韓国デジタル教科書事情(4)~「サイバー家庭学習」で、自主的な学習習慣を付ける

韓国がデジタル教科書実証実験を始めたのは2007年。それまでに15年近く、デジタル教科書のための教育情報化システムを整え、教師と学生のICT利活用能力を高め、教師の研修を義務化して定期的に行ってきたことを前編で紹介した。今回は、「デジタル教科書」と両輪で子ども達の学習を支える「サイバー家庭学習」のシステムを紹介する。

 韓国政府は所得や地域の格差なく公平に、誰でも質の高い教育を受けられるようにと「サイバー家庭学習」を全国16の自治体と一緒に開発し、小中高校生向けに提供してきた。「デジタル教科書」が学校でタッチパネル端末と電子黒板を利用するマルチメディア教材だとすると、「サイバー家庭学習」は家のパソコンから子どもが一人で使う教材と言える。






サイバー家庭学習は自治体ごとにサイトが分かれる。画面はソウル市のサイバー家庭学習サイト



 サイバー家庭学習は小学4年生から高校1年生までを対象に、インターネット経由で教科書の内容を復習したり、問題を解いたり、動画を見たりして、子ども達が基礎学力を高められるよう設計されている。国語、社会、数学、科学、英語の5科目を中心に「基本(基礎)」、「理解(普通)」、「深化(優秀)」という3段階のレベルに分けてコンテンツを提供。子ども一人ひとりの利用状況を分析して、どんな問題をよく間違えて、どういうところを補うべきなのかといった学習診断をするのはもちろん、学校の教師がサイバー担任として登場し、質問に答えたり、ビデオチャットで解説したりしてくれる。学校の教師はサイバー上でケアする学生の数や優秀クラス選定などの評価項目に沿って、毎月1~2万円ほどの手当てをもらう。


サイバー家庭学習の目標は、子ども達が自ら勉強する習慣を身に付けること。無料なのでお金がなくて塾に行けない、または農漁村で塾がないので行けないといった格差を感じることなく、インターネットさえつながっていれば利用できるというのが特徴である。2種類あり、各自治体が運営する「サイバー家庭学習」(2004年開始)と、小学生・中学生・高校生・保護者・教師に分けて教育資料と教育情報を提供する「EDUNET」(1996年開始)がある。これらのサービスはスマートフォンからも使える。








サイバー家庭学習はスマートフォン向けアプリケーションとしても提供されている。利用料はPC向けと同じく無料。スマートフォン向け表示の例







スマートフォン向け表示の例2。利用料はPC向けと同じく無料




子ども達の自主的な学習習慣を支援



 デジタル教科書は、教科書にいろんな参考資料をリンクさせることで、子どもが興味を持って集中できるようにした。さらに、画一的な授業ではなく一人ひとりのレベルに合った学習を可能にするのが特徴の一つであるため、このサイバー家庭学習とは両輪で、同じ目標を共有するシステムであると言える。


 どんなに素晴らしいシステムだとしても、一人で自主的に勉強できる習慣が身に付かない限り、デジタル教科書だけがある日湧いて出たように普及しても学習効果は見込めない。例えば、韓国の大手学習塾がアンケート調査をしたところ、小学生の46%が「勉強の仕方が分からないので塾に行きたい」と答えたそうだ。サイバー家庭学習は、子どもが自らこんな勉強をしてみよう、教科書のこの項目がよく理解できないからこの動画を見てみよう、といった具合に、自主的な学習習慣を支援することで、デジタル教科書との相乗効果を狙う。


 サイバー家庭学習は、韓国教育科学技術部(文部科学省に相当)の資料によると、2010年8月時点で会員数約312万人、サイバー担任約12万人、チューターとして参加する大学生が340人ほどいる。また、このサービスを利用している児童・生徒の81%が、成績が良くなった、勉強が面白くなった、など学習のためになったと答えている。

2009年末時点で家計の教育費を見てみると、サイバー家庭学習を使うことで子ども一人毎月7000円ほど学習塾代を節約できたとしている。大学受験に命がけの教育熱の高い韓国だけに、収入の70~80%を子どもの教育に使う家庭も少なくない。科目ごとに違う塾に通い、英会話やピアノといった習い事まで合わせると教育費だけで毎月子ども一人少なくても8万円はかかるので、10%近い7000円の節約はうれしい。


 韓国はこれら家庭用教育サービスを提供するために2005年から2010年2月まで100億円近い予算を使っている。ここからさらに発展し、ソウルの江南区をはじめ一部区役所は年間3000円ほどで利用できる有料外国語学習サイトや大学受験向けカリスマ講師動画サイトをオープンし、住民に喜ばれている。


 サイバー家庭学習におけるこのような取り組みが評価され、2007年にはUNESCO教育情報化賞、2010年には教育分野の国際機関IMSの Learning Impactで大賞を韓国は受賞している。


 韓国は共働きで両親が家にいない。そのため勉強の面倒を見てやれないので子どもを塾に行かせることも多い。学校では教室にあるIPTVを経由して子ども達が教育アニメを見たり、教科書の内容と関連のある動画を見たりする「放課後教室」も運営する。これには通信事業者も社会貢献活動としてスポンサーとなっている。通信事業者が派遣したボランティアの大学生が放課後教室の先生になったりもする。


 デジタル教科書や教育情報化のために教育科学技術部や通信事業者、IT企業だけががんばっているわけではない。知識経済部(経済産業省に相当)も関連政策を発表している。韓国ではこのような新しい教育サービスに必要なのは「技術よりも制度改善」が合言葉になっている。(次回へ続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月24日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101224/1029343/

スマートグリッドの標準を握れ 世界最大規模の実証実験進む

1

日経エレクトロニクス 2010/12/27号

ワールド・レポート from 韓国
スマートグリッドの標準を握れ 世界最大規模の実証実験進む



趙 章恩(チョウ・チャンウン)
ITジャーナリスト


昔から「風,石,女性」が多い三多島とも呼ばれてきた,朝鮮半島の南に位置する済州(Jeju,チェジュ)道(図1)。韓国でも有数の観光地であるこの島が,2010年11月8~14日の間,スーツに身を包んだ,世界からの訪問客でにぎわった。彼らは米国,日本,中国,インド,ロシア,英国など世界12カ国から訪れた,スマートグリッド関連の政府担当者や企業の代表者たち



続きは日経エレクトロニクス(2010年12月27日号)で

韓国デジタル教科書事情(3)~教科書だけではない、すでに仮想現実の授業も実施

「韓国デジタル教科書事情(2)」から続く)


 韓国の学校では、学校の告知事項も、先生からの宿題も、宿題を提出するのも、テストの成績を確認するのも、全部ネットで行われている。一部学校は保護者向けに教室の様子をネットで配信しているほどだ。透明で公平で「見える教育」にしないといけないという考えと、IT大国らしく、親も子どもも「ネットの方が何かと便利」という考えから生まれたものである。


 環境は整っている。子どもたちは、家に帰ったら自宅のパソコンからネットへアクセスして予習・復習をし、宿題はネット上にある先生のページに登録する。


 デジタル教科書実証実験学校の場合は、デジタル教科書でどんな勉強をして、学生ごとにどんな学習効果を得られたのか、学習過程をすべてネットで公開している。当初、デジタル教科書を使うと紙の教科書よりも目が悪くなるのではないか、電磁波の影響で背が伸びなくなるとか子どもの成長に悪影響を与えるのではないか、インターネットにつながっていないと不安になるネット中毒になってしまうのではないかなど、保護者はいろいろ心配した。しかし学校側が健康診断や心理検査も行い、学習効果を毎日測定して公開した結果、そのような悪影響はないことが判明し、保護者も安心して実証実験を楽しみにするようになった。


 韓国のデジタル教科書はどんな端末からも利用できるマルチメディア教材として開発されている。中身は日本の構想とあまり変わらない。基本的に紙の教科書をデジタル化して、重要なキーワードには動画や画像・アニメ、百科事典などがリンクされている。リンクをクリックするとそのキーワードを分かりやすく説明してくれる参考資料が登場するので、参考書を別途買わなくても教科書の中で全部解決できる。


 韓国では、デジタル教科書を2013年より全国で商用化することを目指している。その前の段階として、2011年から紙の教科書+CD-ROMが配られる。CD-ROMにはデジタル教科書が入っていて、学校の電子黒板や自宅のパソコンで利用できる。


 子ども一人にパソコン1台という状況ではまだないので、電子黒板にデジタル教科書を表示させ、マルチメディアを利用した授業を行う。今までは先生がデジタル教材サイトから動画を検索してオリジナル資料を作成して電子黒板に表示していた。デジタル教科書実証実験学校では、子ども達の理解を高めるためデジタル教科書に追加して、さらに先生と子どもたちが教材サイトで見つけた動画や写真を付け加えて発表したりして面白くインタラクティブに授業をしていた。先生と子どもたちが一緒になってマルチメディアを活用しさらにアレンジしている――。ここが韓国の教室で起こっている、面白いところではないだろうか。

日本では事業仕分けによって揺らいでいる「フューチャースクール」であるが、韓国では持続的に政府が投資している。デジタル教科書に限らず、教室を丸ごとアップグレードし、先端的な教育環境を実現するための投資である。その1つに、「U-class(ユビキタスクラス)」という名前で行われている実験がある。VR(仮想現実)を使う教室のことだ。


 RFIDによる出欠管理、マジックミラー、電子ペン(手書き内容をデータとして保存)、電子黒板、電子教卓、タブレットパソコン、個別学習管理システム、個別コンテンツ管理システム、酸素発生器(空気洗浄+集中力を高めてくれる酸素を供給)などの設備がそろう。


 例えばRFIDによる出欠管理では、子どもたちが机の上にあるカードリーダーに自分のICカードをかざす。それが出席チェックとなり、それぞれの場所が先生の電子教卓に表示される。出席チェックと同時に「今日の気分」も選択する。内気で先生にあまり話しかけることができない子どものために作られたもので、「今日は落ち込んでいる」、「今日は具合がよくない」といった項目もあった。これを見て先生が子どもの状態を把握して先に話しかけたりできるようにしている。授業中に発表する人を決めるときは、ICカードに登録された子どもたちのキャラクターを登場させ、抽選を行う。楽しくゲームのように授業に集中させる仕掛けの1つだ。




子どもたちが使うICカードとカードリーダー。出欠管理に使う。授業に参加できるようキャラクター情報も持つ

U-class実証実験を体験できるショールームで英語の授業を見せてもらった。


 クラスの壁一面がスクリーンになっていて、先生が教室の真ん中に立つとスクリーンの中に先生が入っているように立体的に映し出される。この日の授業は外国の友達を家に呼んでパーティーをするという内容で、先生の隣には外国人の子どものキャラクターが数人登場、一緒に英語でおしゃべりをしながら授業を進める。キャラクターの頭の上には「のどが渇いた」とか「おなかが減った」などのメッセージが表示され、教室の子どもたちはこれを見つけては素早く英語で話しかけて対応しないといけない。実際に外国人と会話をしているような仮想現実を体験することで、より英語を身近に感じさせるのが目的である。







先生がスクリーンの中に入り込んでいるようにみえる。仮想現実の登場人物と英語の授業を行っている最中だ


また電子黒板も2Dから3Dにアップグレードしていた。科学の授業では先生の心臓の位置に3D画像の心臓が映し出され、子どもたちの理解を高めていた。


 このVR教室は未来のものではない。政府のIT科学技術開発シンクタンクがある、ソウルから2時間ほど離れた大田(テジョン)市の小学校12校で既に導入済みだ。英語や科学などいくつかの科目の授業が行われているという。(次回に続く)





趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月13日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101210/1029069/

韓国デジタル教科書事情(2)~電子黒板は当たり前、10Gbpsネットワークで教室情報化

「韓国デジタル教科書事情(1)」から続く)


 韓国ではデジタル教科書以前からも、NEISやサイバー家庭学習サイトを通じて子どもが学校で何をしてどんな勉強をして、どう学力が向上しているのか、よくできる部分と補うべき部分を分析してネットで保護者に公開している。これは高い教育熱に少子化の影響から、自分の子どもが一番という(モンスターペアレント化する)保護者が増えてきたことで、保護者が学校や教師に不満を持たないよう「見える教育」にするという意味もある。


 また熾烈(しれつ)な大学入試競争の中で、所得の格差による教育の格差、地域差による教育の格差をなくすのもデジタル教科書の役目である。教科書に参考資料がリンクされているので、高い参考書を買わなくても済む。また塾がない山間、離島に住む子ども達もマルチメディア教材を使って個別学習ができるので、塾のある都市まで通う必要がなくなる。長期入院、海外滞在中もデジタル教科書を使えば遠隔授業ができるので休学することなく進級できる。もちろん、教科書改訂を迅速にできるのもメリットだ。



電子黒板とマルチメディア教材を「10Gbps高速学校LAN」で利用しやすく



 デジタル教科書をさくさく動かせるよう教室のネットワークは政府が投資して学校LANを構築し、2010年は実測で全国平均50Mbps、教室の中にはIPTV、電子黒板、パソコンがあり、教師が作ってきたマルチメディア教材で授業を行っている。学校LANの速度は固定で10Gbpsにアップグレードする予定で、一部大学では10Gbpsが導入された。デジタル教科書実験学校でなくても、電子黒板を使った授業は当たり前のように定着していて、教師も教科書の内容に合わせて動画や写真を準備する。


 もちろん、デジタル教科書や電子黒板をより教師が利用しやすいようマルチメディア教材を提供するサイトもたくさん登場した。中でも2009年デジタルコンテンツ大賞を受賞したI-screamは教師向けの教材サイトで、全国小学校教師の98%が有料会員(2010年11月時点)というほど利用されている。教科書の内容に合わせた動画、写真、音楽、テキストが用意されているので、国定科学教科書60ページと検索すればそれに合わせた教材が登場するほど便利になっている。教師はその素材を使ってパワーポイントなどでオリジナル教材を作り、電子黒板で授業を行う。


 教師のパソコン保有率は98年ごろから100%を超えている。教師一人に1台、教室に1台、授業用ノートパソコン、PCルームにもパソコンがあるので教師だけでなく子ども達も既に一人1台、学校でパソコンを使える環境近づいている。


 小学校だけでなく中学・高校でも電子黒板は広く利用されている。黒板を使わず教師はマルチメディア化された教科書を電子黒板に表示させ、タッチ式で重要なところに指で線を引きながら、時々音声ファイルや動画を再生させながら、授業を進める。






高校でも電子黒板を使った授業は当たり前。仁川 デゴン高校の英語の授業では、先生が一方的に教えるのではなく、マルチメディア化された教材を活用して一緒に問題を解きながら解説を加える。学生のレベルに応じて教材を選択、優等クラス、標準クラスに分けて授業を行う


「英語」学習熱もデジタル教科書を後押し



 韓国でデジタル教科書が話題になり始めたのは「英語」とも関連が強い。国際競争力を高めるために英語は必須ということで幼稚園から英語を教え、私立小学校では1年生から英語と中国語を教えている。公立小学校でも3年生から正規授業として英語を教えるようになり、これを1年生からに変えようとしている。


 全国の小中高校には英語のネイティブスピーカーの教師が数人ずつ派遣されている。学校の英語授業に教師は2人以上、つまり、文法は韓国人の教師が担当し、会話や発音はネイティブスピーカーに学ぶ構成になっている。デジタル教科書を使ってマルチメディアを活用すれば、ネイティブスピーカーがいない地方の学校でも都市の学校と変わらない英語教育環境を整えられるのではないかと期待された。デジタル教科書の英語科目には学生が英語を録音し、その波長を分析してネイティブの発音に近づくよう個別指導してくれる機能もある。



スマートフォンやモバイル端末は中高生に必需品



 韓国の教育熱の高さは日本でも有名だろう。高校生になると夜10時まで学校で自習し、それから塾へ行くほどだ。いつも電子辞書、音楽再生、動画再生などの機能があるPMP(Portable Multimedia Player)を持ち歩き、休み時間にはEラーニングで勉強を続ける。韓国ではスマートフォンやモバイルデバイスが教育のためにもマストアイテムになっている。







デゴン高校の学生たちが休み時間や自習時間に活用しているPMP(Portable Multimedia Player)。ほとんどの学生が持っていて、教育放送のインターネット講義を見ながら受験勉強しているという。韓国では2011年の新学期向けにPMPが5型タブレットPCへと進化、それに向けて商戦が始まっている


2009年11月に発売されたiPhoneを追うようにSamsungのGALAXY Sが登場し、海外勢のスマートフォンも出揃ったことから韓国は一気にスマートフォン普及が加速し、2010年9月時点で500万台突破、年末には当初の予測の3倍である600万台を突破しそうな勢いである。2011年には1500~1600万台、携帯電話加入者の約3分の1がスマートフォンを使うとまで予想されている。

 韓国政府は経済的に貧しい、地方に住んでいて周辺に塾がないといった理由から教育の機会を子どもが奪われないよう、公営放送である教育放送のWebサイト上で大学入試講座動画を無料提供している。ここからセンター試験の問題が出題されることから、全国の高校生はほぼ全員この動画を見ている。そこで必要なのがPMPだった。電子辞書も音楽・動画再生機能も搭載されたスマートフォンが登場してから、PMPは無線LAN機能を搭載した学習用5型タブレットPCへと進化した。無線LAN機能経由で教育放送の動画をダイレクトにダウンロードできる機能が目玉となっている(PMPはPC経由でダウンロードする)。(次回に続く)


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年12月2日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101130/1028847/

韓国デジタル教科書事情(1)~15年かけて築いてきた教育情報化が花開く

日本でここ最近脚光を浴びているデジタル教科書。2015年までに子ども一人に一台タブレットPCを支給し、紙ではなくマルチメディアの教科書を使って授業し、学校でも家庭でも高速モバイルネットワークを使っていろいろな教育コンテンツを見られるようにするというもの。子ども達が重いランドセルを背負うこともなく、教科書をクリックするだけで百科事典や動画、写真、ニュースなどの参考資料も一緒に見られるので学習効果も高まると期待されている。もちろん、紙を使わないのでエコという点でもデジタル教科書は来るべき未来であり、子ども達のためにも早期に実現させるべき国家政策と言える。

 日本ではデジタル教科書というとタブレットPCや情報端末を先に思い浮かべるが、韓国ではその逆で「どんな端末からも使える教科書」を想定して中身の開発に力を入れてきた。個別学習、個別指導・評価を可能にするインタラクティブな教科書にするために必要な教材、端末、ネットワークが必要で、そのためにはどんな技術を開発すべきなのかに関して議論が続けられてきた。






仁川 トンマク小学校で使うデジタル教科書実験用端末と教科書画面。教科書は家庭のパソコンからも利用できるので端末は学校においたまま使うが、予習復習は家庭にいながらもできる。学校からの告知や宿題の提出などもすべてネットを経由して行う



 韓国の文部省である教育科学技術部の定義を見ると、デジタル教科書とは「学校と家庭で時間と空間の制約なく利用でき、既存の教科書に、参考書、問題集、用語辞典などを動画、アニメーション、仮想現実などのマルチメディアで統合提供し、多様な相互作用機能と学習者の特性と能力、水準に合わせて学習できるように具現化された学生向けの主な教材」としている。つまり教科書の内容をデジタル化して、有無線ネットワークを利用してその内容を見て聞いて書きこんで読めるようにしたものであり、どんな端末やどんなネットワークからも利用できないと「デジタル教科書」とならないので、端末はタブレットPCだけに縛られない。


 また、デジタル教科書はデジタルネイティブ世代に合わせた効果的学習ツールとして脚光を浴びているが、小学生だけでなく、生涯教育の第一歩として導入したいとも考えている。

韓国のデジタル教科書は既に1996年から構想が始まった。それから約15年、デジタル教科書を導入するために国は導入のバックグラウンドとして学校情報化、校務情報化、教育行政情報化、家庭学習情報化を進め、学生の学習情報を記録、分析して保護者に公開するシステムをオープンした。2013年には全国の小学校にデジタル教科書を導入するのを目標に、2007年から600億ウォン(約48億円)を投資して小学校を中心に実証実験を始めている。


 これまでの過程を振り返ると、学校情報化、デジタル教科書構想、教員情報化研修が1996年に始まり、1997年には学校総合情報管理システムが始まっている。これをアップグレードした校務情報化システムとして2002年にNEIS(National Education Information System)が始まった。NEISには子どもの成績や個人情報が記録され、保護者も実名確認をすればいつでも自分の子どもの情報を閲覧できる。このデータが大学に渡されるので大学入試の願書は100%電子化された。


 NEISによってバックグラウンドがある程度固まったところで、デジタル教科書の開発も始まった。小学校5、6年向け英語と数学から実証実験が始まり、2007年には正式に国家戦略として「デジタル教科書商用化推進計画」が発表された。


 2008年から全国の小学校20校を対象にデジタル教科書商用化のための実証実験が始まり、Windows基盤に続いてオープンソース・リナックス基盤教科書開発も始まった。また、「IPTV放課後教室」といって、共働きの家庭のためのサービスも始まった。授業が終わってから家に帰っても誰もいない、経済的事情で塾に行けない子ども達のために、放課後学校でIPTVを使ったEラーニングを利用できるようにした。これも教室のネット環境が超高速ブロードバンドだから実現できたことである。







仁川 トンマク小学校ではデジタル教科書と電子黒板を連動した授業が行われている。紙の教科書と同じ画面が映し出され、タッチすると次々に動画やアニメなどで作られた参考資料を表示。子ども達の学習効果を高める



 2009年からは実験学校を132校に増やし、デジタル教科書が本当に学習効果を高められるのかを研究する「教育情報化成果測定指数開発」にも着手した。


 2010年には教員能力評価制度が実施され、同僚教師・専門家・学生・保護者が教師を評価する。子どもの目線からは、デジタル教科書や電子黒板といったIT機器類をうまく活用して面白く授業を行う教師の評価が高くなっていくだろう。韓国の教員採用試験は700倍とも900倍とも言われる超難関であるため教師のレベルも高く、電子黒板やマルチメディア教材を制作できるようにする研修は義務化されているため、教師が教育情報化についていけない、IT機器を使いこなせないといった問題が起こったのは90年代後半、最初のころだけだった。


 2011年に小中学校の英語・国語・数学の教科書がCD-ROMになり、2013年には、全国の小学校でデジタル教科書を全面的に導入することを目標とする。まだデジタル教科書の端末規格は決まっていないが、スマートフォンやiPadのようなタブレットPCが安くなっているので、デジタル教科書用に一から開発するよりも販売されている中から自由に選択するようにする可能性もある。(次回に続く)



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月26日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101126/1028811/

趙章恩氏セミナー「2011年、韓国スマートITの展望」


★ 韓国ITビジネステーマ部会 趙章恩氏セミナー
「2011年、韓国スマートITの展望」 


12月17日(金) 夜 
東京・大崎
主催:NPO法人アジアITビジネス研究会
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2010年はスマートフォンで激変した韓国でしたが、2011年はさらにタブレットPCや端末のラインアップ競争が激化し、「アップル対韓国勢」の動きが、さらに強くなると予想されます。 世界に先駆けて電子政府化をすすめ、教育、医療、国防などあらゆる分野の情報化を進めてきた韓国ですが、スマートフォン利用者の増加、社会情勢を含め、2011年のIT業界はどうなっていくか、事例と共に、お話ししていただきます。


■ 内容-


危機管理を含めスマート社会を構築- スマートフォン、タブレットPC- スマートTV、スマートグリッド- スマートオフィス- クラウドコンピューティング- 電気自動車- デジタル教科書- デジタルヘルスケア- サムスンやLGなど韓国を代表する企業の新規事業


■講師趙章恩(チョウ・チャンウン)氏
(韓国ITジャーナリスト、アジアITビジネス研究会顧問)


(プロフィール)韓国ソウル生まれ。日本で高校を卒業、韓国に帰国し梨花女子大学卒業。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネート(NTTドコモNTTデータ、各地商工会議所、経済産業省など)を 行っている「J&J NETWORK」の共同代表。2000年4月創立された、韓日インターネット ビジネス実務者団体「KJIBC(Korea Japan Internet Business Community)」会長。 KDDI総研特別研究員。韓国IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「NIKKEI NET(日経新聞)」や「日経パソコン(日経BP)」、「BCN」、「夕刊フジ」、「西日本新聞」、「デジタルコンテンツ白書」、韓国の「中央日報」や月刊誌「Media Future」等に寄稿。韓国と日本のネット事情を比較しながら、韓国IT分野の話題を分かりやすく提供している。


【連載中のコラム】日経PCオンライン Korea On The Webhttp://pc.nikkeibp.co.jp/pc/column/cho/index.html


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■実施要綱———————————————————-
日 時:12月17日(金) 19:00~20:30(18:30受付開始)
会 場:東京都南部労政会館 第6会議室品川区大崎1-11-1ゲートシティ大崎ウェストタワー2F)最寄駅:大崎(JR山手線/埼京線/りんかい線/湘南新宿ライン)より徒歩5分


地 図:http://www.asia-itbiz.com/map.htm


主催:NPO法人アジアITビジネス研究会 http://www.asia-itbiz.com/


定 員:60名(申込先着順)参加費:1,000円(当日、会場受付にてお支払いください)


※お申し込み/お問い合わせ先氏名と所属先、部署・役職、ご連絡先を明記の上、事務局・田所までメール info@asia-itbiz.com でお申込ください。事前申込必須です。 
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◇12/17(金) 19:00~ (韓国ITテーマ部会 参加申し込み)———————————————————-氏名:会社名:部署/役職:TEL:e-mail:———————————————————-

韓国 ITジャーナリスト趙章恩氏が語るスマートフォン/タブレットPC市場の最前線(日本語講演)


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第9回 TSR セミナー開催のご案内==============================================================
韓国 ITジャーナリスト第1人者の趙章恩 氏が語るスマートフォン/タブレットPC市場の最前線(日本語講演)━━━━━━━━━━━━
タブレットPCという新しい領域を引っ張ってきた米Apple製の「iPad」の販売伸張がここに来て、第1次の踊り場に入ってきたのではないかとも言われている。
「2ndバージョン iPad」では新機能を付加し、再び上昇カーブを維持できるのか、混沌としてきた。
一方、Samsung Electronicsの「Galaxy Tab」の販売が好調であり、7”クラスの製品も確実にひとつの世界を造りつつある。
2011年はさらに、各国政府の方針やサポートのもとでタブレットPCやスマートフォンの新機能付き新製品開発が激しくなり、多くのメーカーから販売されることで、シェア競争が激化する。
これらの背景を踏まえ、2011年の展望として ”Samsung をはじめとした韓国メーカーvs Apple” など、事例を紹介しながら日本にとって参考になる点を分析したいと思っております。


Ⅱ.【基調講演】 11時~   
韓国 IT・FPD業界における国策支援と将来展望(仮)     
~ Samsung、LG、Appleの戦略 ~             


ITジャーナリスト兼KDDI総研究特別研究員           
 東京大学大学院学際情報学府博士課程                   
趙章恩(チョウ・チャンウン)氏


◆◆開催概要◆◆─────────────────────────
■タイトル   第9回 TSRセミナー 『FPDマーケットトレンド 2011』
■日 時   2010年12月16日(木) 10:00~17:30 (質疑応答~17:55)
■会場   東京コンファレンスセンター品川
■参加費    アーリーバード45,000円+税(11/30まで)、通常価格50,000円+税


■プログラム                


Ⅱ.【基調講演】    


韓国 IT・FPD業界における国策支援と将来展望(仮)     


~ Samsung、LG、Appleの戦略 ~             


ITジャーナリスト兼KDDI総研究特別研究員            
東京大学大学院学際情報学府博士課程                   


趙章恩(チョウ・チャンウン)氏


Ⅲ. 【FPD/次世代デバイスセッション】  
Ⅲー1. モバイル用FPD、2010年の分析と将来予測~ OLED、LTPSの需要拡大に向けた各社の新規投資とFFS(広視野角化)、3D化への取り組み ~テクノ・システム・リサーチ  岸川 弘
Ⅲ-2. FPD用光学フィルムの現状分析と、今後の展開予測~大手3強偏光板メーカー vs. 新興偏光板メーカーの戦略 ~テクノ・システム・リサーチ  染谷 友規        
Ⅲ-3. LED-BLUの急拡大に伴うLED市場動向考察~スマートフォン、タブレット、TV市場の拡大に対するLEDメーカーの戦略 ~テクノ・システム・リサーチ  藤田 光貴        Ⅲ-4. LED・OLED照明市場の最新動向と将来展望~次世代に向けて広がるLED・OLED照明の新提案~テクノ・システム・リサーチ  太田 健吾       


 Ⅳ.【特別講演】    2011年FPDエリア別市場動向と展望(仮)~中国の勃興、北米の下降、日本メーカーの戦略~    ドイツ証券株式会社 マネージングディレクター 中根康夫氏 Ⅴ. ご希望者と講師との質疑応答・名刺交換(講師別コーナー) ━━━<<第9回TSRセミナー開催>>━━━━━━━━━━━━━━━


○テーマ:『FPDマーケットトレンド 2011』○日時:2010年12月16日(木)10:00~17:30(個別Q/A17:30~17:55)  


 ○セミナー詳細&申し込み: http://www.t-s-r.co.jp/seminar/index.html━━━━━━━━━━━━━━━━━アーリーバード4.5万円+税━━━━

「スマートフォンでもゲーム漬け」韓国の深刻~ゲーム中毒による母殺しに思う

ついこの間、釜山で中学3年生の男の子がパソコンゲームをやめるよう注意する母親を殺して自殺し、小学生の妹が遺体と遺書を発見するという痛ましい事件が起きた。家族の証言によると自殺した中学生は学校に行く、食事をする、トイレに行く以外はゲーム漬けの生活で、深夜2~3時までオンラインゲームを続けるほどの中毒状態であり、母親とトラブルが絶えなかったという。しかもこの中学生は専門機関よりオンラインゲーム中毒治療カウンセリングを受けていたにもかかわらず、ゲームをやめることができなかったという。

 ちょっと前にはオンラインゲームに夢中になって新生児を放置し死に至らせた親もいた。子どもがゲーム中毒になり、パソコンを使わないようにする親ともめて暴力をふるったり、殺人事件にまでなったり、自殺をしたりする。このような事件は毎年どころか毎月のように起きている。


 韓国の中央省庁である女性家族部は、夜12時以降、青少年がオンラインゲームをプレーできなくする強制的シャットアウトの内容が含まれた青少年保護法改定案を提案した。これが、事業者が選択的にシャットアウトするのはいいが強制して過剰な取り締まりはしない、というゲーム産業振興を担当する文化体育観光部の方針と衝突。国会で係留中である。


 ゲームを長時間すると面白くなくするシステムも導入されたが(関連記事)、多人数がアクセスして一緒にロールプレイングしてミッションをクリアしていくゲームだけに適用され、シューティングや一人でもできる戦争ゲームには適用されない。ほとんどのユーザーはオンラインゲームを種類別に利用しているので、このシステムが作動するとほかのゲームに移り、また次のゲームへ移るといった具合に1日中オンラインゲームを渡り歩くので、大きな効果が得られなかったという。


 韓国内では本当にゲームだけが悪いのか?という意見も少なくない。もうすぐ年に一度の大規模なゲーム展示会が開催されるだけに、年間1兆5000億ウォン(約1050億円)規模の輸出産業としてゲームをもっと評価してほしいという業界の主張もある。オンラインゲームといえばアジアでも欧米でも中近東でも、韓国産ゲームが人気上位にランクされているほどである。


 すべて悪いのは子どもを中毒状態にさせる「オンラインゲーム」と片付けるわけにはいかない教育問題、家族問題も潜んでいる。子どもがなぜゲームに溺れてしまうのか。それは家庭がしっかりしていないから、という分析にもつながるのだ。






キャリアのKTが実施している大学生ボランティア「ITサポーターズ」。オンラインゲーム中毒を克服した大学生が子どもたちにゲーム中毒の危険性を教える活動をしている


韓国の今年の大学受験試験日は11月18日。受験生のために会社員の出勤時間が1時間遅くなるこの日の試験成績で、その後の運命が決まる。いいところに就職するためいい大学に行くのではない。いい大学を卒業しても「就職」そのものが難しい。無職になれば、無所得の状態になってしまう。食べていくためにはいい大学、名門大学に入らなくてはならない。だから必死なのだ。

 こんな受験戦争の中、学校と塾だけを往復する子ども達の唯一の息抜きがオンラインゲームなのだ。こっそり塾をサボって行けるような場所なんてPCバン(ネットカフェ)ぐらいしかない。インターネットにつながったパソコンはどの家にもあるので、勉強以外のことがしたくても一人でできることといえばオンラインゲームぐらいだ。最近はインターネット経由で受験用の動画を見ないといけないからとスマートフォンを買ってもらい、ゲームばかりしている子どもが増え親を悩ませている。


 親がしっかり子どもの生活に関心を持って会話をし、パソコンを部屋におかないといった工夫をした家庭ではオンラインゲーム中毒がほとんど発生しなかったという研究もある。オンラインゲーム中毒になるのはゲームの問題ではなく生活の問題の方だとしたら、その方が深刻なのではないだろうか。


 失業率も高く働きづめで子どもと一緒にいる時間がない親も増えている。家族のために働いているはずが、子どもは毎日一人でゲームしかすることがない家庭を生み出している。大学に行かなくても就職できる社会、最低限の生活ができる給料、自分の才能を見つけられるクラブ活動が楽しめる学校生活、そういう環境が整えば少しはよくなるのでは?

韓国でネットのリテラシーを高めるということは、使い方を教えるというより中毒にならないための健全な使い方を身につけさせるということである。小中高校では年中、ネット上のエチケットを守ろう、著作権を守ろう、違法ダウンロードはやめよう、ネット中毒にならないため1時間以上連続してパソコンを使うのはやめようなど、外部講師を招いて特別授業を行っている。ゲーム中毒予防教室やゲーム中毒を改善するためのカウンセリングもいろんな市民団体や自治体が開催しているが、それでもゲーム中毒による殺人事件や自殺は後を絶たない。

 韓国情報化振興院が2009年実施した、9~39歳を対象にした調査結果では、ネットユーザーの8.5%がネットにつながっていなかったりオンラインゲームをしていないと心理的に不安になって落ち着かない状態になる中毒症状を見せていることが分かった。オンラインゲーム中毒カウンセリングを受けた青少年も2007年の3440人から2009年の4万5476人へ13倍以上増えている。


 省庁の行政安全部は「インターネット及びゲーム過多使用に対する危険性を知らせ、健康なインターネット文化を醸成する」のを目的に「インターネット中毒克服手記公募」なんていうのまで開催している。最優秀賞には100万ウォン(約8万円)の賞金が出る。専門家のカウンセリングも効果がないのなら、感動的な手記でやる気を出してもらうのもいいアイデアかもしれない。


趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月17日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101117/1028599/

いまだ根強いIE6利用の韓国で「もう止めよう!」キャンペーンの嵐

韓国のポータルサイト「DAUM」にアクセスすると、メイン画面の右に「少女時代の特命、私のPCを守って!」というバナーが登場する。これは何だ? とクリックしてみると、この夏より全世界で巻き起こっているWebブラウザーアップグレードキャンペーンだった。

 「少女時代と一緒に新しくて安全なインターネットの世界へ! IE6はもう止めよう!」という特設コーナーまで登場し、このページからIE(Internet Explorer)8にアップグレードすると、毎日抽選で50人に映画チケットをプレゼントするという大々的なキャンペーンである。








ポータルサイト「DAUM」トップページ。右上のバナーがキャンペーンサイト。クリックすると…







少女時代を起用した「IE6はもう止めよう!」の特設コーナー


この少女時代キャンペーンでは、IE8ではインターネットバンキングが使えないといった問題もWeb標準化問題も解決されたから安心して使いましょう、という二つをキャンペーン理由として挙げている。IE6のままのPCが多いため、DDoS攻撃のゾンビーPCにされたり、悪性コードに感染したりする危険度も高いという。

 IE6はWeb標準をサポートしていないため、Webサイトで文字化けやカラーの表示が違うようになってしまう「標準化問題」があり、Webアプリケーション開発に多大な時間がかかる、そのためインターネットの発展を阻害する障害であること。IE8が登場して間もないころは互換性に問題があるとされたが、今では韓国のほとんどのサイトがIE8に最適化されていること。なのでこれからは自分のPCを守り、より便利にDAUMを利用するためにもIE8にアップグレードしましょう、というのが趣旨である。


 セキュリティ脆弱点があるIE6の利用を止めてアップグレードするよう、韓国マイクロソフトも、ほかのポータルサイトも、IT業界も8月から呼びかけてきたが、全くといっていいほど効果がなかった。マイクロソフトの調査によると、韓国で使われているWebブラウザーの98%がIE、しかもその内39.1%がいまだにIE6だという。日本のIE6利用率は14.4%、OECD国家の IE6利用率平均は6%だというから、韓国がどれほど古いままなのかが分かる。そういえば韓国はまだWindows XPを使う人が圧倒的に多かったような…


 韓国人はパソコンの買い替えをしないのか? なぜ9年も前に登場したIE6をいまだに使っているのか? 少女時代の力まで借りないと解決できない問題なのか?…といろいろ疑問がわく。

実は韓国では、IE6でないと動かない社内システム、行政・校務情報化サイトが依然あって、PCを最新版に買い換えても、わざわざブラウザーをIE6にダウングレードしていたというのだ。新しい物好きの韓国人のはずが、ブラウザーだけは仕方なく古いのを使っていたという面もあるのだ。今はだいぶ改善されているものの、一度でもブラウザーをアップグレードして痛い目に合った人はもう二度とIE6から抜け出せなくなる。


 ガートナーの調査でも似たようなものを見た。全世界でIE6だけで動くアプリケーションはまだ多く、IE6向けアプリケーションの4割はIE8では動かない。企業がアプリケーションをIE8向けにアップグレードするためかなりの費用をかけることになるので躊躇するしかない。IE6利用を止めさせるためにマイクロソフトはもっと時間をかけなくてはならないだろう。どうやったらアップグレードしてもらえるか支援する方法を工夫しなくてはならない…といった内容の調査レポートもあった。


 一昔前のActiveX騒動のつながりで、Web標準化とは関係なく古い体制を崩さない開発環境にも問題があるのではないだろうか。でもプログラマーの間では、Web標準で作って、もう一度IE6に合わせてテストしないといけないので時間もかかるし大変だと愚痴っているのだ。韓国がいまだにIE6から逃れられないのは結局ユーザーのせいなのか? とも思ってしまう。


 2年ほど前までもIE6でないと利用できないサイトがかなりあったが、2010年の今となってはIE8が標準ブラウザーのようになっている。IE6に脆弱点があるとマスコミが騒いでも、まさか自分がハッキングされることはないだろうとか、使い慣れたブラウザーなのにアップグレードしてメニューの位置が変わると面倒だからこのままでいいとか、そういう理由でずるずると使ってしまっているのかも。


 少女時代が登場する前もいろんなキャンペーンがあった。韓国マイクロソフトは慈善団体と一緒に、キャンペーンサイト経由でIE8にアップグレードした1件ごとに500ウォン、台風で家を失った姉妹のために寄付をしたこともある。最大手ポータルのNAVERも6月より「Goodbye IE6」キャンペーンを実施した。ショッピング大手のGマーケットもIE8を使ってより安全なショッピングを楽しもうとキャンペーンを行った。


 それまでのWebブラウザーアップグレードを呼びかけるキャンペーンには面倒というだけでびくともしなかったネットユーザーらが、少女時代のパワーには負けたようだ。Twitterでは「とにかく少女時代が言ってるんだからIE8に変えなくては」、「みんな少女時代の言うことは聞きましょう」とやっと聞く耳を持つようになった様子。


 韓国ではIE6からIE8にするだけでなく、FirefoxやGoogle Chromeにも興味を持ってみようというユーザー同士の呼びかけも活発になっている。2010年7月時点での世界のブラウザーシェアはIEが60.7%、Firefoxが22.9%、Chrome 7.2%、Safari 5.1%だというのに、先述したように韓国はIEが98%。これはすごすぎると思いません?


 スマートフォンとか、タブレットPCとか、3DTVとか、そういうのは新製品が飛ぶように売れるのに、ブラウザーはどうして新しいものに興味がないんだろう。ユーザーが興味を持たないから政府も企業もIE8向けにアップグレードしない、しかもIE以外ではまともに表示されないサイトを作る、IE6に戻る、の悪循環になってしまっているのかも。スマートフォンやタブレットPC向けのモバイルブラウザー競争がヒートアップしているだけに、韓国でのIE6問題は最優先課題なのかもしれない。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月11日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101111/1028492/

G20開催でわきかえるソウル、あちこちで最先端ICTを体験

ソウルでは2010年11月11日~12日、G20が開催される。G20のGはGroupの略字で、20カ国・地域首脳会合のことである。世界GDPの85%を占めるG20だけに、サミット開催中に韓国が誇る最先端技術をG20関係者らに宣伝するため、展示会や体験ゾーンがソウル市内のあちこちに登場し始めた。一般市民も自由に観覧できる展示場も多いため、IT・電気自動車・3D放送・エコなど、韓国自慢の最新技術を体験できるいいチャンスでもある。

 G20サミットは韓国では初めての大規模な国際首脳会議で、国別の代表団やプレス合わせて少なくとも1万人が参加すると見込まれている。参加者らが落としていく消費支出約35億円、G20開催による付加価値創出効果約45億円、企業の広報効果と輸出増大効果などの間接効果は2兆円を超えると推定されている。


 ソウル市内はどこを向いてもG20のポスターや歓迎の旗が掲げられている。企業の広告にもG20、バスにも電車にもG20、ビルの屋上看板にもG20、テレビをつければG20開催国らしくエチケットを守りましょう、外国人観光客にはやさしくしましょう、道に迷っている人がいたら自分から先に声をかけましょうのキャンペーンが流れている。ワールドカップ以来の盛り上がりに、G20となんの関係もない私ですら興奮してしまうほどなのだ。






G20のスターサポーターとして活躍している少女時代(2010 G20 Seoulsummit準備委員会)

メイン会場であるCOEXでは11月1日、公務員とボランティア総出の大掃除が行われた。ショッピングモールになっている会議場地下には、以前から楽しいITスポットとしてデジタルサイネージを使った多国語の案内地図やタッチ式広告版が置いてあり、ショッピングモール内のお店や周辺グルメ情報、観光情報、今日のニュース、天気、為替レートなどを検索できるようになっている。ストリートビュー方式で、周辺の写真を見ながら地図検索できるので、初めて行く場所でも迷わず探せる。こうした検索できる情報発信型デジタルサイネージは韓国ではお馴染みの設備であるが、海外観光客には珍しいようで、G20をきっかけに再び注目されている。

 COEXがある地下鉄2号線「三成駅」には、韓国内のどこにでも無料で電話をかけられるVOIP付きのデジタルサイネージもあるので、お店を検索してその場で予約もできるところが便利。映画や演劇のチケットを無料でもらえるイベント応募もできるようになっているので、定期的に立ち寄りたくなる。

ソウル市はCOEXに電力いらずで温室ガスも発生しない、スマートフォンで遠隔制御できるソーラーLED照明を設置し、「低炭素グリーンエネルギー都市ソウル」のイメージを広めるとしている。昼間に太陽光を充電して夜は照明として使うもので、まだ商用化されてはいないが、照明のベストな高さやデザイン、消費電力チェック、遠隔制御方式などの実証実験を経てG20期間中COEXに設置されることになった。


 代表団とプレスには韓国メーカーの電気自動車、電気バス、水素燃料電池自動車が提供され、エコな都市ソウルのイメージアップも図る。まだ量産されていないモデルではあるが、1度の充電で170km走れて、スピードも165km/hまで出せる電気自動車や、1度の充電で650kmを走れる水素燃料電池自動車は、世界のメディアに注目されると期待されている。


 また、COEXには3DTVを体験できるコーナーもあり、韓国が2010年から国をあげて実験している高画質3DTVを観ることができる。


 11月5日からは「G20放送通信未来体験展」(G20 Communications Exhibition)が開催する。韓国の主なIT・放送事業者が参加し、最先端サービスを体験させる展示会で、現在提供されているサービスと、今後提供される未来生活サービスも展示される。モバイルIPTV、デジタル教科書や電子黒板・RFID・3D仮想現実などを活用して授業を行うスマート教室、エコなスマートIT製品、3Dタブレットパソコンや3Dエンターテインメント、電気自動車やスマート自動車などが展示される。各国首脳やプレスに韓国はIT強国であるという強烈な印象を残すため、政府も企業も熱心である。

企業のショールームもG20のための衣替えを済ませ、各国代表団の訪問を待っている。空港の携帯電話レンタルコーナーも古い端末を一新し、スマートフォンやかわいいデザインの端末を使えるように準備した。






KTはG20参加者に最先端IT機器を提供する(KT提供)


G20の主管通信事業者に選ばれたKTは、G20首脳と代表団に提供されるIT機器を一足先に公開した。


 IPTVからはCNN International、 Euronews、 France 24、 CCTV 9、 NHK World News などG20国家のニュースチャンネルを提供し、SoIP(モニター付きインターネット電話機)から観られるようにした。14カ国を利用できるようにし、リモコンも付けて、電話でもありIPTV用のモニターとしても使える。Wibro(モバイルWiMXA)を利用したモバイルIPTVも提供し、スマートフォンからG20の日程、告知、ニュースなどを提供し、世界最高水準のモバイルネットワーク技術を持っていることもアピールする。


 韓国の空港鉄道、電車、バス、タクシーなど全交通機関と自動販売機や公衆電話、コンビニなどで使える電子マネー「T-Money」もG20首脳と代表団に配られる。乗り換えに関係なく、乗った距離に応じて料金を計算するとても便利な交通システムを体験してもらいたいからだ。


 G20は韓国にいながら主な経済大国の代表団に自社製品を宣伝できる絶好のチャンスであるため、企業も宣伝に力が入る。韓国を訪問する外国人のための特別セールや無料観光バス運行などイベントも盛りだくさん!熱気むんむんな今が観光するにも絶好のチャンスかもしれない。それに11月の韓国は雨もほとんど降らず、紅葉もきれいなので、飽きるほどソウル出張をしているビジネスマンでも、今まで見たことのない新しいソウルを体験できること間違いないだろう。



趙 章恩=ITジャーナリスト)

日経パソコン
2010年11月4日

-Original column
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20101104/1028315/