経エレクトロニクス(2009年10月19日号)で

WiMaxの普及を目指し100円ネットブックが登場

 2009年1~3月に韓国で販売されたミニノートパソコンは11万台。シェア1位はサムスン電子の5万台。以下、LG電子が2万7000台、アスーステック・コンピューター(ASUS)の1万4000台と続く(ちなみに、「ネットブック」という単語は商標権があるため使えないそうだ。韓国ではメーカーもマスコミもネットブックではなく「ミニノートブック」と表記している。韓国経済新聞の記事によるとノートブックという単語は1988年に東芝が初めて使ったけど、商標権を主張せず全世界で誰でも自由に使えるようにしたのだとか)。


 サムスン電子は、他のメーカーより遅れて2008年9月に初めてミニノートパソコン「NC10」の販売を始めた。そして、2009年4月に深沢直人のデザインした小石のように丸くてやわらかい素材のミニノートパソコン「N310」をヒットさせた。レッドオレンジ、トルコブルーといった鮮やかなカラーも人気の秘訣。10.1型の液晶ディスプレイに標準バッテリー装着で1.23Kg、動作時間は最大4時間。大容量バッテリーを使えば11時間も使用できる。価格は90万ウォン台と、ASUSのおよそ2倍なのでミニノートにしては高い。


 サムスン電子の携帯電話やテレビは世界市場でよく売れているが、ノートパソコンは正直サムスンというブランド力の割には売れていない。サムスン製ノートパソコンの世界市場における販売台数は2008年で200万台ほど。ミニノートの人気を背景に2009年は2倍以上の500万台を目指している。この目標を達成できれば、グローバルなノートパソコン市場で7~8位ぐらいになるはずだ。


 不景気で高機能ノートパソコンが売れなくなった分を、ミニノートパソコンが埋めている。そのため、メーカーにとってはミニノートパソコンが何よりも大事な主力商品となりつつある。従って、広告やキャンペーンにも力が入る。ブロガー向け体験イベントや動画投稿サイトを利用した宣伝も増えてきた。


 さらに、韓国版モバイルWiMax「WiBro」(関連記事)の活性化計画の一つとして、WiBroに加入すると補助金でミニノートパソコンが半額近く値引きされる。その結果、家電量販店だけでなく、キャリアの代理店でもミニノートパソコンが購入できるようになった。パソコンメーカーの立場からすると、キャリアが一括して買い上げてくれるので、一気にまとまった台数を販売できる、この上なくうれしいニュースである。

WiBroの事業者KTは、月50GBまで利用できるWiBro無制限50に月2万7000ウォン(約2100円)で24カ月間利用する契約で、同時にミニノートパソコンを購入すると、毎月1万ウォンずつ、合計24万ウォンの補助金を支給する。KTは2008年6月よりパソコンメーカー7社と契約し、WiBro+ミニノートパソコンで10万~20万ウォンの補助金をつけている。


 韓国では2002年末からキャリアが加入者へ携帯電話端末価格を割り引く端末購入補助金が禁じられていたが、2008年に復活した。その一環として、WiBroに一定期間加入すればミニノートパソコンにも補助金をつけられるようになった。KTの場合、補助金をつけ始めてから、WiBroへの加入が月1万人のペースで増えているという。WiBro事業者であるSKテレコムもやはり、パソコンメーカーとの提携を進めている。2009年はWiBro補助金によるミニノートパソコン販売が全体の3~4割を占めると予想されている。


 最も安いミニノートパソコンが40万ウォン台なので、24カ月間WiBroを使えばただ同然となるケースもある。割引後の代金を契約期間中、月賦払いにできるので、携帯電話を買うよりも負担が少ない。最近のハイエンド端末は80万ウォン台、補助金に約定加入割引に長期加入割引などを利用しても40万ウォンを下回らないので、ノートパソコンの方が安く手に入れられる。携帯電話からネットにアクセスするより、ミニノートを持ち歩いた方が安くて便利だ。だから韓国では携帯電話のデータ通信売り上げが伸びないのかもしれない。


 ヒューレットパッカード(HP)はWiBro補助金に合わせて、アメリカで299ドルの「Mini 110」シリーズを韓国でさらに安く販売できるようKTと提携を打診している。韓国HPは「通信会社はこのごろ、スマートフォンの販売に力を入れてきたが、スマートフォンは値段が高すぎる。ミニノートパソコンは補助金で学生でも気軽に購入できるようになる」「スマートフォンとミニノートパソコンは用途が違うので、スマートフォンがパソコンに代わるとはいえない」「韓国はインターネットの利用率が高く、ミニノートパソコンの興味を持つユーザーが多いので、補助金がもらえるとなれば早期拡大が期待される」と通信会社との提携に積極的だ。


 ASUSのEeePCの発売をきっかけに火がついた韓国のミニノートパソコン市場は、サムスンのデザインを強化したミニノートの登場とWiBro補助金でさらに盛り上がっている。WiBroも利用できる地域が広くなった分、2009年はWiBro加入者も増やしてミニノートパソコンも売るWin-Winを目指す。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年6月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090611/1015928/

韓国版モバイルWiMax、ユーザー急増の理由はやっぱりあれ

 この5月に韓国を訪問する人にぜひ利用してほしい無料サービスがある。韓国KTが5月1日から韓国仁川国際空港より入国する外国人を対象に無料で貸し出しているWibro(モバイルWiMax)が使えるUSBモデムだ。


 ノートパソコンに差し込んで使う外付けモデムで、ノートパソコンを持参していけばソウル市内ほぼ全域でブロードバンドをタダで利用できる。USBモデムのレンタル料はもちろん、通信料も込みで全て5月の1カ月間は無料だ。仁川空港の1階KTブースで貸し出し中。保証金として50ドル預かるが、端末を返却すると保証金は全額返してもらえる。6月からは有料化される予定で外国人観光客向けに1日5000ウォン(約500円)で貸し出すというが、それでもモデムはもちろんノートパソコンまで含めて貸し出した上にブロードバンドも使い放題でこの値段はお得だろう。旅行中でもインターネットが使えると色々検索できるし何かと便利なのは間違いない。


 Wibroは2006年6月に世界で初めて韓国が商用化したモバイルWiMaxのサービスである。2008年4月末時点ではまだソウルと首都圏の一部でしか利用できないため通信エリアは狭いが、地下鉄の中やバスで移動しながらも途切れることなくすいすいインターネットが利用できるのが特徴だ。実測で平均下り3Mbps、上り1.2Mbpsなので携帯電話からアクセスするよりも断然速い。


 モバイルWiMaxはこれから日本やアメリカでもサービスが始まるため、世界中から注目されているサービスである。韓国でも順調に伸びていたわけではない。商用化したのはいいが、加入者が伸びるわけでもなくサービスエリアが拡大されるわけでもなく、なんとなくほったらかし状態だったのだが、2007年6月頃から急激に加入者が増加している。2007年4月より通信エリアがソウル全域に広がったことも影響してはいるが、何よりもKTが太っ腹のプロモーション料金を打ち出したことにあるとみえる。


 その内容は、1万6000円相当のUSBモデムを無料贈呈、加入料免除、利用料は1~3カ月無料というもの。しかも無料お試し期間が終わった後も交渉次第で無料期間を延長してくれたというBlogの書き込みが絶えず、無料のうちに加入してしまえという雰囲気になってきた。5月末までに加入した人には、インターネット使い放題の月1万9800ウォン(約2000円)のコースを申し込むと、KTの無線LANをおまけにつけてくれるので、Wibroが使えない地域では無線LANでアクセスできる。1カ月に1000MBまで利用できる従量制のコースは月1万ウォン(約1050円)で、超過分はMB当たり25ウォンだ。


 商用化から2年近く経った2008年3月末時点での加入者はまだ14万5千人に過ぎないが、2008年の加入者目標は40万人だ。その後はもっと加入者数が増えて、これからは携帯電話のパケット通信や3Gより値段も安くて速度も速いWibroがインターネットの中心になるだろうといわれている。サービスエリアが広がれば、家の中にいても外にいてもWibro一つで途切れずインターネットが使えるので、家ではxDSL、外では無線LANに携帯電話と通信費を何重に払わなくても済む。それにWibroを利用してモバイルVoIPを利用できるとなれば、携帯電話もいらなくなる。モバイルVoIPについては携帯電話キャリアの反発も大きく、国としても認可する予定は当分ないのだが、技術的には今すぐにだってできてしまう。


 KTは2008年にWibroに約120億円を追加投資する計画だという。速度を2倍速くしたWibro Wave2も開発は終わり現場テスト段階なので、首都圏全域をフルカバーできるようサービスエリアの拡大に集中する。日本やアメリカでも始まるモバイルWiMaxサービスを韓国で一足先に体験できるチャンスを逃すのは惜しい。季節的にも5月はイベントも多く清々しい気候から観光しやすい時期でもあるのでぜひ韓国ソウルを訪問してもらいたい。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2008年5月14日 

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20080507/1001984/