ミュージシャンに甘くささやき、1位の座を獲得したYouTubeの戦略

 ポータルサイトはNAVER・DAUM・NATE、オンラインゲームはNCソフト・NEXON・Hangame・Netmarble・NEOWIZ、動画はPandoraTV・MGOON・TVPot、というようにブロードバンドが普及してから今日まで、どの分野でも韓国系のサイトが圧倒的なシェアを誇っている。GoogleやYahoo!が韓国では、苦戦しているというのは有名な話である。


 そんな韓国で異変が起きた。韓国のPandoraTVを押しのけ2009年9月、ついにYouTubeが動画サイト月間訪問者数1位になったのだ。韓国に進出して既に1年8カ月が経過している。


 これは実名制度のおかげともいえる。本人確認のために住民登録番号や個人情報を書き込ませることにYouTubeが反対し、韓国のネットユーザーの多くが実名制度を実施するサイトを捨ててYouTubeに引っ越してきたのだ。本人確認をしないことから、GoogleやGmailの利用も少しずつではあるが増えている。


 韓国インターネット振興院の調査によると、3歳以上のネットユーザーの77.2%が1日1回以上ネットを使い(主にパソコン)、48.3%が週14時間以上ネットを使っているという(週平均利用時間は13.9時間)。GoogleはYouTubeを前面に出して、ネット利用時間が長く動画投稿に熱心な韓国のネットユーザーとのつながりを確固たるものにしたいようだ。


 今まで海外サイトが人気のなかった理由は、韓国ネットユーザーのコロコロ変わる趣向についていけなかったからである。本社の認証を得てサイトをリニューアルした頃にはもうブームは終わってしまう。かゆいところに手が届くというか、瞬時に今流行っていることをキャッチしてメニュー化し反映させられる韓国系サイトに当然、利用者が集まる。


 YouTubeは韓国のかゆいところはどこかを探した。答えは、海外進出である。

少ない人口を相手する内需だけでは食べていけない。何でも海外進出して市場を拡大させないといけない。YouTubeは、「YouTube Music Day」を開催し、韓国のミュージシャンが海外進出できるよう支援する計画を発表した。

 30社ほどの韓国アルバム制作会社が集まった中、YouTubeの動画がきっかけとなってスターになったギターリストや歌手の事例が発表され、音楽マーケティングのトレンド、動画広告やアルバム販売による収益配分システムが紹介された。お金がかかるマーケティングができない新人や韓国ではあまり注目されないインディー系には嬉しい話である。


 フィンガープリンティングを利用して著作権のある音源や動画の場合は即時見つけて削除するか広告を付けて収益を分けることができる、再編集されたものでも見つけられる、といった著作権保護に関する説明もされた。


 YouTubeユーザーの20%が音楽目当てで、YouTubeの滞在時間も1日平均28.1分という数字も公開された。18~24歳の間では、世界で有名な音楽専門チャンネル「MTV」よりも YouTubeの方が利用されている、音楽チャンネルだけで4万4千件あり、音楽カテゴリーは13もある、YouTubeを使えば世界とつながる無限の可能性がある、という説明が続いた。


 世界中でオーディション動画を集めて行われたYouTubeオーケストラ、世界のユーザーが「Stand By Me」を歌う動画を投稿し、それをミックスして一つの歌にした「Stand By Me, Playing For Change, Song Around the World」など、YouTubeと音楽はとても密接な関係にあるのは確かだ。


 当たり前なことではあるが、YouTubeは世界中のミュージシャン達に甘く囁きかけていることだろう。それでも各種規制によりネットのガラパゴスが懸念されている韓国で、YouTubeをきっかけに海外とつながりを持つことがネットサービスや音楽産業の新しい風になってくれることを期待したい。


(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年10月14日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20091014/1019478/

韓国で実名制度拒否したYouTube、果敢(?)な選択にユーザー増加

YouTubeは2009年4月9日より、国家設定を「韓国」にした場合、動画のアップロードとコメントの書き込みができないように制限した。これは4月1日から強化された韓国の本人確認制度を実施せず、匿名のまま利用させるためである。

 法律の改定により、1日訪問者数30万人以上のサイトだけに義務化されていた住民登録番号による本人確認を10万人以上のサイトにも適用することになり、YouTubeも韓国でサービスを続けるためには本人を確認しないといけなくなった。今回の制度改正は、1日平均訪問者数10万人を超えるサイトでは、本人を確認しない限り書き込みをさせてはならない。サイト上で誰が何をしているかを運営者が突き止められるようにして、セキュリティを強化するというものなのだ。


 YouTubeのサイトには案内が掲載され、運営会社のグーグルコリアは「表現の自由に対する権利が優先されたらいいなという考え方を持っている」、「ユーザーが望むならば、匿名性が持つ権利は表現の自由において重要であると信じているため」、韓国政府の本人確認制度、いわば実名制度には従えないという立場を明らかにした。ネットユーザーの間では、「信念を貫くとはかっこいい~」とグーグルを見直したという意見が圧倒的に多かった。


 YouTubeは国家設定を韓国にすると動画を観るだけ、アップロードやコメントは残せないということだが、韓国からアクセスしても、国家設定を韓国以外にしてしまえばアップロードもコメントも残せる。これっていいのか?サイトを閉鎖するわけでもなく国家設定だけ変えれば、韓国の法律の取り締まりの対象にならないなんてあり?

本人各制度を守らないと3000万ウォンの過怠料を払わないといけないが、放送通信委員会の検討結果、YouTubeは動画もコメントも書き込みの機能がないので、法律を守らなくても構わないサイトに分類された。匿名のままサービスを続け、過怠料は払わなくて済むようになったのだ。お見事!としか言いようがない。


 韓国政府はもちろんご立腹。国会ではグーグルコリアは損得を計算した結果として韓国の法律を守らないだけなのに、まるで韓国政府がとんでもないネットの検閲や実名確認を強要していて、グーグルが正義の味方となり表現の自由を守るため突っぱねた、という具合に利用していると、本人確認制度を進めた与党議員らが大騒ぎ。通信政策を担当する放送通信委員会の委員長までも、「グーグルコリアが本人確認制度を守らない真意は何なのか、遺憾に思っていることをどこかで表明したい」とコメントした。


 大統領官邸である青瓦台の職員が自分のブログを通じて「グーグルは中国に進出するためには自己検閲までした。他の動画投稿サイトはみんな韓国の法律を守っているのに、韓国で正式サービスを始めたグーグルコリアだけが、自分の立場によって法律を拒否するのは間違っている」、「YouTubeは世界的に有名だけど、韓国では競争力のないサイト」といった内容を書き込んだ。この人の言い分も一理ある。表現の自由を守るためとは言っても、グーグルコリアは法律を守らずサービスするため、抜け道をうまく利用したのだから。法律をちゃんと守っているサイトだって、抜け道を知らなくて守っているわけではないはずだし。


 しかし、これはまた別の論争を巻き起こした。この人はαブロガーとして活躍しているネット上の有名人だが、青瓦台の職員であるということはブログに書かれていなかったため(他のブロガー達によって判明)、政府に傾いた世論を作ろうとそういう書き込みをしたのではないかと疑われいるのだ。政府の職員が政府と対立している企業を一方的に非難する書き込みをするのはフェアじゃないとするブロガーと、個人的な意見なんだからいいじゃないかという擁護するブロガーが対立し、あちこちでブログが炎上している。


 この騒ぎの中、YouTubeのアクセスはうなぎのぼり。2008年4月830万ほどだったページビューは2009年4月1300万に急増した。今まで人気の高かった韓国の動画投稿サイトのページビューはどんどん減り、YouTubeはどんどん伸びている。


 ネットユーザーを予備犯罪者扱いする韓国サイトよりは、自由に動画を投稿できて、匿名でコメントも残せるYouTubeやグーグルを利用したい気持ちは分かる。YahooやGoogleよりもNAVER、DAUMといった韓国産サイトが圧倒的な人気を誇っていた韓国。YouTubeの本人確認制度拒否によって、その利用傾向に異変が起こるのだろうか。他の海外サイトの韓国法人はどのように対応するのか、それも楽しみである。

(趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2009年4月15日

-Original column

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20090415/1014291/